債権執行手続き

 債権執行は、不動産や動産のような物についての権利に対する執行ではなく、人に対する権利の執行であるため、不動産あるいは動産の執行手続とは異なる点が多い。
 すなわち、まず債権については、不動産等と異なり、外形的事実からその存在を執行機関が確認することができないので、債権者の申立てのみに基づき、差押命令が発せられる。執行機関が差押え前に債務者および第三債務者に債権の存在を照会することも考えられるが、執行の密行性の要請に反するため、執行機関は債務者および第三債務者に債権の有無・額を審尋することなく差押命令を発する。
 換価・配当の段階においても、不動産や動産の執行では、執行機関が差押物件を売却し、配当手続に入るが、債権執行の場合は、差押債権者が債権の実質的価値を判断し、自ら取立てをなすか、転付命令を得て債権を自己に移転させることができ、執行機関が積極的に換価・配当を行なうことはない。
 このように債権執行においては、執行機関が手続に関与する程度は低く、債権者が手続上大きな地位を占めている。債権執行手続をマスターする重要性は高いといえよう。

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 債権は、講学上、債権者が債務者に対して、一定の行為を請求することを内容とする権利であるといわれ、その範囲は広い。しかし、債権執行の手続の対象となる債権は、講学上の債権より範囲は狭く、民事執行法143条では、「金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権」であると定義されている。
 従来、手形・小切手等の指図証券で裏書の禁止されていないものに対する執行は、債権執行として、手形・小切手等の取上げの前に、手形・小切手債権に対する差押命令を取得すべきものとされ、このため、執行が機能的ではなかった。そこで、現法では手形等の指図証券に対する強制執行は動産執行の方法によると定められている。
 現法の債権執行手続は、従来の手続を変えている点は多いが、基本的手続には変更がない。すなわち、債権執行は、債権者の申立てに基づき、執行裁判所のなす差押命令により開始される。この差押命令は、債務者および第三債務者に送達される。
 それ以後の手続は、執行の競合の有無によって異なる。執行の競合とは、他の債権者の差押えに重差押え、または配当要求があり、各債権者の請求債権の総計が被差押債権の額を超えている状態をいう。
 差押債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは、被差押債権を取り立てることができ、また、第三債務者が支払をしないときは、取立訴訟を提起できる。なお、取立てをした差押債権者は、その旨を執行裁判所に届け出なければならない。
 第三債務者は、供託をすることが認められており、供託したときはその事情を執行裁判所に届け出なければならない。
 金銭債権の換価の方法として、転付命令の制度は従来と同様に存続しているが、転付命令に対しては執行抗告ができ、転付命令は確定しなければ効力を生じない。
 転付命令は効力を生じないし、差押債権者は、第三債務者に対し支払を求めることはできない。
 第三債務者は、供託をしなければならないが、第三債務者が任意に供託をしないときは、差押債権者は訴訟を提起して供託の方法による支払を求めることができる。
 債権に対する差押命令の申立ては、書面でしなければならない。申立書には、以下の事項を記載する必要がある。なお、転付命令の申立ても差押命令の申立てと同時にできるが、実務では、差押命令と転付命令の申立てが同時になされることが多いので、この場合を含めて説明することにする。
 債権に対する差押命令(転付命令)を求めることの表示、申立書の表題は、「債指差押命令申立書」とする。なお、転付命令の申立てを同時にするときは、「債権差押え及び転付命令申立書」と記載する。
 申立書中には、どの債権(請求債権)の支払のため、どのような債権(被差押債権)に対し、差押命令を求めるかを表示する。転付命令を求めるときは、その旨の表示も必要である。
