強制執行の要件

 債権者が強制執行を求めるためには、執行機関に対し執行の申立てをする必要があるが、民事執行の申立ては書面でしなければならない。この債権者の申立書には、次に掲げる事項を記載し、執行力のある債務名義の正本を添付しなければならない。すなわち、申立書には、債権者および債務者ならびに代理人の表示、債務名義の表示、民法414条2項本文または3項に規定する詣求にかかる強制執行を求めるときは求める裁判、強制執行の目的とする財産の表示および求める強制執行の方法および金銭の支払を命ずる債務名義にかかる請求権の一部について強制執行を求めるときはその旨およびその範囲を記載しなければならない。この申立事項の具体的な記載については、各強制執行の申立書のところで述べることとし、ここでは一般的な要件について説明する。

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 債権者、債務者は、債務名義の執行文に表示されている者を表示する。氏名・住所を記載し郵便番号を表示するのが望ましい。債務名義上の住所に変更のあるときは旧住所と新住所を記載する。債権者、債務者の住所の記載は要件ではないが、執行当事者の同一性の確認と同執行手続における通知または書類の送達を迅速にするために必要である。
 当事者が法人の場合には、法人の名称、主たる事務所または営業所および代表者の氏名を記載し、これらが債務名義に表示されていても、約1ヵ月内ぐらいの登記簿抄本を裁判所または執行官に提出している。
 債務者が死亡しているときにはその相続人を調査して、その相続人を相手方として表示する。相続人が不明のときは、民法951条により相続財産が法人となるので、民事訴訟法58条、56条の準用により、特別代理人を選任して申立てをすることになる。
 代理人としては、代理をする弁護士、または法令によって裁判上の行為をなしうる支配人、親権者などがあるが、具体的に住所なども表示する。
 現法においては、これらの者のほか法13条により代理人を一般化し、民事訴訟法79条1項以外の者でも、執行裁判所でする執行手続につき代理人になれる道を開いている。しかし、弁護士以外の者が代理人になれるのは、訴えや執行抗告にかかる手続以外の手続についてのみであり、かつ、執行裁判所の許可を受ける必要がある。代理人の許可の申立ては、代理人となるべき者の氏名、住所、職業および本人との関係ならびにその者を代理人とすることが必要であることの理由を記載した書面でしなければならない。
 この代理人許可申立書には、本人と代理人となるべき者との関係を証明する文書を添付する。なお、代理人の許可決定は、その後の事情によって、執行裁判所は、いつでもその許可を取り消すことができる。
 代理人につき資格を制限されるのは、執行裁判所の執行手続についてであって、執行官が行なう手続、すなわち動産執行、有体物の引渡執行、強制競売における売却手続などについては、特別の制限がないので何人でも代理人になることができる。
 債務名義は、一定の私法上の給付請求権とその範囲を表示し、かつその請求権につき法律が執行力を与えた公正文書である。したがって、強制執行の申立には必ずこれを必要とする。
 債権者は、債務名義によって執行請求権を取得するので、執行機関は、債務名義に基づく申立てがあったときは、強制執行をしなければならない。国家機関(執行機関)としては、本来執行手続に積極的に関与するのは好ましくないので、現法も債権者の適法な申立てによってのみ執行手続に関与することとし、債務名義の表示と添付を必要とした。したがって、債権者は、執行手続に入るに先立ち、債務名義を取得することを要し、執行手続においては、債務名義の存在を前提として手続を進め、債務名義の効力の有無については、別個に訴訟手続で争わせることとしている。
 旧法における民事訴訟法強制執行編は、確定判決を中心にしてその他の債務名義を準用規定により定めていたので、解釈上種々問題があった。そこで現法は、旧法と異なり強制執行をするために必要な債務名義を列挙することにし、債務名義の内容を簡明にした。すなわち、債務名義には次のものがある。
 確定判決・・・確定判決については、確定した給付判決だけが執行力を有し、債務名義となる。
 仮執行の宣言を付した判決・・・仮に執行することができることを認めた終局判決は、仮執行の宣言により判決が未確定であっても、その内容を即時に実現する効力を付与される。仮執行宣言付判決につき免脱担保を許すものについては、旧法では、その執行手続上特別の取扱いを認めていたが、現法はこのような特則を認めていない。
 抗告によらなければ不服申立てができない裁判・・・債務者に給付を命ずる決定で不服申立てが抗告によるものと定められているものには、家庭裁判所の審判、訴訟費用額確定決定、費用の取立決定、新法の引渡命令、間接強制の金銭支払命令等がある。このうち引渡命令のように、確定しなければ効力を生じないものにあっては、確定しなければ執行力を有しないが、その他の給付命令は執行力を有する。
 仮執行宣言付支払命令・・・支払命令は、民事訴訟法438条1項により、支払命令の送達後2週間以内に異議の申立てがないときには仮執行の宣言が付され、執行力を有するに至る。
 執行証書・・・執行証書とは、公証人が債権者、債務者の申立てによりその権限に基づいて作成した公正証書のうち、一定額の金銭の支払または一定数量の代替物もしくは有価証券の給仕を目的とする請求権に関するものであって、しかも債務者が強制執行の認諾をしているものをいう。ただし、公正証書の請求権の有効性については、旧法と同じく解釈上の問題点が完全に解決されていないため争いは残っている。
