転付命令と譲渡命令

 被差押債権を回収し、請求債権の満足を得るために、従来、取立命令、転付命令および特別の換価方法の制度があった。取立命令の制度は廃止され、差押命令に取立権が付与された。以下、似付命令および譲渡命令等について説明する。
 転付命令とは、債務者が第三債務者に対して有する被差押債権を、支払に代え、券面額で差押債権者に移転させる執行裁判所の決定である。
 転付命令は、職権で債務者および第三債務者に送達され、差押債権者に対しては、告知される。転付命令は差押債権者の申立てによって発令されるが、この申立ては、差押命令の申立てと同時にすることができる。実務上は差押命令と転付命令は、1通の申立書で同時に申し立てられることが多い。

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 転付命令が認められるのは、券面額を有する金銭債権に限られる。券面額とは、債権の目的として給付すべき金額が確定していることをいう。この券面額がないと、差押債権者に移転する被差押債権の額が決定できず、その後の法律関係が複雑になるため、券面額が転付命令の申立て時に確定していることが必要である。金銭以外の船舶・動産の引渡しを目的とする債権のように券面額のない債権に対しては、転付命令の申立てはできない。また、金銭債権であっても将来発生する債権、条件付の債権または反対給付にかかる債権のように転付命令の申立て時に、券面額が確定していない債権については、転付命令は認められない。債権が発生しているが、履行期が到来していない場合は、第三債務者の支払うべき額が確定しているので、転付命令の対象となる。転付命令の可否が問題となる債権につき、実務上の取扱例を紹介する。
 (1) 入居保証金・敷金返還請求権・・・賃貸借契約終了後、賃貸借の目的物が引き渡された後は認められるが、契約終了前は認められない。
 (2) 供託金取戻請求権・・・弁済供託金は認める。訴訟上の保証(担保)は差押債権者が被供託者のときは認められるが、第三者の場合、訴訟事件が終了するか、または被供託者の還付請求権放棄書あるいは供託保証金取戻しの同意書があるときに限って認められる。
 (3) 質権付債権・・・認めない。
 (4) 保釈保証金・・・刑事事件終了後は認められる。
 (5) 完成前の工事請負代金債権・・・認める。
 (6) 将来の賃料債権・給料債権・・・認めない。
 (7) 火災保険金請求債権・・・保険会社の保険額の査定後は認める。
 転付命令の効力については、法160条が「差押命令及び転付命令が確定した場合においては、差押債権者の債権及び執行費用は、転付命令に係る金銭債権が存する限り、その券面額で、単付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす」と定めている。したがって、第三債務者が無資力であって、被差押債権の実質的価値が券面額より低くても、請求債権はこの券面額で弁済されたことになり、第三債務者の資力についての危険負担は、差押債権者が負うことになる。このため、転付命令の申立てをするときは、第三債務者の資力を+分に調査することが重要である。
 また、転付命令が第三債務者に送達された時に、被差押債権は、転付債権者に移転するので、以後他の債権者は、債務者の財産から分離した枝差押債権を差し押えることはできないし、配当要求の申立てもできない。このように転付債権者は被差押債権を優先的に取得できるので、転付命令は多く利用される。
 転付命令の効力は、他の債権者が関与してくると認められないので、「転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押え、仮差押えの執行又は配当要求をしたときは、転付命令は、その効力は生じない」のである。
 転付命令の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。去下の決定には差押債権者が、転付命令に対しては債務者が執行抗告をすることになる。
 従来、転付命令は、債務者および第三債務者に送達されれば執行は終了するとして、転付命令に対する即時抗告または執行方法異議の申立てを認めないめが実務の大勢であったが、現法ではこれを改めて、転付命令に対する執行抗告を認め、転付命令は確定しなければその効力は生じないことになった。したがって転付命令が債務者に送達された日から、債務者が執行抗告の申立てをしないときは、債務者が執行抗告の申立てをしたときは、その申立てを却下する決定が確定したときに、転付命令は確定する。なお、転付命令が発令されたが、確定までの間に執行停止文書を提出したことを理由に執行抗告がされたときは、抗告裁判所は、その執行停止の結果がわかるまで、原則として、執行抗告についての裁判は留保する。転付命令が確定すれば、前述のとおり、転付命令が第三債務者に送達された時にさかのぼって、その効力を生ずる。
 転付命令に基づき、第三債務者から支払を受けるときは、差押命令および転付命令の確定を証明するため、裁判所から、確定証明書の発行を得ておく必要がある。
 抵当権等の担保付債権に対する転付命令が確定したときは、転付命令の効力が抵当権等の担保にも及ぶので、裁判所書記官は、転付債権者の申立てがあれば、抵当権等の移転の登記と差押登記の抹消を嘱託しなければならない。この申立てをするときは、転付債権者は、記録上明らかな場合を除き、被差押債権に関し、転付命令が第三債務者に送達された時までに他の差押えおよび仮差押えの執行がないことを証する文書を提出することを要する。この文書は、第三債務者が差押債権者のために作成した証明書などが該当する。もっとも第三債務者が法147条1項の規定による陳述の催告に対し、陳述書を提出しているときは、陳述書が記録に編綴されており、「記録上明らかな場合を除き」の除外事由に該当し、証明文書の提出を要しないことになる。
 ここで注意すべきは、根抵当権付債権につき、転付命令を得ることは、転付債権者にとって不利益になるということである。根抵当権が確定していない場合、根抵当権付債権に転付命令を得ても、根抵当権は転付債権者に移転しないから、転付債権者は、根抵当権を取得することはできない。これに対し、差押命令に基づく取立権によるときは、根抵当権を実行できると解されている。
 被差押債権が条件付、期限付または反対給付付その他のため、取立てが困難なときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、その債権を執行裁判所が定めた価額で支払に代えて、差押債権者に譲渡する命令(譲渡命令)、取立てに代え、執行裁判所の定める方法によりその債権の売却を執行官に命ずる命令(売却命令)または管理人を選任してその債権の管理を命ずる命令(管理命令)その他担当な方法による換価を命ずる命令を発することができる。執行裁判所は、譲渡命令等を発する場合は、債務者が外国にいるときまたは住所不明以外のときは、債務者を審尋しなければならない。譲渡命令等の申立てについての決定は、執行抗告ができ、確定しないとその効力を生じない。譲渡命令等を見する場合には、執行裁判所は必要があるときは、評価人を選任して債権を評価させることができる。
 譲渡命令は、転付命令と同様な効力を有し、転付命令で換価するに適さない債権につき、見せられる。譲渡命令において定める価額が請求債権を超えるときは、差押債権者はその超過額を執行裁判所に納付しなければ、譲渡命令を得ることができない。
 執行裁判所は、被差押債権の売得金で、差押債権者の債権に優先する債権および手続費用を弁済して、剰余を生ずる見込みのないときは、売却命令を発せられないし、また、執行官は、剰余のある価額でなければ、被差押債権を売却できない。執行官が被差押債権を売却したときは、買受人より代金の支払を受けた後に債権証書を引き渡し、債務者に代わって、第三債務者に対し、確定日付ある証書により譲渡の通知をする。
 譲渡命令、売却命令による買受人のため、債権に付随して移転する抵当権等の移転登記等の嘱託をなすについては、転付命令の項で説明したのと同様です。

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