仮登記担保の提供者あての実行通知

 民法は、仮登記担保権者がその契約により被担保債権の回収のため、代物弁済契約に基づき、目的物件の所有権を取得するための要件として、一定の通知の発送を要件としている。その第1は、仮登記担保権の設定者に対する実行通知であり、第2は後順位担保権者としての利害関係人に対する実行通知であり、第3は後順位担保権者以外の登記上の利害関係人に対する実行通知である。このうち第2と第3の利害関係人に対する通知は、該当者がない場合は不要であるが、設定者に対する通知は必ず必要である。
 これらの通知は、従来、仮登記担保が仮登記担保権者による目的物件の価値の丸取りになっていたという欠点を是正するためになされるものである。すなわち、この実行通知から2ヵ月の清算期間内は、本登記する権利が生じないこととし、その間に債務者は被担保債権を弁済することにより、本登記されることを防止でき、利害関係人は自己の権利の保全をはかることができることにし、それにより債務者や利害関係人の利益の保護がはかられることとなる。
 なお、この清算期間の起算日は、この提供者あての実行通知の到達した日ということになる。

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 提供者あての実行通知は、代物弁済の予約など仮登記担保に関する契約を締結した者、すなわち仮登記担保契約の登記の日現在の所有権者に対してすることを要する。その後日的物件の所有権が第三者に移転していたとしてもその第三収得者は本登記をするときの利害関係人であり、提供者の実行通知の相手方ではない。
 この通知の可能なのは、法的には「所有権を移転するものとされている日以後」でなければならないとされているので、それ以前になした実行通知は、実行の要件としての通知の効力は生じない。そして、その日とは、予約方式の場合は予約完結を行使した日であり、停止条件方式の場合は条件成就の日である。
 もっとも、特に「以後」となっているため、予約完結権行使の通知と同一文書により通知しても、それをもってこの通知の効力は認められる。
 通知の内容は、通知事項に定めがあること、通知が提供者に到達しないと効力が生じないこと等の理由から、法は特に文書による通知まで要求していないが、後日その内容や到達の有無について争いの生じないよう、配達証明付内容証明郵便によるべきである。
 なお、万一、通知すべき相手方が居所不明などで送達できなかったときは、この通知が民法の原則から到達主義となっているため、公示送達の方法による必要がある。単に登記上の住所にあてて発信したからといって、その効力が生ずるわけではなく、しかも提供者との間で「みなし送達」などの特約があってもこの通知には適用されないと解されるので、注意しなければならない。
 また、提供者が合併や相続開始によって、その承継会社や相続人に変わっている場合は、その合併や相続により所有権を取得した者に対してなすことを要する。相続の場合、債務の相続をした者が散人あったとしてもこの実行通知の相手方は、相続により本登記義務を承継した者、すなわち相続人のうち特に当該物件の所有権を相続により承継した者に対してのみ通知をすれば足りる。ただし、共同相続の場合には、その全員に通知しなければならないものと解される。
 この実行通知は、一度提供者に送達されると、原則として以後その意思表示の撤回はできないものと解されている。これは、この通知により清算金債務の発生など各種の法律関係が生じることとなるので、それを安易に撤回できるとしたのでは、利害関係人の権利関係に大きな影響を生ずることになるし、しかも法がこの通知の拘束力を定め、一度通知された内容を後で提供者に不利に変更をすることを禁じたことが、この撤回という方法により容易に変更できる結果を生ずるからである。
 ただし、利害関係人の権利を害するときは撤回できないと解すべきであり、そのような事情がない場合は、特にこれを禁止する必要もないであろう。
 提供者あて実行通知が提供者に到達した場合の効力としては、まずその通知の内容について拘束力が生ずるとともに、清算期間に入り、しかも提供者から担保権者に対する清算金支払請求権が発生することになる。
 拘束力とは、いったん提供者に通知した実行通知に記載されていた清算金の額を、担保権者の都合で減額させることはできないということである。 ただし、増額させることは、関係人の利益にこそなれ、損害を与えることはないので、可能であると考えられる。
 ただ、これはあくまでも清算金の見積額であり、清算期間が満了して現実に担保権者が支払うべき清算金の額、または代物弁済により消滅すべき債権の額は、必ずしもこの見積額によって提供者が拘束されるものではない。債務者や担保提供者などは、その額について争うことは可能である。その意味から、後順位担保権者仏その見積額に不満があれば、担保権実行等の手続によって争えばよく、その見積額の不足を理由に争う権利は認められない。
