差押えが競合したとき

 債権の差押手続において、民事執行法の施行により、従来の取扱いと特に変わったことの1つに、差押えの競合の生じたときの効果がある。その主なものは次のとおりである。
 先に差押え、仮差押えのなされた債権に対して、後からなされた転付命令は、その効力が認められない点は、民事執行法の取扱いも従来と変わりない。ただ、取立命令については、これまでの実務としては、先に他の債権者の差押えがあると、やはり取立権者の支払請求に応ぜず、差押えの競合があるとして供託していたが、判例では、その場合には、たとえ先の差押えがあっても取立命令をとった差押債権者に対する支払は有効と認められていた。これは、取立権者がその後競合する差押債権者に公平に分配する義務を負うことになるということで、これを認めたものと思われる。
 この点につき、民事執行法は、差押命令による取立権も現実に取立てを完了するまでに、その預金について差押えの競合が生ずると、銀行には預金を供託する義務が生ずるとしているので、取立権は行使できないことになる。
 執行供託については、従来から権利供託と義務供託の2種類が認められており、これは民事執行法でも同じである。
 ただ、権利供託は、従来は差押えの競合があったときに認められていたが、民事執行法では、1個の差押えのときにそれが認められることになり、その代わりに、差押えの競合が生じたときは、常に義務供託となった。もっとも、滞納処分による差押えの場合には、民事執行法による差押えと競合したときにのみ執行供託を認め、それも先に民事執行法による差押えがあり、次に滞納処分による差押えのあったときだけ義務供託で、他はすべて権利供託とされている。従来の義務供託は、差押えの競合があり、しかも差押債権者から供託請求のあったときに限られていたのであるから、大幅に取扱いが変わっている。
 権利供託は、第三債務者(銀行)の意思で、供託しようと思えば供託することもできるという制度であるから、銀行としてこの制度を利用する場合はあまりないであろうが、義務供託となると、銀行の意思にかかわらず常に供託せざるをえなくなる。
 すなわち、従来は差押えの競合があり、かつ差押債権者から供託請求のないかぎりこの義務が生じなかったのに対して、今後は競合さえ生ずれば銀行に供託義務が生ずることになった点は特に留意すべきである。

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 1個の差押債権(預金)について、2個以上の差押えがあり、その差押えが差押債権の一部についてのものであった場合、競合する債権の金額についての考え方が統一された。
 旧法の下では、たとえば100万円の1ロの定期預金に対し、30万円の甲の差押えと、80万円の乙の差押えが競合した場合、甲の差押え分20万円と、乙の差押え分70万円については差押えの競合は生せず(銀行は.それぞれ、甲に20万円、乙に70万円の支払をする義務が生ずる)、10万円だけ差押えの競合ありとして供託するという考え方にの考え方によれば、10万円は甲乙で2分し、結果的には甲25万円、乙75万円の支払が受けられることになる)と、その場合には、100万円全額について甲乙の差押えが競合したことになり、銀行は甲乙いずれにも支払うことができず、供託することになるという考え方があった。
 これについて従来は法文上に明確な規定がなく、一般には、前説(10万円だけ競合するという説)がとられていたが、民事執行法は、後説(100万円全額について競合するという説)によることを定めているので、差押えの競合があったときは、銀行はその預金の全額を供託しなければならない。
 以上の取扱いは、すべて民事執行法による差押えが2個以上競合した場合の取扱いである。しかし、滞納処分による差押えと民事執行法による差押えが競合した場合については、従来の「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律」にその定めがなく、明らかでなかった。しかしながら、民事執行法の施行に伴い、この法律の一部が改正され、その取扱いが定められた。
 この法律では、先に滞納処分による差押えがあったものについて民事執行法による差押え、仮差押えのあった場合と、先に民事執行法による差押えがあったものについて滞納処分による差押えがあった場合で、その取扱いが異なっている。
 その詳細については、原則としては次のとおりである。
