倒産手続が債権者にもたらす制限

強制和議と和議法による和議とは、その成立の経過こそ形式的に相違していますが、倒産者の債権者がその債権元本あるいは利息の一部切捨てや期限の猶予を甘受することによって、倒産者の財政的立直りをはかるという点では同一の目標に向けられた手続であり、これが会社更生手続になると、倒産した株式会社の企業としての立直り、更生のために一般の更生債権者のみならず、担保権者まで更生担保権者という地位に置かれて更生手続に捕促され、その担保権の制限まで甘受させられることになるのです。また破産手続が行なわれるときは、破産債権者がその債権の切捨てなどを追られることはなく、単に破産財団から得られる配当が全額の満足を果すには至らないという事実上の損失を被るだけですが、破産者は免責の申立をなすことが認められており、特定の事由がないかぎり破産裁判所は法定の手続を経て免責決定を下すべきことになるのであり、この免責の決定が形式的に確定すれば、特別の債権を除き、破産者は破産配当で弁済されなかった破産債権者に対する債務全部について責任を免れるものとされています。破産債権者はやはりこの限度でその権利に制約を被るのです。

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これらの権利制限行為は外形的にはいうまでもなく権利者の財産権を侵害する結果をもたらすことになりますが、経済的に考察するならばそもそも債務者の倒産という事実が原因となってその債権の実価を低下せしめていたのであり、倒産手続がはじめて権利の経済的価値を剥奪低滅した訳でもないことに気づかれます。つまり、そうした倒産が見込まれる者に対しあえて債権を取得する取引を試みた債権者自身の自業自得にすぎないといえばいえるのです。
ただ問題としては、法手続の上におけるそうした権利の実際的減価の承認が、権利者自身の任意によってもたらされるのではない事と、和議や会社更生には、他の競合する権利者たちと一括されて相互連携の関係で切下げの高が決定される点に、やはり民事司法としての手続保障の必要があるということになります。
憲法二九条一項では、財産権は、これを侵してはならないと宣言し、同二、三項が財産権と公共の福祉との調整について規定を設けていますが、所有権であれその余の権利であれすべて財産権が一定の合理的な制約に服すべきことは当然であり、そうした制約をもたらす手続が違憲とされることはありません。
破産法上の免責については、最高裁昭和三六年一二月一三日大法廷決定民集一五巻一一号二八○三頁が、これを合憲とし、その根拠を次のように説いています。
一般破産債権につき破産者の責任を免除することは、債権者に対して不利益な処遇であることは明らかですが、破産者を更生させ、人間に値する生活を営む権利を保障することも必要であり、もし免責を認めないとすれば、債務者は概して資産状態の悪化を隠し、最悪の事態にまで持ちこむ結果となり、却って債権者を害する場合が少くないために、免責は債権者にとっても最悪の事態をさけるゆえんである。免責の規定は、公共の福祉のため憲法上許された必要かつ合理的な財産権の制限である。免責規定は憲法二九条各項に違反するものでない。なお補足意見があって、破産者に更生の機会を与えることのほかに、債権者に及ぼす犠牲の比較的僅少であることとの双方の事情が衡平に勘案されて、始めてよく破産者免責制度の合理性が肯定できると指摘していますが、その趣旨は多数意見にすでに合意されていると読まれます。
和議と共通する会社更生手続における更生計画によって債権者の権利に制限を加えることが違憲でないとする最高裁昭和四五年一二月一六日大法廷決定民集二四巻一三号二○九九頁では、次のように説いています。
会社更生法は、企業を破産により解体清算させることが、ひとり利害関係人の損失となるに止らず、広く社会的、国民経済的損失をもたらすことがあるのにかんがみ、窮境にはあるが再建の見込のある株式会社について、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図ることを目的とするものです。更生計画などについての会社更生法の各法条の定める財産権の制限は、前記目的を達成するためには必要にしてやむをえないものと認められます。そうすると、強制和議や和議法上の和議についてもこれと相似の目的を指摘することができるうえ、破産免責の際と共通の考慮がはたらくために、このような根拠で憲法二九条に違反しないと判断することは、いずれにおいてもひとしくいいうることになります。
上記破産免責の合憲性を論ずる判例は、さらに同法三六六条ノ九では、破産者に詐欺破産、過怠破産の罪に該る行為があったと認められるとき、その他同条列記の不信行為があったときは、裁判所は免責不許可の決定を為すことができると定められ、免責の許可は誠実な破産者に与えられる法意であることが窺われ、また、三六六条ノー二では、租税、雇人の給料、その他同条列記の特殊の債権は免除するを適当でないと認め、これを除外して、他の一般債権についてのみ責任を免れることに定められています。これらの規定はいずれも免責の効力範囲を合理的に規制したものといえることをも、あわせて合憲判断の根拠としていました。なお免責の申立てにつき裁判するには、破産者の審訊の期日が開かれ、免責の効力を受くべき破産債権者もその期日の決定の送達を受けたうえ意見を述べる機会が保障されていることにも留意すべきです。同じく会社更生法の合憲を説示する判例でも、法は、更生手続が裁判所の監督の下に、法定の厳格な手続に徒って行なわれることを定め、ことに、更生計画は、改正前の法一八九条以下の綿密な規定に従って関係人集会における審理、議決を経たうえ、さらに裁判所の認可によって効力を生じるものとし、その認可に必要な要件を法二三三条以下に詳細に定めるなど、公正かつ衡平に前記の目的が達成されるよう周到かつ合理的な規定をもうけているのであることが、合憲判断をみちびき出すにあたり前記引用の根拠とあわせて顧慮されていたのでした。これらの指摘は裁判所手続としての破産免責や会社更生、ひいては和議の合憲性を論証するのに適切な根拠であるとみなすことができます。上記引用のうち会社更生に関する最高裁決定の評釈を機として、決定の結論は認めつつも、なお憲法的保障の見地から配慮すべき点のあることが指摘されるに至っています。あるいは、破産や更生のような集団的債務処理手続においては、関係人集会という形式による権利保護の方法が必要、かつ合理的であるといえるが、裁判所による認可手続はそのような多数決原理による権利保護の補充的機能を営み、そして会社更生手続では、和議に比し、認可決定に期待される役割は大きく、そうであるとすれば問題の核心は、そのような役割にふさわしい手続的保障を現行の厳格といわれた、会社更生手続が用意しているといえるかにかかります。
またあるいは、このように合理的と一口に言っても程度問題にすぎなく、憲法問題としての合理的の範囲と単なる立法政策としての合理的の範囲とは容易に判別しがたく、結局著しく不合理ならば違憲であるといった基準によることとなりますが、前述の一般的合憲推定の傾向のもとではあまり役に立つものではありません。例えば改正前の更生債権一率棚上げは下請企業にとっては勿論、日本の産業構造の実情からみれば著しく不合理であったわけですが、その不合理さが憲法問題として意識されたことはあまりないように思われます。こうなると、結局のところ、全業救済イコール公共の福祉という大義名分が独走し、その目的達成のための手段や手続は実質上不問に付されてしまいます。合理性の要件は全く口先だけのものになってしまう。これを克服するためには単に著しく不合理という抽象的な基準のみで満足するのではなく、手続的正義を具体化する諸原則が判例を通じて日本の憲法体系の中に確立されなければなりません。

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