処分禁止の仮処分

処分禁止の仮処分がなされている不動産について、強制競売または任意競売の申立てがあった場合、競売手続はどうするべきでしょうか。この場合、処分禁止の仮処分が先行的に存在しても、理論上は強制競売または任意競売手続の開始続行の妨げとなりませんが、運用上は、競売開始決定をし、その記入登記をした段階で手続をとどめておくのが妥当です。
処分禁止の仮処分とは、本案勝訴の際の執行を保全するため、係争物について相手方の処分を禁じる仮処分であり、不動産については、通例、相手方に目的物件の譲渡、賃貸、抵当権の設定その他一切の処分をしてはならない旨の不作為を命じますが、この仮処分が発せられると、その執行として、処分禁止の登記簿への記入が嘱託されます。この仮処分の効果について法律に明文の規定を欠く日本においては、種々の議論がなされていますが、本問は、このうち他の債権者のする強制執行手続との優劣という学説と判例が著しく対立する問題を取り扱うものです。

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処分禁止の仮処分によって禁じられる処分に強制執行が含まれるがどうかについて説が分かれます。債務者の任意処分のみであるとの説では、処分禁止の仮処分によって禁じられるのは、命令の字義どおり、債務者が任意にする処分行為だけであって、他の債権者が仮処分とは無関係に取得した債務名義にもとづく競売手続は、禁止の対象とならないとするもので、多くの学説の採る立場です。その理由として色々論ぜられますが、仮処分は、将来の強制執行の保全のためになされますが、日本の強制執行法は、平等主義に徹していて、いわゆる先着手優先主義をとっていないこと、仮処分の理由は、もっぱら債務者の行為に基づくものについて判断され、第三者が強制執行をするかどうかは判断の対象となっていないこと、仮処分が強制執行にも対抗できると解すると、疎明により簡易に命令を得た仮処分債権者に、証明によって確定した請求権にもとづく強割執行債権者より優位を認めることになり不当であること、仮処分債権者の多くは、物上請求権を有するため他の債権者よりの強制執行に対して第三者異議の訴えを主張できるし、また金銭債権に換えることができる請求権を有するため金銭債権者として満足を得ることができ、仮処分債権者の不利益もそれほど間題とする必要がないこと、他の債権者に対して優先的地位を欲する者は、順位保全のための仮登記仮処分を得ることができること等があげられます。
他の債権者の強制執行を含むとする説では処分禁止の仮処分の目的は、債務者の財産として処分されてしまうことを一般的に防止し、債権者の権利を保全するのにあるため、この禁止された処分のなかには、債務者の任意処分のみでなく、他の債権者からの強制執行をも含むとするもので、昭和初めからほぽ確立した判例となっている立場です。その理由は、日本の強制執行法の平等主義は、金銭執行相互間においては徹底していますが、非金銭執行については配当加入を認めず、いわゆる先着手優先主義がとられているのであるため、非金銭執行を保全するための仮処分に、その権利の終局的な満足を害する範囲で処分の効力を排除する意味の優先的地位を与えることは、その機能上も当然であること、仮処分債権者は、強制執行手続の進行を知らない場合が多く、第三者異議による救済にそれほどの期待ができないこと、仮登記仮処分の制度があっても、その要件は限定されているのみでなく、その手続は厳格に運用されているため、この制度とともに処分禁上の仮処分により債権者の保護をはかる必要があること等があげられます。この説によると、仮処分と強制執行との接触の問題が生じます。
処分禁止の仮処分に違反してなされた処分の効果については、かつてはつねに絶対的に無効であるとする見解もありましたが、仮処分が本案判決があるまでの仮定的な裁判であるのに、絶対的効力を認めると仮処分債務者や利害関係人に対して必要以上の儀牲を強いる結果となることから、処分禁止の仮処分の効果について必要最小限度の範囲にとどめるべぎであるとの見解が生じ、これに違反する処分行為も単に仮処分債権者に対抗できないだけで、その契約当事者間および対第三者関係では有効であるとする相対的効力説に判例が変更され、現在にいたっており、学説上異論をみないところです。絶対的効力説によるときは、処分禁止の仮処分中の不動産に対する強制執行ができないことは当然ですが、相対的効力説にたっても、仮処分と強制執行との関係については、仮処分の存在意義を認め、仮処分債権者に強制執行に対する異議権を認めるべきかどうかで説が分かれます。
処分禁止の仮処分が執行されている不動産については強制執行を開始することは許されず、この開始があったときは、仮処分債権者は執行方法の異議によってこれを阻止することができますが、異議を主張することなく強制執行が完了したときは、その競落人は、仮処分債権者にその権利を対抗することができるとする説。
処分禁止の仮処分が執行されている不動産について競売手続をすることができるが、この競売による目的不動産の所有権移転の効果は、仮処分債権者が異議を主張したと否とにかかわらず、これに対抗することができませんが、仮処分債権者は、強制執行手続に対し執行方法の異議あるいは第三者異議の訴えで阻止することができるとする説。
仮処分中の不動産について強制執行手続きをすることは許されるし、仮処分債権者は執行方法の異議を申し立てることはできませんが、将来仮処分債権者が本案訴訟で勝訴の確定判決を得たときは、この競売の結果を否認することができるとする説。
仮処分の効力は、仮処分債権者が本案訴訟で勝訴し、または勝訴と同視すべき場合にかぎって、仮処分違反の処分行為を無視することができると解すぺきであるため、本案の勝訴以前に仮処分債権者であることだけを理由に、執行方法の異議や第三者異議を認めることは困難です。もっとも登記名義を偽造書類によって奪われた不動産の所有者等何人に対しても所有権の登記なくして対抗できる者は、その実体上の権利にもとづいて第三者異議の訴えを提起できることは当然です。したがって、仮処分債権者は、本案の勝訴判決を得るか、和解調停によって本案勝訴と同視できる状態となったときは、その後にされた強制執行による競落人の所有権取得登記の抹消を求めることができることとなります。
実務では処分禁止の仮処分のある不動産に強制競売の申立てがあった場合には、競売開始決定をして競売申立記入の登記をした段階でとどめ、以後の手続を進めない取扱いがとられています。前述のように、競落人は仮処分債権者に対抗できない関係上、競落人の地位が覆る可能性があり、手続も無駄となるおそれがあることを配慮したものです。この取扱いについては、仮処分中の不動産について任意処分を認める以上譲渡方法の一つである強制換価についても別異に扱う必要はなく、仮処分債権者が本案で勝訴するかどうかわからないではないかとする批判もありますが、裁判所の関与する競売手続きにおいて競落人が所有権を取得することができるかどうか不確かなものを競売することは望ましいことではなく、また競売したとしても適正な競買申出価額が提示されることも期待できないことから、確かに仮処分の相対効の理論からすると問題はありますが、競売という司法運営の観点から、この取扱いは是認されるぺきものと考えられます。

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