強制競売の売却に伴う不動産上の権利

 強制競売による売却によって、当該不動産上の権利は、買受人に引き受けられるべきものとするか、消滅すべきものとするかは一個の問題であるが、民事執行法は、従来と同じく、原則として消滅すべきもの、すなわち消除主義を採用することとした。
 不動産上に存する先取特権、抵当権は、従来と同様消滅するものとしている。質権は、従来はすべて消滅しないものとして取り扱われていたため、これに優先する抵当権等も消滅しないものとされていた。たしかに使用収益権能を有する質権については、売却によって消滅するものとして扱うことは適当ではないが、使用収益権能をもたない不動産質権は、抵当権と同様に消滅すべきものとして不合理ではないし、また使用収益権能を有する質権も抵当権に遅れるものは抵当権による競売によって消滅すべきものであるから、使用収益権能を有する質権も消滅する権利に優先しないかぎり、強制競売による売却によって消滅すべきものとして扱うことが適当であろう。そこで、民事執行法においては、消滅する権利に優先し、かつ使用収益権能を有する質権のほかは、すべて売却によって消滅すべきものとした。また留置権は、当然消滅しない。
 なお、売却によって消滅すべき担保権についても、最低売却価額が定められる時までに、利害関係の全員の同意があれば引き受けるべきものとすることができ、逆に消滅しないものを消滅すべきものとすることもできよう。

スポンサーリンク

 強制競売による売却によって、不動産上の用益権は、次のように取り扱われる。すなわち、差押え、仮差押え、または売却によって消滅すべき担保権に対抗できない用益権は、すべて消滅するものとされている。ただし、差押えには対抗しうるが抵当権に遅れる短期賃貸借のみは、その範囲で保護される。したがって、差押え、仮差押え、消滅すべき担保権に対抗しうる用益権については、買受人が引き受けることとなる。
 なお、売却によって消滅すべき用益権についても、最低売却価額決定までに利害関係人全員の承諾があれば消滅しないものとして、また引き受くべき用益権も同様に消滅すべきものとすることができる。
 差押え・仮差押えの執行は、いずれも換価を目的としているものであるから、売却によってすべて消滅する。差押えが強制管理に基づくときも同様である。また、差押え、仮差押え、売却により消滅すべき担保権に対抗しえない仮処分についても同様である。
 仮登記担保についでも同じ問題を生ずるが、抵当権の場合と同様に扱われることとなっている。
 民法388条は、「土地およびその上に存する建物が同一所有者に属する場合において、その土地または建物のみを抵当としたときは、抵当権設定者は競売の場合につき地上権を設定したものとみなす」としているが、判例は、これを拡張して、土地・建物の双方に抵当権が設定されていても競売の結果所有者を異にした場合にも、また抵当権の設定されている土地・建物について強制競売がなされた場合にも、本条が適用されるとしている。ただし、土地・建物に抵当権が設定されていない場合については、強制競売の結果所有者を異にするに至っても、法定地上権の発生する余地はなかづた。しかしながち、この場合にも建物の保存をはかる必要のある点は抵当権が設定されている場合と同様である。
 そこで、民事執行法は、土地および建物が債務者の所有に属する場合において土地または建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至ったときは、その建物について地上権が設定されたものとみなすこととしている。この規定と同旨の規定は、国税徴収法127条にあり、また民法388条と同旨の規定は立木法にもある。さらに立木法では、土地と立木との間ばかりではなく、地上権と立木との間について法定賃借権を規定している。
 最低売却価額が決定されると、執行裁判所は、この最低売却価額と、手続費用(執行費用のうちの共益費)、差押債権者の債権に優先する抵当権者の債権、配当要求した一般先取特権者の債権等担保権付債権、交付要求した租税等の債権の合計額とを比較し、後者のほうが大きいときは原則として強制競売の手続を取り消さなければならない。このように、差押債権者に弁済が不能となることが考えられる場合には、強制競売自体が債権の弁済を求める手続である以上、その性質からみて原則として手続を取り消すのが望ましい。しかし、実際の売却価額が最低売却価額を超えることも考えられるし、優先債権の額が真実存在するかどうかも必ずしもはっきりしない。
 したがって、民事執行法は、次のような規定を設けて売却の機会を与えている。すなわち、まず執行裁判所は無剰余となることが判明した場合は、その旨を差押債権者に通知し、差押債権者は、その通知を受け取ってから1週間以内に、優先債権等の見込額より真実の債権額が少額であり無剰余とならないことを立証するか、あるいは、自ら優先債権等の見込額を超える額を申し出て実際の買受価額がそれに連しないときは、自分が申出額で買い受ける旨を申し出るとともに、申出額に相当する保証を立て、自らが買受人になれないときは、実際の買受価額が申出額に達しない場合には、その差額を負担する旨を申し出るとともに、それに相当する保証を提供する方法がある。
 この場合には、執行裁判所は、手続を取り消すことなく続行することになる。
 保証の提供は、金銭、執行裁判所が相当と認める有価証券、銀行等が差押債権者のために一定の額の金銭を執行裁判所の催告により納付する旨の期限の定めのない支払保証委託契約が差押債権者と銀行等との間において締結されたことを証する文書、のいずれかをもって行なうこととされているが、差押債権者の申立てにより、執行裁判所は、決定で担保物の変更を命ずることができる。
 また、差押債権者のこの申出は、売却実施の日までは、特に不都合も考えられないから撤回しうるものと考えられる。その場合には、強制競売の手続は取り消され、保証は当然差押債権者に返還されることになる。申出の徹回もなく、申出額以上の価額で売却され、買受人が売却代金を支払った場合には、もちろん差押債権者に保証が返還される。
 しかし、申出額以上で売却できなかったとき、または、売却はできたが買受人の支払がなかったときは、差押債権者が買受人になれる場合は保証が代金に充当され、差押債権者が買受申出人になれない場合は、申出額と実際の売却価額の差額に相当する保証が配当にあてられることとなる。しかし、この場合にもし最低売却価額に達する買受申出がないときは、強制競売手続は取り消され、保証は差押債権者に返還される。
 従来は、執行停止は、すべて競落不許可事由とされていた。したがって、買受人の地位がきわめて不安定なものとなっていた。そこで、民事執行法においては、債務者と買受人の利害を調整することとしている。
 すなわち、売却の実施までに執行停止文書が提出された場合には、原則どおり手続は停止される。また、停止文書のうち法39条1項1号〜6号文書については、手続のどの段階で提出されようと手続を停止し取り消すことになる。ただし、4号・5号文書については、買受けの申出があってからは、最高価買受申出人、次順位買受申出入の同意を要するものとされ、また配当段階では、特則が設けられている。しかしながら、その他の停止文書については、特則を設けて買受人の保護をはかっている。まず、売却の実施終了後に弁済猶予・弁済受領の文書を提出しても、原則として手続は停止されない。ただし、買受人を特に保護する必要のない売却許可決定が執行抗告で取り消された場合、買受人が代金を納付せず効力を失った場合、売却不許可決定が確定した場合には、停止される。
 また、売却許可決定期日終了後に強制執行の一時停止を命ずる旨の記載のある裁判の正本を提出した場合も同様である。
 しかし、法39条1項7号文書が売却の終了後売却決定期日の終了までに提出されたときは、他の事由によって売却不許可とする場合を除き。売却決定期日を開くことができないとして債務者の保護をはかっているが、他方買受人の不安定な地位および提供した保証金に対する買受人の利益を考慮して、買受申出の撤回を認めている。
 民事執行法は、配当を受けるべき者を次のように法定している。
 配当要求の終期までに強制競売または一般の先取特権の実行としての競売の申立てをした差押債権者、配当要求の詐欺までに配当要求した債権者、差押えの登記前に登記された仮差押債権者、差押えの登記前に登記された一般先取特権者を除く先取特権者、質権者、抵当権者。
 したがって、差押登記後に登記された抵当権者は、まったく配当にあずかれないものとされた。この場合、二重開始決定があったとき、前の差押登記と後の差押登記の間で登記された抵当権は、前の手続が取り消されなければ配当にあずかれないが、前の手続が取り消されれば優先的に配当にあずかれる。しかし、前の手続が停止され、後の手続が続行された場合には、前の手続が取り消されず完結すれば配当にあずかれず、取り消されれば配当にあずかれるということとなり、前の手続についての訴訟が完結するまで、配当を決定できないことになる。そこで、このような場合配当額を定めることができない部分は、供託される。
 同じ問題は、仮差押登記と差押登記の間に登記された抵当権についても生ずる。この場合も、仮差押えについての本案訴訟の決着がつくまで、やはり配当できない部分について供託することになる。
 執行停止文書の取扱いについては、従来に比べて、債務者と買受人の調整をはかっていることは前述のとおりであるが、配当手続においての執行停止文書についてもその停止効の明確化をはかっている。
 すなわち、執行処分の取消しがなされるべき執行停止文書が提出されたときは、その対象となる債権者にはもちろん配当しないが、ほかに配当を受けるべき債権者がいれば、それらの者に対しては配当をすることとし、もしほかに債権者がいなければ、債務者に交付することとなる。また、弁済受領・弁済猶予文書が、売却代金の納付後、配当・弁済金の交付前に出されても、その債権者に配当・弁済金の交付を妨げることはできない。しかし、執行停止を命ずる旨の裁判の正本がこの段階で提出された場合には、当該債権者に交付されるべき弁済金を供託し、債権者が勝訴すれば債権者に交付し、敗訴すれば配当表の変更をする。

