動産に対する強制執行の申立

 動産執行の執行機関は、執行官である。そこで、動産執行の申立ては、差し押えるべき動産の所在地を管轄する地方裁判所に所属している執行官に対し債権者が書面によって申し立てなければならない。
 動産執行の申立書には、債権者および債務者ならびに代理人の表示、債務名義の表示、強制執行の目的とする財産の表示および求める強制執行の方法、金銭の支払を命ずる債務名義にかかる請求権の一部について強制執行を求めるときは、その旨およびその範囲、差し押えるべき動産が所在する場所を記載し、執行力ある債務名義の正本を添付しなければならない。

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 申立書には、債権者および代理人の住所・氏名・郵便番号、債務者の住所・氏名・郵便番号、執行の目的が差押えであること、先行執行処分の有無、債務名義の表示、請求金額、執行の場所、執行の場所の略図、執行立会の希望の有無、執行日時の希望、差押物の債務者保管の諾否、執行調書勝本の交付請求、同時送達の申立ての有無などについて記載する。
 ここでは、中立書の記載事項のうち、動産執行に特有の問題をとりあげて説明する。
 債務者の肩書は、職業、屋号などを記載するが、差押禁止動産の判定資料ともなるめで具体的に記入する。
 執行官の行なう手続については、代理人の資格について制限は設けられていない。しかも、動産執行の申立ては執行裁判所でする手続ではないから、弁護士など民事訴訟法79条1項の規定により訴訟代理人となることができる者以外の者でも、裁判所の許可を受けなくても代理人となることができる。したがって、債権者の従業員が、債権者の代理人となることもさしつかえない。
 執行の目的たる動産を特定する必要はない。差し押えるべき動産の選択は執行官が行なうからである。
 執行官は、債務者の財産の所在場所を調査する義務はないとされている。したがって、動産執行の申立てにあたっては、あらかじめ債務者所有の動産がどこにあるか調査し、申立書において執行の場所を指定しなければならない。通常、差し押えるべき動産の所在する土地、建物の地番等によりあらわす取扱いになっている。 なお、「執行の場所の略図」の作成・記載にあたっては、実地調査をして確認するよう心がけるべきである。
 債権者は、執行に立ち会い、債務者に任意弁済を促したり、示談解決のきっかけを得たり、執行官に差し押える動産の選択について希望をのべたりして、債権回収を試みるべきである。立ち会う場合は、執行の日時、待合せ場所などについて、あらかじめ執行官と打合せをする必要がある。
 なお、住居に立ち入って執行する場合には、債務者が不在がちであるとか、執行を妨害するおそれがあるときは、立会人を1人手配しておく。
 強制執行は、債務名義が、あらかじめまたは同時に債務者に送達されていなければ開始されない。ところが、債務名義が執行証言の場合には、債務者に事前に送達されていないことが多く、送達されていないときは同時送達の申立てをする。
 執行力のある債務名義の正本、送達証明書、債権者あるいは債務者が法人の場合は資格証明書、代理人により申立てをする場合は委任状、債務名義に記載された住所と現住所が異なる場合は、任所変更を証明するため住民票あるいは法人登記簿謄本を添付する。
 債権者は、最高裁判所の規則で定める、執行官に対する手数料および職務の執行に要する費用の概算額を、執行官の所属する地方裁判所に予納しなければならない。この概算額の予納をしないときは、執行官によって執行申立てが却下されるので、注意を要する。
 差し押えるべき債務者の財産の捜索費用、差押えにあたって事実上執行官を補助したり、立会人となる者を依頼する費用、代理人に支払う費用などを準備しなければならない。
 これらの費用は、執行費用ではないから、債務者に負担させることはできない。
 動産執行は、執行官が目的物に対する差押えをしたときに開始されるが、差押えの方法は、債務者の占有する動産、あるいは債権者または提出を拒まない第三者の占有する動産について、執行官が占有して行なう。
 債務者が占有している動産については、執行官が債務者の占有にあると認定した動産についての占有を債務者から奪い、執行官みずからがその占有をすることによって差押えが行なわれる。
 差押えは、債務者の所有する財産に対してすることが原則であるが、動産執行においては、その動産が債務者の所有に属するかどうか実体法上の判断を加えることなく、その動産の占有を標準として差し押える。
 ここでいう占有とは、外形上の物の支配すなわち所持のことであり、自己のためにする意思は必要でなく、また間接占有は動産執行上の占有ではない。執行官は、債務者または第三者から、差押目的物が第三者の所有に属する旨の申出やその証拠資料の提出があっても、その物が外形上あるいは所在場所の状況その他から、もしくは強力な証拠資料の提示を受けることにより何びとにもただちに第三者の所有であることが明白に認識できるとき以外は、外形的状況を基準として差し押えるものとされている。
 建物のなかにある動産は、通常その建物の使用者の占有に属するとみてよい。住居の場合は世帯主の占有が、工場・事務所・営業所の場合は事業主の占有が認められよう。その場合、住居の表札の名義や営業所の事業者名の表示などが一つの目安とされる。
