強制執行と執行機関

 強制執行は、債権者の申立てによって、債務名義に表示されている私法上の給付請求権を、国家が、その執行機関をして、債務者に対し、国家権力の強制力を発動してその実現をはかる法律上の手続であり、民事執行のなかで債権者の債権回収方法としては最も基本的な手段である。
 強制執行では、私法上の給付請求権の強制的実現をはかることを目的としていることから、その性質に適合しない権利は強制執行の対象に入ってこない。たとえば、代替性のない債務すなわち夫婦間の同居義務とかステージで演奏する債務などは、強制執行をすることはできない。なお、旧法においては、これまで執行費用や罰金、科料などの財産刑の執行など公法上の給付請求権については、取扱いの便宜上から強制執行手続を利用してきていたところ、現法では強制執行の本来的目的のためこれらの強制執行は、その範囲から除外された。
 強制執行は、債権者の申立てにより進行していく手続であるため、債権者が国家に対しその強制力の発動を求める権利を行使することによって、段階的に進んでいくことになる。
 現法は、民事執行に関する基本法として制定されている。新法の目的は、その制定理由にも宣言されているように、執行手続の簡単明瞭にして、かつ的確迅速な債権回収の実現をはかることにある。
 そのため、民事執行法は、すべての民事執行に適用されるのを原則とするが、執行手続によっては、その手続の特殊性により、他の法令をもって別途に異なる取扱いをすることまで禁止するものではない。したがって、その特例として、主なものには鉄道財団抵当権の実行について規定する鉄道抵当法がある。その他、軌道財団・運河財団の抵当権の実行についても鉄道抵当法と同じく執行手続について具体的に規定している。さらに、現法の適用の特例としては、最高裁判所規則で登録自動車、既登記の建設機械および登録航空機について、それぞれの自動車その他の目的物につき強制執行、仮差押えの執行、担保権の実行につき、具体的な手続が定められている。
 現法においては、特に法1条において民事執行の範囲を定め、法1条から21条までは民事執行に関する総則を定めている。したがって、各個別の民事執行即ち強制執行、仮差押えおよび仮処分の執行ならびに担保権の実行としての競売につき、各執行手続の特別規定が存在しない以上は、上記総則規定が適用される。

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 現法で規定されている民事執行の範囲は次のとおりである。すなわち、その1は、判決その他の債務名義により執行手続がなされる強制執行であり、その2は、仮差押命令または仮処分命令に基づく執行であり、その3は、質権、抵当権等担保権の実行としての競売であり、その4は、民法その他の法律の規定による換価のための競売である。このように民事執行法は、旧法の民事訴訟法第6編と競売法を一つにした法律である。
 現法は、旧法における強制執行手続と任意競売手続との関係においても種々の解釈上、取扱い上の難点があったので、債権者が強制力によ暴金銭債権の回収を実現する方法として、執行手続を、強制競売、任意競売の二元構造にしておくより、手続のより一層の簡明迅速化により、債権者の権利実現の実効性をはかることをめざしている。したがって、執行裁判所や執行官は、その目的に沿って執行手続を進めるのであるが、従来は、ともすると、強制執行手続の過程や任意競売の実行手続において、債務者が倒産したときなど、債務者と一部債権者の通謀や虚偽の金銭債権などによる配当要求などにより、実際に種々の弊害や支障が発生し、ひいては、競売ブローカーなどが暗躍し種々の執行妨害手続も行なわれ、特に、高度経済成長の時代にそれが顕著にあらわれてきた。そこで、現法は、債権者と債務者の利益の公平をはかるため、特に、適正な売却価格の決定や買受人の地位の保障と債務者の保護につき配慮している。
 民事執行は、債権者の申立てにより裁判所または執行官が行なうことになっている。この申立てについては、現法では旧法と異なり、必ず書面によって行なうことになっている。
 執行機関は、執行裁判所と執行官である。したがって、強制管理の管理人などは種々の権限をもってはいるか、執行機関ではなく、執行裁判所の補助機関である。
 執行裁判所に関しては、現法は、法3条によってその管轄をそれぞれ定めている。すなわち、具体的な手続によって執行処分を行なうところの執行裁判所が異なってくる。たとえば、不動産執行に関しては、不動産所在地を管轄する地方裁判所が、債権執行については原則として債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、また不動産に対する仮差押えの登記をする手続による仮差押えの執行に関しては仮差押命令を発した裁判所(地方裁判所、高等裁判所、簡易裁判所等)が、代替執行、間接強制に関してはその命令を発した裁判所(地方裁判所、高等裁判所、簡易裁判所等)が執行裁判所となる。また、執行官が行なう執行処分(差押え等の処分)に関しては、その執行をすべき地または執行行為をした土地の地方裁判所ではなく、その執行処分をすべきまたは執行処分をなした執行官の所属する地方裁判所が執行裁判所となる。
 金銭債権に関して、動産に対し、強制執行をするのは執行官である。したがって、動産に対する強制執行をしようとするならば、執行官に対してその申立てをしなければならない。しかしながら、その執行官は、原則として、所属の地方裁判所の管轄区域内においてその職務を行なうことになっているため、動産の強制執行の申立てをなすには動産の所在地を管轄する地方裁判所に属する執行官に対して申し立てることになる。また、執行官が同時に差し押えようとする数個の動産の所在する場所が、所属する地方裁判所の管轄区域の内外にまたがっているときは、管轄区域外にある動産についても差押えをすることができる。
