強制執行の請求異議の訴え

 強制執行手続においては、執行機関は、執行文の付与された債務名義を基礎にして強制執行手続を開始している。すなわち、執行機関は、債務名義に表示された請求権が現存するものとして、その存否および範囲に関する実体的調査をすることなく執行を開始するのである。しかし、債務名義に表示された請求権は、一定の時点における存在と範囲を確定するものなので、その後に権利関係の変動かありうることは否めない。この債務名義成立後における権利関係の存否については、債務者において争わせるべきものとし、その制度が請求異議の訴えの制度である。現法は、旧法におけると異なり、債務名義の種類により請求異議の訴えの要件を区分している。

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 この訴えの性質については、旧法下においても争いがあり、形成訴訟説、確認訴訟説、給付訴訟説、救済訴訟説等があった。本来、債務名義の執行力は、単に実体関係に変動が生じたときだけでは消滅せず、本訴による勝訴判決によってはじめて執行を阻止でぎるとする法の建前からすれば、実体関係と債務名義の表示との不一致を原因としてその執行力を排除するための訴訟上の異議権を訴訟物とする訴訟法上の形成の訴えであるとするのが通説であり、現法においても同様に解されることになろう。
 債務名義に表示された請求権の存在または内容についての異議があるときは、請求異議の訴えを提起することができる。
 この異議事由については、具体的に特定されていないので、旧法下においても、解釈の分かれるところであったが、債務の弁済、免除、相殺、時効、詐欺・強迫による取消し、公序良俗違反、代理権の欠訣、合意による延期、支払猶予、過怠約款における割賦金の支払を怠っていない事実、請求権の譲渡、免責的引受けなど債務名義に表示された請求権の消滅または移転をもたらす事由や弁済の猶予などは、その異議事由となる。
 これらの異議事由であっても確定判決については、口頭弁論終結後に生じたものに限り、また確定した仮執行宣言付支払命令については、その送達後に生じたものに限って主張できる。判決の確定前においては、たとえ仮執行宣言付判決であっても控訴手続で争うべきものであるし、確定前の仮執行宣言付支払命令にあっては、支払命令に対する異議訴訟で争うべきもので、いずれも請求異議の訴えによることはできない。
 裁判以外の債務名義(執行証書、和解調書、調停調書)については、異議事由の発生時期について特段の制約はなく、債務名義の成立についての異議も主張できる。
 請求異議の訴訟にあっては、数個の異議事由があるときは同時に主張しなければならないから、別訴による主張は許されない。なお、この訴えの訴訟手続は一般の判決手続による。
 裁判所が原告の請求を認容するときは、その債務名義に基づく執行の不許を宣言する判決をなし、原告たる債務者はこの判決正本を執行機関に提出して、すでになした執行処分の停止または取消しを求めることができる。
 請求異議の訴えの原告は、債務名義にかかる請求権の存在または内容について異議ある債務者である。また、その承継人も原告になりうる。これらの者の債権者は、これらの異議事由があるときは、債権者代位により原告となることができる。
 被告は、現在の債務名義上の債権者であるが、死亡して相続人がいる場合ならびに債権を譲り受けて対抗要件を得ている者があるときは、これらの者が、承継執行文を得ていなくても被告にすることができる。
 この訴えの管轄裁判所は、執行文付与の訴えについて述べた管轄裁判所と同一である。
 この訴えは、債務名義が有効に存在しているかぎり、いつでも提起できる。執行文の付与前で払執行開始前でもよい。強制執行が完結したときは、強制執行の不評を求める利益はないので、請求異議の訴えを提起することはできない。
 請求異議の訴えの提起があっても強制執行は停止されないが、受訴裁判所は、申立てにより、執行文付与に対する異議の訴えの仮の処分に関して述べたところと同様に、執行停止等の裁判をすることができる。急迫な事情があるときは、裁判長もできること、および執行裁判所もこの訴えの提起前でも一定期間内に、受訴裁判所による執行停止等の裁判の正本を提出すべきことを命じてすることができることもまた同様である。
 受訴裁判所は、請求異議訴訟の終局判決において、執行停止等の裁判をし、またはすでにした執行停止等の裁判を取り消し、変更もしくは認可する旨の裁判をすることができる。この裁判には仮執行の宣言を付さなければならず、この裁判に対しては独立して不服申立てはできない。これらは、執行文付与に対する異議の訴訟における仮の処分に関する裁判と同様である。
