相続と破産

被相続人に破産原因があったときでも、その者が死亡して相続が開始した場合には、被相続人の財産は相続人の財産と合体するから、本来ならば合体した財産を基準にして、相続人について破産原因があるかどうかを問題にすればよいわけです。しかし、破産法は、破産的処理の便宜的制度として、被相続人に破産原因があって、その者が死亡した場合には、その被相続人からの相続財産だけについて破産手続をすすめることを認めています。つまり破産法一二九条は、相続財産を以て相続債権者及受遺者に対する債務を完済すること能はざるときは裁判所は申立に因り決定を以て破産を宣言す。と規定しています。これが、相続財産の破産とよばれる場合です。

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この相続財産の破産は、相続開始の時から三ヶ月以内に申立てをする必要があります。そして、その期間内に相続人から限定承認または財産分難がなされたときには、これによって相続財産は相続人の固有財産から独立した状態のままにあるので、その後においても、相続債権者および受遺者に対する弁済がまだ終了していないかぎりは、申立てができるものとされています。ここで、相続財産の破産には、民法上の限定承認とか財産分離の制度が関連してきますが、相続財産の破産は、実際的には、こうした限定承認あるいは財産分離と併行して行なわれるのがふつうの形となります。もっとも、相続財産の破産の実例はごくわずかであり、実際上は、限定承認制度がむしろ実質的な破産制度の機能をはたしています。
こうして、相続財産の破産は、いわば被相続人の側に破産原因があった場合ですが、これに対して、相続人の側に破産原因のある場合が、相続人の破産です。したがって、相続財産の破産が生じても必ずしも相続人が破産をするわけではなく、逆も然りですが、場合によっては、相続財産の破産と相続人の破産が併存することも有り得ます。しかし、破産宣告がでたのちに、その破産者について相続が開始したときには、破産法は固定主義をとっていて、破産財団は破産宣告時における破産者の財産で構成されるために、この場合の相続財産は、破産者にとっては自由財産となります。したがって、相続人の破産として問題になるのは、相続が開始したのちにおいて相続人が破産宣告を受けたという場合です。すると、相続人の破産の場合には、つねに相続財産が相続人の固有財産とともに破産財団を構成するように思えますが、相続については相続人からの承認、単純承認および限定承認と放棄の選択の可能性があり、さらに、破産法自身も相続人の破産的事情を考慮して、特別の規定をおいているので、その場合の扱いは一様ではありません。ここから、相続人の破産と相続財産の関係が問題になります。
相続人の破産の場合の破産財団の構成については、相続人による相続の承認と放棄の選択が影響を与え、また、場合によっては、破産法による特別の扱いも影響を与えます。
相続をするかどうかは相続人の自由な意思決定にまかせられるのが原則であるために、相続人が破産宣告を受ける以前において、すでに単純承認、限定承認または放棄をしているときには、その選択どおりに、効果を生じることが認められます。したがって、相続人が相続の放棄をしていたときには、その際の破産財団は、相続人の国有財産だけによって構成されることになります。これに対して、相続人が単純承認または限定承認をしていたときには、相続財産は相続人に帰属することになるために、この相続財産と相続人の固有財産とが、その場合の破産財団を構成することになります。そこで、相続人が単純承認をしたことによって被相続人の多額の負債を相続人が負いこむ結果となり、相続人の債権者にとって不利となった場合で、しかも、破産法四三条による財産分離と同様の扱いも受けられないときには、相続人の債権者のほうから、財度分離の請求をする必要がでてきます。また、逆に、相続人が単純承認をしたことによって、相続人の多額の債務が被相続人の債権者つまり相続債権者と受遺者にも影響を与え、これらの者にとって不利となる場合にも、相続債権者や受遺者のほうから、財産分離の請求をすることができます。この財産分離は、相続が開始した場合に、相続債権者、受遺者または相続人の債権者が相続財産または相続人の固有財産から優先的に弁済を受けられるようにする目的で、相続財産と相続人の国有財産を分離して清算する制度ですが、前述のようにして破産制度のもとで財産分離がなされたときには、財産分離制度による清算手続は中止され、破産管財人の手による清算手続のほうがすすめられることになります。しかし、財産分離がなされているので、この場合の清算手続では、破産管財人は、相続財産を相続人の固有財産とはべつに清算すべきものとされています。これに対して、相続人が破産宣告を受けて破産者となったのちに、相続について単純承認または放棄をしたときには、それは、破産法のさだめによって、破産財団に対しては限定承認の効力をもつものとして扱われることにさだめられています。というのは、この場合には相続人はすでに破産宣告を受けているのであるために、相続人がこうした特殊な事情にある点を考慮して処理することが妥当と考えられるためで、その結果、被相続人に負債が多い場合があることも考慮して、単純承認は限定承認として扱い、また、相続財産はできるだけ利用することがのぞましいので、相続の放棄は限定承認として扱うものとされているのです。したがって、単純承認があったときにこれを限定承認として扱うことも、相続放棄があったときにこれを限定承認として扱うことも、いずれも、相続人の債権者の利益を保護する見地からでています。そこで、相続人が相続の放棄をしたときに、破産管財人が計算してみても、相続財産をくわえたところで、清算の結果としては積極財産の残りがでないと判断されるような場合には、相続人の債権者の利益の保護にならないために、この破産法のさだめにかかわらず、そのまま相続放棄の効力を認めることができるものとされています。したがって、こうした場合を除いて、相続人が破産宣告後に単純承認または放棄をしたときには、すべて限定承認として扱われるために、被相続人からの相続財産は相続人に帰属し、相続財産と相続人の固有財産とが破産財団を構成することになります。なお、このようにして限定承認として扱われる場合にも、前述の財産分離の場合と同様に、それによる清算手続きは中止され、破産管財人の手による清算手続のほうがすすめられることになります。しかし、この清算手続でも、破産管財人は、この限定承認との関係があるので、相続財産については相続人の固有財産と別に清算をすべきことになります。
以上のようにして、相続人が単純承認をして、それが認められる場合には、相続債権者や受遺者も、その債権額の全額について、破産財団に対し、破産債権者として権利を行使することができます。つまり、相続人の債権者のほかに、被相続人との関係での相続債権者や受遺者も、相続人の固有財産にかかっていくことができます。ただし、前述のような財産分離の請求がなされて、これが認められたときには、相続財産からは相続債権者および受遣者が優先的に弁済を受け、相続人の国有財産からは相続人の債権者が優先的に弁済を受けるものとなるために、相続人の固有財産については、相続債権者や受遺者は相続人の債権者よりおくれることになるとともに、相続人が単純承認をした場合でも、相続財産の破産の申立をすることができる間に相続人について破産宣告がなされたときには、破産財団を構成する相続財産と相続人の固有財産とはまだ混合していない状態にあるので、財産分離の請求がなくても、同様の扱いをすべきものとされています。これに対して、相続人が限定承認をした場合、あるいは、前述のような破産法の定めによって限定承認をしたとみなされる場合には、相続債権者や受遺者は、相続人の固有財産に対して、破産債権者として権利行使をすることは許されません。この場合には、相続人の債権者のみが、破産債権者として相続人の固有財産からなる破産財団に対して権利行使をすることができます。

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