 夫が世帯主の場合、住居のなかにある動産は夫の所持にあると考えられるが、その占有の外観自体から妻や他の家族の所持と認められるものもある。家族全員の生活に利用されている物、たとえば、台所用品、洗濯機、冷暖房器具、ラジオ、テレビ、洋服ダンスなどは世帯主の所持に属するものと認められる。ところが、妻が専用する女物の衣服、鏡台、化粧品、ミシンなどは妻の所持に属するか否か、子供用の自転車、玩具、衣服などが子供の所持に属するか否かの判断は、実務の取扱いもまちまちである。しかし、占有の外観自体から妻や他の家族の財産であることが明らかな場合には、差押えはなされないものと考えてよい。
 なお、同一建物内に居住していても、間借入など独立の世帯を営んでいる者、あるいは下宿人や独立の部屋を与えられている使用人などがいる場合に、通常、その部屋にある動産の占有は、部屋を使用する者にある。
 営業所などの場合も営業上単に表示上の名義人にすぎず、他に事実上の営業者のあることが明らかであることもあり、各個の場合について判断を要する。また、同一建物を共同で使用している場合は、その建物内の動産は共同使用者との共同占有の関係にあり、債務者の所有物であっても、動産執行の対象とはならない。そのような場合には、債務者の共同占有者に対するその物の返還請求権を差し押える方法によらなければならない。
 住居、営業所などのなかにある動産が、外形上あるいは所在場所の状況、もしくは強力な証拠資料などから第三者の所有物であることが明白に認識できるとき、たとえば隣家の留守中配達され預かっている荷札付きの郵便小包、クリーニング業者の客からの預り品、倉庫業者の保管貨物、債務者の店に設置してある自動販売機・ジュークボックス、賃借中のゼロックス・コンピュータなどの差押えは避けるべきである。
 執行官が占有の判断を誤って他人の占有を侵害したときは、その者は執行異議をもって、またその所有者は第三者異議の訴えによって、執行の排除を求めることができる。
 なお、何びとにもただちに第三者の所有物であることが明白に認識できるとき、債務者の占有にあるからといって、債務者その他の者が第三者の所有物であると主張しているのを無視して、差し押えて売却した場合は、その所有者に対する不法行為を構成することがある。
 債権者が占有している動産については、債権者が執行官に対し任意に提出し、執行官が占有することによって差押えが行なわれる。
 債権者が債務者から賃借している動産、あるいは寄託を受けている動産は、債権者がそれらの動産を執行官に提出して差し押えることができる。
 債権者が質権、留置権の目的として債務者の動産を占有しているときは、債権者がその権利の実行として動産競売を求める場合には動産競売の手続によるべきであるが、執行力ある債務名義の正本に基づいて動産執行の申立てをする場合には、動産執行の手続による。
 債権者が譲渡担保物件あるいは所有権留保付で債務者に売り渡した物を占有しているときは、動産執行によってそれらの物から債権回収をはかるには、債権者は所有権を放棄して差押えを求めるよりほかはない。
 債務者の所有物を第三者が占有する場合は、第三者が任意に提出して差押えを承認したときに限り、動産執行ができる。
 第三者が担保の目的とする動産以外の動産の差押えは、第三者が提出を拒まなければ問題なく差押えできる。しかし、第三者が機械器具などを債務者から賃借して営業を営んでいる場合などは、差押えを拒むであろう。このような場合には、動産執行の方法はとれないから、債務者の第三者に対する賃料債権について債権執行をするのが適切であろう。
 第三者が債務者に対して質権を有しているときは、差押えを承認した場合でも、その第三者は配当要求をすることにより優先弁済を受けることができるので、債権回収の実効があがらないこともある。
 第三者が提出を拒むときは、債権者は債務者が第三者に対して有する引渡請求権を差し押え、執行官に執行してもらう。それでも第三者が引き渡さないときは、債権者は引渡訴訟を提起してその勝訴判決により執行官への引渡しの強制執行をすることになる。
 第三者が提出を拒んだ動産に対し、差押えがなされたときは、第三者は執行異議を申し立て、あるいは要件を具備するときは占有権を根拠として第三者異議の訴えによって差押えを排除できる。
 動産執行の対象である動産であっても差押禁止動産とされている物があるほか、差押えの実施にあたっては超過差押えの禁止の原則および無剰余差押えの禁止の原則があるなど、動産執行においては種々の理由から差押えを制限されることがある。
 債務者の最低生活の保障、生業の維持、精神的生活の安寧の保障、社会保障制度の維持などの理由から差押えを禁止される動産がある。
 本法で規定する差押禁止動産は、次のとおりである。
 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具、「債務者等」とは「債務者及びその者と生計を一にする配偶者その他の親族」とほぼ同範囲である。「生活に欠くことができない」ものであるかどうかは、その地域における生活環境や債務者の経済生活によって異なるが、生活水準の向上に伴い広く解釈される方向にある。
 しかし、衣服といっても、1年を通じての普段着および職業上必要とする作業衣・背広などを除いた衣服は差し押えてもよいし、寝具も来客用のものや和室内のベッドなどは差押えは許されよう。家具もテレビ、応接セット、タンス等はもちろん、台所用具も電子レンジ、冷蔵庫などは差押えが可能である。
 債務者等の生活に必要な2月間の食料および燃料。
 標準的な世帯の1月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭。
