無過失責任論

無過失責任論とは、過失責任主義に対して考えられた理論であって、損害発生について故意または過失のない場合にもその賠償責任を負わせようとするものです。この無過失責任論は実質的公平の見地から、過失責任を補うものとして登場したものであって、必ずしも不法行為についてのみ問題とされるわけではありませんが、立法、学説上問題とされるのは主として不法行為に関してです。
学者が、無過失責任を認める根拠を説明する理論構成には、様々なものがあり、危険な施設の所有者はこれから生じる損害については絶対的責任を負うぺしとする危険責任論、大なる利益の帰するところには損失をも帰せしむべきであるとする報償責任論、ある損害に原因を与えたものが、その賠償責任を負うべしとする原因責任論、不法行為に基づく賠償責任を損害の公平なる分担という思想によって定むべしという公平分担論、さらに、上述の諸理論がそれぞれ無過失責任の一部を説明するものであることを認めながら、結局公平の思想によって弾力的に被害者、加害者間の損害の分担を行うべきだとする具体的公平主義などがあります。このうち、危険責任論と報償責任論が有力ですが、その一つが絶対的な根拠というわけではなく、これらの組合わせの上に現代の無過失責任論が構築されていくのだと思われます。
近年の交通機関や機械化された企業などから生じる損害をともなう危険に対処するためには、従来の市民法理に基づく過失を帰責要件とする態度では損害の適正な配分はできません。日照妨害についても同様です。これらのことは市民法当初には予定しなかった事態で、民法についてもそのことはいえます。よって今日の事態は過失責任規定をそのまま適用しなければならないということはなく、むしろそうすることは不合理です。そこには法規の不存在があるのであって、それを埋めるために、危険の度合いや報償の利益衡量を尺度に、条理に基づく無過失責任を積極的に考えることは理論上可能であるだけでなく、必要です。完全な意味の無過失責任は、立法を待たなければならないとすることが判例、学説の主流と思われますが、実質的な帰責は、条理に基づく無過失理論を承認する方向へ傾いていると考えられます。実務における解釈論としても、鉄道、バス、タクシーなどによる交通事故や、近年の航空機、船舶の事故などの場合に、国や企業側の免責の主張をほとんど認めないで責任を負わせたり、踏切設備を完備しないことは、土地およびその工作物の暇疵として責任を負わすなど実質的な無過失責任を認めたと同じ結果を導いているのが実情です。

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