債務者に対する実力行使

家屋明渡しの強制執行に際して、執行官は、償務者やその家族を実力で家屋外に退去させることができるでしょうか。この場合、執行官は、条理上妥当と認められる範囲内で、実力を行使し退去させることができます。家屋明渡しの強制執行は、それ自体直接に債務者とその家族の生活や営業の本拠を奪うものであり、その与える影響は重大で深刻です。それだけにその執行に際しては、債務者の側から積極消極様々な抵抗をうける事態の生じることが少なくありません。執行官は、国家の執行権能を管掌する司法機関として、債務名義に表示された明渡請求権の実現のため、債務者の抵抗を排除して執行権能を貫徹する権限と職責を付与されています。つまり執行官は執行にあたり抵抗をうけるときは、威力を用い、かつ警察上の援助を求めることができます。ここにいう威力とは実力のことです。執行官が適法な執行の申立てにもとづき執行力ある正本を所持して行なう執行に対しては、執行債務者は正当な国家権力の行使としてこれに服従し執行を受忍しなければならない公法上の一般的義務を課されているのであり、執行官に付与された威力行使の権限は、債務者の執行受忍義務を強制し、執行の実効を確保する手段にほかなりません。しかし、これは債務者の生活権にもかかわる問題であり、人道上からもおのずから限界があることを承認しなければなりません。

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債務者と同居している家族は、通常、執行力ある正本に執行債務者として表示されていませんが、債務者に対する明渡執行に際し、債務者とともに立ち退かせることができます。これは、実体法上、執行力ある正本に表示されている債務者のみが家屋の占有者であり、同居している家族は家屋を事実上使用していても債務者の占有補助者で、占有の体素としての独立の所持を有するとは認められないのが通常だからです。もっともこの点については、夫婦同居の場合、妻は夫に対して社会的従属関係にあるものではないため、特別の事情のないかぎり夫婦の共同占有を認めようとする見解も近時有力です。しかしこれらの見解が、家屋明渡しの執行において夫婦の双方に対して債務名義を必要とすることを意味しているとすれば、執行の実際に与える影響は大きく、いたずらに法律関係を複雑にするだけです。家族共同体によって家屋に対する事実支配が行なわれている場合には、対外的関係において中心的役割を果たしている者だけを占有者と認め、法律関係の簡明化をはかるべきであり、従来からの実務上の取扱いが是認されてよいと考えられます。そうすると、債務者と同居する家族も、明渡執行を拒むときは、執行官の実力の行使をうけることを免れないわけです。
執行官は、執行に先だち債務者に任意の明渡しを催告し、債務者がこれに応じないとき執行を実施します。これに対して債務者やその家族が、家屋に施錠して執行官を屋内に立ち入らせないようにしたり、屋内に居すわって頑として立ち退きを拒んだり、あるいはさらに進んで執行官やその補助者に暴行脅追を加え、家財道具の搬出を妨害するなどして抵抗するとき、執行官は直ちに執行不能とすべきではなく、強制執行の目的を実現するために必要な限度で実力を行使して立ち退きを強要し、執行を遂げなければなりません。施錠されていればこれを壊すこともやむをえず、居すわっている人については、これに手をかけて連れ出すこともできると解されています。しかし、債務者またはその家族が病臥していて、これに対し立ち退きを強制すると著しく病勢を昂進させるおそれがあるようなときは、執行に抵抗しているとはいえないため、執行不能として中止するほかはなく、また病勢がそれほどでなくてもなお人道上執行を一時見合わせ、適当な時期を待つのが妥当と考えられる場合もありえます。この場合、執行官は執行の可否を調査するため、相当と認める医師に病人を診察させることができます。病人がことさらに診察を拒否し仮病と認められるときは、消極的抵抗があるといえるため、実力をもって執行を続行してかまいません。要するに、実力行使の可否方法程度は、具体的事案に応じ条理に照らして判断するほかありません。苛酷執行にわたってはなりませんが、それをおそれていたずらに抵抗排除を手控え、権利の実現に消極的であってもなりません。ただし、実力行使の名のもとに暴力を振るうようなことが容認されないのはもちろんです。執行官は抵抗をうけるときは証人を立ち会わせなければなりません。抵抗が激しく執行官および補助者たけではこれを鎮圧排除できない場合は、警察官に援助を求めることができます。

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