競売手続きの開始

 競売の申立てがあれば、執行裁判所は申立ての要件を審査し、要件が欠けていれば決定をもって競売申立てを却下し、要件が満たされていれば競売開始決定をする。
 抵当権の存在を立証する文書は法定され、これらの文書の提出されないかぎり、競売申立ては却下されるし、反面、これら文書の提出がなされれば、抵当権の存在についての実体判断をすることなく、競売開始決定がなされる。
 競売の開始決定には、債権者、債務者、所有者の氏名・住所、代理人の氏名・住所、競売の目的不動産の表示、抵当権および被担保債権としての請求債権の表示を記載し、競売手続を開始する旨および債権者のために目的不動産を差し押える旨を宣言して、決定の年月日を記載し、決定した裁判官が署名捺印または記名捺印する。開始決定中に、債権者、債務者、所有者の氏名・住所が欠けていても、決定書の記載自体から、これらの者が何人であるかが認められるかぎり、開始決定は有効であるし、その他の記載事項についてもその同一性が認められ、ないしは特定され、またはその記載が認められるかぎり有効である。
 開始決定において、債権者のために不動産の差押えを宣言するのは、開始決定によって処分制限の効果の生ずることを明らかにするためである。
 開始決定は、職権で、債務者および所有者に送達される。債務者および所有者に対する送達が所在不明によりできなかったときは、公示送達によることを要し、法16条の送達の方法によることはできない。
 開始決定による差押えの効力は、強制執行において債務者に対する送達のときに生ずるのと異なり、所有者に対する送達のときに生ずると解される。

