繰上げ請求

 納期限の定めは、通常、納税者の利益のためにあるもので、納期限が到来するまでは、国税債権の強制徴収の手続をとることはできない。しかし、納税者に特別な事情が生じ、納期限が到来するまでに徴収の確保が図れないようなおそれがある場合には、既に納付すべき税額の確定した国税について、その納期限を繰り上げることができることとされている。このような措置を繰上げ請求という。
 この繰上げ請求により、納期限が変更され、その変更後の納期限までに繰上げ請求をした国税が完納されないときは、督促を要しないで直ちに滞納処分をすることができる。
 次に掲げるすべての要件に該当するときは、繰上げ請求をすることができる。
 納付すべき税額が確定した国税について、その納期限までに完納されないと認められるとき。納税者について、次のいずれかに該当する事実が生じたとき。
 納税者の財産について強制換価手続が開始されたとき、納税者が死亡した場合において、その相続人が限定承認をしたとき、法人である納税者が解散したとき、納税者が管理人を定めないで法施行地に住所および居所を有しないこととなるとき、納税者が偽りその他不正の行為により国税を免れ、もしくは免れようとし、もしくは国税の還付を受け、もしくは受けようとしたと認められるとき、または納税者が国税の滞納処分の執行を免れ、もしくは免れようとしたと認められるとき。
 繰上げ請求をしょうとするときは、納税者に対して、納付すべき税額、その繰上げに係る期限および納付場所を記載した繰上げ請求書を送達して行うが、源泉徴収等による国税で納税の告知がされていないものについて繰上げ請求をする場合には、繰上げ請求をする旨を付記した納税告知書を送達して行う。

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 納税義務があると認められる者が、国税の徴収を免れようとするおそれがある場合には、一定の要件のもとに、その国税の確定前にあらかじめ滞納処分を執行することが必要であると認める金額を決定し、その金額を限度として直ちにその者の財産を差押えることができる。この措置を保全差押えといい、その要件は次のとおりである。
 納税義務があると認められる者が、不正に国税を免れ、または国税の還付を受けたことの嫌疑に基づいて、国税犯則取締法または刑事訴訟法の規定による差押え、領置、押収または逮捕を受けたこと。
 上記の差押え等の処分に係る国税の納付すべき領の確定後においては、その国税の全額の徴収を確保することができないと認められること。
 税務署長は、上記の差押え等の処分に係る国税の納付すべき額の確定前に、その確定すると見込まれる国税の金額のうち、その徴収を確保するためあらかじめ滞納処分を執行することが必要であると認める金額を決定する。
 なお、税務署長が保全差押金額を決定しようとするときは、あらかじめ、その所属する国税局長の承認を受けなければならない。
 保全差押金額を決定するときは、税務署長は、納税義務があると認められる者に対して、書面により、保全差押金額を通知しなければならない。
 保全差押金額の通知後、その保全差押金額を限度として、その通知を受けた者の財産を、督促を要しないで直ちに差し押えることができる。ただし、保全差押金額に相当する担保を提供して保全差押えをしないことを求めたときは、その差押えをすることができない。
 保全差押えをしようとする場合において、差し押えるべき財産に不足があると認められるときは、保全差押えに代えて交付要求をすることができるが、この場合には、その交付要求が保全差押金額についてされるものであることを明らかにしなければならない。
 保全差押えをした財産は、その差押えに係る国税の納付すべき額が確定した後でなければ換価することができない。
 保全差押えをした金銭は、その差押えに係る国税について納付すべき額が確定していないときは、これを供託しなければならない。
 保全差押えまたは保全差押金額に係る担保の提供があった場合において、その基因となった国税について納付すべき額の確定があったときは、その差押えまたは担保の提供は、その国税を徴収するためにされたものとみなされる。
 保全差押えをした場合において、保全差押えを受けた者が、保全差押金額に相当する担保を提供して、その差押えの解除を請求したとき、保全差押金額の通知をした日から6か月を経過した日までに、保全差押えに係る国税の納付すべき額の確定がないときは、その保全差押えを解除しなければならない。
 また、保全差押えを受けた者について、その資力その他の事情の変化により、その差押えの必要がなくなったと認められるときは、保全差押えを解除することができる。
 納税義務があると認められる者に保全差押金額の通知をした日から6か月を経過した日までに、担保提供に係る国税につき納付すべき額の確定がないときは、その担保を解除しなければならない。また、担保の変更等の理由により担保を引き続き提供させる必要がないこととなった場合も同様である。
 なお、保全差押金額の決定を受けた者について、その資力その他の事情の変化により担保の微瑕の必要がなくなったと認められるときは、その担保を解除することができる。
 保全差押えに係る国税の納付すべき額として確定した額が保全差押金額に満たない場合において、保全差押えを受けた者がその差押えにより損害を受けたときは、国は、無過失であっても、その差押えによって通常生ずべき損失の額の限度において、損害賠償責任を負う。
 民事訴訟法においては、確定判決等の債務名義を得るため相当の期間を要するとき、その他将来行う強制執行のための保全を必要とするときは、あらかじめ債務者の財産の処分権能を制限しておく仮差押えの制度がある。この仮差押えに類似する制度が保全差押えである。この類似性は、たとえば、次のような点にあらわれている。
 仮差押えは、裁判所の判決または決定によって行われる。
 仮差押えについては、裁判所の定める保証を立ててその取消しを求めることができる。
 起訴命令に定められた期間中に債権者が本案訴訟等を提起しないときは、債務者は仮差押えの取消しの申立てができる。
 債務者は、仮差押えの理由の消滅その他の事情の変更に基づき仮差押えの取消しの申立てができる。
 仮差押えの執行に係る金銭は、供託しなければならない。
 繰上げ保全差押えは、納税者に繰上げ請求の要件事実の一に該当する事実がある場合等特定の要件に該当する場合において、その国税の納付すべき額が具体的に確定する前に、その者の財産をあらかじめ差し押えることができる制度である。
 繰上げ保全差押えは、国税の成立後確定前の保全処分である点において保全差押えに類似するが、保全差押えが税務署長による課税権行使が可能な時期における保全措置であるのに対し、繰上げ保全差押えは、法定申告期限前等課税権行使ができない時期における保全措置である。
 また、繰上げ請求が国税の確定後納期限内の徴収縮保雄置であるのに対し、繰上げ保全差押えは、より前段階における徴収確保の措置といえる。
 繰上げ保全差押えの手続、効力、解除、無過失賠償等については、保全差押えに関する規定が準用される。

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