執行文付与の異議

 強制執行を開始するには、執行文の付与された債務名義に基づくことを要する。執行文は、申立てにより、執行証書については公証人が、その他の債務名義については記録の存する裁判所の裁判所書記官が付与する。 したがって、債権者は強制執行の申立てに先立ち債務名義に執行文の付与を受けなければならないが、債権者は執行文が付与されないときにおいて、また債務者は執行文が付与されたときにおいて、それぞれ裁判所書記官の所属する裁判所または公証人の役場の所在地を管轄する地方裁判所に対し、執行文付与に関する異議の申立てをなすことができる。この規定は、旧法における執行文の付与に対する債務者の異議申立ての規定と執行文の付与の申立てを却下した裁判所書記官の処分についての民事訴訟法206条による裁判所書記官の処分に対する異議の申立ての規定とを統合したものである。
 執行文の再度付与についても不当に付与されたときは、この執行文付与に関する異議によって争うことができるし、仮執行宣言を付した支払命令正本を再度交付された場合も同様である。

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 この異議事由は、執行文を付与すべきでないのに付与したり、付与すべきであるのに付与しなかった場合の事由である。
 執行文を付与するためには、債務名義の執行力が現存していることが必要である。それが存在しないにもかかわらず執行文が付与されたこと、たとえば、判決が未確定で仮執行宣言もついていない場合や、判決後訴えの取下げや、再審による取消し、請求異議の訴えによる執行不許宣言があったにもかかわらず執行文が付与されたり、条件成就や承継の事実につき、証明文書の提出がないのに執行文が付与されたり、その必要がないのに数通の執行力ある正本が付与されたりしたことは異議事由になる。
 債務名義に表示された請求権の存否を争うのは、請求異議の訴えによるべきであり、条件成就の有無や承継の事実を争うのは、執行文付与の訴えや執行文付与に対する異議の訴えによるべきであるが、これらの事由のなかにもあえて判決手続によらないでも容易に判断できる場合もあるので、執行文付与に開する異議申立てによっても主張できると解すべきであろう。
 適法な異議の申立てがあれば、裁判所は、口頭弁論を開き、または口頭弁論を経ないで裁判をする。この裁判の形式は決定でなされ、異議が理由ありと認められたときは、執行文の付与が取り消されたり、執行文を付与すべき旨が命ぜられる。なお、裁判所は、執行文付与に対する異議の申立てを理由ありと認めたときは、執行文付与の取消宣言をするとともに、その執行力ある正本に基づく強制執行を許さない旨の宣言をなすべきものであろう。この裁判に対しては不服申立をすることができない。
 執行文の付与に対し、債務者から異議の申立てがなされても執行手続は停止されない。そこで、異議に対する裁判の終了するまで執行文の付与された債務名義による執行手続を停止しておく必要がある。したがって、裁判所は、異議申立があったときは、異議についての裁判がなされるまでの間、担保を立てさせ、もしくは立てさせないで、強制執行の停止を命じ、または担保を立てさせて執行手続の続行を命ずることができるものとされ、急迫の事情があるときは裁判長もこれらの処分をすることができるものとされている。
 この裁判は、口頭弁論を経ないですることができ、またこの裁判に対しては、不服申立てができない。
 債権者は、債務名義に表示された請求権が条件にかかり、または当事者に承継があるときは、その条件成就や承継の事実を証する文書を提出しなければ執行文の付与を受けることができない。これらの条件の成就の事実や承継の事実を証明する文書を提出することができないときは、債権者は、債務者を被告として執行文付与の訴えを提起し、判決を得て執行文の付与を受けることができる。
 執行文付与の訴えの性質については、旧法下においても実体上の請求権に基づくものとする給付訴訟説、判決によって執行文を付与すべき状態を創設すると解する形成訴訟説、執行文付与の要件たる事実の確認を求めるものと解する確認訴訟説の対立があり、確認訴訟説が通説であった。現法でも同様に解されよう。
 この管轄は、いずれも専属管轄であるが、執行文付与の訴えは、債務名義の執行力の現存することを確定することにあるから、訴えの管轄について払個々の債務名義によって、次のように区別されている。
 確定判決、仮執行の宣言を付した判決、抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判、確定した執行判決のある外国裁判所の判決または仲裁判断、上級裁判所以外の裁判所で成立した和解または調停を除く確定判決と同一の効力を有するもの、たとえば、損害賠償請求権の査定の裁判、認諾調書、上級裁判所で作成した和解、調停調書その他に該当しないものの各債務名義については、第一審裁判所が管轄を有する。したがって、破産債権表、更生債権者表についての執行文付与の訴えの管轄裁判所は、それぞれ破産裁判所、更生裁判所となる。
 仮執行宣言を付した支払命令については仮執行宣言付支払命令を発した簡易裁判所が管轄するが、その請求が簡易裁判所の管轄に属しないものであるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄を有する。
 和解または調停調書については、それが成立した簡易裁判所、地方裁判所、家庭裁判所が、それぞれ管轄を有する。ただし、簡易裁判所において成立した和解・調停にかかる請求が簡易裁判所の管轄に属しないものであるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄を有する。
 執行証書については、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所にの普通裁判籍がないときは、請求の目的または差し押えることができる債務者の財産の所在地を管轄する裁判所が管轄を有する。
 訴訟の審理は、判決手続による。
 原告は、条件の成就や承継の事実を立証するすべての証拠方法を提出できる。また、被告は、執行文の付与を阻止する反対事実を主張立証できる。なお、実体上の関係だけでなく、形式上の事由も主張できる。