お金を借りる!

担保権の実行/ 競売の売却手続き/ 強制執行/ 担保権実行手続き/ 抵当権の実行/ 競売の申立て/ 競売の目的となる不動産/ 競売手続きの開始/ 競売売却の準備/ 競売売却の手続き/ 競売売却後の手続き/ 預金に対する担保権/ 増価競売/ 銀行の貸金の担保/ 有体動産を貸金の担保/ 指名債権を担保/ 仮登記担保の実行手続/ 仮登記担保の提供者あての実行通知/ 仮登記担保の後順位担保権者あての実行通知/ 仮登記担保の本登記手続き/ 強制執行と執行機関/ 強制執行の要件/ 強制執行の開始の要件/ 強制執行への異議/ 執行文付与の異議/ 強制執行の請求異議の訴え/ 不動産執行の対象/ 不動産の強制競売の申立て/ 不動産の強制執行の債権者の競合/ 強制競売の売却に伴う不動産上の権利/ 不動産に対する強制執行での強制管理/ 債権執行手続き/ 差押命令/ 差押禁止債権/ 債権執行の競合/ 強制執行と滞納処分との競合/ 転付命令と譲渡命令/ 債権執行による回収/ 動産に対する強制執行/ 動産に対する強制執行の申立/ 動産に対する差押の実施/ 差押物の売却/ 配当を受けられる債権者の範囲/ 有価証券に対する強制執行/ 船舶に対する強制執行/ 自動車に対する強制執行/ 社員等の持分権に対する強制執行/