不作為を求める債権の執行

被告は、原告が本件建物を建築するのを妨げてばならない旨の条項を含む裁判上の和解が成立したのに、被告であったBは、原告であったAの建築を妨害し、地上に障害物を設けたり、建材搬入用の自動車が通れないよう、進入道路に柵を作ったりし、さらに人数を集めて実力で進入阻止をはかっています。Aはどのような方法により妨害排除の措置をとればよいのでしょうか。この場合、Aは、和解が成立した裁判所に申立てをして、和解調書につき、違法の結果の除去執行として、地上に設けられた障害物および進入道路に作られた柵を撤去することができる旨の授権決定を得て、代替執行により障害物および柵の撤去を行ない、執行官に立会執行の申立てをして、執行官によりBおよびその指図で集まった者の抵抗を排除します。また、Aは、和解が成立した裁判所に申立てをして、将来のための通当な処分として、Bに対し将来の損害に対する担保の提供または賠償金の支払いを命じる授権決定を得ることができます。

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不作為を求める債権について、履行を直接強制するとすれば、債務者が違反行為をしないよう身体を拘束すること、麻酔を施こして行動できなくすること等が考えられますが、これらの方法は基本的人権の尊重に反するため、直接強制を認めることはできません。また、他人ががわって不作為であっても、債務者本人が違反行為をすれば不履行になってしまうので、代替執行も認められません。つまり、不作為を求める債権については、直接強制や代替執行はできないので、間接強制ができるかどうかを考えてみます。不作為を求める債権は、債務者の違反行為がない間は、履行されているか、またはまだ履行期が到来していないかのいずれかであるため、あらかじめ間接強制で履行を強制することはできません。また、不作為を求める債権には、不作為義務が一回的なもの、反復的なものおよび継続的なものがありますが、一回的な不作為義務は、履行期の到来とともに履行の有無にかかわらず消滅するので、間接強制をする余地がありません。さらに、不作為を求める債権には、債権者の態度に無関係に一定の行為をしないことを目的とする単純不作為義務と、債権者または第三者がする一定の行為を耐忍することを目的とする耐忍不作為義務とがありますが、後者は、債権者らが一定の行為をするまでは履行期が到来しません。したがって、間接強制ができるのは、反復的または継続的な単純不作為義務であって現在違反行為が行なわれている場合だけです。反復的または継続的な不作為義務において三回違反行為があれば、将来の履行を確保するため間接強制をすることができるとの説がありますが、過去に違反行為があっても、すでに終了してしまえば現在においては不履行の事実はないことになるので、将来の履行を確保するための間接強制は認めるべきではないと批判されています。間接強制は、債権者の申立てにより、第一審の受訴裁判所が、相当の期間を定め債務者がその期間内に履行をしないときは遅延の期間に応し一定の賠償をすること、または直ちに損害の賠償をすることを命じる決定をすることによって行なわれ、債権者は債務者が履行をしないとぎは、決定にもとづき金銭執行をすることができます。
不作為を求める債権のうち耐忍不作為義務について、債務者またはその指図に従う者が人力で債権者の行為を妨害する場合、債権者が執行官に立会執行の申立てをすれば、執行官は実力で違反行為を排除することができると解されています。民訴法五三六条二項の類推適用が主張され、執行官手続規五六条は、代替執行だけでなく、耐忍不作為義務をも含む趣旨であると解されています。しかし、明文の規定がないこと、この場合の債権者の行為は、代替執行における授権決定にもとづく実行行為とは異なり、執行機関の執行行為ではないので、執行官が関与する理論的根拠がないこと等から、耐忍不作為義務についての立会執行を否定する見解もあります。判例には、積極説をとる東京地決昭和三七年六月二〇日と、消極説と解される熊本地決昭和三七年八月三〇日があり、現在の実務の取扱いは、統一されていないようです。執行官に指導的影響力がある執行官提要は、執行官手続規五六条一項の債務者が耐忍すぺき義務には耐忍不作為義務も含まれるとしており、積極説をとっています。なお、後述の違反の結果の除去執行や将来のための適当な処分の執行として代替執行が行なわれる場合も、立会執行が可能です。
不作為義務に違反した結果として物的状態が残った場合、民法四一四条三項は、債権者が債務者の費用をもって物的状態を除去することを請求することができると規定しています。不作為義務の違反があれば、不作為の追完的履行は不可能であるため、違反のあった部分に執行の余地はなく、債権者は損害賠債の請求ができるだけであり、違反の結果として違法な物的状態が生じても、その原状回復は、理論的には不作為義務の履行ではなく、別個の作為義務の問題です。したがって、違反の結果の除去執行は、不作為を求める債権の本来の執行ではなく、違反により消滅した不作為義務の全部または一部の変形物として生じる執行法上の結果除去請求権にもとづくものであると解されています。このため、違反の結果の除去執行の対象となるのは、債務名義成立後に生じた物的状態にかぎられ、それ以面に生じた物的状態については、別に作為義務の債務名義が必要です。
民法四一四条三項は、不作為を求める債権について、債権者が将来のための適当な処分をすることを請求することができると規定しています。この適当な処分の対象となるのは、不作為を求める債権の性質上、反復的または継続的な不作為義務であって、一部の違反行為があった場合にかぎられ、一回的な不作為義務は含まれません。適当な処分の内容は、将来における義務違反の反復の予防に効果的であれば制限はなく、違反の原因である物的状態の除去、違反を防止する物的設備の設置、将来の損害に対する坦保の提供、違反ごとに一定の賠償金の支払いを命じること等です。なお、裁判所の自由裁量で心理的強制手段を認めることは基本的人権の尊重に欠けるとして、適当な処分の内容は債務者の行為とは無関係に違反行為を事実上不可能にする外部的障害の設置にかぎられるとする説があります。適当な処分の執行は、債権者が第一審の受訴裁判所から授権決定を得て授権決定にもとづき代替執行または金銭執行の方法で行なわれます。

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