強制執行と滞納処分との競合

 動産・不動産および船舶に対する滞納処分と強制執行との調整をはかるため、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(滞調法)が定められている。ところが、滞調法は、債権に対する滞納処分と強制執行との調整については規定をしていないので、従来は、最高裁判所と国税庁との協議に基づく最高裁民事局長通達によって、不十分ながら両手続間の調整がなされてきた。そこで、民事執行法の制定に伴い、滞調法も改正され、債権につき、滞納処分と強制執行の手続の調整をはかる規定が整備されるに至った。以下、滞納処分による差押えが先行する債権に対して強制執行による差押えがなされた場合と強制執行による差押えが先行する債権に対して滞納処分による差押えがなされた場合を分けて説明することとする。

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 強制執行による差押命令は、滞納処分による差押えがなされている債権に対しても発することができる。この場合、被差押債権の一部に対する強制執行による差押えの効力は、滞納処分による差押えと競合するかぎり、被差押債権全部に及ぶことになる。
 滞納処分による差押えが先行する債権に対する強制執行による差押債権者は、滞納処分による差押えが解除された後でなければ、滞納処分による差押えがなされている部分については、取立てをすることができない。したがって、滞納処分による差押えが先行する場合、強制執行による差押えをなす第一次的な実益は、後に滞納処分による差押えが解除されたときに備えるためにある。
 また、第二次的な実益として、滞納処分による取立金もしくは後述の供託による金銭の払渡金または売却代金について、滞納者に交付すべき残余が生じたときは、徴収職員等はこれを執行裁判所に交付しなければならないので、この場合に、強制執行による差押債権者は、配当を受けられるということにある。従来は、滞納処分による差押えが先行している場合は、一般私債権にはこれに配当参加する方法が認められていなかったが、現法のもとでは、上述のように滞納者に交付すべき残余が生じたときは、強制執行による差押債権者の配当参加の手段が確保されている。なお、他の債権者は、取立金または売却代金の残余が執行裁判所に交付される時までに差押え、仮差押えの執行または配当要求をしなければ、配当から除外される。
 次に、現法は、第三債務者を保護する規定を定めている。すなわち、第三債務者は、滞納処分による差押えがなされている金銭債権について、強制執行による差押命令の送達を受けたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる。第三債務者は、滞納処分と強制執行の優劣を顧慮する必要がなく、供託をすれば免責される。第三債務者は、この供託をしたときは、徴収職員等に事情届を提出することを要し、届出を受けた徴収職員等は、その旨を執行裁判所に通知する。滞納処分による差押えをした債権者は、この供託にかかる金銭から優先的に弁済を受けられるが、滞納者に交付すべき払渡金の残余が生じ執行裁判所に交付されたときに、執行裁判所の配当が実施される。
 このほかにも、第三債務者の供託があった場合は、執行裁判所の配当は、滞納処分による差押えが解除されたときに、また、滞納処分による差押えがない被差押債権の部分については供託されたときに、実施される。これらの配当が実施される場合、他の債権者は、第三債務者が上述の供託をした時までに、差押え、仮差押えの執行または配当要求をしなければ、配当より除外される。
 滞納処分による差押えの手続が進行しないときは、強制執行による差押債権者は、強制執行続行の決定を得て手続を進めることができる。
 なお、滞納処分による差押えがなされている債権に対する仮差押えの執行についても、滞納者へ交付すべき残余を仮差押えの管轄裁判所へ交付する旨の規定、第三債務者の供託の規定等が準用されている。
 滞納処分による差押えは、強制執行による差押えがなされている債権に対してもすることができる。この場合、徴収職員等は、先行する強制執行を知ったときは、滞納処分による差押えをした旨を執行裁判所に通知することを要する。被差押債権の一部について強制執行による差押えがなされている場合において、その残余の部分を超えて滞納処分による差押えがされたときは、強制執行による差押えの効力は、その債権の全部に及ぶことになる。この規定は、法149条、滞調法20条の4と同趣旨の規定であり、差押えが一部競合した場合、強制執行による差押えの効力を被差押債権全体に及ぶこととし、差押債権者の保護を目的としている。
