救済融資のための担保権設定否認

抵当権や質権などの担保権は、破産法上は別除権としてその優先弁済権が認められるために、破産者が破産宣告前にその財産に担保権を設定すると、その財産の価値は被担保債権の限度で一般の破産債権者の満足に供されないことになり、共同担保の減少をきたすとともに、これを受けた特定の債権者だけに独占的満足を与えることになります。そこで担保の供与は弁済など債務の消滅に関する行為とともに債権者間の公平を害する偏頗な行為として、これを理由に否認しうることとされるのです。

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危機否認は債権者間の平等な弁済を確保するための否認であるために、その対象とされる担保の供与も当然既存の債務についてなされることを前提としています。このことは破産法七二条二号ないし四号の解釈上も明らかであって、二号三号は四号との関係から、破産者が既存の債務について担保供与の義務を負う場合、四号は既存の債務について義務なくして担保を供与する場合を定めたものです。そうすると新たに金銭を借り入れるために担保を供与する場合はこれにあたらないことになりますが、これに対しては債権者間の公平という観点からみれば、この場合を既存の債務について担保を供与する場合と区別する実質的な理由はないとして、金銭を借り入れるための担保の供与を危機否認の対象たる担保の供与に含ませる見解も、最近は有力に主張されています。しかし金銭を貸し付けるのと引換えに担保を供与される債権者は、危殆時期において平等弁済を強制されてもやむをえない徒前からの債権者ではなく、また金銭の借入れと担保の供与とは、形式的には別個独立の行為であるとしても、現実的ないし取引上は相互案件的に結合せしめられた不可分の関係にあるために、否認の関係では一体として綜合的に考察すべきで、担保の供与だけを切り離すのは正しくありません。そうすると金銭を借り入れるための担保の供与は、これにより債権者の共同担保は滅少しますが、破産者はこれに見合うだけの金銭を取得するため、実質的にはむしろ適正価格による物の売却と同視することができます。したがってその否認の可否もこれに準じて考えればよく、危機否認は問題となりません。譲渡担保や代物弁済予約、売買予約などの仮登記担保等の変型担保についても、これを別除権的にとらえる最近の判例、学説の傾向にしたがえば、同様に解されます。
適正価格による不動産の売却について、大審院では古くから、不動産は共同担保として最も確実なものであるために、これを売却して消費隠匿しやすい金銭にかえることは原則として詐害行為になるとしていましたが、金銭を借り入れるためにした抵当権の設定についても、これを不動産の適正価格での売却と同視して故意否認による否認権行使を認め、ただ借用金を一般の債権者の損害とららず又は己むを得ざる必要の使途の為めに使用する場合には、否認権行使が認められないことを示唆していました。
ではいかなる場合に詐害性が否定されるのか、故意否認の可否が争われた事例で、この点の参考となる大審院判例は見あたりませんが、故意否認と治革的、本質的に共通の債権者取消権に関しては、若干の例があります。つまり弁済資力を得る唯一の手段として漁船を売渡担保に供して出漁資金を調達した場合や、弁済資金を借り入れるために抵当権を設定した場合にはいずれも詐害行為の成立を否定しました。最高裁でも、他に資力のない債務者が生計費および子女の教青費にあてるために金銭を借り受け、家財等を議渡担保に供した場合に、同様に詐害行為の成立を否定しました。この点で注目すべき判例として最判昭和四三・二・二があります。破産会社が危殆時期に遅滞していた従業員の給料の支払資金を借り入れるために、唯一の不動産を譲渡担保に供した事件で、原審は、従業員の給料債権は先取特権によって保護される優先債権であること、また従業員の延滞賃金の支払いは会社の運営上欠くべからざる人的資源を確保するため最も緊要な支出であることなどの事情から、詐害意思がなかったとして故意否認を否定したのですが最高裁は、破産法七二条一号に基づく否認権の行使を否定するためには、特別の事情のないかぎり、譲渡担保の目的物件の価額とその被担保債権額との間に合理的均衡の存することを要するものと解すべきところ、原審がこの点を確定せずに否認権行使を否定したのは審理不尽の違法があるとして、破棄差戻したものです。これらの判例を通観して明らかなことは、判例は金銭の借入れのための担保の供与を、適正価格による不動産売却と同様、原則として詐害行為になるとしたうえで、破産者が借入金をのちにどのように使用したかとか、いかなる目的や動機で担保を供与したかを重視し、やむをえない必要の使途にあてられたときは詐害行為の成立を否定するわけです。しかしこのような判例理論には従来の学説の多数は批判的でした。つまり故意否認の客観的要件と主観的要件に関し、客観的要件については一般債権者の満足を低下させる破産者の総財産の滅損のみを規準とするとともに、主観的要件についても加害の認識で足りるとするので、この場合の担保の供与は、これと引換えに借用金を受領する以上総財産に増滅がなく詐害行為とならず、またその成否に関し担保供与の目的や動機を間題にする余地もないからです。そして判例のように否認の可否を受領した借用金の使途にかからせたのでは、相手方の地位を不安定にし取引の安全を害することになり、ひいては正当な金融の道をふさいで債務者の破綻を早めるおそれがあるということです。
たしかに取引の安全を害し、また窮境にある債務者が財産処分により再建をはかる道を閉ざすことは妥当ではないために、適正価格での財産の売却行為や金融を得るための担保の供与を原則として否認できるとすることには間題がありますが、しかしまた多数学説のように総財産の滅少を生じないかぎり詐害行為とならないとすることも疑問です。そこで最近では、破産債権者を害するかどうかを単に計数上の総財産の減少としてではなく、実質的に破産債権者の満足の低下が生じたかどうかによって判断すべきであるとするとともに、故意否認の第三の要件として行為の不当性をかかげ、破産債権者の利益と受益者の利益との衡量において破産者の行為の実質的当否を問題とし、破産者の行為の内容や目的、動機ばかりでなく行為のなされた情況など諸般の事情に基づいて、信義則ないし公平の理念に照らして判断される不当性が認められるときにかぎって否認できるとか、故意否認の客観的要件としての詐害行為につき、行為の類型ごとに当事者の主観的熊様、詐害行為の客観的態様および詐害行為後の状態などの一切の事情を綜合的かつ相関的に判断して、否認権の成否をきめるなど、基本的には判例の立場を是認しようとする試みが増えています。

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