 この訴訟および同質の訴訟である後述の執行文付与に対する異議の訴訟で、請求異議の訴えの原因として主張立証すべき実体上の請求権消滅に関する事由(弁済、免除の事実)も防御方法として主張できるかについては、争いがあるが、認めるべきものであろう。
 訴えが理由あるときは、判決によって、付与機関に対し執行文の付与が命ぜられる。この判決があると、裁判所書記官または公証人は、この判決に基づき執行文の付与をすることになる。
 執行文付与の訴えが、条件成就、承継の事実につき証明文書を付与機関に提出できないときに、債権者のために認められた救済方法であるのに対し、執行文付与に対する異議の訴えは、条件成就や承継の事実が法27条に基づく文書によって証明がなされたとして、条件成就執行文や承継執行文が付与された場合において、債務者が、その条件成就の事実や執行当事者の承継の事実を争う場合に認められた債務者のための救済方法である。いわば、執行文付与の訴えと裏腹の関係にあるが、付与の訴えはまだ付与されない執行文の付与を求めるのに対し、付与に対する異議の訴えはすでに付与された執行文のいわば取消しを求める点において若干取扱いを異にするのはやむをえない。
 債務者は、執行文付与に対する異議の訴えによって争うべきものであるが、前述の執行文付与に対する異議の申立てによっても争うことができると解すべきものであろう。
 この訴えの管轄裁判所は、執行文付与の訴えにおけると同一である。
 この訴えの性質についても、執行文付与の訴えにおけると同様、旧法下において確認訴訟説と形成訴訟説の対立があったが、付与の訴えにおけると異なり、すでに執行文の付与された債務名義の正本に基づく強制執行の不評を求めることを要し、これを認容する強制執行不評の判決により、債務名義の執行力を消滅させ、または執行文の効力を排除することになるので、形成訴訟説が有力であった。現法下においても同様に解されよう。
 執行文付与に対する異議の訴えは、条件成就や承継の事実を争うのであって、実体上の原因に基づくものである。しかし、この訴えは、執行文の効力を争うものであるので、本来は執行文付与に対する異議の申立てをもって争うべき執行文付与に関する形式的要件の欠訣事由も、この訴訟において主張できると解すべきであろう。
 なお、執行文付与の訴えにおけると同様に、執行文付与に対する異議の訴えにおいて、債務名義に表示された請求権の不存在、消滅の事由を主張できるかの問題がある。これらは、本来、請求異議の訴えによるべきものであるが、執行文付与に対する異議訴訟においても、請求権の現存しないことが明らかであるかぎり、これを参酌すべきは当然であるから、請求権の存否に関する事由も異議事由として認めるべきものである。
 この訴えについては、数個の異議事由があるときは、同一訴訟で同時に主張しなければならない。その理由は、訴訟手続の遅延を避け、訴訟経済をはかるためにある。このため、債務者は、執行文付与に対する異議に関して別訴を提起できず、またこの訴えについて判決が確定したときは、この訴えの口頭弁論終結前の異議事由は、別訴で主張することができなくなる。
 この訴えにおいては、債務者(原告)が異議事由を主張するを要するが、その主張についての立証責任は債権者(被告)が負担し、債権者(被告)は条件成就の事実または承継の事実を立証しなければならず、その立証ができないときは、債務者(原告)の請求は認容され、その執行文の付与された債務名義の正本に基づく強制執行の不許を宣言する判決がなされることになる。この訴訟における条件成就や承継の事実の判断は、口頭弁論終結時を基準にしてなされることはいうまでもない。
 執行文付与に対する異議の訴えの提起があっても強制執行が停止されることはない。債務者としては、強制執行手続が終了してしまっては、訴えの目的が達せられないから、強制執行の停止をしておく必要がある。
 現法も旧法と同じく、仮処分による執行停止の制度を認めている。すなわち、執行文付与に対する異議の訴えの提起があった場合において、異議のため主張した事情が法律上理由かおるとみえ、かつ事実上の点について疎明があったときは、受訴裁判所は、申立てにより、終局判決をするまでの間、担保を提供させもしくは提供させないで強制執行の停止を命じ、またはこれとともに、担保を提供させて強制執行の続行を命じ、もしくは担保を立てさせてすでにした執行処分の取消しを命ずることができる。急迫の事情があるときは、受訴裁判所の判断を受けている余裕がないので、裁判長は前述の執行停止等の仮の処分をすることができる。 この執行停止の裁判については、迅速を要するので、口頭弁論を経ないですることができる。
 また、これらの事由があって、かつ急迫の事情があるときは、執行裁判所も申立てにより、訴えの提起前でも、この裁判をすることができる。この場合には、受訴裁判所の執行停止の裁判の正本を提出すべき期間を定めて、この仮の処分としての執行停止の裁判を命じなければならない。この執行停止は、本来受訴裁判所がなすべきものであり、執行裁判所は緊急処置として、この裁判をするものであるからである。この提出期間を経過したとき、または期間内に受訴裁判所による執行停止の裁判が執行裁判所または執行官に提出されたときは、執行裁判所のした執行停止の裁判の効力は失われる。
そして、受訴裁判所または執行裁判所の執行停止の裁判に対しては、旧法ではこの種の裁判に対し不服申立てができるかどうか争いがあぅたが、現法では不服申立てを認めないことにした。
 これらの仮の処分は、執行文付与についての異議訴訟の終局判決において、これらの仮の処分についての判断がなされるまでに限ってその効力を有する。したがって、受訴裁判所は、執行文付与に対する異議の訴訟についての終局判決をするときは、その終局判決中において、これらの仮の処分を認可し、取り消し、変更する旨を命じなければならず、また、これらの仮の処分がなされていないときは、その仮の処分を命ずることができる。
 この終局判決における仮の処分に関する裁判については、職権で仮執行の宣言を付さなければならない。この仮の処分についての裁判に対しては、本訴で争われるべきものであるので、独立して不服を申し立てることはできないものとされている。

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