 滞納処分による差押えが先行し、その後に民事執行法による差押えがあったときは、全額が権利供託となり、その事情届は先行の差押えをした徴収職員等へ提出する。
 民事執行法による差押え(仮差押えを除く)が先行し、その後に滞納処分による差押えがあったときは、全額が義務供託となり、その事情届は先行の差押えの執行裁判所へ提出する。ただし、民事執行法による差押え分と競合しない鏡先順位滞納処分による差押え分は除かれる。
 1個の債権(預金)に対して、2個以上の差押えがあると、差押えの競合を生じ、差押債権者に取立権が認められず、後の転付命令はその効力が生せず、しかも第三債務者に供託義務が生ずることはこれまで述べてきたとおりであるが、具体的には、その差押えが民事執行法による仮差押えや差押えか、あるいは滞納処分による差押えかにより、またそれらのうちいずれが先行しているかなどによって、差押えの効力などに違いがある。
 そこで、以下に予想される各組合せにより、その効果と実際上の取扱いを述べる。
 最先順位が似付命令である場合は、後の差押えはすべて効力なし・・・転付命令は、代物弁済的に差押債権者に預金債権が移転する効果を生ずるから、その後になされた従来の預金者を差押債務者とする差押え、仮差押えはもちろん、滞納処分による差押えも効力を生じない。ただし、この転付命令の送達前に他の債権者の申立てによる差押えなどがあると、転付命令の効力は生じないから、優先順位で転付命令が送達されたときに限られる。
 転付命令送達後、その確定までの間に仮差押えや差押えがあってもその転付命令が確定すれば、後の差押え等はすべて効力が生じない。ただ、差押債権(預金)の一部について転付命令があった後、重ねて仮差押えや差押えなどがあった場合には、転付金額を除いた分については、後の差押え等の効力が認められるのは当然であり、その場合には、転付命令との競合の問題は生じない。
 なお、転付命令に先立って仮差押えや差押えがあった場合でもそれが転付命令の転付債権者の申立てにかかるものであり、しかも請求債権を同じくするものであれば、転付命令の効力が生じるので、注意すべきである。
 差押えは1個の差押えでも、権利供託が認められているが、転付命令の確定後はこの権利供託は認められず、供託するとすれば民法の弁済供託の方法による以外にない。しかし、転付命令送達後その命令の確定前であれば、転付命令の効力はまだ発生していないので、権利供託が可能であるとされている。その場合は、事情届を執行裁判所にする必要がある。
 差押金額の合計額が預金残高以内のときは、差押えの競合を生じない・・・同一の預金に2個以上の差押えがあった場合でもその差押金額の合計額が預金の残高以内であるときには、いずれも前の差押命令により差押えを受けていない部分について差押えがあったものとして扱われることになるため、差押えの競合は生じていない。
 たとえば、100万円の預金に、まず甲が30万円差し押え、次に乙が40万円差し押えたとしても競合は生じない。それぞれ有効に取立権を取得することができる。
 ただし、その後他の差押えがあり、その合計額で預金残高を超えるときには、当初に遡って預金全額(100万円)について差押えの競合があったものとして取り扱われる。この取扱いは、滞納処分による差押えと競合するときについても原則として同じである。
 差押えの競合が生ずると、差押えの効力は原則として差押債権全額に及ぶ・・・債権の差押えは、請求債権の金額にかかわらず、差押債権(預金)の全額を差し押えることもできるが、請求債権相当額だけ差し押えることも可能である。
 たとえば、50万円の請求債権に基づいて、100万円の定期預金全額を差し押えることも、100万円のうち50万円だけ差し押えることもできる。それは差押命令の差押債権の表示によって明確になる。
 ただし、差押債権の一部の金額についての差押えでも、差押えの競合が生ずると、その差押えは全額を押えたことになる。
 このことは、滞納処分による差押えと民事執行法による差押えとが競合した場合も同じである。
 差押えの競合は、転付、供託、弁済、取立訴訟後には生じない・・・転付命令の送達後に、同一の預金に対し前の預金者を差押債務者とする差押えがあっても、転付命令が確定すれば、その効力が生じないことは前述のとおりである。そのほか、先行の差押えに基づき第三債務者(銀行)が差押債権者(税務署を含む)に預金の支払を完了した後、あるいは権利供託、義務供託により供託を完了した後、または差押債権者から銀行に取立訴訟が提起されてその訴状が銀行に送達された後には、その預金に対して重ねて差押えや交付要求があっても、差押えの競合は生じない。
