不動産の強制執行の債権者の競合

 従来、強制競売・競売の開始決定がなされているときに、さらに、強制競売・競売の申立てがなされたときは、二重に開始決定することなく前の開始決定の記録に添付することとなっていた。たしかに、二重に競売手続を進めることは無駄でもあり、また手続を複雑にするという意味で不都合であるが、このことが二重開始決定をしてはならないという理由にはならない。むしろ、記録添付制度の不都合な点もすでに指摘されていたところであり、民事執行法においては二重開始決定を認めることとした。したがって、差押えの宣言も重ねて行なわれ、差押えの登記も行なわれる。
 しかし、その後の手続を二重に進めることは、いずれにしても無駄であるから、二重開始決定を受けた債権者も配当等を受ける地位を有するにとどまる。

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 二重開始決定を受けた債権者も前の手続が進んでいるかぎり配当等の配分にあずかる地位しかないが、前の手続が取り消されたり、あるいは前の申立てが取り下げられたりした場合には、後の申立人のために手続が当然続行される。
 この場合、前の手続を利用することとなるがそのまま利用できない場合もある。たとえば、前の差押えと後の差押えの問に用益権が設定されていた場合には、前の差押えの効力が続いている間は無視されていた用益権が、前の差押えがなくなることによって競落人において引き受けるべきものとなるから、評価のし直しと最低売却価額の改定が必要となる。
 また、抵当権が設定されていた場合には、最低売却価額の変更は要しないが、前の差押えの効力がある間は無視されていた抵当権が優先権を取得するに至るから、これに対し債権届出を催告する必要を生じ、場合によっては、無剰余取消しも問題となる。
 さらに、後の差押えが前の差押えの配当要求終期後になされたときは、前の差押えの効力が続いている間は、後の差押債権者は配当にあずかることができない。しかし、前の差押えの効力がなくなると、もちろん配当にあずかることとなるから、配当要求の終期指定をし直し、その公告もやり直すことになるが、すでに債権届出をしている者に対しては、催告を要しない。
 前記のように、前の手続が取り下げられ、または取り消されたときは、後の開始決定は、当然に続行されるが、前の手続が停止になった場合は、後の差押債権者による続行申立てを待って手続を続行することとなる。すなわち、前の手続が執行停止文書の提出によって停止された場合には、後の差押債権者の申立てによって執行裁判所は、続行決定をすることとなるが、その場合執行裁判所は、法62条2号に掲げる事項(不動産にかかる権利の取得および仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの)に影響があるときは続行決定できない。
 後の差押債権者の申立てによるとしたのは、手続の停止といっても、すぐ解けるものと、取消しにつながるものとかありうるが、当該停止がどちらの性質をもつものか執行裁判所自体は判断できないからである。後の差押債権者にその申立ての機会を与えるため、前の手続が停止されたときは、裁判所書記官はこの旨を後の差押債権者に通知する。
 また、法62条2号に掲げる事項に影響のないときのみ続行決定ができるとしたのは、たとえば、前の差押えと後の差押えの間に用益権が設定されていた場合、前の手続が取り消されなければ用益権設定は無効に帰するし、取り消されれば有効になるから、最低売却価額も決定できないこととなる。このような場合、手続を続行することは適当でないからである。
 なお、この続行申立てを却下する決定に対しては、執行抗告することができる。
 二重開始決定がなされたときは、裁判所書記官は、先の開始決定にかかる差押債権者に対し通知する。また、前の手続が停止されたときは、後の差押債権者に続行申立ての機会を与えるため通知し、さらに、後の差押債権者の申立てにより続行決定されたときは、債務者に対しその旨を通知する。
 従来、強制競売にあっては、配当要求債権者は有名義債権者に限られず、無名義債権者も含まれていた。しかし、無名義債権者の配当要求を認めることによって、債務者と共謀のうえ架空の債権を作出することもなくはなく、配当異議で争うことも困難であった。
 そこで、民事執行法においては、無名義債権者を配当要求債権者から原則的に排除することとした。すなわち、配当要求債権者は、執行力ある債務名義を有する債権者、差押えの登記後に仮差押えの登記をした仮差押債権者、一般先取特権の存在を立証した債権者に限られる。差押登記後に抵当権設定を受けた者は、手続上無視されるし、差押登記前の登記された抵当権者・仮差押債権者は配当要求することなく当然に配当にあずかれるからである。