 第三者異議の訴えは、強制執行が債務者の財産に対してなされるべきであるのに、債務名義の執行力の及ばない第三者の財産に対し強制執行がなされたとき、その第三者の権利を保護するために認められた制度である。執行機関は強制執行をするにあたり、債務者の財産に属するかどうかを、外観上から判断してなし、その財産が債務者の所有に帰属するか否かの実質的な調査をしない。強制執行がこの外形上の事実に反してなされれば、それは執行異議の対象となるが、実質的に他人の権利に属するものに執行がなされたときは、第三者異議の訴えによって争うことになる。
 この訴えの性質については、旧法下において、形成訴訟説、確認訴訟説、給付訴訟説などの争いがあったが、形成訴訟説が通説であった。
 現法でも同様に争いがあると思われるが、現法では、第三者異議の訴えを、強制執行の目的物についての所有権その他目的物の譲渡または引渡しを妨げる権利を主張して、その目的物の上になされた強制執行の排除を求める訴えであるとするから、形成訴訟説的立場に立つとみられよう。しかし、この点は、旧法におけると同じく解釈上争いの残るところである。
 この訴えにおける異議事由は、強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡または引渡しを妨げる権利(所有権、占有権等)を有することである。主なものは、所有権、占有権、地上権、賃借権などであるが、これらの権利は第三者に対抗できるものでなければならない。動産の譲渡担保権者も第三者異議の訴えを提起できる。仮登記担保権については、仮登記担保契約に関する法律15条の定めるところによる。
 なお、現法においては、優先弁済請求の訴えの制度は廃止された。
 この訴えの原告になれるのは、執行の目的物に対する権利が侵害されたことを主張する第三者や第三者の権利を管理する者(破産管財人、遺言執行者等)である。その権利を有する第三者の債権者もまた債権者代位権を行使してこの訴えを提起できる。自己の権利を侵害された者には、真実の不動産所有者、債務者占有の動産の所有者、特に譲渡担保権者、債権についての真実の債権者等である。特定物引渡執行の場合において、債務名義に表示された物と異なる物につき執行されたとき、債務者は、第三者異議の訴えを提起できるし、担保権の実行につき、担保権の目的でないものに対して行われたときも担保権設定者は、第三者異議の訴えを提起することができる。
 この訴えの被告は、強制執行をした債権者である。なお、旧法では、債務者に対しても第三者異議の訴えを提起できるとし、この訴訟は通常の共同訴訟であるとされていたが、現法では、執行債権者に対する第三者異議の訴えと併合して、債務者に対する所有権確認の訴え等強制執行の目的物についての訴えを提起することができることを明らかにした。
 これは、第三者異議の訴えが執行裁判所の専属管轄に属するので、併合管轄の規定の適用がなく、併合できなくなるおそれがあることから、併合できることを明記したのである。
 第三者異議の訴えは、強制執行が開始されてから提起されるものであるから、執行裁判所は明らかになっている。
 この訴えは、原則として目的物に対し強制執行が開始された後、その終了前に限って提起することができる。特定物の引渡しに関する強制執行については、債務名義によってその対象物がわかるので、その対象物外に執行されることが明らかであれば、債務名義の成立と同時にこの訴えを提起することができる。この場合には、執行裁判所がないので、特定物の所在地を管轄する地方裁判所が例外的に管轄をもつことになると解される。
 また、この訴えは、強制執行の目的となっている第三者の権利の保護のためであるので、強制執行手続が終了したとき、引渡執行で目的物の引渡しが完了したときは訴えの利益を失い、その請求は棄却される。この訴えの係属中に換価手続が結了しても、同様である。この場合は、損害賠償を請求することになる。
 訴訟手続は、判決手続によってなされる。 立証責任払 一般原則に基づき、目的物に対する権利が原告に帰属することの要件は原告が立証責任を負担し、被告が原告の権利取得の原因の不成立あるいは無効の一般的要件を抗弁として主張立証することになる。
 原告の請求が理由がなければ、請求棄却となる。一方、請求が理由があれば、強制執行を許さない旨の判決がなされ、原告はこの判決を執行機関に対して提出し執行の停止または取消しを求めることになる。
 第三者異議の訴えに伴い、受訴裁判所が執行停止等の仮の処分ができること、および受訴裁判所が終局判決において執行停止の裁判、またはすでにした執行停止等の裁判の取消し、変更、もしくは認可ができることは、執行文付与に対する異議の訴えで述べたところと同一である。

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