仮処分手続き

 通常、不動産に対する引渡しまたは明渡請求権を保全するために、目的物件の占有状態の変動を阻止する目的でなされる仮処分で、係争物に関する仮処分に属する。目的物件の占有状態を、仮処分執行時の状態で本執行の時まで維持しようとする目的でなされ、債務者の占有を解いて、執行官保管を命ずる方法によるのが一般的である。
 わが国の民事訴訟法は、本案判決の口頭弁論終結後の承継については判決の既判力および執行力が拡張されることを認めているが、判決の既判力および執行力が訴訟提起後の承継人に及ぶという当事者恒定の原則を採用していない。したがって、目的物件の占有状態に変動があると、あらためてその第三者を相手方にして新訴を提起するか、または民事訴訟法74条等により第三者に訴訟を承継させて、債務名義を得るようにしなければならないことになる。
 そこで、この仮処分を執行することにより、その後の占有関係の変動の有無を問わず目的物件の占有状態を固定し、仮処分後の当事者恒定の効果をはたすことになる。

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 占有移転禁止の仮処分は、引渡しないし明渡請求権に基づく執行を保全するためになされるから、その被保全権利は、引渡しないし明渡請求権である。引渡しないし明渡請求権が、物権的請求権か債権的請求権であるかを問わない。
 実例として多いのは、所有権に基づく土地・建物の明渡・引渡請求権、賃貸借契約終了に基づく土地・建物の引渡・明渡請求権、売買契約に基づく土地・建物の引渡・明渡請求権等である。
 占有状態の変更により権利の実行が不能または著しく困難になるおそれがあることである。
 本案の管轄裁判所、急迫な場合は係争物の所在地の管轄地方裁判所である。
 執行官は、目的物につき債務者の占有を解き、自ら保管するが、その仮処分がどのような効力を有するかについては問題がある。すなわち、仮処分執行後にその目的物が第三者によって侵奪された場合にどう扱うべきかということであるが、実務的には、すでにした仮処分執行をもって十分に目的を違しており、その後の侵奪は本執行にあたって考慮すればよく、執行官は、仮処分違反を理由として第三者を排除することはできず、仮処分債権者は、必要があればあらためてその引渡し等の断行の仮処分を求めることを要するとすることに統一されつつある。
 もともと、占有移転禁止の仮処分の主要な目的は、係争物の占有主体を恒定することにあり、本執行にあたり第三者の占有を排除できればよいのであって、本執行前に、現実に第三者を排除しておくまでの昌要はない。したがって、この執行官が債務者の占有を奪い自ら保管することは、それによって占盲者を恒定するための手続にすぎず、この手続がなされた以上、目的物の占有者は本執行に至るまで恒定したと観念され、以後仮処分債権者は、仮処分債務者に対する債務名義を取得し、本執行の段階において、占有者が異なれば、債務名義取得後に占有移転があった場合と同様、当該債務名義につき当該占有者に対する承継執行文の付与を受けて強制執行すればよいことになる。
 また、現状変更禁止の仮処分のなされた場合において、仮処分の目的物件の現状を増・改築したりして客観的に変更したときは、仮処分により課せられた不作為義務違反として、法171条、民法414条3項に基づき、授権決定を得て原状回復をはかることになる。
 処分禁止の仮処分は所有権者またはその他の権利者からその処分権能を剥奪することを目的とする係争物に関する仮処分である。しかし、剥奪といっても、権利者からその処分権能を絶対的に奪うものではなぐ単に仮処分債権者に対してのみ、しかも仮処分債権者の権利を侵害する限度において無効とするもので、相対的に奪うにすぎない。この仮処分は、特定物に関する給付を目的とする請求権を保全するために発せられる仮処分で、特定物が不動産など登記可能な権利のときは、処分禁止が登記簿に記入される。