 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜およびその飼料ならびに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物「農業に欠くことのできない」ものであるかどうかは、債務者の農業経営上の規模および態様、ほかにこれに代わるべき農具があるかどうか、ならびにその地方の通常の農業経営の状況など諸般の事情により具体的事案ごとに判断することになろう。しかし、もみすり機、脱穀機は、小規複数業者にとっては農業上不可欠の物とは考えられないから差押えが許されるとした判例がある。
 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕または養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさおよび稚魚その他これに類する水産物。
 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的または肉体的な労働により職業または営業に従事する者のその業務に欠くことができない器具その他の物「その他の職業又は営業に従事する者」とは、生計を一にする親族以外の他人の労働または物的施設に主として依存することなく業務に従事している者、たとえば猟師、零細な事業主、弁護士、僧侶、画家、著述家、プロ野球選手などをいう。これらの者が独立して営業を営む場合であると、他人に雇われている場合であるとを問わない。しかし、多数の職人を使用して機械を運転しもしくは機械器具等の利用を主とし、自己の労力は従たる関係にあるような性質の営業に従事する者は、該当しない。
 「その業務に欠くことができない器具その他の物」とは、大工の大工道具一式、屋台店の什器一式、画家の絵画用具などである。
 実印その他の印で職業または生活に欠くことができないもの。
 仏像、位牌その他礼拝または祭祀に直接供するため欠くことができない物。
 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿およびこれらに類する書類。
 債務者またはその親族が受けた勲章その他の名誉を喪章する物。
 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類および器具「学習」とは、義務教育に限らず高等学校、大学等における学習を含むが、一般の教養または余技としての学習は含まない。
 発明または著作にかかる物で、まだ公表していないもの。
 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物。
 建物その他の工作物について、災害の防止または保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械または器具、避難器具その他の備品。
 本法に規定する動産以外の動産であっても次に掲げる動産は、特別法の立法目的に照らして、それぞれ特別法の規定により差押えが禁止されている。
 公的な保護、援護等として支給された金品、たとえば、生活扶助、教育扶助その他の生活保護法による保護として給付を受けた金品などがある。
 その他の差押禁止動産では各種の財団を構成する個々の財産、信託財産。ただし、信託前の原囚によって生じた権利または信託事務の処理につき生じた権利に基づいて執行する場合を除く。
 本法で規定する差押禁止動産は、旧法とは異なり、債務者の同意があっても差し押えることができない。しかし、現法では、申立てにより執行裁判所が債務者および債権者の生活状況その他の事情を考慮して、差押えの全部もしくは一部を取り消したり、差押禁止物の差押えを許したりすることができることとした。また、事情の変更があったときは、申立てにより執行裁判所は差押えが取り消された動産の差押えを許し、または許した差押禁止物の差押えの全部もしくは一部の取消しを命ずることができる。そして、執行裁判所のこれらの申立てに対する却下決定および差押えを許す決定に対しては執行抗告ができる。なお、差押えの取消しを求めるこれらの申立てがあったときは、執行裁判所はその裁判の効力が生ずるまでの間、担保を立てさせ、または立てさせないで執行の停止を命ずることができるが、この執行停止決定に対しては不服を申し立てることができない。
 差押禁止規定に違反してなされた執行官の差押えは、当然無効ではないが、債務者は執行異議を申し立て、是正できる。
 動産執行は、債権回収のためになされるものであるから、差押債権者の債権および執行費用の弁済に必要な限度を超える差押えは許されない。したがって、執行官は差押物を評価しながら差押えを実施する。この限度を超える差押えに対しては、債務者は執行異議の申立てができる。しかし、他に適当な物がなく不可分の一つの物を差し押える場合には、この限度を超えてもさしつかえない。
 差押えの後に、差押え時の評価が誤っていたりして、結果的に超過差押えになったことが明らかになったときは、執行官は職権で超過部分の差押えを取り消すことになる。
 差し押えるべき動産の売得金で手続費用を弁済して剰余を生ずる見込みがないときは、手続を進行しても無益であるから、執行官は差押えをしてはならないとされている。
 差押えの後に、差押物を売却しても、その売得金で差押債権者の債権に優先する配当要求あるいは交付要求をした者の債権および手続費用を弁済して剰余を生ずる見込みがないときも、執行官は差押えを取り消さなければならない。配当要求などがない場合でも、差押えの後に、差押物の価値が低下したりして、手続費用を弁済しても剰余を生ずる見込みがなくなったときも、同様に差押えを取り消すこととなる。

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