不法行為成立の要件

不法行為とは、故意または過失によって他人の権利を侵害し、よって損害を生じさせる有責違法な行為です。当事者を加害者、被害者といいます。加害者は損害賠償の責任を負い、被害者は損害賠償請求権を取得します。つまり不法行為は、損害賠償請求権の発生原因としての法律要件であり、その性質は違法行為です。不法行為は責任能力ある者が、故意または過失によって他人の権利を侵害し、よって損害を生じさせることによって成立します。つまり、責任能力、故意・過失の存在、権利侵害、損害の発生、加害行為と損害発生との間の因果関係の存在が一般的成立要件とされるのです。このうち責任能力、故意・過失の存在は主観的要件、権利侵害、損害の発生、加害行為と損害発生との間の因果関係の存在は客観的要件であるといえます。

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故意とは、自己の行為が、他人の権利を侵害することその他違法と評価される事実を認識しながら、あえてこれをなす心理状態をいいます。刑事責任における犯意と同一内容だといえます。過失とは、不注意によって,自己の行為の結果が他人の権利や法益の侵害となることを認識しないでいる心理状態をいいます不注意の程度の違いによって軽過失と重過失の区別があります。不法行為の要件としての過失は,原則として軽過失でかまいません。
民事責任を生じさせる故意と過失との間には、法律効果の発生の上に差異はありません。したがって被害者が損害賠償を請求するについて、加害者の故意または過失を選択的に、あるいは併せて主張してもかまいません。その一方に限定する必要はありません。ただそのいずれであるかによって、責任の内容、損害賠償の額などが違ってくることは有り得ます。この故意、過失の挙証責任は、原則として被害者にあります。不法行為として損害賠償を請求するには、被害者が加害者の故意、過失を立証しなげればならないのです。しかし故意、過失というのは、加害者の行為当時における心理状態であるために、被害者においてこれを立証することはなかなか困難なことです。それゆえに、この挙証責任を被害者に厳格に課することは、過失責任主義の弊害を倍加する結果となります。そこで、この被害者の挙証責任を緩和することが要請されるわけであり、挙証責任を立法的に転換して、加害者側で故意、過失がないことを立証しないかぎり責任を免れえないものとしているものがありますが、一般の場合についても、学説、判例では、被害者のために挙証責任の緩和に努めています。
責任能カとは、行為の責任を理解することができる精神能力のことであり、実質的には意思能力と同じです。利害や是非善悪の判断能力だといえます。つまり正常な意思能力、判断能力を有しない者は、たとえその行為によって他人に損害を加えても、その者の自由意思に基づくものとは評価できないために、その損害という結果をその者の責任に帰属させることはできないという意味で、特に責任能力または不法行為能力と言うのです。民法上、通常人は責任能力を有しますが、年少者や心神喪失者は責任無能力者だとされています。
民法では、権利の侵害を不法行為の客観的要件としていますが、これは、個人の自由な意思活動を幅広く保障しようとする近代市民法理の所産だといえます。権利は私的利益の客認領域を示すものであって、この領域さえ侵害しなければ、その責任は生じないとすれば、権利を限定的に明確にすればするほど、活動の自由は広くなり、近代市民社会の意図に合することになるわけです。その意味で、民法が不法行為の要件を権利の侵害に限ったことの意図は理解できますが、資本主義社会の発展とともに、明確に権利と把握できるもののほかに、守らるべき利益が増えて来て、これらが明確に権利ではないために侵害されても救済できないとして放置しておく訳にはいかなくなります。そこで、権利の概念を拡張する理論が台頭してきます。今日は、この理解をさらに発展させて、権利を侵害するとは、違法な行為をすることだと解するのが通説となっています。それが違法性論です。違法な行為が不法行為の本質だと解し、権利の侵害というのは、加害行為の違法性を徴表するもので、その代表的な例示だとみるわけです。このような傾向は国家賠償法1案に、違法に損害を加えた時にと、明文で規定されるに至っているところからみても、確立された理論とみられます。この違法性の認定は、被侵害利益の大小と加害行為の軽重との関係を相関的にみて、例えば被侵害利益が少なければ加害行為がそうひどいものでないならば違法性はなく、被侵害利益が大きければ加害行為が軽くても違法性がでてくるというふうに、具体的妥当性を求めて弾力的に違法性を判断していくことになります。刑罰法規違反、取締法規違反、公序良俗違反、権利監用行為などは、違法性ある侵害行為だとされますが、このような侵害行為があっても、その違法性を阻却するような事由がある場合には、それが具体的な権利の侵害行為であっても不法行為とはなりません。民法ではこの違法性阻却事由として、正当防衛および緊急避難に関して規定を設けています。この他、正当なる権利の行使や事務管理、医師の手術などの正当業務や被害者の承諾ある場合などは違法性が阻却されると解されています。
違法性ある行為でも、常に必ず損害を生じさせるとはかぎりません。民事責任としての不法行為は、個人に発生した損害を公平の立場から補充する点にその本旨があるために、損害なければ不法行為なしという法理が成立するのです。ここでいう損害とは、金銭に見積りうる財産上の損害だけでなく、精神上の損害をも含み、有形無形の一切の表失利益を意味します。さらに積極的に被った損失だけでなく、将来得るべき利益の喪失をも含むことなど、債務不履行による損害賠償の場合と同様になります。不法行為が成立するためには、損害の発生と加害行為との間に囚果関係が存在していなければなりません。損害の発生が、違法な行為に因りて生じること、つまり因果関係があることを要するのです。因果関係については、その間に少なくとも原因と結果の関係があればよいという考え方と、結果のほうを通常生じるであろう損害ということで限定しようとする考え方とがあります。

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