仮差押命令があったとき

 仮差押えには、第三債務者についてはその弁済が禁止される効力があり、差押債務者についてはその弁済請求をする権利が認められなくなるとともに、その債権の譲渡、質入れ、免除などのいっさいの処分が禁じられる効力を生ずる。ただし、これらの効力は、その差押えの効力の存続するかぎり、第三者に対しても絶対的効力が認められ、仮差押え後の債権譲渡や質権の設定は、その差押手続においては存在しなかったものとして効力が否定されるが、その後この仮差押命令が取下げや取消決定により効力を失うと、譲渡、質入れなどの効力は有効なものとして認められることになる。
 上記のほか、仮差押えの副次的効果として、競合する差押命令や転付命令について、取立権の行使を禁止し、転付命令の効力が発生しないという効果も生ずる。また、差押えの競合した場合には、仮差押債権者は配当要求をした者としてその権利か認められる効果もある。なお、この仮差押えは国税滞納処分による執行を妨げることができないが、仮差押えの効力が否定されるものではない。
 仮差押えは、仮差押命令が第三債務者である銀行に送達されたとき、その効力を生ずる。仮差押債務者へも命令は送達されるが、それは効力の発生要件とはなっていない。
 その意味から、銀行実務でも預金に対して仮差押命令が送達された場合は、その日時を後目のため明確にしておく必要がある。

