差押えの預金債権の特定

 預金に差押えがあったとき、銀行としてまず判断を要するのは、その差押命令が有効かどうかという点である。その場合、裁判所からの正式の差押命令であることさえ確認すれば、銀行としてその命令が申請手続などにおいて瑕疵なく発せられたものであるか否かということは判断する必要はなく、またその判断は不可能であろう。
 問題になるのは、預金債権の特定が有効になされているかどうかということである。差押えの申請は、動産の場合は目的物を特定して申請する必要はないが、不動産や債権の差押えの場合は何を差し押えるのか目的物を特定して申請しなければならないことになっている。不動産であれば登記簿の謄本により容易に特定できるのであろうが、債権の差押えとなると、差押債権者が差押債務者のもっている預金の種類や金額、口座番号まで知っていることはまずありえないであろうから、それを差押申請のとき特定しろというのは、本来無理がある。そこで、銀行実務でもよくこの特定の有無が問題となるのである。そのうちでも従来からよく争いの生ずるのは、主に次の三つの点である。

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 差押えするからには、第三債務者である銀行名を特定することにより、預金取扱銀行の特定はできるであろうが、現実には預金はそれぞれ取扱店があり、その取扱店が特定していないと、どの預金について差押えがあったのか特定するのが困難である。
 そのため、一般には預金を差し押える場合には、差押債権の表示として預金の取扱店を明らかにし、そのうえでその取扱店を送達場所にして差押命令がなされている。しかし、それが差押命令の効力要件となるものでないため、次のようなことが問題になる。
 (1) 取扱店でなく本店へ送達された場合。
 (2) 取扱店以外の営業店へ送達された場合。
 (3) 取扱店以外の銀行を送達場所とされていた場合。
 (1)、(2)の場合、預金債務は取扱店のみの負担する預金債務でなく、一法人であるその銀行の預金債務であるから、その差押命令が当該取扱店に送達されなくとも、その銀行に送達されれば、差押えとしては有効である。ただし、その送達が取扱店以外の店舗になされると、銀行として取扱店を調査し、その店舗に差押えの事実を通知するのに相当の時日を要するため、その間に銀行が差押えの事実を知らず、被差押預金の払戻しをしてしまうことが生じる。しかしその払戻し自体は、一種の債権の準占有者に対する弁済の効力が認められるか、差押えの効力の発生時を取扱店で知った時とみることにより、いずれにしても有効と認められよう。
 その点、(3)の場合または(1)、(2)の場合で取扱店の表示自体に誤りがあったという場合、差押えの効力が問題になる。判例には、支店の預金を銀行名のみを表示してなした差押えで、それが本店に送達になったものを有効としたものや、銀行名の表示が送達された銀行名になっていなかったものも有効とし、更正決定を認めたものなどがあるが、その誤りが他の表示などにより明らかである場合は、差押えは有効なものといえよう。
 預金の特定のためには、住所・氏名によりその預金者が誰であるか特定する必要のあることは当然であり、その住所・氏名の表示に多少の誤りがあってもそれがその預金者を特定するものであることが明らかな場合には、差押えは有効である。
 そこで問題となるのは、通称名義、架空名義または他人名義の預金、あるいは無記名の預金について、それを差押債務者の預金として差し押えてきた場合である。預金名義は、預金口座を特定させる効果と預金債権者を示す効果とがあるので、明らかに架空名義や無記名の場合には、口座の特定だけの意味しか生じないことになる。
 しかし、差押えは、その預金の返還請求権をもつ音を差押債務者とする差押えでなければ効力を生じないため、差押命令に表示され特定された預金口座が明確になったとしてもその預金の真実の預全音が差押債務者でないとなると、差押えの効力は生じない。
 子の名義の預金を税務署長が父親の預金と認め「何某こと何某」として差押えてきた場合につき、銀行でその認定に誤りないものと認め支払ったことに対し、差押えの効力を否定し、銀行に二重払いの責任があるとされた判例もある。その意味から、真実の預金者の認定、特に通称名義・他人名義の預金について注意が必要であり、架空名義、無記名については口座が特定できても、預金者の認定ができるまで、差押債権者はもちろん預金者からの払戻請求にも応ずべきでない。当事者間において本訴で争ってもらうべきであろう。
 差押債務者の預金口座が1個しかないときは、特に預金の種類が表示と異なる場合など、明らかに口座が違っている場合以外は、預金残高に関係なく、特定については特に問題は生じない。問題の生ずるのは、数日の預金口座があって、どの預金を差し押えたのか明確でない場合である。
 一般の差押債権者は、その債務者がどんな種類の預金を何日、どのくらい預金しているか知ることは困難だといえよう。そこで最近は、「債務者が第三債務者に対して有する定期預金・定期積金・普通預金・当座預金・別段預金の払戻請求権について、この記載の順序に従い、同種のものについては預入日の古いものから、同日の場合は金額の多いもの、同額の場合は口座番号の若いものから、順に頭書の金額に満つるまで」というような表示をして、その特定をしているようである。
 いずれにして払銀行として、どの預金口座に差押えがあったか判断できない場合は、差押えは無効といわざるをえないであろう。なお、判例でもこの特定なしとして無効とされたものが多くあるので注意を要する。

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