 特定物に関する請求権であることを要するが、物権的請求権であるか債権的請求権であるかを問わない。実例として多いのは、所有権に基づく登記請求権、売買契約に基づく登記請求権、抵当権に基づく登記請求権等である。
 現状の変更によって、権利の実現が不能または著しく困難になるおそれがあることである。債務者が譲渡、抵当権等の担保設定等の処分をするおそれかおることがその理由となる。
 管轄裁判所は本案の管轄裁判所、急迫な場合は係争物の所在地の管轄地方裁判所である。
 仮処分の効力は仮処分に違反した処分行為を相対的に無効ならしめる。仮処分債権者に対する関係において無効となり、仮処分権利者の権利を侵害する限度で無効となる。登記・登録を対抗要件とする特定物にあっては、仮処分の登記・登録がなされるから、仮処分債権者は、仮処分執行後に処分がなされてもこれを無視し、仮処分債務者を相手として本案訴訟を提起し勝訴判決を得れば、勝訴判決に基づく登記手続を申請すると同時に、仮処分登記後の登記権利者に対して、承継執行文を要しないで抹消登記を申請することが認められている。
 仮登記も原則的には仮登記権利者および仮登記義務者の共同申請に基づいてなされるが、仮登記義務者が共同申請に協力を拒んだり、仮登記権利者のなす単独申請のための承諾を拒絶している場合には、仮登記権利者は、判決を得た後単独で仮登記を申請することもできるが、簡易な手続として不動産登記法が認めている手続が仮登記仮処分である。
 すなわち、仮登記権利者は、目的不動産を管轄する地方裁判所に対し、仮登記の仮処分命令を発すべきことを申請し、仮登記原因の疎明があるときは、裁判所は仮処分命令を発することを要するとされている。そして仮登記権利者は、仮処分命令の正本を添付して、単独で仮登記を申請することができる。
 この手続を仮登記仮処分と呼び、民事訴訟法上の処分禁止の仮処分と区別している。
 仮登記には順位保全の効力があるので、仮登記に基づいて本登記がなされると、仮登記後本登記前になされた所有権者の処分は、本登記内容と抵触する範囲において効力を失うか、後順位のものとなる。ただし、その処分の登記を抹消するためには、その登記権利者の承諾を必要とする。
 民事訴訟法上の仮処分は、目的不動産について当事者間に争いの存在することを必要とし、本案訴訟が予定されているのに対し、仮登記仮処分は、仮登記権利者が仮登記義務者の承諾・協力なしに単独で仮登記をする登記手続上の手段として認められるもので、性質上は非訟事件の一種として扱われている。民事訴訟法上の処分禁止の仮処分は、債務者の不動産に対する処分権を制限する裁判であるのに対し、仮登記仮処分は、登記義務者の承諾にかわる裁判で、登記順位を保全するためのものである。
 不服の申立ては仮登記仮処分の場合には、申請の却下に対して非訟事件手続法の準用で即時抗告ができるが、申請を認めて見せられた仮処分命令に対しては、抗告できず、仮登記の抹消登記手続請求の本訴を提起して抹消を求める方法しかない。他方、民事訴訟法の仮処分の場合には、仮処分申請却下の決定に対して通常抗告ができ、申請を認めて発せられた仮処分決定に対しては、その決定をした裁判所に対して異議を申し立てることができる。
 仮登記仮処分の場合には、保証金は不要であるのに対し、民事訴訟法上の仮処分の場合には、労働事件による仮処分、交通事故による損害賠償請求を本案とする生活費の仮払いを命ずる仮処分等の例外を除けば、保証金の供託が必要とされている。
 民事訴訟法上の不動産に対する処分禁止の仮処分の場合には、裁判所書記官は、登記簿に仮処分命令を記入するため嘱託登記する。実務上は、嘱託登記申請書を書記官が作成して登記所に郵送するか、債権者に持参させる方法をとっている。一方、仮登記仮処分の場合には、執行という概念がなく、仮登記権利者が仮処分命令の正本を添付して仮登記の申請をすることになる。

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