調停調書の条項と授権決定

調停調書の条項には、債務者は地上の工作物一切を収去して土地を明け渡す旨の記載があります。債権者はこれにもとづき、土地上の個々の収去のための授権決定を求めることができるでしょうか。授権決定においては債務者名義に表示された義務の明確化特定化ができるため調停調書によって土地上の個々のものの収去について授権決定を出すことができます。裁判上の和解や調停の場合には、当事者の合意にもとづくものであり、また、当事者の思惑、感情への配慮等から、条項の表現が不明確なため、その執行方が問題とされるものも少なくありません。本問もそのような問題の一つです。土地明渡しの際に建物その他の地上の工作物を収去すぺきことが争われている場合に、判決で結論が示されるときには、地上にどのような工作物が存すかが別紙目録等で特定されるのが通例であり、和解、調停の場合にも同様にしているのが一般ですが、この場合には前述した事由等もあり、また当事者が了解したうえでの合意であるため判決による場合よりも任意履行が期待されることもあって、不確定な文言が使用されることもあります。このように和解または調停の文言が不正確な場合にはこれに執行力を与えることができるか否かが問題となります。

スポンサーリンク

お金を借りる!

調停条項において当事者がどのような給付義務を負担しているかは、結局は条項の解釈によらなければならないことではありますが、この解釈にあたっては、判決とは異なり、当事者の意思表示に係るものであるため、一般的には、文字のみに拘泥することなく、他の資料をも斟酌することができます。そのような立場にたつと、本問のように地上の工作物一切を収去して土地を明渡すとの調停条項については、調停成立当時における当事者の意思その他の諸事情を付度して解釈すべきことになりますが、一般的には調停成立時における地上の工作物の収去を約していたと解すぺきでしょうが、事案によっては調停成立後に建てられる工作物の収去をもあらかじめ約していたものと解すべき場合もあります。
しかし、和解、調停条項についての解釈について以上の見解が妥当するとしても、執行機関が執行するにあたり判断すべき債務名義の解釈においては適合し難い面があります。執行機関は、債務名義以外の資料をもたないわけであるため、債務名義の条項およびそれ以外のものでこれと同視しうるもののみから明白な事項についてしか執行力を許すべきでないからです。このような見解にたてば、収去すべき工作物の特定を欠く債務名義について執行力を否定することも考えられます。不動産、動産の明渡し、引渡し等の直接の強制履行にあたる執行官については、債務名義の解釈を補充する資料をもつ方法がないため、対象物の特定を欠くときには、執行を拒否すべきです。
しかし、建物等の工作物を収去して土地を明け渡すべき代替執行にあっては、強制履行の場合とは若干異なります。この場合にあっては、第一審の受訴裁判所が、口頭弁論または審尋を経て強制執行の一般要件のほか、代替執行の要件を審査し、具体的な方策を定めて授権決定をするために、その際に裁判所が借務名義の解釈をなしうるからです。もちろん、解釈をなしうるとしても、執行機関の一つとしての裁判所がなす権限であるため、裁判所の権限は実体法的な権利義務の内容、範囲を確定しうるものではなく、債務名義に表示された義務を特定化。明確化するにとどまることはいうまでもありません、問題は、本問のように地上の工作物を収去して土地を明け渡す義務は明示されていますが、工作物が特定化していない場合も、債務名義に明示されている給付義務の特定化、明確化にとどまるものといえるのでしょうか、それとも債務名義自体の明示を欠くと認めるのかです。これについては見解が分かれていますが、前述した和解、調停の解釈に照らして考えると、少なくとも和解、調停の場合にかぎっては、債務名義上に明け渡すぺき土地が明示されている以上、地上に存する一切の工作物を明け渡して土地を明け渡すぺき給付義務が明示されているとみて収去すべき工作物を授権決定で特定できるとするのが妥当です。
以上のように、債権者は授権決定の申立てができるものと考えられますが、裁判所がこの解釈に反して申立てを認めないときは、債権者は即時抗告をすることができ、逆に、債務者が授権決定に対し不服があるときも、責務者は即時抗告ができます。

お金を借りる!

共有の不動産の強制執行/ 処分禁止の仮処分/ 差押の効力の相対性/ 物上保証人に対する強制執行/ 立木に対する強制執行/ 強制競売と目的不動産の管理/ 個別競売と一括競売/ 農地の競売/ 競売の目的不動産の危険負担/ 不動産引渡命令の執行と第三者/ 執行処分における不服申立/ 不動産競売における用益権/ 任意競売手続における配当要求/ 継続収入の債権の差押/ 競売手続における配当要求/ 強制管理/ 配当異議訴訟/ 差押手続の違法による差押の無効/ 家屋明渡の強制執行と執行当事者/ 債務者に対する実力行使/ 建物明渡しの一部執行/ 建物明渡しの執行/ 家屋明渡し執行/ 明渡執行費用の取立て/ 建物退去土地明渡の強制執行/ 建物収去の代替執行の授権決定/ 判決確定後の建物買取請求権/ 調停調書の条項と授権決定/ 代替執行の授権決定/ 執行官保管の仮処分/ 間接強制決定における賠償金の額/ 仮執行宣言/ 登記手続きを命じる判決確定後の強制執行/ 登記手続を命じる義務の履行/ 不作為義務/ 不作為を求める債権の執行/