 そこで、担保権者としては、この見積額の査定にあたっては、低すぎることはあっても、高く見誤ることのないようにすべきである。しかし、この見積額が低すぎると、後順位担保権者が目的物件の競売の申立てをする可能性が強くなり、仮登記担保権者は本登記することができなくなるおそれを生ずるので、その点も考慮してこの見積額を決定する必要がある。
 次に、この通知により2ヵ月の清算期間の進行が始まることになる。この清算期間に入ると、仮登記担保権者はその清算金を提供者に支払うことが禁じられ、たとえ支払ったとしてもそれをもって後順位担保権者に対抗することはできず、また清算金の支払を受ける提供者伝その間に清算金に対して質権を設定したり、第三者に譲渡することが禁じられている。
 これは、清算期間内に後順位担保権者がその清算金に対して物上代位しようとしたところ、それがすでに支払済であったり、譲渡、質入などにより物上代位できないことの生じないよう、法が特に後順位担保権者の利益を保護したものである。
 ということは、この実行通知により、通知書に記載された清算金の支払債務が発生するものといえよう。ただ、この債務の弁済期は当然この清算期間満了であり、しかもそれは本登記と同時履行の関係にあるということになる。
 担保提供者あて実行通知には、次の事項を記載しなければならない。
 仮登記担保の性質は、法によりすべて帰属清算型の代物弁済契約とされているところから、その権利を実行するためには、代物弁済となる物件の価額をいくらにするかということが、弁済になる債権の額にも関係してくるので必要となる。
 その目的物件が複数のときは、各物件ごとに代物弁済の効力が生ずるのであるから、原則としてそれぞれ別々に評価しなければならない。物件によって後順位担保権者が異なるような場合には、その者との関係でも物件ごとの評価が必要になるのである。
 この評価は、担保権を実行する仮登記担保権者が自主的に査定することができる。ただ、その評価額が高すぎればそれだけ担保権者は損をし、低すぎれば提供者や債務者、後順位担保権者から異議が出て、本登記を受けることが困難となる。
 そこで、提供者等から本登記をするのに協力を受けやすくするためには、少なくとも競売になったときの最低売却価額より高めの価額であることを要し、できれば不動産鑑定士など信荊ある鑑定業者の評価書により査定すべきであろう。
 その場合、実行しようとする仮登記担保の仮登記に優先する担保権が登記されていれば、その分は仮登記担保権を実行しても抹消登記がなされないので、目的物件自体の価額からその分を控除して見積価額を査定する必要がある。ただ、本登記後に先順位担保権の被担保債権を、その債務者が弁済すると、それだけ目的物件の価値が上がり、仮登記担保権者は利得する結果を生ずる。
 そのようなことが十分予測されるような場合には、後順位担保権者がそれを理由に、競売の申立てをしてくる可能性があるので、その点は注意を要する。
 なお、この見積額は、いったん提供者に通知してしまうと、後で減額する変更が認められていないことは前述のとおりである。
 代物弁済であるから、目的物件の所有権を移転させることにより、弁済に充当する債権を特定する必要がある。
 特に、目的物件の価値が債権額以下であれば、それがいくら充当されるか明らかにする必要があるとともに、その債権が複数あるときは、そのどの債権に充当するか、実行通知において明らかにしないと、提供者なども困るであろうし、法律関係が明確にならない。
 この債権は、担保権の被担保債権と立替費用ということになっている。もちろん、極度額の定めのある根担保契約であれば、その被担保債権はその極度額の範囲内に限られる。
 立替費用とは、担保提供者が本来負担すべき費用であるものを、担保権者が提供者に代わって支払った費用のことで、しかもこれは代物弁済のため直接必要なものに限られる。この契約および担保権実行に関係ない立替え分までこれに含めることはできない。
 この債権の表示は、金額だけでなく、債権の内容まで記載すべきである。もちろん、目的物件が複数のときは、その債権も各物件ごとに分けて記載するのであるが、その場合どの物件にいくらの債権を割り付けるかは、仮登記担保権者の自由な判断によって決めることができるので、最も有利な方法により割り付ければよい。必ずしも平等に按分する必要はない。
 上記を記載することにより、当然各物件ごとの清算金が算出できるので、その額を記載しなければならない。
 その清算金がゼロとなるときは、「清算金なし」と明記すべきである。
 なお、これはあくまでも見積額であり、提供者はその額に不満があれば、その額を争う権利まで失われるものではない。

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