動産に対する差押の実施

 執行官は、原則として事件を受理した順序にしたがって処理しているから、動産執行を申し立てた当日ただちに差押えを実施してもらうことは、通常、期待できない。執行の日時は早くても原則として申立ての翌日とされているのが実情である。
 執行の日時について特に希望がない場合は、執行官は申立てがあった日から1週間以内の日に執行を開始する日をすみやかに定めて、申立てに際し通知を要しない旨を申し出ていないかぎり、申立人に通知するものとされている。
 動産執行においては、執行官は差押債権者のためにその債権および執行費用の弁済を受領することができるとされている。
 したがって、執行官は、執行の場所で債務者に出会ったときなどに、債務者から任意の履行を受けることができる。

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 債務者の占有する動産の差押えをする場合、執行官は、差押えのために債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入ることができ、その場所でまたは債務者の占有する金庫その他の容器について、目的物を捜索できるし、そのために必要があるときは、閉鎖された戸や金庫などを開くこともできる。
 戸や金庫などを開く場合、施錠を破壊してさしつかえないが、できるかぎり債務者に損害を与えない方法を選ぶべきであるとされているから、債権者としてはあらかじめ錠前業者などを手配しておくと効果的な差押えができることがある。
 なお、執行官は債務者の懐中を捜索できないが、債務者が財布、時計、指輪等を所持することが明白な場合には、これを差し出させて差し押えることができる。
 執行官の住居への立入りや捜索に対し、債務者などが抵抗するときは、執行官は抵抗を排除するために威力を用いたり警察上の援助を求めることができる。
 執行官が住居に立ち入って捜索、差押えをする際、債務者などの住居主、その代理人、その同居の親族もしくは従業員で相当のわきまえのある者が不在のとき、ならびに執行官が抵抗を排除するため威力を用いたり警察上の援助を受けるときは、証人として適格性のある者1名を立ち会わさなければならない。このような場合にそなえて、債権者としては、立会人を執行の場所に同行しておくにこしたことはない。
 債務者が共稼ぎなどで不在がちのため、住居に立ち入って差押えをするには、早朝か夜間あるいは日曜休日でないとできない場合は、執行裁判所の許可を要する。休日・夜間執行の必要性は執行官が判断し、執行官が執行裁判所の許可を受けるのであるが、債権者としては、その必要性を執行官に説明して執行官の職権の発動を促すようにすべきである。
 執行官は、原則として所属の地方裁判所の管轄区域内においてその職務を行なう。しかし、執行官は、同一の債務者に対して同一の機会に差し押えようとする数個の動産の所在する場所が所属の地方裁判所の管轄区域の内外にまたがっているときは、管轄区域外にある動産についても差押えをすることができる。
 執行官は、差し押えるべき動産の選択にあたっては、債権者の利益を害しないかぎり、債務者の利益を者慮しなければならないとされている。したがって、執行官は、金銭または換価の容易なものあるいは債務者の日常生活に打撃を与えないものから差し押える。どのようなものを差し押えるかは、執行官の判断により選択され、執行官は債権者や債務者の意向に拘束されない。
 しかし、執行官は差押物の選択について債権者の意見を参酌し、相当の理由があるときは、これを尊重するのが適当であるとされている。そこで、債権者としては、執行に立ち会い、差し押えて効果かおるものから、執行官に差し押えてもらうよう試みるべきである。すなわち、国・公・社債券、上場会社の株券などの有価証券のように換価性の高いもの、貴金属、宝石、美術品、銃砲刀剣類のような高価なもの、債務者にとって利用価値あるいは主観的価値が高く任意弁済を促す効果があるものを差し押えてもらうように配慮すべきである。また、債務者の営業のための商品や事業のための製品や原材料は、差押えを受けると、その物の価格以上の営業・事業上の損失をこうむることがあるので、債務者に任意弁済を促す効果がある。
 なお、執行官は、超過差押えを禁止されているので、差押物を評価しながら差押えを行なう。差押物の評価は、執行官の自由な判祈によるが、債務者その他関係人の意見を聞いて判断の参考にされることもあるので、債権者としても適切な評価がなされているか注意すべきである。
 差押えは、執行官が差し押えるべき動産の占有を自己に移すことによって行なうのであるから、差押物は執行官が引き続き自ら現実に占有して保管することが原則である。しかし、実務においては、執行官による保管は金銭、有価証券、貴金属、宝石などの運搬が容易で高価なものに限られ、家財道具、営業用品などの債務者が日常使用するものその他の場合は、ほとんど債務者に保管させる方法がとられている。そこで、本法においても債務者に保管させ、さらに使用も許されている。ただし、債務者が差押物を占有していない場合には、保管は認められていない。