 以上のように、強制執行手続においては、一定の執行機開か申立てによりその手続を開始していくのであるが、執行機関は、前述のように、強制執行の種類によって異なる。すなわち、不動産執行にあっては、原則として、その所在地を管轄する地方裁判所が執行裁判所として手続を行ない、建物が数個の地方裁判所の管轄区域にまたがって存在する場合には、その建物の存する土地の所在地を管轄する各地方裁判所が、その土地に対する強制執行については土地の所在地を管轄する地方裁判所または建物に対する強制執行の申立てを受けた地方裁判所が手続を行ない、また必要があると認めるときは事件を他の管轄裁判所へ移送することになる。船舶に開する強制執行は、強制競売の開始決定の時の船舶の所在地を管轄する地方裁判所が執行裁判所として手続を行ない、動産に対する強制執行については、前述のとおり所轄の地方裁判所の執行官が行ない、債権およびその他の財産権に対する強制執行にづいては、原則として債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、普通裁判籍がないときは差し押えるべき債権の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として行なうことになっている。
 一般に、普通裁判籍については、債務者が自然人の場合にはその住所によって決まり、日本に住所がないときまたは住所が知れないときは居所、居所が不明のときは最後の住所によって定まる。債務者が法人その他の団体のときは、その法人の主たる事務所または営業所、その営業所もないときは主たる営業担当者の住所によって定まることになる。
 各執行機関の執行手続をどの執行機関に行なわせるのかを定める職分管轄については、特別の定めをしていないかぎり、地方裁判所の権限に属することになる。
 強制執行による管轄は、職分管轄、土地管轄であるとを問わずすべて専属である。この管轄は、当事者間の合意によって管轄を決定することができる一般訴訟事件と異なり、管轄区域外の地方裁判所への申立ては管轄裁判所へ移送されることになる。
 執行管は、官署としての地方裁判所に配置され、法律に定めるところに基づき、裁判の執行、裁判所の発する文書の送達、その他の事務を行なう独立かつ単独の司法機関であって、同名の国家公務員によって構成されている。
 執行官は、独立の執行機関であり、一種の司法機関であるため、執行官の職務は固有のものであって、裁判所またはぞの補助機関ではないから、その権限を裁判所が代行することはできない。
 債権者と執行官の関係は、私法上の権利義務関係ではなく、執行官は、債権者の執行申立てがあれば国家機関として独自の判断に基づき執行官の責任においてその権限を行使する。
 執行官は、民事執行の申立てがあるとすみやかに民事執行の開始する日時を定めて、申立人が通知を要しない旨を申出た場合を除き、申立人に民事執行の開始日時を通知しなければならない。その日時は、やむをえない事由がある場合を除いて、申立てがあった白から1週間以内の日としなければならない。
 執行官は、民事執行を実施したときは執行調書を作成する。その記載事項は次のとおりである。すなわち、民事執行に着手した日時およびこれを終了した日時、民事執行の場所および目的物、民事執行に立ち会った者の表示、実施した民事執行の内容、民事執行に着手した後これを停止したときはその事由、民事執行に際し抵抗を受けたときはその旨およびこれに対してとった措置、民事執行を続行することとしたときはその事由等を執行講書に記載しなければならない。
 執行官は、作成した調書に民事執行に立ち会った者の署名・押印をさせることを要し、その者が署名・押印しなかったときは、その事由を調書に記載しなければならない。この執行調書の作成は、配当の実施については適用されない。また執行官は、民事執行の手続を取り消したときは、民事執行の申立人に対しその理由を通知しなければならない。
 執行官は、執行の申立てがあると、執行現場に出向き執行行為をなすが、その職務執行に際して債務者および利害関係人から抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するため正当行為として実力行使をなし、また警察上の援助を求めることができる。
 執行官は執行現場において必要あるときは債務者の占有している建物に実力で立ち入ったり、門、戸扉などを開くなどの必要な行為をなすことが認められている。
 執行官以外の者で執行裁判所の命令により執行をする補助機関としては、評価人、強制管理人。、船舶保管人などがある。これらの者がその各職務執行に関して抵抗や妨害を受けたとき、その抵抗などを排除しなければならない必要が生じたときは、執行官の援助を求めることができるものとし、この場合、執行官は、自ら威力を用いまだは警察上の援助を求めてこれらを排除する。また、代替執行手続において授権により執行を行なう者は、新法における執行裁判所の命令に基づき職務執行をする者ではないけれども、代替執行手続をより的確かつ迅速に進行するため、上記と同様に執行官に対して援助を求めることができる。
 そのほか執行官には、動産執行および動産引渡執行における任意弁済の受領権が認められている。