 従来、配当要求の終期は、競落期日の終りまでとされていた。しかし、なるべく多くの債権者に配当を与えるという観点からはともかく、競落期日の直前になって一般先取特権者から配当要求がなされ無剰余となった場合などは、多くの時間と手間をかけてきた手続が一挙に無駄になってしまうということになりかねない。
 そこで、民事執行法においては、執行裁判所で配当要求の終期を定め、あらかじめ公告することにしている。この終期は、特に限定されていないが、民事執行法は、不動産競売において特に売却条件の明確化を重視していることからみて、売却条件の明確になる段階(物件明細書の作成)の直前に定められることとなろう。
 なお、執行裁判所は、特に必要があると認めるときは、いったん決定した配当要求の終期を変更することができるが、変更したときは、裁判所書記官は、変更後の終期をあらためて公告しなければならない。
 さらに、配当要求の終期から3ヵ月以内に売却許可決定がされないとき、または3ヵ月以内にされた売却許可決定が取り消されたときは、配当要求の終期は、その終期から3ヵ月を経過した日に変更されたものとみなされる。ただし、法67条により次順位買受申出入に売却許可決定がなされた場合は、その必要もなく、かつ適当でもないので変更されない。
 配当要求は、執行裁判所に対して書面をもってしなければならないが、配当要求には、債権の原因および額を記載する必要がある。もちろん、このほかに債権者、債務者、事件番号、配当要求債権者、代理人等の一般的な記載事項を書き、さらに、自己が配当要求債権者であることを証する文書を添付する。なお、このような適式な配当要求があった場合、裁判所書記官は、その旨を差押債権者、債務者に通知する。
 配当要求がされた場合、債務者のほうでこの債権の存在等を争うには、債務名義によるものについては請求異議の訴え、仮差押えによるものについては仮差押決定に対する異議、一般先取特権によるものについては債務不存在確認の訴えおよび配当異議の訴えが用意されており、他の債権者も配当異議で争うことができる。しかし、配当要求を却下する裁判に対しては、執行抗告が許される。
 まず、差押えの登記前の登記をした仮差押債権者、担保権者は、配当要求することなく当然に配当にあずかることができる。これらの権利は、売却により当然消除されるからである。また、差押登記後に登記された仮差押債権者は、配当要求することにより、配当等にあずかる地位を取得する。
 しかし、差押登記後に登記された担保権は、手続上まったく無視され、また差押登記前に登記された担保権も、それに先行して仮差押えの登記がされている場合には、その仮差押債権者が本案で勝訴すると確定的に手続上無視されることになり、その仮差押債権者が本案で敗訴してはじめて配当等にあずかることができる。
 裁判所書記官は、強制競売開始決定がなされ、開始決定が債務者に送達された場合には、二重開始決定の場合を除き、配当要求の終期を定め、これを公告しなければならないことはすでに述べたとおりである。
 なお、その他に裁判所書記官は、差押登記前に登記された仮差押債権者、担保権者、租税その他の公課を所管する官庁または公署に対して配当要求の終期までに債権の存否、原因および額を届け出るよう催告する。これは、売却条件の確定と無剰余取消しの検討に必要であるからである。すなわち、仮差押債権者の債権があるかないかによって仮差押登記後に設定された用益権の帰趨に大きな影響が出るし、また仮差押登記後に担保権が設定されている場合にも仮差押えにかかる債権の存否によって、担保権者が優先権をもつに至るか、手続上無視されるかの影響がある。また、差押登記前に登記された担保権については、その債権の存否によって無剰余取消しの問題も生ずるし、また担保権登記後に用益権設定があった場合には、担保権にかかる債権の存否によって用益権の帰趨に影響が生じ、売却条件を決定することができない。官庁等については、その債権が優先債権であることから無剰余取消しの検討を要す惑からである。
 このような必要性によってこれらの者に催告するわけであるから、これらの者が届出義務を負担するのは当然である。したがって、これらの者が故意または過失によって届け出なかったとき、または不実の届出をしたときは、これによって生じた損害を賠償する義務を負担することになる。
 なお、仮登記担保権者についても裁判所書記官、は、同様の催告をすることとし、もし、配当要求の終期までに届出をしなかったときは、配当から除斥されるものとされている。

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