 債権者および債務者並びに代理人の表示、執行当事者である債権者および債務者の住所・氏名あるいは商号・本店等は、債務名義の表示と一致させて表示する。債務名義取得後、当事者の住所・氏名等に変更があったときは、その変更を戸籍謄抄本、住民票、法人登記簿謄抄本等によって明らかにして、新旧の住所・氏名等を表示すべきである。
 債務者の住所等の記載により、執行裁判所の管轄が定まるので、正確に表示する必要がある。
 第三債務者の表示、第三債務者とは、差し押えるべき債権(被差押債権)の債務者をいう。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずるから、不送達にならないよう正確に表示することを要する。
 なお、第三債務者が本店の外に多くの支店・営業所を有しており、被差押債権の事務を支店が担当しているときは、当該支店を差押命令の送達場所として表示するのが実務の取扱いである。
 金融機関の債権回収の際に、公務員の俸給、供託金、郵便貯金、診療報酬等の差押えをすることがあるので、この場合の第三債務者の表示例を下記に紹介する。
 債務名義の表示、差押命令の申立てがどの債務名義に基づくものであるかを表示する。
 請求債権の表示、請求債権は、債務名義によってその内容が明らかにされているので、債務名義に基づくどの債権の支払を求めるかがわかる程度に簡単に記載すればよい。特に、債務名義に表示されている債権の一部について差押えを求めるときは、その金額を明示しなければならない。なお、金融機関は、債務者に対し、貸付金債権、買戻請求権等の数個の債権を有し、これらの債権が一つの債務名義に表示されていることがある。この場合、一部の債権が弁済等により消滅し、支払を受けていない債権につき、差押えを求めることが多いので、このときは、請求債権の発生年月日等を明記して特定に留意すべきである。
 金融機関の債権は、利息・損害金の付帯請求ができるのが通常であるが、差押命令の申立て時までに発生した利息等は当然請求できるものの、申立て後の利息等を請求債権に含めることができるかについては争いがあった。現法でもこの点は解決されていない。
 従来の実務では申立て後の利息等は請求債権に含ませていないので、現法のもとでも同様の取扱いになろう。
 なお、執行費用は差押えの申立てのときに請求債権に含ませて取り立てることができる。
 被差押債権の表示、被差押債権の表示は、債権の種類および額その他の債権を特定するに足りる事項、ならびに、債権の一部を差し押える場合にあっては、その範囲を明らかにしなければならない。不特定な被差押債権につき発せられた差押命令は、効力を生じないので、特に注意を要する。
 従来の実務では、請求債権額を超える差押えは原則として認められず、被差押債権が仮差押中であるとか、優先権を負担している債権である等を主張し、その疎明があったときに、実質的に超過差押えではないとされ、請求債権額を超える差押えが認められていた。このような実務の取扱いの結果、たとえば50万円の債権を有する債権者が、債務者の有する100万円の債権のうち50万円の部分のみを差し押えた後に、債務者が差押えのない50万円の債権を譲渡し、その後に配当要求債権者が出現したときは、差押債権者が当初から100万円の債権全額を差し押えた場合と比較して著しく不利になっていた。
 そこで、現法では、請求債権を超える被差押債権の全部について、差押命令の申立てをすることができるように明文化し、従来の実務を変更することにした。
 もっとも、現法においても、二つ以上の被差押債権に対する関係での超過差押禁止の原則は維持されており、被差押債権額が請求債権額を超えるときは、他の債権の差押えはできない。
 したがって、今後の実務では、たとえば50万円の債権を有する債権者は、債務者が100万円の債権と200万円の債権を有するときは、双方の債権を差し押えることはできないが、どちらかの債権を全部差し押えることができるので、請求債権を超える債権を差し押えようとする債権者としては、債務者の有する債権のうち、債権額の最も大きな債権全部を被差押債権に選択することになろう。
 差押命令の申立書には、次の書類を添付する必要がある。
 執行力ある債務名義の正本。
