他人の債務保障と無償行為の否認

破産者が破産宣告前に対価なしにその財産を処分したり債務を増加させた場合、これが破産債権者を害することは明らかであるために、破産者の詐害意思と相手方の悪意があれば故意否認として否認できます。しかし財産状態が悪化して破産が現実の問題となった時期にあえてこのような行為がなされたとすれば、破産者の詐害意思の有無を問うまでもなく否認が認められてよく、またそうしても代償なしに利益を得ている受益者に酷だとはいえません。そこでこのような行為が支払停止後またはその前六月内になされたときは、破産者の詐害意思と相手方の悪意という主観的要素を要件とせず、もっぱら行為の内容と時期のみを理由とする純客観主義的な否認類型が認められたのです。したがって無償否認の対象とされる無償行為とは、贈与、債務の免除、権利の放棄、消滅時効の完成した債務の弁済や承認、地上権の無償設定など対価なしに積極財産を減少させ、または消極財産たる債務を増加させる一切の行為をいいます。

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ところが他人の債務について、義務がないのに対価なしに保障をし、あるいは担保を提供した場合、これらの行為を無償行為といえるかは問題です。破産者は行為の時点ではなんらの利益も得ていませんが、保証債務を履行しあるいは担保権が実行されると、求償権が生じるので、これが対価と考えられないこともなく、ことに相手方が破産者の保証ないし担保の提供を条件に他人に金銭を貸し付けた場合には、相手方は代償なしに一方的な利得をしたわけではないことなどから、無償否認の成否が問題とされるのです。
判例では、破産者が義務なくして他人の債務を保証したために、相手方がその他人に出捐した場合において、求償権は保証をなした時点で生じるものではないために、保障債務の履行によってこれが発生するといっても、これをもって有償行為とみるべきではないこと、保証はこれによってある経済的利益が破産者の財産に帰したことを肯定できないかぎり無償行為であること、無償行為かどうかは破産者の立場からみれば足り、受益者にとって無償かどうかは問うべきでないこと、などを理由に無償否認を認めました。
しかし学説の多数はこれに批判的で、他人の債務の保証および担保の供写の無償否認を否定しています。つまり保証の当時における主債務者の資方が皆無の場合は、求償権は実質上無価値であるために、保証は無償行為とみるべきですが、そうでないときは、保証債務の負担と同時に将来の求償権を取得するからとか、保証債務の弁済と同時に求償権を取得するために、保証債務と求償権とは対価関係にあること、保証はそれだけではなんら財産を提供したことにならず、無償で提供したものがあるとすれば信用だけですが、信用の提供はこれを否認しても破産財団を増殖させないために、否認の対象とならないこと、無償否認は相手方もなんらの対価なしに利得している点に重要な意味があり、したがって破産者だけでなく相手方も無償であることを要しますが、相手方の債権が破産者の保証や担保の提供によって発生したものである場合には、相手方にとっては無償ではなく、もしこの場合に無償否認を認めると、相手方ははじめから破産者の行為がなかった場合以上に不利益を受けること、などをその論拠としています。
破産者が対価を得ずに他人の既存の債務について義務なくして保証または担保の供与をした場合には、無償否認を認められます。求償権は、それがあるというだけでは現実に利得があるとはいえず、また将来求償できるかどうかもわからない不確実なものです。したがって求償権を対価とみうるかどうかは疑わしいばかりでなく、仮に対価とみうるとしても、このような求償の不確実という危検、つまり被産債権者の受けるべき満足の低下のおそれと、相手方が代償なしに得た一方的な利益とを衡量すれば、これがあるから有償であるというのは形式的すぎ、相手方が得た一方的な利益を破産債権者を儀牲にしてまで保護すべき実質的な理由はないからです。しかし破産者の保証や担保の提供を条件として主債務者に貸付けがなされた場合にまで無償否認を認めるのは行きすぎであり、前述のように無償否認において受益者の悪意を要件とせず、もっぱら行為の無債性と時期のみを理由に否認が認められるのは、受益者が代償なしに得た利益を破産債権者のために吐き出させても酔とはいえないからであり、それゆえにこそ無償行為が否認された場合、善意の受益者は現に有する利得を返還すれば足りるとされているのです。したがって無償否認が認められるためには、破産者の立場からみて無償であるだけでなく、受益者にとっても無償であることを要すると解すべきです。

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