和議開始と双務契約

和議法による和議手続の開始は、双方未履行の売買契約、請負契約またば継続中の賃貸借契約にいかなる影響を及ぼすのでしょうか。特に和議債務者が買主、注文者または賃借人である場合はどうでしょうか。破産法は、破産宣告当時双方未履行の双務契約をいかに取り扱うべきかに関して若干の規定を設けています。つまり破産管材人は、双方未履行の双務契約を解除するか、それとも破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求するかを選択することができ、相手方は、破産管材人に対し相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、債務の履行を請求するかにつき確答を求めることができ、その期間内に確答がないときは契約の解除をしたものとみなされます。契約が解除された場合、相手方の有する損害賠償請求権は破産債権となり、また相手方がすでに一部 の履行をなしていた場合、その給付の目的物が破産財団中に現存するときは、その返還を請求することができ、現存しないときは、その価額につき財団債権者として権利を行使することができます。管財人が履行の請求を選択したときは、相手方の債権は財団債権となります。会社更生法一○三条ならびに一○四条も、破産の場合と同様の取扱を認めており、ただ、契約の解除と債務の履行の請求とのいずれを選択するかを確答しなかった場合、解除権の放棄をしたものとみなしている点で違いがみられます。双方未履行の双務契約については、上述の原則規定のほかに、特定の種類の双務契約についてそれぞれ特則が定められていることがあります。請負契約と賃貸借契約についてこれをみれば、注支者の破産の場合、管財人のみならず請負人も契約の解除ができ、また賃借人の破産の場合、賃貸人または管財人のいずれからでも解約の申入ができます。そして両場合とも、各当事者は解約による損害の賠償を請求しえません。また請負人が破産した場合については、破産法五九条の適用はなく、請負関係は破産者に残された財産関係となるのが原用ですが、その何外として、管財人は必要な材料を供して破産者または第三者にその仕事をなさせて、請負の報酬を破産財団に取り込むことができるとされています。

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和議法には未履行の双務契約に関するこの種の特則は全くありません。よって民法等の一般的な規定によって解除されることはあっても、和議手続の開始により当然に解除権が発生することはなく、未履行の双務契約は和議開始後も両当事者間にそのまま存続します。和議債務者の相手方は、自分の債務を和議債務者に履行する義務を負う反面、和議開始前の原因にもとづく財産上の請求権を和議債権者として行使できます。和議債権は、和議手続中は債務者の財産に対し強制執行や保全処分をなしえないものの、任意弁済を受けることはでき、債務者側の債務との同時履行の抗弁権を物ますが、和議が成立、認可されると、和議に拘束され、和議条件にしたがって弁済を受ける請求権となります。つまり相手方は和議成立後は自分の債務は完全に履しなければならないのに、自分の債権は和議条件による一部免除や弁済の猶予などに服さねばならないことになります。
和議法が破産法五九条のような規定を設けなかったのは、和議手続の目的が、債務の整理による債務者の事業の救済、再建にあり、破産のように清算を目的とするものではないと考えられたからです。しかし同じく、再建型の手続である会社更生法に特用があることからも明らかなように、この理由だけでは特則のないことを十分根拠づげたとはいえません。そもそも破産法五九条らの特則が設けられたのは、双務契約における双方の債務は対価関係にあって互に依存しており、履行上も牽連性が認められているのに、その当事者の一方が倒産すると、相手方は自分の債務は完全に履行しなければならないのに、自分の債権は破産債権ないしは更生債権としてわずかの配当ないしは更生計画による弁済しか受けられないことになるのでは、相手方にとって酷であり、双務契約の性質にも合致しないからです。このことは和議の場合にも妥当することであるため、立法論としては、ドイツ和議法にならい、和議開始当時双方とも履行未完了の双務契約の相手方は、特にこれを和議債権者と看做さずして、和議の効力外におくとともに、債務者には一定の制限のもとに解除権を認めて、その債務関係を迅速に整理する途を開き、もって和議の成立や履行を容易ならしめる事がよいとされています。
双方未履行の売買契約の買主に対して和議が開始された場合、いかなる法律関係が生じるでしょうか。売買契約はそのまま存続するため、売主は目的物の所有権の移転、引渡、登記などの義務を免れません。代金債権は、和議開始前の原因にもとづき生じた請求権であるため、和議債権です。すでに所有権の移転があり、その目的物上に動産売買の先取特権また不動産売買の先取特権のあるときは別除権があります。また、売主に留置権があり、しかもそれが商事留置権である場合も同様です別除権の行使によって目的物から優先弁済を受けることができない不足額があるときは、その不足額にかぎって和議債権として行使できます。日用品の売買のように一般の先取特権の認められる場合は、その被担保債権は和議債権とされないために、和議の開始によって、なんらの影響も受けずに権利の行使ができます。和議債権者は屈け出ることにより、議決権などの手続上の権限を取得します。和議手続中も債務者に対して和議債権の支払を請求でき、訴訟を提起、追行することもできますが、債務者の財産に対して強制執行や保全処分をなすことはできず、また和議開始前からなされていたものは中止されます。和議手続中の債務不履行を理由にして、売主が売買契約を解除できるかは問題ですが、債務者は通常の範囲に属する行為をなすことができ、そうでない行為でも管財人の同意を得なければなすことができるため、売主の解除を認めるぺきです。解除の結果発生する物権的権利は直ちに行使できますが、債権的権利についてはやはり強制取立はできません。和議が成立したのちは、和議債権は和議条件にしたがってのみ弁済を受けうります。したがって、和譲条件の定めにしたがい、債務の一部が免除され、期限が猶予されることになる反面、和議参加人の提供した人的、物的担担保を享受します。なお、和議債権者が和議開始前から有していた保証や物上保証などには影響がありませんが、和議債務者である法人の債務につき責任を負う社員に対しては、和議に別段の定めのない限り、和議条件の限度でのみその責任を追及されます。和議開始後の不履行に因る損害賠償および違約金は、和議債権よりもさらに劣位のものとして取り扱われます。
請負契約が双方未履行の状態にあるときに、注文者に対して和議が開始された場合、請負契約はそのまま継続されることとは、売買契約の場合と同様です。請負人が和議開始後に仕事を完成し、和議債務者に引き渡した場合、その時に請負代金の請求権が発生しますが、これは和議債権ではありません。一見、和議開始前の原困にもとづく請求権のようにみえ、少なくとも和議開始前になされた仕事の割合に相当する部分は、和議債権ではないかという疑問がありますが、請負代金全額を和議債権とみるのは和議開始後の仕事に対する報酬も和議債権とする点で不当であり、そうかといって開始前後の仕事の割合によって分けることは、仕事の不可分性に反するからです。したがって請負人は、和議開始後仕事を完成すれば、和議手続から何らの拘束を受けることなく請負代金の請求ができ、また仕事の引渡との同時履行や留置権を主張しえます。和議債務者は仕事が完成するまでは契約の解除を管財人の同意を得てなすことができます。そのときに請負人が取得する損害賠償請求権が、和議債権であるか否かも大いに問題ですが、もっぱら注文者の都合による解除であるために、和議債権ではないと解して請負人を保護するのが妥当です。賃貸借の継続中に賃借人に和議が開始された場合についても特則はないため、民法等の一般規定により有効な解約のないかぎり、賃貸借契約は継続されます。和議開始日以後の賃料は和議債権とはならないと解すべきであるため、和議手続に拘束されずに権利行使ができます。開始日以前の延帯賃料請求権はもとより和議債権ですが、不動産賃貸の先取特権のある場合には別除権が認められることもちろんです。

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