預金の被差押え

 民事執行法の制定により、銀行実務にただちに影響することは、預金について差押えのあったとき、銀行としての処理がどのように変わるのかという点である。
 その場合、銀行員としてまず留意すべきことは、それらの差押えの法的効力を正確に把握しておくことである。単に差押えといっても各種の差押えがあり、その根拠法によって効力などに多少の相違がある。
 預金などの指名債権に対する差押えまたは差押えに類する効果の生ずる命令は、民事執行法によるものと国税滞納処分としてなされるものなどに分けることができる。しかもそれらは、保全手続のみを目的とするものや、本差押え、差押え後の取立手続を目的とするもの、他の差押手続に参加することだけを目的とするものなどに分けることができる。

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 私債権の取立てを目的とし、強制執行手続による差押えのことである。この民事執行法による債権の差押えには、次の三つの種類がある。
 本差押え(債権執行)・・・一般にいわれる差押えのことであり、この差押命令が銀行に送達されたことにより、預金者への払戻禁止等の効力を生ずるとともに、差押命令が預金者に送達された日から1週間経過すると、差押えの競合などのないかぎり、差押債権者に取立権が生ずることになる。従来は、差押命令だけでは差押債権者には取立権は認められず、取立命令があってはじめて取立権が与えられていたものである。
 仮差押え・・・私債権の取立てのためにする債権執行の申立てをするためには、その債権について債務名義のあることが要件となっている。しかし、そのための手続(訴訟)をとるのには相当の期間を要し、その間に、差し押えようとする債権(債務者が第三債務者に対して有する債権  のことで、一般には枝差押債権または単に差押債権という)が弁済などにより消滅する危険がある。仮差押えは、その危険を予防するため、本差押え前に仮に払戻しなどの禁止をしておく手続のことであり、仮差押命令が銀行に送達されることによって効力を生ずる。
 担保権実行としての差押え・・・差押えは、質権・先取特権などの担保権実行の方法としてもなされる。一般には銀行預金に対する質権は、質権者が銀行に質権の成立と対抗要件を証する書面を提示して、預金の払戻請求をする方法によってその実行がなされている。しかし、請求を受けた銀行で預金者の同意書がとれないとか、被担保債権の弁済期、額について確認できない等の理由で、その払戻請求に応じないときは、質権者は民事執行法の債権執行の手続に準ずる方法により、銀行に支払請求をすることができる。手続としては、原則として本差押えと同じであるが、効力としては質権実行には優先弁済権が認められているので、多少相違するので注意を要する。
 次に、本差押えあるいは担保権実行として差押えをした預金について、差押債権者が現実に差押債権によって回収する方法として、次の各種の方法がある。
 取立権の行使・・・差押えの効力は、差押命令が銀行に送達になればただちに生ずるが、差押命令が債務者に送達されてから1週間経過すると、特に取立命令をとる必要なく、当然に取立権が発生する。
 転付命令・・・差押債権者は、差押命令の申請と同時に、または差押命令の後に、裁判所に転付命令の申請をすることが認められている。この転付命令の効力は、それが銀行に送達された時の状態で、転付命令が確定することを条件に効力が生ずる。転付命令の確定とは、その命令に対して1週間の執行抗告期間内に抗告がなかったことなどにより、異議の申立てのできない状態になることであり、転付命令の効力とは、代物弁済的に差押債権が荒押債権者に移転することである。ただ、差押えの競合となるときは、転付命令の効力は生じないことになっている。
 譲渡命令、売却命令、管理命令・・・債権の差押えについては、差押命令による取立権を行使したり、または転付命令により第三債務者(銀行)から直接差押債権の払戻しを受け、請求債権の回収をするというのが一般の方法であるが、そのほかに特に差押債権が条件付債権であったり期限来到来の債権などの理由でただちに第三債務者から弁済を受けることができないときは、差押債権者は裁判所に譲渡命令または売却命令あるいは管理命令を申請することができることになっている。
