破産宣告前の保全処分

一般に将来の本執行に備え暫定的に仮の執行措置をとることを保全処分といいますが、破産ないし和議におけるそれは、民訴法上の一般の保全処分に比べ、形式的には共通する面もありますが、本質的にはこれと異なる特殊な保全処分です。つまり、一般の保全処分が、特定の債権者の本案訴訟を別に予定し、その将来の個別執行のために債務者の特定財差 についてなされるのに対して、本保全処分は、総債権者のための破産ないし和議手続の一環として、将来の手続実現に備え債務者の全財産を目標としてなされるのであって、当該制度に内在しかつ総債権者の利益のためになされる点において、本保全処分は顕著な特徴を有します。破産和議を通じて留意すべきは、近来企業の倒産に際し私的整理と法的整理のいずれを選ぶかの論議が盛んですが、後者のメリットの一つは事前に保全処分という強力な布石を打てるということであり、しかし同時にそれなるがゆえに本制度は濫用されやすく、つまり破産のごとき清算型手続にあっては債権者からの不当な威嚇の手段に用いられやすく、また和議のごとき再建型手続にあっては債務者がこれを利用して不当に追求を免れるという傾向もまた否み難く、つまり本制度には両刃の剣たる性質があるために、その運用の際にはくれぐれもこれに留意すべきです。