 すなわち、執行官は、相当と認めるときは、差押物に対し封印その他の方法で差押えの表示を施すとともに、差押物の処分、差押えの表示の損壊その他の行為に対する法律上の制裁を告げることにより、差押物を債務者、差押債権者または第三者に保管させることができ、その場合に相当と認めるときは、差押えの表示にその旨を明示することにより、それらの者に差押物の使用を許すこともできる。ただし、規則104条1項により、債権者または第三者が保管する場合には、差押物の使用は認められない。そして、執行官が必要と認めたときは、保管させた差押物を取り上げて自ら保管し、または差押物の使用の許可を取り消すことができる。なお、保管場所について執行官が特に必要があると認めるときは、管轄区域外で保管させることができる。
 執行官が債務者等に保管させ使用を許可する場合の「相当であると認めるとき」とは、債務者らに保管させあるいは使用させても、価値の減少が著しくないとき、あるいは差押えを逸脱する危険性のないときなどで、従来の取扱いと変わりはないであろう。
 執行官が債務者等の保管を取り上げ使用許可を取り消す場合の「必要があると認めるとき」とは、保管方法が悪いとき、差押物を処分される危険が高くなったとき、あるいは売却のため必要があるときなどである。
 債務者、債権者または第三者が差押物を保管する場合は、差押物について封印その他の方法で差押えの表示をしたときにかぎり、差押えの効力がある。ただし、規則104条1項により、債権者または第三者が保管する場合は、差押えの効力には影響しない。
 差押えの表示は、差押物件封印票による封印もしくは差押物件標目票の貼付、またはこれらの方法によることが困難な場合にあっては、その他の方法により、その物が差押物である旨、差押えの年月日ならびに執行官の職および氏名を表示しなければならない。
 差押えの表示を欠くと差押えは無効であるから、債権者としても確認を怠ってはならない。
 なお、差押えの後、差押えの表示が損壊されたり脱落しても、差押えの効力には影響がない。
 執行官は、債務者、差押債権者または第三者に差押物を保管させた場合において、差挿債権者または債務者の申出があるときその他必要があると認めるときは、差押物の保管の状況を点検することができる。債権者としては、差押物の保管状況が不適当であるとか、紛失したようであるという情報を得たとき、あるいは保管期間が長期にわたるときは、すみやかに点検の申出をすべきである。
 執行官は、差押物の点検をしたときは、差押物の不足または損傷の有無および程度ならびに不足または損傷した差押物について執行官がとった措置を記載した点検調書を作成し、かつ、差押物に不足または損傷があるときは、保管者でない差押債権者および債務者に対し、その旨を通知しなければならない。
 執行官の差押えにより、差押物について次の効力を生ずる。
 差押えがあると、債務者は差押物の処分収益権能を失い、処分をしても執行手続上は無視される。ただし、債務者に保管をまかされ、使用を許可された場合は、通常の用法にしたがって使用できる。
 なお、差押物にに対する債務者の処分行為は絶対的に無効ではなく、差押えが取り消されたときは有効となる。
 差押えによって、差押物の占有は執行官に帰属する。差押えの表示を施して債務者等に保管させた場合でも、その占有は執行官に移る。ただし、差押物に対する債務者の私法上の占有は、差押えによって消滅しない。
 差押物を純然たる第三者が占有するに至ったときは、その事由のいかんを問わず、差押債権者がその事実を知った日から1週間以内に執行裁判所に申し立てると、執行裁判所は、その第三者に対し差押物を執行官に引き渡すべき旨を命じ、この引渡命令により執行官は差押物の取戻しができる。
 この引渡命令申立ての裁判に対しては、執行抗告ができるが、実体上の異議は主張できない。また、この引渡命令は相手方に送達される前であっても執行することができるが、申立人に告知された日から2週間を経過すると執行することができない。
 この命令は、差押物を善意取得した第三者に対しても発せられて執行される。その場合には、第三者はいったん執行官に引き渡したうえで、第三者異議の訴えを提起して、その取消しを求めるほかはない。
 債務者または第三者に保管させていた差押物が、差押えをした執行官の管轄区域外に移された場合は、執行官は管轄区域外において、その債務者または第三者からこれを取り戻すことができる。この場合、執行官は、債務者ならびに法124条によって保管する債権者および第三者からは強制的に取り戻すことが可能であるが、規則104条1項による保管については任意の返還を請求するほかはないと解されている。
 差押えの効力は、差押物から生ずる天然の産出物に及ぶ。
 請求債権について時効中断の効力を生ずる。ただし、差押えが取り消されたときは、このかぎりではない。
 執行官は、すでに差し押えられた動産および仮差押えの執行のなされた動産を、さらに差し押えることができない。このように二重差押えは禁止されているが、二重執行の申立てがあるときは、執行官は事件を併合し、この事件の併合により、後の申立ては配当要求の効力を生ずる。
 すでに差押えを受けている債務者に対し、その差押えを行なった場所についてさらに動産執行の申立てがあったときは、執行官は、まだ差し押えていない動産があればこれを差し押え、差し押えるべき動産がなければその旨を明らかにして、その動産執行事件と先の動産執行事件とを併合しなければならない。すでに仮差押えの執行を受けた債務者に対し、その執行の場所についてさらに動産執行の申立てがあったときも、同様としている。このようにしても事件が併合されたときは、執行官は、差押債権者、仮差押債権者および債務者に対し、その旨を通知する。配当要求債権者に対しては、通知を要しない。
