抵当権者の保全手続き

 民事執行法において配当要求制度に、配当要求の終期を早めたこと、債務名義を有しない債権者の配当要求を認めないとしたことの改正を行ない、また担保権実行としての不動産競売にも配当要求のできることを明定した。
 執行裁判所は、強制競売または担保権実行としての不動産競売の開始決定をした場合においては、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して配当要求の終期を定めるとともに、開始決定された旨および配当要求の終期を公告し、かつ、抵当権者らに、その債権の存否ならびにその原因および額を配当要求の終期までに執行裁判所に届け出るべき催告をなし、また催告の相手方、差押えの登記前に登記された仮差押債権者、同様の担保権を有する債権者および租税公課所管の官庁公署等には、その債権の額によって無剰余取消しを生ずるなどの関係から、債権届出について債権者らの競売手続への協力義務を課することとされている。催告にしたがって届出をした後に変更を生じた場合も同様としている。配当要求の終期までに配当要求をしていない債権者は配当にはあずかれない。差押えの登記前に登記を経た債権者には消除主義を採用しているので配当要求をする必要はないが、債権届出の義務の存在には変わりはないので実務上留意を要する。

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 債権届出の催告を受けた債権者には、その義務に違反したときは、実体上の損害賠償義務が課せられている。すなわち、届出をすべき債権者が故意または過失によってその届出をしなかったとき、または不実の届出をしたときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる、と定められている。このことは、被担保債権が弁済済みであるのにその旨届出しなかったため無剰余取消しによって競売手続が取り消されたことによって生ずる費用相当分の損害とか、取り消されたのち再度の申立ての間に目的物件が他に譲渡されたため執行不能となったことによる損害などは、届出をかった担保権者が賠償の義務を負うことになるものと解される。
 したがって、的確な債権の把握によって正確な債権を定められた時期に届け出るべきことに注意しなければならない。なお、根抵当権にあっては根抵当権の確定に着意することが肝要である。
 抵当権の設定してある物件が他債権者により差押えされても、差押えの登記前に登記された有効な抵当権を有し、かつその差押手続によって競売が断行されるかぎりにおいては、格別抵当権実行による競売手続を要しない。
 前の競売手続がなにかの理由で取り下げられたり、取り消されたり、あるいは手続の進行が停止されたりすることかあるが、抵当権者としても売却処分を必要とする状況下にあっては、理由のいかんを問わず手続が停止することは債権管理上に不利益を生ずるわけである。また、借主や担保提供者の一般的な観念からして、返済の財源はどうしても強硬な競売措置にでた債権者に流れるのが通例であり、抵当権者としては競売申立債権者の回収に後れることともなりがちである。
 これらの適切な総合判断のもとに、要すれば二重の差押えを行ない二重の開始決定を受けておくことが、債権保全上大いに功を奏することになろう。すなわち、停止した競売手続は抵当権実行による競売によって続行が可能となり、前の競売が取り消されてもそのまま手続が進められるからである。
 この二重の差押えおよび二重の開始決定は、旧法下では単に記録添付としての取扱いにとどめられていたのが、現法において二重の開始決定と差押えの宣言およびこれに伴う差押えの登記も重ねて行なわれることに改正されたところである。ただし、換価のための手続の二重の進行は行なわれず、差押えの登記の嘱託まででとどめられることは当然である。
 なお、取下げ等による手続の続行について、性質上手続の一部やり直しが行なわれることのあることに留意しておくことも必要である。すなわち、前の差押えと後の競売手続の間に用益権が設定されていた場合には、前の手続がなくなったことによりその用益権が引受けとなったり、またその逆のケースも考えられ、当然売却条件や最低売却価額の改訂の必要が生じよう。
 抵当権者として売却物件の最低売却価額は、債権の満足に関係する最大の関心事である。現法においては、執行官・評価人らの権限強化による不動産の現況および権利関係の確認方法等が改善されたことによって、ひいては最低売却価額も旧法下におけるものに比して適正妥当な価額となるはずである。また、現法では従来のように売却期日に買受申出人がなくとも原則として価額の低減を予定されておらず、変更を必要と判断したときに限って執行裁判所が変更することができると定められている。この最低売却価額の決定および変更は手続中重要な地位を占めているので、現況調査書、評価、物件明細書等の閲覧把握により、また売却方法の適否などの判断により、不服のある場合には執行異議の申立てによってそれらの是正に努めることもまた債権保全上必要な事項と考える。
 現法は、一括売却に関する規定によって弾力化し、差押債権者や債務者を異にする場合でも一括売却を可能としているので、必要な場合は債務者(所有者)の同意を得るなどして、この方法をフルに活用して有利な競売ひいては債権の保全に役立てることに努めるべきである。

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