継続収入の債権の差押

継続収入債権の差押がされ、債権者がまだ満足を得ない間に配当要求の申立てがあったときは、以後の手続はどうなるのでしょうか。この場合、配当要求により、差押の効力は拡張され、債権者の取立届、または第三債務者の供託の事情届がなされるごとに配当手続が行なわれ、このようにして、差押債権者、配当要求債権者の満足額に達するまで配当手続を継続することとなります。
給料債権、賃料債権等継続収入の債権は、同一の基本的法律関係にもとづいて現在および将来にわたって発生する多数の債権であるため、一つ一つをとってみればそれは個々独立の具体的債権であって、それらの集合からなるものです。継続収入の債権の差押は、このような具体的に発生する現在および将来の各債権を一個の差押命令で包括的に差し押えているわけです。このように、直接差押の対象となっているのは、個々の具体的債権であるため、一般の債権に対する差押と同じように考えれば、継続収入の債権に対する差押も個々になされるべきこととなります。しかし、個々の収入債権について一々差押命令を発することにすれば、ことに被差押債権たる個々の収入債権が少額で、執行債権が多額な場合等には非常にはんさで、執行費用がかさむおそれもあり、また、一回ごとに差押、転付命令を得るため他の債権者との競争が予想され、差押債権者にとって不利益が多く、さらに、継続収入の将来の債権に属する部分については、一般の将来の債権同様、現在すでにその発生の原因が確立していて、その権利を特定することができ、かつ、その発生の確実性が高度で財産的価値を有すると認められれば差し押えることが可能です。このようなところから、民訴法六〇四条は、個々に発生する債権の基礎となる基本的法律関係が同一であることに着目し、俸給又は此に類する継続収入の債権の差押は債権額を限度とし差押後に収入す可き金額に及ぶものとするとして、継続収入の債権について定型的な差押形態を認めたものと考えることができます。

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一般に現在の実務においては、継続収入の債権に対する差押命令の被差押債権の表示は債務者が第三債務者から毎月支払いをうける給料債権の四分の一ずつにして平成○○年○月分より請求額に満つるまで、との記載がなされ、配当要求がなされた場合には、差押の範囲は当然に拡張されると解され、差押債権者の債権額と配当要求債権額との合計額まで差押の効力が及ぶものとして取り扱われています。
一般の債権の差押の場合、差押の効力は、差押命令に特段の限定がないかぎり、一個の被差押債権の全額に及ぶことになります。したがって、配当要求があれば、被差押債権の全額にまでは取立て配当しますが、それ以上には差押の範囲は拡張しません。また、一個の債権を一部に限定して差し押えることもできますが、この場合はあらためて差押命令を得る以外にありません。差押債権者が限定して差押命令を得た以上、配当要求によりみずからの満足にあてうる部分が減少することの危険は負わざるをえないため、差押の効力が拡張しないことは一部差押の当然の帰結です。
継続収入に対する差押について配当要求がなされた場合、差押の限度が当然に拡張されるか否かにいて見解が分かれています。積極説は、制度の趣旨から考えて、民訴法六〇四条の債権額を限度とし、とは、配当要求のない債権者一人の原則的な場合についていうものであり、差押の範囲が無制限でなく執行債権者の満足を得しむる範囲にとどまるという、ある意集では当然のことを表現したにとどまると解し、また、強制執行法は平等主義を採り、一個の財産権については一回の執行でできるだけ多くの債権者を満足させることを制度の目的としているともいえるとして差押の効力の拡張を認め、第三債務者にその旨の注意を促すため、差押命令の表現に工夫を加え、差押債権額に満つるまでとの記載をするよう提案されます。
これに対して、消極説では、積極説は超過差押禁止の原則を採りつつ平等主義の要請を満たし、差押債権者の利益を害することなしに配当要求債権者に満足を与えることができるので立法論としては妥当である、としながらも、現行法が差押と配当要求を明確に区別しているのに、執行力ある正本を有しない債権者のたんなる配当要求によって、それまで差し押えられていなかった債権が当然に執行の対象になるとすることは問題があり、ある債権者の申請にもとづく差押によって、将来あらわれてくるか否かまだ明らかでない不特定の配当要求債権者のためにあらかじめその債権額だけ差押拡張を宣言することはとうてい許されません。配当要求の出現によって差押債権者の利益が害されることは、超過差押を禁止しつつ平等主義を貫く執行法に通有の欠陥であって、継続収入の債権の差押においてのみ配当要求による差押の効力の払張という特別の取扱いをしてこれを修正しようとすることは不均衡で無理があるとし、また、積極説を採ると差神の範囲が不明であって、場合により債務者の差押外の将来の債権を処分する権能を奪い不当に拘束することとなり、第三者が事実上差押外の将来の債権の譲渡をうけ、差し押えることを封ぜられ早ての利益を害されるという不都合を生じるとしています。
積極説を採ると、執行力ある正本を有しない配当要求債権者が差押をなしたと同じ結果となることや他の債権差押との均衡がとれないことは消極説のいうとおりです。しかし、継続収入の債権においては、差押債権者が満足に長期間を要する一個一個では通常少額な債権を差し押えているのに、これに配当要求があった場合、差押債権者のみならず、配当要求債権者もさらに少額宛しか自己の債権に充当できず、ともにあらためて数回差押手続を繰り返さざるをえず、かつ差押債権者にとってはとくに不利益であり、また手続上も非能率的であって、平等主義の弊害が極端にあらわれ、定型的な差押制度をもうけた趣旨が没却されてしまいます。
したがって、継続収入の債権については、債務者、第三債務者に特別の不利益が生じないかぎり、差押、配当手続を弾力的に運用し、一度の手続ですべてを決済するほうが執行手続としては妥当です。
そして、このように解しても、第三債務者は裁判所からの配当要求の通達により計算上差押の範囲を知ることができるため不利益がなく、債務者、第三債務者の不利益はもともと民訴法六○四条の予定したところといいうります。
あらかじめなされた転付命令が配当要求による差押の拡張により無効になるとの点については、維続収入の債権の差押の場合には配当要求による差押の効力の拡張の制度があることに確定してしまえば第三者に不測の不利益は与えず、また、差押後、差押の効力の拡張があるまでの間に発された転付命令については、差押後の配当要求による差押の範囲の拡張の場合には配当要求前になされた処分の効力を奪いえないとして、いわゆる差押の相対的効力の理論を徹底して第三者や債務者を救う理論が可能です。
このように積極説を採るときには、差押命令に、配当要求があった場合差押の効力が拡張する旨を注記したほうが、債務者を納得させ、第三債務者には誤って弁済しないよう注意を促すことになります。

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