 送達証明書、債権執行は、債務名義または確定により債務名義となるべき裁判の正本または謄本が、あらかじめ債務者に送達されたときに限り、開始することができるので、この送達の事実を証明する必要がある。また、法27条に定める条件成就または承継により執行文が付与されるときは、その執行文および債権者が条件成就または承継の事実を証するため提出した文書の勝本伝あらかじめ送達されなければならない。
 資格証明書、債権者、債務者および第三債務者が法人の場合、法人の実在および代表者を確認するため、添付する。一部の裁判所では、だいたい1ヵ月以内の資格証明書の提出が要求されているので、注意を要する。
 委任状、代理人が債権者より委任を受けている事実を証明するため、添付する。代理人の資格は、従来弁護士、支配人等に制限されていたが、法人の従業員、親族等も債権執行の代理人になれる。一部の裁判所では、代理人が債務名義に表示されている場合は、執行申立てにあたっては委任状は要求されない。しかし、申立ての取下げには委任状が必要なので、委任状は必ず添付すべきである。
 第三債務者の陳述催告の申立書、差押命令は、前述のとおり、被差押債権の存否、額を第三債務者に確認することなく見せられるので、これらの点および弁済の意思を第三債務者に照会し、差押えの効果を調査する必要がある。そこで、裁判所書記官は、差押債権者の申立てがあるときは、差押命令を送達する際、第三債務者に対し、差押命令の送達の日から2週間以内に被差押債権の存否その他規則に定める事項について、陳述すべき旨を催告する。したがって、差押債権者は、差押命令の送達前に、陳述催告の申立てをする必要があり、差押命令が第三債務者に送達された後は、この申立ては認められない。
 第三債務者の陳述が催告される事項は、被差押債権の存否・種類・額、弁済の意思の有無・範囲・弁済しない理由、被差押債権について差押債権者に優先する権利の有無・内容、他の差押えまたは仮差押えの有無・事件番号・内容・送達年月日であり、第三債務者の陳述によって、差押債権者は差押えの効果を知り、債権回収の方針を決定することができる。
 差押命令の申立てと同時に転付命令の申立てもできるが、従来は、この場合、転付命令の送達と同時に執行が終了するので、陳述催告の申立てはできないものとされていた。現法では、転付命令は確定により効力を生じ、送達時に執行が完了しないため、差押および転付命令の同時申立てであっても、陳述催告の申立てはできる。
 目録、実務では、執行裁判所が差押命令を作成する際の便宜のため、差押債権者が当事者目録・請求債権目録・差押債権目録を提出することを要求される。この目録は、原則として、差押債権者、債務者、第三債務者の人数分のほかに1通必要であるが、多少多めに用意しておいたほうがよい。
 債権執行の執行機関は、執行裁判所である。差押命令の申立書は、執行裁判所に提出しなければならない。この執行裁判所は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所である。普通裁判籍は、民事訴訟法2条〜4条により決定されるが、人の普通裁判籍は住所、法人のそれは主たる事務所もしくは営業所によって定まる。債務者の普通裁判籍がないときは、第三債務者の普通裁判籍の所在地にある地方裁判所が執行裁判所となる。差押命令の発令後、債務者が住所を移転したときであっても、転付命令の申立ては、差押命令を発した執行裁判所にできる。
 管轄の執行裁判所が定まったときは、債権者は、申立書および添付書類を添えて、当該執行裁判所に差押命令(転付命令)の申立てをする。差押命令の申立書には印紙を貼付する。転付命令の申立書には、印紙を貼付する必要はない。申立書を提出するときに、差押債権者は郵券を予納する。この郵券は、差押命令(転付命令)の送達、陳述催告の回答書の送付、差押記入登記の嘱託に使用される。予納郵券の額は、執行裁判所により若干異なるので、事前に裁判所書記官に問合せをして、不足のないよう用意する。
 なお、差押債権者が、差押命令を得た後に、債務者が住所を移転したとき、他の債権者は、新住所を管轄する地方裁判所に差押命令の申立てをしなければならないが、このように執行裁判所を異にするとその後の手続が円滑に進行しないので、執行裁判所を統一することができる。

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