差押命令があったとき

 債権の差押えは、主に次の二つの効果を生ずる。その一つは、仮差押えと同じように銀行に対し預金者への払戻しを禁止し、預金者に対しては預金の払戻請求のほか質権設定、譲渡などの処分を禁止するという効果であり、他の一つは、差押債権者が預金者に代わって預金の払戻しを受ける権限を取得するという効果である。
 このうち弁済の禁止等の効果は、差押命令が第三債務者である銀行に送達されたことにより、ただちにその効力を生ずるが、取立権については、法はその効力発生時期を、特に執行停止などのない限り、差押命令が差押債務者に送達されてから1週間経過した時としており、しかも、差押債権者が現実に預金の払戻しを受けるまでの間に、他の債権者から競合する差押えがあったり、配当要求があったりすると、銀行に供託義務が生じてしまうので、それからでは取立権は行使できず、また銀行が法156条1項により権利供託した後も取立権を行使することはできないことになる。
 払戻禁止の効果については、仮差押命令の場合とだいたい同じである。

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 預金に対して差押命令が送達された場合の効果は、取立権の発生を別とすれば、だいたい仮差押えを受けた場合と同じであるので、銀行の実務上の処理も前記仮差押命令を受けたときの確認事項ならびに内部手続に準じて、次の確認と事務処理をすればよい。
 受付印の確認、預金の有無の確認、預金特定の確認、仮差押命令においては、請求債権を超えて、1口の預金の全額について仮差押えすることは生じないであろうが、差押命令の場合には、請求債権を超えて1口の預金の全額の差押えをすることもできるので、差押命令の記載が「請求債権に充つるまで」というようになっていない場合は、預金の一部差押えになるのか、全部の差押えになっているのかの確認をしておくことが大切になる。ただし、1口の預金について差押えの競合の生じたときは、たとえ預金の一部についての差押えでもその全額に差押えの効力が及ぶことになる。もっとも最先順位の差押えが滞納処分の差押えであった場合にその例外的取扱いが認められているから注意を要する。差押えの種類の確認、差押えの競合の確認、貸金・質権の有無の確認、催告書の確認、供託の要否の確認。
 以上の各確認をしたうえで、差押預金があれば、元帳への記載および差押預金者への連絡等の手続をとり、催告書がきている場合は、預金の有無にかかわらず、その陳述書を期限内に裁判所に提出する。
 差押命令は、特に取立命令を要せず差押債権者に差押債権の取立権が付与される。民事執行法施行前は、取立命令により取立権が付与されていたのに対し、現法により改正されたのである。
 ただこの取立権は、前述したように、差押命令が差押債務者(預金者)に送達されてから1週間を経過し、しかもそれまでに差押えの競合や執行停止などの事由が生じていない場合に、その効力が発生する。そのため、実務的には次の事項を確認したうえで、払戻しに応じるべきである。
 1週間経過の確認・・・取立権の発生は、差押命令が債務者に送達になってから1週間経過によって発生するものであるから、まずその確認を要する。一般には、銀行は、払戻請求をしてきた差押債権者に、差押債務者に対する荒押命令の送達を証明する書類の提示を求め、その証明書記載の送達年月日から起算して1週間経過していることを確認することとなる。
 差押えの効力の確認・・・差押えによる取立権は、差押えの効力が有効に生じているものでなければ発生しないのは当然である。そこで、差押債権者から支払請求のあったときは、ただちに前記差押え時の確認事項により、有効に差押えの効力が発生しているか再確認する。万一多少でも差押えの効力について疑義のある場合は、できるだけ差神債権者に事情を説明し、疑義の解消するまで支払の猶予を求めるべきである。その場合、事情によっては、銀行は差押債権者への支払という形でなく、供託することも考えるべきであろう。ただし、差押えが無効であれば権利供託も無効となるので、差押えの効力に疑問のあるとき、この権利供託の方法ではその責任を免れえないので、注意を要する。
 差押えの競合等のないことの確認・・・差押命令による取立権は、その差押え前に、その預金に他の債権者の申立てによる差押えがあったり、差押債権者が銀行に支払請求をしてくるまでの間に、他の債権者からその預金に重ねて差押えがなされていたり、あるいは配当要求があると、取立権の行使はできなくなるので、その事実の有無を確認する。差押えの競合を生じていたときは、供託(義務供託)の手続をとる必要が生ずるから、そのことを差押債権者に説明し支払請求を拒否する。
 そのほか、当該差押命令に対して執行停止決定や執行取消処分の送達のあった場合も取立権は認められないから、その点も念のため確認しておくべきであろう。なお、当該預金について銀行がすでに権利供託として供託済の場合も支払義務のないことは当然である。
 支払金額の確認・・・債権の差押えは、請求金額に関係なく、差押預金の当該・口座全額についてすることができる。しかし、たとえその金額を差し押えた場合でも取立権の行使ができるのは差押命令にある請求債権の金額と執行費用の合計額の範囲内であるから、その額を差押命令により確認する必要がある。
 預金者の事情の確認・・・差押命令は、差押債務者の意思にかかわりなくその効力を生ずるものであるから、そのつど預金者の了解を得ることなく意思に反しても支払をすることができるものである。しかし、できるだけ将来のトラブルを防止する意味で、その差押えは何を原因とするものか、預金者の事情もあらかじめ知っておき、銀行がそのトラブルにまき込まれないように注意しておくべき場合もある。
 差押債権者の確認・・・差押債権者の申出により、差押預金の払戻手続をとることにした場合は、その申出人が差押債権者自身であるか、あるいはそれが代理人である場合は代理権の有無、代理人本人の確認をし、誤りなく差押債権者に支払われるものであることを確かめて、その申出に応ずべきである。
 以上により確認手続を完了し、現実に差押債権者に支払をするときは、差押債権者に次の書類の提出を求める。
 差押命令、送達証明書、印鑑証明書、資格証明、委任状、(弁護士など代理人が来店した場合)、受取証。
 以上の書類を権認したうえで、差押債権者あて記名式の預手により、その支払をする。その場合には、差押債権者への支払の事実を預金元票に記入するとともに、差押えに関する記録簿があるときは、それにも記入して手続を完了することになる。
 なお、差押債権者またはその代理人の預金口座への振込は、それが本人の預金口座であることを確認できた場合以外は、仮の口座であることもあるから、避けるべきである。

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