スポンサーリンク

 抵当権の実行としての競売においても開始決定は差押えの効力を有し、開始決定中に債権者のために差し押える旨を宣言すべきものとされ、差押えの効力は、開始決定が所有者に送達された時、または差押えの登記が開始決定の送達前にされたときは登記がされた時に生ずるとされている。
 差押えは、目的物に対する処分禁止の効力を有するから、以後、所有者は、目的不動産に対するいっさいの処分を禁止される。この差押えの効力は、申立債権者に対する関係でのみ生ずるから、これに違反してなされた所有者の処分行為は、他の債権者に対する関係ではその効力を有する。しかし、申立債権者による競売手続が行なわれているかぎり、この手続に開しては、所有者の処分行為は無視され、なかったものとして扱われる。すなわち、開始決定による登記後、所有者による処分行為があって所有名義が変更しても、その競売手続は旧所有者を相手方として進められるから、他の債権者は、その競売手続に配当要求の方法により参加して換価代金より配当を受けられるが、新たな強制競売または担保権実行による競売の申立ては、旧所有者を相手方としてすることはできず、新所有者が相手方となる。また、申立債権者による競売申立てが取り下げられ、または開始決定が取り消されて競売手続が終了すれば、所有者の処分行為はすべて有効となる。
 その意味において、この差押えの効力は、申立債権者に対する関係で相対的効力を有するといい、かつ、その競売手続に関するかぎり第三者に対してもその効力を有するので、手続的相対効とも呼ばれる。
 所有者は、競売の開始決定があっても、その不動産の利用および管理を妨げられないから、第三者に賃貸することも許される。しかし、その賃貸借は、たとえ短期賃貸借であってもその期間経過後は抵当不動産の競落によって消滅する。
 差押えの効力の及ぶ範囲は、抵当権の効力の及ぶ範囲と一致する。したがって、先にのべたように、従物・付属物・差押え後の天然果実、立木法の適用を受けない立木についても差押えの効力が及ぶ。
 競売の申立てを却下する裁判に対しては執行抗告をすることができるが、開始決定に対しては執行異議の申立ての方法により、債務者および所有者は、抵当権の不存在または消滅を理由として執行異議の申立てができる。
 競売申立てにあたっては、抵当権の存在を証する確定判決・家事審判その他の裁判上の調書・公正証書の謄本または抵当権の登記のある登記簿謄本の提出を要し、承継した抵当権に基づく競売申立てにあっては、相続その他の一般承継を証する文書または特定承継を証する裁判の謄本その他の公文書を提出することを要し、抵当証券の所持人が競売申立てをするには抵当証券の提出を要する。
 これらが提出されたときは、競売開始決定がなされ、裁判所書記官は、開始決定を債務者および所有者に送達することを要するが、同時に、競売申立てにあたり提出された文書の目録をこれらに送付しなければならない。
 競売開始決定があったときは、裁判所書記官は、ただちに、その開始決定にかかる差押えの登記を管轄登記所に嘱託する。嘱託は登記嘱託書をもってなし、競売の開始決定正本を添付する。管轄登記所登記官は、嘱託の趣旨にしたがって登記する。未登記不動産に対して差押登記の嘱託があれば、職権により、表示の登記または所有権保存登記をしたうえで、差押登記をする。
 登記官は、差押登記後、嘱託書に添付された競売の開始決定正本に登記済の旨を記載し、登記所の印を押捺して、これを差押登記のある登記簿謄本とともに執行裁判所に送付する。
 差押登記は、競売開始決定のあったことを公示し、第三者が差押登記後に権利を取得しても、申立債権者および買受人に対抗できないようにするためである。開始決定による差押えの効力は、所有者に対する開始決定の送達の時または差押登記のいずれか早い時に生ずる。
 従来は、すでに強制競売または担保権実行による競売の開始決定がなされた不動産に対し、重ねて強制競売または担保権実行による競売の申立てがなされたときは、重ねて開始決定をすることなく、単にこの後になされた競売申立事件の記録を前の競売事件の記録に添付するにとどめ、この記録の添付によって配当要求の効力があるとし、これを「記録添付」と称していた。
 このような制度は、いったん開始した手続が途中で取り下げられたり、取り消されたりすることのない制度のもとでは合理性があるが、そのような保障のないわが国法制のもとでは、記録添付された競売申立てが公示されていないことから、きわめて不都合な結果を生じていた。すなわち、記録添付後に、先行の競売申立てが取り下げられ、または開始決定が取り消されると、記録添付にかかる事件について競売手続が進行するが、この事件の進行している間は、先の事件につきなされた競売申立ての記入登記は、その事件がすでに取下げまたは取消しにより終了しているにもかかわらず、依然として、後の記録添付にかかる事件のために存続するという結果になっていた。
 そのことは、その登記が記録添付債権者のために存続しているにもかかわらず、記録添付債権者は、不動産登記法上にいわゆる「登記上の利害関係者」でないから、ある登記をなすについて登記上の利害関係者の承諾を要する場合にも記録添付債権者の同意を要しないという奇妙な結果を承認せざるをえないし、また、先の競売申立ての取下げまたは開始決定の取消しの事実を知って、当該不動産につき取引関係に入る第三者に不測の損害を与えるおそれもあった。しかも記録添付の効力の発生時期についても競売申立てのときか、記録添付のときか、現実に記録添付をしたときか、解釈も分かれる結果となっていた。
 そこで、すでに強制競売または担保権実行による競売の開始決定のあった不動産について、重ねて競売申立てのあったときでも開始決定をし、かつ、差押登記の嘱託登記をすることとされた。しかし、その後の換価手続を二重に進める必要はないので、後の申立債権者のための、それ以後の手続は行なわれず、後の申立債権者は、先行競売手続の換価代金から配当を受けられるにとどまる。
 抵当権実行による競売と滞納処分とが競合するときは、「滞納処分と強制執行等との手続の調整に開する法律」、「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する政令」、「滞納処分と強制執行等との手続の調整に開する規則」によって規制されている。
 滞納処分による差押えがなされている不動産に対しても競売の申立てができる。この場合、執行裁判所は競売開始決定をなし、裁判所書記官は差押登記の嘱託をなし、かつ、徴収職員らに開始決定のあった旨を通知する。この通知は、当該不動産に対し開始決定をした旨およびその年月日そのほか所定の事項を記載した書面でする。
 しかし、その後の競売手続は、すべて滞納処分による差押えが解除された後でなければすることができない。これらは滞納処分による差押換価手続にまかされている。
 滞納処分による差押換価手続が停滞しているときは、競売申立債権者としては、競売手続を進行してもらう必要がある。
 この場合、申立債権者は、執行裁判所に対し、競売手続の続行決定の申請をする。続行決定の申請は、次の場合にすることができる。
 法令の規定またはこれに基づく処分により滞納処分の手続が進行しないとき、国税徴収法159条1項、国税通則法38条3項、地方税法16条の4第1項の規定による差押えがされているとき、相当期間内に公売その他滞納処分による売却がされない場合において、すみやかに売却をすべきことを徴収職員等に催告したにかかわらず、その催告の効果がないとき、続行決定の申請があれば、執行裁判所は、徴収職員等の意見を聞き、所有者を審尋して、相当と認めるときは続行決定をする。続行決定がなされると、先行の滞納処分は競売開始決定後になされたものとみなされ、競売手続を進行させることができる。なお、続行決定に対しては不服を申し立てられない。
 滞納処分に参加差押えがなされている場合には、参加差押えは交付要求の効力を有するにすぎないから、参加差押えをしている徴収職員等に対しては、競売開始決定がなされた旨を通知する必要はない。また、競売開始決定の前に参加差押えがなされていても参加差押えの効力は競売開始決定の時以前にさかのぼらないから、先行の滞納処分が解除されれば、競売手続は続行決定を要しないで進行される。
 競売手続中の不動産に対しても滞納処分による差押えをすることができる。この場合、徴収職員は、その旨を執行裁判所に通知しなければならない。しかし、その後の公売その他の売却手続は、競売手続が売却を許可することなく完結した場合、または滞納処分続行承認の決定があった場合でなければすることができない。

お金を借りる!

担保権の実行/ 競売の売却手続き/ 強制執行/ 担保権実行手続き/ 抵当権の実行/ 競売の申立て/ 競売の目的となる不動産/ 競売手続きの開始/ 競売売却の準備/ 競売売却の手続き/ 競売売却後の手続き/ 預金に対する担保権/ 増価競売/ 銀行の貸金の担保/ 有体動産を貸金の担保/ 指名債権を担保/ 仮登記担保の実行手続/ 仮登記担保の提供者あての実行通知/ 仮登記担保の後順位担保権者あての実行通知/ 仮登記担保の本登記手続き/ 強制執行と執行機関/ 強制執行の要件/ 強制執行の開始の要件/ 強制執行への異議/ 執行文付与の異議/ 強制執行の請求異議の訴え/ 不動産執行の対象/ 不動産の強制競売の申立て/ 不動産の強制執行の債権者の競合/ 強制競売の売却に伴う不動産上の権利/ 不動産に対する強制執行での強制管理/ 債権執行手続き/ 差押命令/ 差押禁止債権/ 債権執行の競合/ 強制執行と滞納処分との競合/ 転付命令と譲渡命令/ 債権執行による回収/ 動産に対する強制執行/ 動産に対する強制執行の申立/ 動産に対する差押の実施/ 差押物の売却/ 配当を受けられる債権者の範囲/ 有価証券に対する強制執行/ 船舶に対する強制執行/ 自動車に対する強制執行/ 社員等の持分権に対する強制執行/