 仮差押え後に仮差押えがあると、義務供託となる・・・民事執行法は、債権の仮差押えについても債権執行の規定を準用しているので、競合する差押えがともに仮差押えでも、形式的には第三債務者は供託義務を負うことになる。しかも、その重複する金額のいかんにかかわらず、差押えの効力は全額に及ぶので、仮差押えのあった預金口座全額について供託する必要がある。ただ、仮差押えには取立権がないので、権利供託とみるべきだとする説もある。
 なお、供託した場合は、事情届を前の執行裁判所に提出しなければならない。
 仮差押え後に差押えがあると、義務供託となり、取立権は生じない・・・仮差押えの後に、それと同一の請求債権により本差押えのあった場合は競合の問題は生じないが、他の債権による差押えがあると、差押えの競合となり、その預金全額について供託義務が生ずる。そのため、後の差押えについては取立権が認められないことになる。供託の事情届の提出先は本差押えの執行裁判所である。
 仮差押え後に転付命令があると、義務供託となり、転付命令の効力は生じない・・・この場合も、前記と同様に義務供託となり、転付命令の効力は生じないことになっている。供託した場合の事情届の提出先は本差押えの執行裁判所である。
 差押え後に仮差押えがあると、義務供託となり、取立権は行使できなくなる・・・この場合も、前記と同様に義務供託となり、先の差押えについて取立権が生じた後の仮差押えでも、その時点から取立権が失われることになる。供託した場合の事情届の提出先は本差押えの執行裁判所である。
 差押え後に配当要求があると、差押金額についてのみ義務供託となり取立権は行使できない・・・差押えがなされた後に、その差押えによる配当要求があった場合も、前記と同じように第三債務者は供託義務を負うことになる。ただし、先行の差押えが預金の一部についての差押えであったときは、後行が差押えまたは仮差押えである場合と異なり、差押金額についてのみ供託義務が生ずるのであって、預金全額の供託義務はない。供託の事情届の提出先は執行裁判所である。
 差押え後に差押えがあると、義務供託となり、ともに取立権が認められない・・・この場合は、前記と同様に義務供託となり、いずれの差押命令についてもその取立権は認められないことになる。供託の事情届の提出先は先行の執行裁判所である。
 差押え後に転付命令があると、義務供託となり転付命令の効力は生じない・・・転付命令が、前の差押債権者の同一請求債権に基づくものであれば、競合関係を生ぜず、転付命令の効力が生ずるが、他の請求債権による転付命令であると、先行の差押えについての取立権は消滅し、後行の転付命令も効力が生せず、しかも銀行に供託義務が生ずることになる。供託の事情届の提出先は先行の執行裁判所である。
 仮差押え後に滞納処分による差押えがあると、仮差押債権全額について権利供託となり、事情届は差押税務署に提出・・・国税徴収法は、「滞納処分は、仮差押えによりその執行を妨げられない」としているため、本来は仮差押えによっては滞納処分による差押えはなんら影響を受けないのであるが、滞調法において特にその場合第三債務者(銀行)に供託をする権利を認めている。したがって、民事執行法による差押えの競合は原則として義務供託となるのであるが、この場合は、権利供託になるのである。しかも、供託すべき金額は、預金の一部に対する仮差押えでも預金の全額について供託することになっている。
 供託をした場合の事情届は、差押税務署に提出する必要があるが、供託をしない場合において税務署から支払請求があったときは、仮差押えのあることを理由にして支払を拒むことはできない。
 差押えの後に滞納処分による差押えがあると、義務供託となり、ともに取立権は認められない・・・仮差押えではなく、すでに差押えがある場合に、その後滞納処分による差押えがあると、先行の差押えに基づく取立権が失われ、同時に滞納処分による差押えについても取立権が認められないことになる。そして、第三債務者(銀行)は、先の差押えが預金の一部についてのものであっても預金全額について供託義務を負うことになる。
 この場合の事情届は、先の差押えが民事執行法による差押えであるから、執行裁判所に対して行なう。

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