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 預金に対して仮差押命令が送達された場合は、実務的には次の事項について確認しておく必要がある。
 仮差押命令の効力は、前述のとおりその命令が銀行に送達された時点で生ずるものであるから、この命令を受領したときは、ただちに受領年月日はもちろん、できるだけその時刻まで明確にしておくべきである。
 その方法としては、受信簿等にそれを記載しておくこともよいが、当該命令書または封筒に受付年月日印を押捺し、時間まで付記しておくことをすすめる。
 仮差押命令を受領してもそれに該当する預金がなければ、銀行としてなんらの影響を受けないのであるから、命令とともになされた催告書があれば、それに回答するくらいで、特になんら手続をとる必要はない。
 そのために、まずその預金の有無を確認することが必要である。しかも、該当する預金があれば、ただちにその預金について払戻しを禁止する処置をとる必要があるから、この確認手続は一刻の猶予も許されない。
 その場合、差押預金の表示が必ずしも差押命令において正確に記載され、かつ具体的になされているとはかぎらないから、多少疑義があっても該当する可能性のある預金があれば、それも含めてその確認をすべきである。
 該当すると思われる預金があった場合は、次にその差押命令の差押債権の表示が、当該預金の差押えとして、債権の特定が法的に有効になされているかを確認する。
 この確認は、前述のとおり、差押債権の表示だけをみて特定の有無を判断することはできるものでなく、その表示によって銀行としてどの口座の預金がそれに該当するか、具体的にかつ正確に判断することができるかということであるから、その意味において確認することが必要である。
 しかもその判断にあたっては、差押預金の表示に多少の相違があってもそれが客観的に特定の預金を表示していると認められれば、その差押えは有効であると認められる可能性もあるので、その点も念頭において判断する必要がある。
 仮差押えの対象となった預金があることを確認した場合は、次にその仮差押債権者や請求債権の内容の確認をするとともに、どのような種類の仮差押えか、命令書によって確認する。
 特に仮差押命令が、破産・更生手続等の保全処分としてなされたものであると、その預金者に対して法的整理手続の申立てがあったことになるから、銀行としても以後その取引先に対ずる預貸金全般の取扱いについても特別の配慮が必要になる。
 民事執行法による仮差押えの場合は、念のため差押債権者と請求債権を確認する程度となろうが、その内容も知っておくほうがよい。
 同一の1個の預金に対して、2個以上の差押え、仮差押えがなされると、それは差押えの競合となり、銀行は原則として預金者にはもちろん、どの差押債権者にも払い戻すことはできず、供託する義務が生ずるので、競合の有無を確認することが大切である。
 仮差押えのなされた預金の預金者に対し、該当銀行に貸出金があると、その預金は相殺の対象となるものであり、またその預金に質権が設定されていると、これも質権の被担保債権の回収資源となるものであるから、たとえ差押えがあっても差押債権者に支払うわけにはいかない。また、質権の設定されている分について、差押えがあったためこれを供託したとしても、その供託をもって質権者に対抗できないため、供託もすることはできない。
 その意味から、差押預金についての相殺の必要性、質権についての対抗要件の有無を念のため確認しておくことが大切になる。
 仮差押えや差押えの申請と同時に、申請人が別途差押債権の有無等に関する第三債務者の陳述を求めるよう裁判所に申請すると、裁判所は差押命令と同時に銀行に陳述の催告をすることになっている。
 この催告は、差押命令とともに必ずなされるものとはかぎらないが、催告があったのに銀行が故意または過失により回答をしなかったり、誤った回答をすると、銀行はそれによって生じた損害を賠債しなければならないから、その催告の有無はそのつど確認する必要がある。
 預金について仮差押え、差押えがあった場合でも、従来は差押えの競合のないかぎり、銀行は供託することができず、差押えの競合があっても特に競合債権者の1人から供託請求のあるまで、銀行は供託義務はないことになっていたが、民事執行法では、差押えの競合が生ずれば、その口座の預金全額を供託する義務が生じ、単発の差押えでも、第三債務者は自主的に供託することにより、差押債権者への支払を免れることができることになった。そこで、競合の生じたときは、なんらの判断をすることなく供託を要するが、単発の(仮)差押えについては、自主的に供託するか、供託せず差押債権者からの支払請求を特って支払うかを判断しておく必要がある。
 もっとも、銀行としては特に差押債権者と差押債務者間の紛争にまき込まれたくない等の特段の事債のないかぎり、自主的に供託をする必要性は、あまりないであろう。
 預金に対する仮差押命令の送達を受けたときは、受付印等前述の各確認手続をとるとともに、銀行は、内部処理として、次のような手続をとる必要がある。
 仮差押えは、以後その預金は、預金者への払戻しが禁止され、その後の差押えによって差押えの競合を生ずることになるから、誤って払戻しなどをしないよう、当該預金口座の元帳へ仮差押えのあった旨注記しておくべきである。元帳の記載をコンピュータ処理している銀行においては、預金の減少を生ずる払戻し、自動支払、自動振替等の行為が中止されるよう、(仮)差押えのあった旨のインプットが必要である。
 なお、普通預金、当座預金などの要求払預金は、(仮)差押えがなされても預金取引は終了するものでないから、その後も同一口座による預金の受入れ、払戻しは可能である。その場合の差押えの効力は、差押命令送連詩の残高についてのみ及び、その後の預入分には及ばない。その結果、同一口座において差押えの効力の及んでいる分と及ばない分か混在することになり、管理が複雑となる。
 このような場合には、実務的には預金契約を解約し、そのような現象の生じないようにするか、そのまま取引を継続するのであれば、(仮)差押えの効力の及んでいる金額を念のため一時別段預金に移して管理するのも一つの方法である。
 また、単発の差押え、仮差押えであれば、元帳への記載さえしておけば、差押預金の管理には特別の配慮は必要でないが、差押えの競合などが生ずると、その管理が複雑になることもあるので、差押預金管理票などを作成して、それに基づいて管理することとしている銀行もある。
 仮差押えの効力は、第三債務者への送達により生じ、債務者へも送達されるが、その送達の有無には関係ない。
 しかも債務者への送達は、第三債務者である銀行への送達より2〜3日遅れてなされるので、銀行としては、念のため、ただちに預金者に仮差押命令のあった旨電話などにより通知しておくのが預金者へのサービスであろう。
 特に、普通預金、当座預金のような日常の運用資金について差押えがあった場合は、ただちにその預金者の運転資金に影響が生じてくることが考えられるので、この連絡は忘れないようにすべきである。
 なお、当該預金者に貸金があるとか、その預金に質権が設定されているような場合には、貸付担当者や質権者にも連絡はしておくべきであろう。
 仮差押命令とともに銀行に差押預金の存否などについての陳述を求める催告書が送達された場合は、送達の日から2週間以内にその陳述書を、裁判所に提出する義務が生ずる。この義務に違反して、銀行が故意または過失により、その陳述を怠り、あるいは誤った陳述をした場合には、それによって生じた損害については、銀行がその賠償責任を負うことになる。具体的に賠償責任の生ずるのは、預金なしと陳述したため仮差押えの解除をしたところ、実際にはその預金があり払い戻されたとか、預金ありと陳述したため転付命令などをとるための訴訟手続をとったところ、預金がなかったというような場合に生ずるものである。
 もっとも、この陳述によって存在しない預金が存在していたことになったり、存在していた預金が消滅したり、相殺予定の陳述をしていなかったため相親権が失われるといった実体上の効力が生ずるものではないといえようが、それによる損害については賠償責任を負うことになるから、陳述は慎重にしなければならない。

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