 確定した執行判決のある外国裁判所の判決または仲裁判断・・・外国裁判所の確定判決または仲裁判断は、執行判決がなされたときは執行力が認められる。執行裁判所は、執行判決を求める訴えが債権者かちあったときは、執行判決において外国裁判所の判決による強制執行を許す旨の宣言をする。執行力を認めるか否かを執行機関の判断に一任すると、執行手続に問題を持ち込むことになり、相当でないと考えられたからである。執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍所在地の地方裁判所が管轄する。普通裁判籍がないときは債務者の財産所在地の地方裁判所が管轄する。執行判決にあたっては、裁判の当否を調査せず、外国判決の確定の有無と民事訴訟法200条の条件具備の有無のみ調査確認し、それが具備されていないときは、これを却下し、具備していれば、強制執行を許す旨を宣言する。なお、仲裁判断についても執行判決を得なければ執行をすることができない。
 確定判決と同一の効力を有するもの・・・和解調書、認諾調書の記載、民事調停調書の記載、損害賠償請求権の査定の裁判、債権者表の記載、家事調停調書の記裁がこれにあたる。
 債務名義は、給付請求権の内容が表示されていなければならない。債務名義の執行力の内容は、債務名義の実体的給付請求権の内容によって決まってくる。すなわち、判決であればその主文によって定まり、その他和解調書や執行証書などはその記載文書によって決まる。債務名義の執行力の内容は、執行機関において確認するのに疑問が生じないよう請求権の種類、裁判や執行の目的物につき特定される必要がある。この特定がないときは、債務名義としての効力を有しない。
 執行申立てにあたっては、どのような債務名義のどの部分につき、どの財産に対し執行するかを表示しなければならない。債務名義を表示ずるには、債務名義に関する事件番号、事件名、係属裁判所、当事者名、判決言渡日などによって具体的に特定する。
 金銭債権についての強制執行は、旧的財産により強制執行手続を異にし、また目的財産が同一でも具体的な数種の執行手続があるので、どの財産につきどの強制執行を求めるかを表示しなければならない。すなわち、現法は、規則21条に通則規定をおき、会則として必要に応じて規則23条(不動産に対する強制執行)、同63条(強制管理の申立て)、同74条(船舶に対する強制執行)、同88条(自動車に対する強制執行の申立て)、同99条(動産に対する強制執行の申立て)、同133条(債権に対する強制執行の申立て)等の規定を設けている。 なお、仮差押の執行、仮処分の執行についても規則21条の通則規定が準用されている。
 したがって、執行申立書には、強制執行の目的財産を特定して表示し、かつ、どの執行手続を求めるかを明らかにしなければならない。たとえば、不動産につき執行を求めるときは、登記ある不動産については不動産登記簿表題部の表示のとおりに記載し、登記がされていない不動産についてはその物が債務者の所有にかかる事実を証ナる文書に表示のとおり記載し、かつ、強制競売の方法によるか強制管理の方法によるかを表示する。
 次に、金銭の支払を命ずる債務名義にかかる請求権の一部について強制執行を求めるときは、その旨とその範囲を表示することを要する。一部請求のときは、請求債権を、「債務名義に基づく元金何円のうち金何円」として表示する。
 なお、民法414条2項本文、または同条3項に規定する請求にかかる強制執行を求めるには、特にその求める裁判を表示しなければならない。
 強制執行は、債務名義に基づき執行するため、債務名義に表示された当事者が執行手続上の当事者となるのは当然であり、両者は一致しなければならないが、債務名義の成立した後に、債務名義に表示された債務を承継した者に対し、あるいは、債務名義成立後に債務名義に表示された債権を承継した者のためにも強制執行することができる。
 また、執行証書以外の債務名義に表示された当事者が、他人のために当事者となった場合のその他人に対し、またはその他人のためにも強制執行することができる。この場合の他人とは、たとえば、破産管財人が当事者となった場合の破産者、海難救助料請求訴訟において船長が被告となった場合の救助料の債務者、遺言執行者が当事者となった場合の相続人をいう。
 さらに、債務名義に表示された債務者等のために請求の目的物を所持する者に対しても、強制執行することができる。
 このように、執行力の及ぶ範囲は既判力の主観的範囲と一致することが好ましいが、特に判決以外の債務名義のうち和解、認諾、調停調書、公正証書等については、解釈上疑義があったので、現法は、執行債権者と執行債務者とを債務名義の種類、すなわち執行証書とそれ以外のものに区分して、具体的に執行当事者の範囲を定めた。
 なお、規則は、強制執行開始後に申立債権者の承継があったとき、承継人が自己のために引き続いて強制執行の続行を求めるときは、法27条2項に定める承継執行文の付与された債務名義を執行裁判所または執行官に提出しなければならないこととしている。そして執行裁判所の書記官または執行官は、承継執行文の付与された債務名義の正本が提出されたときは、そのことを債務者に通知しなければならないものとされている。

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