 2個の動産執行事件が併合されたときは、後の事件で差し押えられた動産は、併合の時に、先の事件で差し押えられたものとみなされ、後の事件の申立ては、配当要求の効力を生ずる。そして、先の事件について申立ての取下げ、執行の停止または執行処分の取消しがあったときは、先の事件で差し押えられた動産は、併合の時に、後の事件のために差し押えられたものとみなされる。
 先の仮差押執行事件と後の動産執行事件が併合されたときは、仮差押執行事件で差し押えられた動産は、併合の時に、動産執行事件で差し押えられたものとみなされ、仮差押執行事件の申立ては、配当要求の効力を生ずる。そして、動産執行について申立ての取下げまたは執行処分の取消しがあったときは、動産執行事件で差し押えられた動産は、併合の時に、仮差押執行事件で差し押えられたものとみなされる。
 債権者が質権者の任意提出した動産について動産執行をした後、その質権者がそのうちの質物についてのみ動産競売の申立てをした場合は、その質物についてのみ併合の規定が準用される。その逆の場合も、質物についてのみ事件の併合がある。
 動産執行と一般先取特権者との関係では、すべて併合の規定が準用される。
 差し押えるべき動産がすでに仮処分の目的となっている場合、その動産の差押えについて債務者が保管するときはその承諾を要しないで、第三者が保管するときはその承諾を得て、仮処分の効力を害しない限度で事件の併合に準じて差押えを執行できる。しかし、競合する仮処分と動産執行の効力の優劣は、執行の前後によって決まるとされているから、後の動産執行は実効性が薄い。
 動産執行と滞納処分との競合は、「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律」の規定によって処理される。
 執行官は、滞納処分による差押えがされている動産に対し、差押書を徴収職員等に交付することによって差し押えることができる。差押えの効力は、執行官の差押書が徴収職員等に送達された時に生ずる。
 後の動産執行による売却手続は。滞納処分による差押えが解除された後でなければできない。
 滞納処分でその財産を換価した場合、滞納者(債務者)に交付すべき残余が生じたときは、徴収職員等は、その残余金を執行官へ交付する。執行官が交付を受けた残余金は、強制執行による売得金とみなされる。
 差押債権者は、滞納処分による差押手続が進行しない場合、執行裁判所に強制執行続行の決定を申請できる。「滞納処分手続が進行しない場合」の要件については、滞納法に詳細に規定されているが、通常は「相当期間内に換価がされない場合において、すみやかに換価すべきことを徴収職員等に催告したのにかかわらず、その催告の効果がないとき」になされる。
 執行裁判所は、強制執行続行の申請があったときは、徴収職員等の意見を聞き、かつ、債務者を審尋して、相当と認めるときは、強制執行を続行する旨の決定をしなければならない。この決定は、徴収職員等に告知することによって効力を生じ、不服申立てはできない。
 強制執行続行の決定があったときは、滞納処分による差押えは、強制執行による差押え後にされたものとみなされ、徴税職員は滞納処分による差押えの解除の場合に準じ、その動産を執行官に引き渡さなければならない。
 なお、その徴収職員等は、その差押えにかかる租税または公課を徴収するには、執行官にその交付要求をしなければならない。差押先着手による租税優先の規定は、この交付要求があった場合についても適用がある。
 徴収職員等は、強制執行による差押えがされている動産に対し、差押書および交付要求書を執行官に交付することによって、これを差し押えることができる。差押えの効力は、差押書および交付要求書が執行官に到達したときに生ずる。
 後の滞納処分による差押えをした動産の換価手続は、強制執行による差押えの解除後でないとできない。
 徴収職員等が、滞納処分による差押えを解除するときは、差押解除書を執行官に交付し、この交付があったときに差押えは解除されたことになる。
 後の滞納処分による差押えをした徴収職員等は、その財産に対する強制執行が中止または停止されたときは、執行裁判所に滞納処分続行承認の決定を請求できる。
 執行裁判所は、滞納処分続行承認の決定の請求があった場合、相当と認めるときは、滞納処分の続行を承認する旨の決定をしなければならない。この決定は、執行官に告知することによってその効力を生じ、不服申立てはできない。
 滞納処分続行承認の決定があったときは、強制執行による差押えは、滞納処分による差押え後にされたものとみなされ、執行官は強制執行による差押えの解除の場合に準じ、その動産を徴収職員に引き渡さなければならない。
 強制執行が先行した場合は、滞納処分による差押えは交付要求も兼ねているから、徴収職員等はそれによって配当を受けられる。
 滞納処分の続行承認の決定により滞納処分で換価した場合、滞納者(債務者)に交付すべき残余が生じたときは、徴収職員等は、その残余金を執行官に交付する。執行官が交付を受けた残余金は、強制執行による売得金とみなされる。

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