債権執行の競合

 単独の債権者が債権執行手続に関与しただけで執行が終了することもあるが、債務者が倒産した場合など、複数の債権者が同一の被差押債権の全部または一部を差し押えまたは仮差押えし、それぞれの請求債権額の総額が被差押債権額を超過することが多い。また、ある差押債権者が追行している手続に他の債権者が配当要求をしてくることもある。
 二重差押えおよび配当要求のある状態を執行の競合というが、この場合、各債権者の請求債権額は、100パーセントの回収ができず、他の債権者の債権額と按分して配当を受けることになる。したがって、執行の競合のある場合は、単独の債権者が債権執行に関与する場合と異なり、各債権者間の利害を調整し、配当が確実に、かつ、平等に実施されなければならない。以下、どのような場合に執行の競合が発生し、どのような取扱いがなされるかを説明する。
 なお、差押えが重複した場合であっても、その請求債権の総額が被差押債権額を下回るときは、執行の競合はなく、単独の債権者が執行手続を追行する場合と同様に考えればよい。

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 債権に対する二重差押えの可否について、学説の対立はあったが、判例・実務上は、従来、二重差押えを認めていた。現法は、二重差押えを認め、差押えが競合したとき、その効果につき争いがあった点を解決している。すなわち、従来は二重差押えがあったとき、被差押債権のうち、差押えの重複する部分のみにつき競合が生ずるのか(一部競合説)、被差押債権全部について、競合が生ずるか(全部競合説)という対立があったが、現法は全部競合説を採用した。法149条は、被差押債権の一部が差押えまたは仮差押えの執行を受けた場合において、その残余の部分を超えて差押命令が見せられたときは、各差押えまたは仮差押えの執行の効力は、その債権の全部に及ぶと定め、さらに、債権の全部が差押えまたは仮差押えの執行を受けた場合において、その債権の一部について差押命令が見せられたとき、その差押えの効力も被差押債権の全部に及ぶと規定する。いったん差押えの効力が被差押債権の全部に及ぶと、一部の債権者が差押命令または仮差押命令の申立てを取り下げたときであっても被差押債権全部の差押えの効果は維持される。
 二重差押えは、被差押債権が弁済等で消滅した後はこれをすることができない。すなわち、差押債権者が枝差押債権の取立てを終了する前、または第三債務者が枝差押債権の供託をする前に、二重差押えの効力を発生させないと、二重差押の申立債権者は配当にあずかれない。また、現法は、前述のように差押債権者が取立訴訟を提起し、その訴状が第三債務者に送達された時以降は、他の債権者の執行参加を許さないので、二重差押えの申立ての機会は、従来と比較して減ったといえる。
 配当要求のできる債権者は、執行力のある債務名義を有する債権者と先取特権者である。従来と異なり、債務名義をもっていない債権者の配当要求は認められない。
 債権執行においては、不動産執行と異なり、仮差押債権者の配当要求は認めていないが、これは、差押えと仮差押えが競合すれば第三債務者は必ず被差押債権を供託しなければならず、仮差押債権者が配当要求をするまでもなく、配当にあずかれるからである。 もっとも、被差押債権が差押え後譲渡されたときは、仮差押えの目的となる債権がないので、債務名義のない債権者は配当要求はもちろん、仮差押えの申立てもできない。ただし、この場合、被差押債権についての債務名義による配当要求は認められるから、債権者としては早急に債務名義を取得し、配当要求をするほかない。
 債権質権者は、配当要求ができない。質権の設定されている債権を一般債権者が差し押えたとしても、質権者に認められた直接取立権を侵害できないので、質権者に不利になることはないからである。
 配当要求は、執行裁判所に対し、配当要求をなす債権の原因および額を記載した書面でしなければならない。この書面のほかに、債務名義に基づき配当要求をなす債権者は執行文の付与を受けた債務名義を、先取特権に基づき配当要求をなす債権者は先取特権のあることを証する文書を、それぞれ添付することを要する。先取特権を証する文書の形式は問われないが、ほかに適切なものがないときは、自陳書も認められる。先取特権の証明がない場合は、配当要求の申立ては却下されるが、却下の裁判に対しては執行抗告ができる。先取特権者の配当要求が認容されたときは、先取特権の存否を争う債務者・債権者は、配当異議訴訟で決着をつけることになる。
 配当要求がなされると、その時点で配当要求の効力が発生する。配当要求の効力が発生すると、配当要求債権者は、債権額に応じた配当にあずかる権利を有する。しかし、従来、執行力のある債務名義による配当要求債権者は、差押債権者が取立てを怠るときは、裁判所の許可を受けて自ら取立てをすることができたが、現法ではこのような取立権は認められていない。また、従来は、執行力ある債務名義による配当要求に潜在的な差押えの効力を認め、執行手続を遺行していた差押債権者の差押えが取り消されたときは、配当要求の順序にしたがって、独立の差押えの効力を生ずるとされていたが、現法では、配当要求に潜在的な差押えの効力を認めず、債権執行手続が取り消されると、配当要求債権者は、被差押債権からの分配にあずかれないことになった。
 配当要求があったときは、その旨を記載した文書が第三債務者に送達され、差押債権者および債務者に対しては、その旨が通知される。配当要求は、前述のとおり、裁判所になされた時に効力を生ずるが、配当要求の通知書が第三債務者に送達される前に、第三債務者が配当要求の効力が生じているのを知らずに差押債権者の取立てに応じて弁済をすることがある。第三債務者の供託義務が発生するのは、配当要求の通知書が送達された時からであるから、この場合の弁済は有効である。
 配当要求は、第三債務者が差押債権者の取立てに応じて支払をした後はできないが、このほかにも次の場合までに配当要求をしなければ、配当にあずかれない。
 第三債務者が法156条1項または2項の規定による供託をした時、取立訴訟の訴状が第三債務者に送達された時、売却命令により執行官が売得金の交付を受けた時。
 二重差押えの申立て時には配当要求の終期が到来していなかったが、差押命令の送達時にはすでにその終期が到来している場合には、二重差押えの申立てに配当要求の効力があるとして救済される可能性がある。

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