 このうち譲渡命令とは、差押債権をその表面金額(券面額)でなく、裁判所の定めた価額で差押債権者に譲渡することにより、代物弁済とする命令であり、また売却命令とは、差押債権を第三者に売却し、その売却代金で請求債権の弁済に充当する命令であり、さらに管理命令とは、差押債権の管理を裁判所の選任した管理人に委託し、その債権から生ずる利息などの収益から差押債権者が弁済を受けるという命令である。
 しかし、銀行預金については実益がないので、ほとんどこのような命令のなされる例はないと考えられる。
 国税の滞納処分としてなされる差押え、ならびに地方税や社会保険料などの滞納処分として国税滞納処分の例によってなされる差押えについても、次の三つの種類がある。
 差押え・・・預金に対する滞納処分による差押えは、その差押通知書が第三債務者である銀行に送達されることにより効力を生じ、民事執行法による差押えと違い、効力の発生と同時に取立権も認められることになる。ただし、転付命令の制度はない。
 参加差押え・・・参加差押えとは、すでに他の滞納処分による差押えがなされている物件について、交付要求に代えて重ねて滞納処分による差押えをすることである。ただ、預金などの債権については参加差押えは認められていない。
 保全差押え・・・保全差押えとは、民事執行法の仮差押えに類似するもので、国税の脱税その他の不正に納税義務を免れようとする者、またはそのおそれのある者に対して、納税額の確定前にあらかじめ差押えをしておく差押えであり、きわめて悪質の脱税があるようなときなされるもので、その例は非常に少ないようである。この差押えは、預金の払戻しを禁止するだけで、税額が確定するまでは取立権が認められないので、それまで預金は税務署に支払う必要はない。
 差押えは、1個の債権(預金)に対しては、1人の債権者しか差押命令ができないというものではない。ときに1個の預金について前記の民事執行法に基づく各種の差押えや、国税徴収法等による各種の差押えが数個重複してなされることがあるほか、前の差押手続に参加して、その差押債権からの支払を要求してくることがある。その主なものとしては次のようなものがある。
 配当要求・・・すでに第三者の申立てによる差押えがあった預金について、その預金が差押債権者に支払われる前、または預金が供託される前、あるいは差押債権者の取立訴訟の訴状が銀行に送達される前に、その預金に重ねて差押えや配当要求の申立てがあると、それらの者のため預金の払戻禁止の効力が生じてくる。もっとも、配当要求のできる者は、差押えをしていないかぎり、債務名義か先取特権をもつ債権者に限られている。
 交付要求・・・配当要求は、民事執行法による差押えについて認められているもので、国税等の滞納処分による差押えについて、他の滞納税金などで配当に加入しようとする手続に、前述の参加差押えのほか交付要求という制度がある。ただ、この制度は、滞納税金などによるものであって、滞納処分の差押えに対しては、私債権者は、交付要求はもちろん配当要求もできず、重ねて差押えをするか差押えの残余金の返還請求権に対して差押えする以外にないことになろう。
 その他の差押え・・・上記の民事執行法の規定による仮差押え、差押え、あるいは滞納処分としてなされる差押えなどの手続のほかに、特殊な仮差押命令がある。それは、破産手続や更生手続において保全処分の一つの方法としてなされる仮差押えである。一般に保全処分というと、裁判所が倒産した債務者に旧情の弁済を禁止するとか、財産の処分などを禁止するという命令のことをいうが、この命令は債務者が債務者名義の預金の払戻しを受けることまで禁止していない。そこで、債務者を信用できない場合には、その預金の払戻しを受けることまで禁止する必要が生ずる。この場合になす保全処分が預金の仮差押命令でこれも銀行に送達されるが、これは民事執行法の仮差押えではない。その効力も破産宣告や更生手続の開始決定のあるまで払戻しを禁止しているもので、破産宣告などがあると、管財人に支払うことは可能となり、しかも差押えの競合があって仏後の差押えはそれによってその効力を失うことになるのが普通である。
 この仮差押命令は、事件番号が異なるとともに、命令書に請求債権の表示がないから、その点注意すれば一般の仮差押えとはすぐ区別できる。

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