建物明渡しの一部執行

建物明渡しの強制執行において、建物の一部分ずつに執行を実施していくことはできるでしょうか。この場合、債務者の占有を解いた部分を執行官の保管とすることはできるでしょうか。また、全部の明渡しが完了する前に、執行停止決定が出された場合はどうなるのでしょうか。この場合、建物の区分された一部分に執行し、一時執行官の保管とすることもでき、執行停止決定が出ればその状態で執行処分を維持すべきです。
建物明渡しの執行は、建物に対する債務者の占有を奪って債権者にこれを与えることを目的とします。それは目的物の権利関係を変動させるものではなくその物についての事実支配にかかわる問題であるため、権利の単位を基準にする必要はなく、事実支配を区分することができるときは一個の物の一部分に対する執行も可能となります。一戸の建物の一部分に対して明渡しの強制執行がなされる場合としては、二つのケースがあります。その一は、債務名義自体が一戸の建物の一部分の明渡しを命じるものである場合であって、その部分が他の部分から独立して債務者の占有の対象になっているときに、この例がみられます。その二は、債務名義は一戸の建物全部の明渡しを命じるものですが、その執行にあたって、建物の一部分についてのみ債務者の占有を解いて債権者にこれを与え、残りの部分に対する執行は留保する場合であり、このようなかたちによる一部執行も、その部分を他の部分から分離して独立に支配し使用することが可能であるかぎり、適法にすることができます。例えば、まず階下だけ明渡しをさせ、階上の執行は延期するとか、数日にわたって一室または数室ずつ部分的に順次執行していくというやり方です。建物の明渡しは、債務者にとっては生活の根底を覆されるきわめて重大な打撃であるため、債権者としても一挙に全部の明渡しを執行することは事実上なかなか困難なことがあり、無理に強行すると、より大きな摩擦を生じかねないため、場合によっては一部の明渡しにとどめて、あとはできるかぎり債務者の任意の履行にまつ、というのが実際的のようです。

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執行官が、例えば建物の一室または数室につき、その室内にある家財道具等の動産を他室に移して空室とし、その室に対する債務者の占有を解いたうえ、出入口を閉鎖し、釘づけして封印を施し、明渡執行中であることを示す執行官名義の公示書を貼付することが行なわれています。これは、債務者の占有を解いた建物部分につき、直ちに管権者にその占有を与えることを留保し、一時執行官の占有に移すものであって、いわゆる執行官保管の仮処分と執行形態を同じくします。債務者の占有を解いた部分をその都度債権者の占有に移してしまうと、その部分についての執行は終了したことになり、債務者がその後に再びこの部分に立ち入って占拠するようになったときに、もとの債務名義ではもはや明渡執行はできず、再度の明渡しのためには新たな債務名義を必要とするので、そのような事態を防ぐために、執行官が一時これを保管し、建物全部からの立ち退きが完了した時点で、まとめて債権者に引き渡すのです。このような執行に対しては、これを違法とする反対論があります。民訴法七三一条は債務者の当該不動産に対する占有を解いて直ちに債権者にその占有を得させる執行を定めたものでそのため必ず債権者またはその代理人が受取りに出頭していることを執行実施の要件としているため、執行の途中で当該不動産を一時的にもせよ執行官の保管に移すというような執行方法は同条の予想するところではなく、公示書の貼付も無効である、ということです。たしかに現行法は、有体動産の引渡しの執行については債権者の出頭を要件とせず、したがって債務者からその物を取り上げてから有権者にこれを引き渡すまでの間に執行官保管の生じる余地を認める構造となっているのに不動産の場合にはそのような規定がないため、疑義が生じないとはいえません。しかし、民訴 法七三一条による執行は常に債務者の占有を解くことと債権者にその占有を与えることをともに、かつ連続して一挙に行なわなければならないというように、窮屈に考える必要はないと思われます。七三一条による執行の部分的、中間的な実施ということが立法当初から予想されていたかどうかはともかくとして、執行の実際においてこれが決して特異な事態でないことは、次のような場合を考えれば容易に理解されます。
その第一は、土地所有者の地上建物居住者に対する建物退去の債務名義にもとづく強制執行の場合です。建物退去の債務名義は、建物明渡しとは違って、建物の占有を債務者から債権者へ移すことを内容とするものではなく、単に債務者の建物に対する占有を排除することを命じているだけですが、この義務の強制実現は間接強制というような迂遠な方法によるのではなく、民訴法七三一条にもとづき執行官の直接強制によってなされるものと解されています。つまり建物退去の執行は、七三一条の規定する債務者の占有剥奪と債権者への占有付与の二段階のうち、その前段の部分だけを行なうものなのです。そして建物居住者の退去義務の本質は建物収去の受忍にあるため、退去の執行はできるかぎり建物収去の執行の際に同時に行なうよう指導されていますが、同時執行が困難なときは、債務者を退去させた建物については、債務者または第三者の無断侵入を防ぐため、執行官が収去まで一時これを保管する措置をとるほかはありません。第二に、明渡請求権の執行保全のためになされる占有移転禁止の仮処分の場合です。この仮処分は、建物に対する債務者の占有を解いて執行官に保管させ、執行官は債務者にその使用を許し、適当な公示をする、というのが標準的な形式であって、これは、被保全権利である明渡請求権につき民訴法七三一条により強制執行できることの途中の段階までを実現するものとみることができます。本執行では、債務者の占有を解くことから債権者への占有移転までが一挙に進みうるため、中間の段階があらわれてこないのに対し、仮処分では債務者の占有を解くまででとどめ、それ以後は民訴法五六六条に準じ債務者に使用させることとするため、国家が収納した占有の所在を示すものとして執行官の保管が顕在化してくるものと理解できるのです。
建物明渡しの執行において、建物の一部分ずつにつき債務者の占有を解いて、その都度執行官の保管とし、最後に全部とりまとめて債権者に引き渡すという執行方法が、法律の予定していない違法なものだという非難はあたらず、これを認めても現行法上格別の不次ごうがあるとは考えられません。むしろそれは実際の必要から生まれた効果的な執行方法であり、適法なものとして容認すべきです。

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