執行処分における不服申立

任意競売において不動産の引渡命令が発せられたのちに、債務者は、被担保債権が当初から存在しなかったことを主張して引渡命令の効力を争うことはできるでしょうか。できるとすれば、どのような方法によるべきでしょうか。執行処分説をとれば、競落不動産の所有権確認、所有権移転登記抹消登記請求の訴えを本案とする仮処分によって、不動産引渡命令の執行停止の仮処分を求めることができます。
民訴法六八七条は、競落不動産を管理人に引き渡すべき旨の命令について規定しているだけであって、これを競落人に直接引き渡すべき旨の命令についてはなんら規定していませんが、競落人を合理的な範囲で保護し、不動産強制競売の機能の維持促進を図るため、判例は、つとに、民訴法六八七条一項の反対解釈と同条二項、三項の類推解釈によって競落人に直接引き渡すべき旨の命令を発することができるとし、学説もこれを是認しています。そして競売法三二条二項によって六八七条が準用されているので、この引渡命令は競売法による任意競売においても認められることになります。

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任意競売における不動産引渡命令に対する不服申立方法、特に被担保債権の不存在を理由とする債務者の不服申立方法について考えることが本問の課題なのですが、それは不動産引渡命令をいかなる性質のものと考えるかによって左右されざるをえません。
不動産引渡命令を執行官法一条にもとづく執行裁判所の職務命令であり強制競売手続の一環たる付随的執行処分であると解されるために、これに対する不服申立方法は執行方法に関する異議および理時抗告ということになります。判例は執行方法に関する異議についていわゆる折衷説をとるので、不動産引渡命令に対しても、それが相手方を審尋することなく発令された場合には、相手方はまず執行方法に関する異議を申し立て、その異議の裁判に対してはじめて即時抗告を申立てることができ、相手方の審尋または口頭弁論を経て発令された場合にかぎり直ちに即時抗告ができることになります。学説では、審尋の有無を問わず、つねに即時抗告をすべきものとするのが有力です。ところで、不動産引渡命令の相手方が執行方法に関する異議または即時抗告ができる事由は、不動産引渡命令の発令に際して判断すぺき事項の誤認およびその審理手続に存した違法であって、競売手続自体に存する暇疵は、競売手続中に許される他の不服申立方法、例えば競売手続開始決定に対する執行方法に関する異議、即時抗告、第三者異議の訴え競落期日における異議競落許可決定に対する即時抗告等によって主張するべきです。高松高決昭和三四年八月二二日は、不動産引渡命令に対する即時抗告の理由として、競売手続進行中における債務者の死亡、および目的不動産たる家屋の一部が第三者の所有地上にあるのに、競売手続がこれを示さずして結了したこと、を主張した事案につき、いずれも引渡命令に対し主張しえないとして、次のように判示しています。引渡命令に対する不服申立としての抗告においては、その理由としては、当該引渡命令手続における違法事由のみ主張することが許され、その前の競売手続における違法事由は、これを主張することは許されないものと解するのが相当です。かく解すべき理由につき考えるに、競売法又は民事訴訟法による不動産競売手続は、不動産の換価による金銭債権の満足を目的とし、したがってその終了時期は、競売代金の支払完了時ないしはその配当完了時であるというべきです。これに対し引渡命令手続は、競落人をして競落物件の占有を取得せしめることを目的としていること及び引渡命令は、競落代金支払完了後なされるべきことは、前記規定の趣旨から明らかであるため、引渡命令手続は、不動産競売手続とは、その目的および性質を異にする別個のものであるというべきです。そして不動産競売手続を違法又は不当ならしめる事由の存する場合には、競売法又は民事訴訟法は、その各場合に応じそれぞれ不服申立の方法を定めているのであるため、引渡命令に対する不服の理由を前記のように制限したからといって、利害関係人に対し救済の道を封じることにはならないのみならず、段階的に進行する民事の手続においては、これに関する不服の事由は、各段階ごとにこれを区別して制限することは、現行民事訴訟手続を貫く一つの原則です。
判旨は原則的に正当です。したがって、不動産引渡命令の発令に際し判断すべき事項の範囲について、競落許可決定の確定および代金支払いの有無については争いがなく、不動産引渡命令の相手方の範囲をめぐっては数説が対立してはいますが、どの説をとるにせよ、本問のように、被担保債権が当初から存在していなかったことをもって不動産引渡命令に対する正当な事由とすることはできないといわなげればなりません。
請求異議の訴えについて、請求異議の訴えは債務名義の執行方を排除するために認められている救済です。不動産引渡命令を債務者名義ではなく執行処分と解する以上、これに対し請求異議の訴えを認めることはできないことになります。
任意競売においては、不存在または無効な抵当権の実行がなされる場合がありえるし、強制競売においても、第三者所有の未登記不動産が競売される場合がないわけではないので、競落許可決定が確定したからといって競落人の所有権取得が確定するわけではありません。かかる場合には、競落人に対し所有権にもとづく通常の訴訟を提起することはできます。それでは、執行処分説をとった場合、本問の場合には、所有権にもとづく通常の訴訟は別として、当該不動産引渡命令に対してはこれを甘受するほかないとするべきでしょうか。大阪高決昭和三五年七月五日および福岡高判昭和四九年四月二四日は、抵当権の不存在あるいは無効を理由とする所有権確認等の通常訴訟を本案とし、不動産引渡命令の執行停止を求める仮処分を適法としています。執行処分説をとる学説は、これを肯定するものと、否定するものに分かれています。任意競売の実態に関する評価、特に不存在または無効な抵当権の実行の可能性と、それを肯定することによって増加すべき執行妨害の危険性を、どのように考えるかによって結論は左右されると思われますが、執行妨害増加の危険性は仮処分における判断によって防止することができないわけではなく、この救済の途を完全に閉ざしておくことが正しいと思われるほど、債務名義なき執行たる現行任意競売制度が十全のものとは思われません。債務名義にもとづく強制執行は明文の規定による執行停止命令で停止すべく、これを仮処分命令で停止することは許されないとするのが、判例通説ですが、不動産引渡命令を執行処分と解するかぎり、仮処分命令による停止を認めることは理論的にも許容されます。

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