 執行裁判所は、貴権者の申立てがあると、口頭弁論を経ないで、強制執行の要件に合致した適法な申立てであるか否かを申立添付書類の疎明により決定または命令の形式で裁判をすることができる。口頭弁論を経ないで裁判することができるようにしたのは、執行処分の性質上手続の迅速・密行を要するためで、執行手続についてのみ適用され、請求異議の訴えその他の訴訟手続における談判に法4条の適用のないことはいうまでもない。現法においては、執行裁判所が、裁判その他の執行処分をするにつき事実関係の調査をしなければならないときに、そのつど口頭弁論期日を開き審理しなければ証拠調べができないのでは、強制執行手続の特殊性からして好ましくないので、口頭弁論を開くか否かにかかわらず、簡易かつ迅速な手続により証拠収集ができることにし、その場合には、当事者その他利害関係を有する参考人を審尋することができるものとしている。
 執行裁判所は、個々具体的な執行処分をなすにつき事実調査の必要のあるときは、利害関係を有する者その他参考人を審凪することができるのであって、事実調査のできる範囲を拡大し、執行裁判所の権限を強化したものといえる。
 執行裁判所の審尋に応じない者または虚偽の供述をした者に対しては、過料に処することができるものとされている。このような取扱いになっているため、審尋に出頭した者に対しては、民事訴訟費用等に関する法律により旅費日当を支給することになる。
 そして、執行裁判所は、裁判が申立てにかかる場合には、移送の裁判、執行抗告をすることができる裁判、法40条1項の執行処分の取消しの裁判、同法117条1項の保証の提供による船舶強制競売の手続の取消しの裁判、開法183条2項による不動産競売に関する執行処分の取消しの裁判、仮の処分の裁判については、その裁判が申立てによる場合にはその裁判の申立人および相手方に対して、またその他申立てにかかわらないときは民事執行手続の申立人と相手方に告知しなければならず、上記の裁判以外のものについては、その裁判が申立てにかかるときは申立人に告知しなければならないと定められている。また、執行裁判所の期日については、裁判所書記官は、調書を作成しなければならず、この場合、民事訴訟法143条ないし147条の規定が準用されている。
 執行裁判所の執行手続については、原則として、訴訟手続における送達に関する規定が準用される。すなわち、執行手続についての文書の送達は送達を受けるべき者の住所、居所、営業所においてなされるが、当事者または代理人は、執行裁判所に対し執行裁判所の所在地において送達を受けるべき場所および送達受取人を届け出ることを要し、またはこれを届け出ることができる。この届出を要する場合において、これを怠ったときは、その送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所にあてて書留郵便に付して発送すれば足り、その発送の時に送達があったものとされる。
 民事執行法は、このほかに、執行手続については、執行裁判所に対し申立て等をした者または執行裁判所から文書の送達を受けた者は住所等を変更したときはその変更届をしなければならないものとし、これらの届出をしない者に対する文書の送達は、事件の記録にあらわれたその者の住所、居所、営業所または事務所にあてて書留郵便に付して発送すれば足り、その発送があったときに送達があったものとみなすこととしている。
 なお、執行手続における催告および通知は、適宜の方法によることができるとされている。すなわち、執行官または裁判所書記官は、執行手続において債務者に対して催告、通知をなすには、普通郵便、はがき、口頭、電話などにより意思表示をなすことができ、催告または通知をしたときは、その旨およびその方法を記録上明らかにしておかなければならない。これは、執行手続に多数の利害関係人が関与するため、書面によって明らかにしておく必要かおるからである。また催告は、これを受ける者の所在が明らかでないとき、またはその者が外国にいるときは催告すべき事項を公告してすれば足りる。この公告による催告は、公告してから1週間を経過したときに効力が生ずることになっている。
 このように、催告の公告手続につき特則を設けたのは、やはり執行手続の迅速化と催告ができないで手続かずみやかに進行しない弊害を除くためである。
 民事執行規則に基づく通知は、これを受けるべき者の所在が明らかでないとき、またはその者が外国にあるときはすることを要しない。この場合には、特に裁判所書記官または執行官においてその事由を記録上明らかにしなければならない。このような場合につき特例を認めたのは、執行手続としてそれほど重要な手続ではないからである。
 ところで、規則3条3項の公告による催告は、法173条3項の意思表示の擬制等の裁判に関する執行文付与の裁判に関する文書提出の催告については適用されない。すなわち、債務者の意思表示が、債務の履行その他債務者の証明すべき事実のないことにかかる場合において、執行文付与の申立てがあったときは、裁判所書記官から一定の期間を定めて事実を証明する文書の提出を催告するが、この場合には、公告をしただけでは足りず、法16条による送達または公示送達の方法によることになる。
 また、規則3条5項の規定は、規則56条2項の買受人に対する代金納付期限の通知、規則59条3項の配当期日の日時および場所の通知については、適用されない。これらは重要な通知であるので、法16条ないしは公示送達によることとなる。
 民事執行の手続における公告は、公告事項を記載した書面を裁判所の掲示場その他裁判所内の公衆の見やすい場所に掲示して行なう。裁判所書記官または執行官は、公告したときはその旨および公告年月日を執行記録に明らかにしておかなければならず、また、担当と認めたときは、公告事項の要旨を日刊新聞紙に掲載することができる。

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