破産和議開始前の保全処分

破産法は、保全処分の方法として、仮差押、仮処分、その他の必要な処分の三つを規定します。仮差押とは民訴法上の仮差押と同様であり、仮処分とは民訴法上の占有移転禁止の仮処分や処分禁止の仮処分等を予想していたと思われます。その他の必要な処分とは、商業帳簿執行官保管、弁済禁止、営業譲渡ないし廃止禁止、会社合併禁止その他の多くの保全処分が考えられますが、その他の必要な処分と仮処分とを厳格に区別することは難しく、問題は債務名義を有する債権者や抵当権等を有する担保権者が、債務者の財産に対して強制競売や担保権の実行をしてきた場合に、その債権者に対する強制執行ないし不動産競売の禁止ないし停上を求める仮の処分が、破産法一五五条にいわゆる仮処分ないしその他必要な処分の範囲内に包含されるかどうかです。

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民訴法上、強制執行の禁止ないし停止の仮処分は許されず、強制執行の停止、取消については、執行法上の仮の処分によるべきであるとするのが通説、判例です。
他方不動産競売については、判例では、民訴法上不動産競売の停止ないし禁止の仮処分の発令を認めていますが、学説上は定説を見ません。裁判実務上は、執行裁判所に対する命令であるかのごとき観を与える不動産競売の禁止、停止命令という形を避け、抵当権の実行禁止ないし実行の続行禁止という担保権者に対する不作為命令の型式を採用するものが多くなっています。
強制執行、不動産競売と破産宣告の関係では、破産宣告前の仮差押や処分禁止の保全処分後に民執法上の強制競売が開始した場合ですが、強制競売は、その前にある保全処分に対抗できないために、買受人の所有権取得は、その後に破産宣告があると破産財産に対する関係では効力を失い、目的財産の所有権は破産財団に復帰します。また、破産宣告後の買受人の所有権取得も、破産財産に対しては効力を生じません。この後者の場合の効力否定は、保全処分の存否とは無関係です。問題は不動産競売で、企業担保権を除き担保権は、破産法上別除権として破産手続によらないでその権利を行使することが許容されているために、破産宣告前の仮差押や処分禁止の保全命令後に、その命令に先行する担保権にもとづく競売申立がなされ、進んで売却許可決定まですすんでしまった場合、破産法上の保全処分はこれに対しては全く無力であり、破産宣告がなされても競売手続を阻止することは不可能です。なお、保全命令後に強制競売ないし不動産競売が開始して、破産宣告前に売却許可決定が確定するということは、きわめて稀有の事例です。
強制執行ないし不動産競売の停止、禁止の破産宣告前の保全処分ができると仮定したとすると、不動産競売は、原則として担保権にもとづいて開始するものですから、その基本となる担保権が不存在、無効、消滅を理由とするときに、債権者の有する将来別除権となる権利が現時点において存在しないとか、債権者の有する担保権が一般債権者を害するものであって、否認さるぺきものであるとかを、破産申立債権者が主張するときにかぎって、その禁止、停止が問題となります。しかも、その別除権は、ほとんど第三者対抗要件としての登記を具備しているはずです。強制競売は、原則として一般債権にもとづくものであるために、破産申立人としては、担保権の場合のように債務名義の執行力の消滅その他を主張して保全処分の発令を求める必要はありません。ただ、当該強制執行が時定債権にもとづく特定物の引渡請求のようなものであれば、それは、まさに執行債権者の取戻権にもとづくものがほとんどであって、その債務名義は大部分確定判決であるとみるべきであるために、その取戻権にもとづく強制執行を排除することを目的として、強制執行禁止ないし停止の破産宣告前の保全処分の発令される可能性は皆無に等しく、しかも、土地や建物の明渡ないし建物取去土地明渡等の強個執行は、きわめて短期間内に完了し、強制執行の禁止や停止の保全処分を求める余裕は少ない。そうなると、第三者に対して破産宣告前の保全処分が可能であるとしても、それは、破産財団増殖を目的とする第三者所有の財産に対する仮差押、将来の破産財団に対する強制競売の禁止、停止、同じく破産財団に対する担保権の無効、消滅を理由とする不動産競売の禁止、停止、否認権行使を前提とする目的物の処分禁止、第三者名義となっている法定財団を構成すべき財産に対する処分禁止等の保全処分が主なものであって、その適用範囲はそれほど広くはありません。第三者の持つ有効な別除権、取戻権、相殺権にもとづく権利の行使を禁上したり停止したりすることは、はとんど考慮の余地がありません。

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