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破産については、財産に関する保全処分のほか、人に関する事前の措置があります。
人的事前処分、破産に瀕した債務者は逃走や財産隠匿等をはかりやすいので、破産申立を受けた裁判所は破産宣告前といえども職権で債務者ないしこれに準じる者を引致または監守できます。ただし実際には、引致もまれであり、監守にいたっては皆無といえます。
保全処分、法は破産財団に関して、仮差押、仮処分其の他の必要なる保全処分を命じうるとするところで破産は究極には金銭執行に帰するのですが、前述したように、個別執行のための一般保全処分と異なり、包活執行のための本保全処分にあっては、その主眼は総債権者の利益のための全財産の確保に置かれるために、本保全処分にあっては、法的な暫定性ないし仮定性に反せぬかぎり、その内容は自由にこれを決すべく、したがってそれが仮差押や仮処分の形をとってもそれはいわば民訴法上の形式を借用したにすぎず、しかも必要とあらば前二種以外のその他の保全処分をもなしうるのです。この観点にたって通常行われる保全処分の態容をみるに、債権者の利益のためには債務者の現在の財産を固定せしめることが最も必要であり、そのためにはその処分を禁止することが最も効果的であるために、通常多いのは処分禁止効をもつ保全処分であって、例えば在庫商品や売掛債権等の散逸を防ぐための動産または債権の仮差押、重要資産というべき不動産の仮差押または処分禁止仮処分、将来の管財業務上重要な意義を有する商業帳簿の保管仮処分などが多く、またその他の保全処分としては、全財産の包括的な処分禁止や営業自体の強制的な管理等が考えられます。
これらの執行方法は、当該処分が個別的か包括的であるかを問わず個々の財産につき公示方法を具備せしめることを眼目として民執法に依拠し、例えば動産なら執行官に保管を命じ、債権については第三債務者に支払を禁じる借置をとり、不動産は登記簿への記入を嘱託し、商業帳簿は執行官に執行させるのが相当であり、また包括的処分禁止では信託会社に一括管理を委託し、営業管理なら管理人を選任するなどといった方法が考えられます。
なお、これ以外のその他の保全処分としては、弁済禁止、借財禁止または保全処分の当否が論議されていますが、会社更生などと異なり、あまりに広範かつ強力な保全処分は必ずしもこれを必要としないものというべきです。
本保全処分は、破産申立後その宣告までの間に利害関係人の申立てまたは職権により発せられる職権によってもなしうる点は特殊保全処分たるゆえんの一であり、また利害関係人の申立による場合でも一般保全処分のような対立当事者構造の観念はありません。なお実務においては、特に自己破産の場合、保全処分の申立があっても必ずしもこれを発せず、むしろ即日または数日内に破産事件の審理を遂げて破産宣告をなし、より早期により強力な財団確保をあげることにも配意しています。
本保全処分の審理については、それが破産宣告手続内の附随処分であることから、まず当該破産申立の適法性および破産原因の審理が先行します。次に保全処分自体の審理としては、一般保全処分の被保全権利に対応するものは破産原因で足るために、審理は専ら保全処分の必要性について行われ、その疎明ないし職権調査の結果必要ありと認めれば適切な保全処分を定めます。
本保全処分の裁判は常に決定で行われます。この際申立人に保証をたてさせうるかにつき争いがありますが、東京地裁では一旦発令と決した以上それが総債権者の利益となる点を重視し原則として立保証させない例です。この決定は何時でも職権で変更または取り消しできます。異議等をまたず職権でなす点に特色がありますが、後日破産宣告のないときには保全処分の取消をなすのが相当であり、これに反して破産宣告のあったときには保全処分は当然消滅しその効力はいわゆる破産的差押の中に吸収せられるから取消を要しません。この各決定に対しては即時抗告ができますが、執行停止の効力はありません。
本保全処分の執行については、発令が職権による場合にかぎらず、申立による場合も総債権者のためのものであるためにこれを中立人の恣意に任せぬため職権で執行すぺしとの説があり傾聴に価しますが、実務は申立てによる発令の場合には一般保全処分と同様執行も申立人に委ねています。なお本保全処分は、総債権者の利益のためになされるものであるために、発今後の取下は許されず、また執行申立後の執行取消申請も許されないと解すべきです。
保全処分の決定および執行がなされると、その内容に添った効力を生じます。
処分禁止の保全処分の効力、債務者の財産につき仮差押や処分禁止仮処分等の処分禁止効ある保全処分がなされた場合、これに違背した債務者の行為は相対的に、つまり破産財団との関係で無効です。したがって管財人は、債務者の行為にかかわらず、当該財産を財団物件として管理処分することができ、もしこれが第三者の占有、登記下にあるときはこの者に対し引渡や登記抹消を求めることができます。債権者は保全処分の名宛人ではないために、保全処分有効の間といえども、例えば同財産を議り受け、不動産ならその移転登記を経ることもできます。また訴訟や少なくとも差押までの強制執行も可能ですが、結局は破産宣告にともない前記のように無効扱となるために実益に乏しい。ただし、動産や有価証券については、第三者がこれを善意取得した場合には保全処分にかかわらず自己の権利を主張するべく、また財産の種類をとわず、これにつき第三者が取戻権や別除権を有するときには、これらの権利は元来破産外で行使しうるものであるために、この場合にはもともと取戻対象物の処分禁止や担保権の行使禁止の保全処分を発しえないものというべきです。
弁済禁止の保全処分の効力、本保全処分については、そもそも会社更正に関し不適法説もありますが、適法説によった場合、それは債務者の弁済を禁じるものであるために、これに反する債務者の行為は一見無効のようにみえます。しかし本保全処分については、債権者は単にその名宛人でないのみならず同処分には公示方法が存しないために、債権者は保全処分にかかわらずその債権の取立や相殺処理をなしうると解するのほかはありません。そうなると債務者の前記任意弁済の効力があらためて問題となりますが、この点については、取立の不禁止を重視してこれを全面的に有効とする見解と、本来の弁済禁止との調節上善意の債権者への弁済のみを有効とする見解とが対立しています。他方債権者は、常記のように取立を禁止されないために、破産宣告前は、給付訴訟も可能であり、さらに強制執行をなすことも妨げません。
和議についても、破産と同旨の保全処分の規定が設けられています。和議と破産は、前者がいわゆる再建型であって殊に債務者はその財産の管理処分権を失わず全財産の清算自体を目的としない点において後者と異なりますが、両者はその性格を共通にする面が多いために、破産保全処分について叙上に述べたところは、和議の特質に反せぬ限り和議のそれについても妥当します。
和議には、破産のような人的事前処分の制度はありません。
和議には破産的差押にあたるものはないために、事前の保全処分は和議開始後も失効せず、また和議開始後も新たな保全処分をなし得ます。なお和議には開始の前後を通じ、債務者の行為を制限する財産保全的規定の存することに注意すべきです。
和議保全処分を発するにあたっては、前叙の諸要件のほか和議条件の相当性をも勘案すべく、またその必要性の判断についても、和議の再建型なることにかんがみ、一方総債権者の利益のみならず債務者の再起保護の点にも配意すべく、他方これにつけ込む債務者の不当行為の防止をも考慮すべきです。

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