不動産引渡命令の執行と第三者

不動産引渡命令の執行に対し、当該不動産の所有権を主張する第三者は、どのような方法で救済を求めることができるでしょうか。この場合、不動産引渡命令の相手方ではない第三者は、命令による執行力を排除するため、第三者異議の訴えを提起することができます。民訴法六八七条一項は、競落人は代金の全額を支払った後でないと不動産の引渡しを求めることはできない旨を規定するにとどまり、競落人のなすぺき引渡請求ないし執行の方法を直接には規定していません。しかし、民訴法による不動産強制競売または競売法による不動産任意競売において、競落人が競落代金の全額を支払ったのに、債務者が任意に競落不動産の引渡しをしないとき、競落人は債務者を相手として所有権にもとづき引渡しの訴えを提起し、引渡しの判決を得たうえで、それにもとづいて執行すべきものとすることは、きわめて迂遠であるのみならず、競落人の保護に欠け、必然的に競買希望者の減少と競買申出価額の低下を招来し、不動産競売の機能を著しく滅殺することとなります。そこで、判例は、つとに、民訴法六八七条一項の反対解釈と、同二項、三項の類推解釈によって、競落人は執行裁判所に対し競落不動産に対する債務者の占有を解き競落人にその不動産を引き渡させる旨の命令を発することを求めることを許し、その命令の執行として不動産の引渡しを求めることがでぎるものとしました。そして、このことはすでに数十年の実務の慣行となっています。

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不動産引渡命令が強制競売手続の一環たる付随的執行処分であるのか、それとも別の債務名義であるのかについては、判例と学説において顕著な対立がみられます。判例の主流は、これを執行官法一条にもとづく裁判所の職務命令であり、強制競売手続における付随的執行処分であるとし、最高裁もこの立場を踏襲しています。その理由としては、民訴法は原則として債務名義を作成する機関と債務名義にもとづく執行を所管する執行機関とを峻別するたてまえをとっているので、明文なくして執行機関たる競売裁判所が債務名義を作成しえないこと、執行機関の執行処分には不動産競売手続における賃貸借取調命令のような強制力のないものもありますが、民訴法六○六条の債権証書の取上執行や自動車競売手続における引渡命令のような強制力のある執行処分も法は認めていること、永年にわたる実務慣行においても、引渡命令は特定の執行官に宛ててこれに対し競落不動産に対する債務者の占有を解いて競落人に引き渡せという執行官に対する職務命令の形式でなされてきたし、その許否の判断も債務名義形成機関としてではなく、すぐれて執行機関として行なっていること、仮に債務名義であるとして請求異議の訴えを提起しうるとすると、民訴法五五九条一号、五六○条により準用される同法五四五条二項の原因に相当する異議原因の発生時点に関して疑問を生じること、などがあげられています。
これに対し、学説の多くは、不動産引渡命令は債務名義であるとしています。その理由として、不動産競売は金銭執行ですが、競落不動産の引渡執行はそうではなく、競売手続終了後に引渡命令を発することも可能であるため、内容上、別個独立の執行たる実質を有していること、債務名義にもとづがない執行は異例であり、原則としてこれを認めるべきでないのみならず、執行官に執行させなければならない関係上、執行力ある請求権の存在、内容、範囲を明示し執行当事者を確定した債務名義を与える意味は大きく、また、債務名義を前提として強制執行法上与えられている各種の救済、例えば請求異議の訴えや第三者異議の訴えを引渡しの執行をうける関係人に認めることが必要であること、引渡命令は抗告をもってのみ不服を申立うる裁判として債務名義たる性質を有していることなどが、その理由の大要です。
理論的には、あるいは立法論としては、債務名義として整備することが合理的であるかもしれません。しかし、それが不動産競売手続の蓋然的な一定の結果、つまり競落人の競落代金の支払い、債務者の引渡拒絶という事態に対応して形成さるべき債務名義であることをその形成手続に十分反映させ、前述の制度趣旨を充足するよう考慮しなければならず、それを執行処分とすることに対する懸念は、実務上の運用によってかなり除去しうると思われるので、判例がそれを執行処分としていることは必ずしも非難されるべきことではないと思われます。現行民訴法六八七条にもとづく引渡命令を競売手続の一環たる付随的執行処分と解することは、解釈論としては、むしろやむをえないのではないかと思われます。
元来執行は債務者の責任財産に対してだけなされるべきものであるため、執行の対象となっている財産が実体的には債務者に帰属していない場合、または、帰属していても債権者の執行を妨げる権利を第三者が有している場合には、その第三者に対しその財産に対する執行を排除する救済の途を与えておかなければなりません。第三者異議の訴えは、そのための法制度です。したがって、第三者異議の訴えを提起できる第三者とは、限定承認をした債務者の固有財産に対し執行された場合とか受託者の信託財産に対し執行された場合のように、執行債務者が第三者の立場にたつ例外の場合を除いては、執行当事者以外の第三者に限定され、執行債務者は第三者異議の訴えを提起することはできません。競落不動産の引渡命令に対する相手方の不服も、民訴法五四四条により執行方法に関する異議を申立て、その申立てが却下された場合には却下の裁判に対し五五八条により執行抗告を申し立てるべきであって、引渡命令に対し第三者異議の訴えを提起することは許されません。引渡命令に執行の相手方と表示されている者が自己に対して着手された引渡しの執行に対し、競売の基本たる担保権の不存在、したがって競落人が所有権を有せず同人の引渡請求権に対し所有者たる自己がその責任を負担しないことを理由に第三者異議の訴えを提起しうるとする見解がありますが正当ではありません。

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