 金銭債権についての強制執行による差押債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは、その債権を取り立てることができ、第三債務者が任意にその支払をしないときは、差押債権者は、被差押債権につき、取立訴訟を提起し、または転付命令、譲渡命令を求めることができる。差押債権者が、第三債務者から任意に支払を受けたとき、または取立訴訟を提起しその訴状が第三債務者に送達された時、もしくは転付命令、譲渡命令が発せられ第三債務者に送達された時の後は、滞納処分による差押えをなすことはできない。これらの以前に、被差押債権につき、滞納処分による差押えのなされたときは、強制執行による差押債権者は以後任意の支払または転付命令、譲渡命令を求めることはできず、またすでになされた転付命令、譲渡命令はその効力を生せず、取立訴訟を提起することはできるが、供託の方法による支払を請求しうるにとどまる。これらの場合、第三債務者は、被差押債権の全額に相当する金銭を債務の履行他の供託所に供託しなければならない。第三債務者がこの供託をしたときは、事情届を執行裁判所に届け出ることを要し、裁判所書記官は、この旨を徴収職員等に通知する。第三債務者が滞調法36条の6第1項に基づいてなした供託は、法156条2項の規定による供託とみなされるので、他の債権者がこの供託までに差押え等をしていないと配当を受けることができない。
 第三債務者が、この供託をしないときは、強制執行または滞納処分による差押えをした債権者は、供託の方法による支払を求める訴えを提起できる。この訴えの提起については、法157条が準用されている。強制執行による差押債権者は、滞納処分による差押えと競合しているときであっても他の債権者の手続への参加を防ぐために供託の方法による支払を求める訴訟を提起する意味がある。また、滞納処分による差押えをした債権者がこの訴訟を提起したとき、受訴裁判所は、第三債務者の申立てにより、他の債権者で強制執行による差押債権者が提出した共同訴訟人としての参加の申出の書面の送達の時までに被差押債権を差し押えた者に対し、共同訴訟人として参加すべきことを命ずることができる。強制執行による差押債権者が提出した共同訴訟人としての参加の申出の書面は、法157条1項に規定する訴えの訴状とみなされるので、この書面が第三債務者に送達された時までに差押え等をしなかった他の債権者は、配当を受けることができない。
 次に、滞調法36条の5は、強制執行による転付命令または譲渡命令が第三債務者に送達される時までに転付命令等がなされた債権について滞納処分による差押えがなされたときは、転付命令等は、その効力を生じないと定める。従来、強制執行による差押えが先行し、次いで滞納処分による差押えがあった場合、滞納処分による差押えは強制執行手続に劣後するから、交付要求がなされないかぎり、強制執行手続が先行し、転付命令は有効に発しうると解されていたが、滞調法36条の5により、滞納処分による差押えがなされた場合には、交付要求がなされなくても、以後、転付命令を発することはできず、また、転付命令が発せられても、効力を生ずることはない。
 また、従来は、強制執行による差押えが先行している場合、滞納処分による差押えをした債権者は、交付要求をしなければ配当に参加できなかった。滞調法の改正法は、この点を改め、滞調法36条の6第1項の規定または36条の7において準用する法157条5項の規定により供託された金銭について、執行裁判所が配当を実施する場合、滞納処分による差押えをした債権者は、交付要求をしなくても配当を受けられることになった。
 強制執行による差押えの手続が進行しないときは、滞納処分による差押えをした債権者は、滞納処分続行承認の決定を得て手続を進めることができる。
 なお、仮差押えの執行がなされている債権に対し滞納処分による差押えがなされたとき、滞約音へ交付すべき残余を仮差押えの管轄裁判所へ交付する旨の規定、第三債務者が供託をすることができる旨の規定等が準用されている。

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