国税と質権の被担保債権

 国税と質権の被担保債権との調整については、国税の「法定納期限等」を基準とし、それ以前に設定した質権の被担保債権は国税に優先し、その後に設定した質権の被担保債権は国税に劣後するものと定められている。
 これは、原則として、この時期には国税の額が具体的に確定し、質権者または質権者となろうとする者がこれを知りうる状態となっており、いわば予測可能性の理論を基礎として物権公示の原則との調整を図ろうとするものである。

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 納税者がその財産上に質権を設定している場合において、その質権が国税の法定納期限等以前に設定されているものであるときは、その質権の被担保債権は、国税に優先する。
 国税の法定納期限等の日は、原則的には、国税の法定納期限の日である。たとえば、所得税を例にとると、翌年3月15日までに申告をし、納税をするのが本来の姿であるから、その日が法定納期限であり、正当に申告した所得税の法定納期限等もその日である。ところが、この3月15日までに申告がされなかった場合には、法律上は国税債権として成立していても外見上はそれが明確とはなっていない。そこで、期限後申告とか税務署長による決定とかの確定手続により、その所得税の納付すべき税額が確定した場合には、法定納期限である3月15日とは別の日をもって法定納期限等の日とするのである。このように、例外的な場合について予測可能性の理論からみて妥当と考えられる日を徴収法第15条第1項各号において、法定納期限等として定めている。
 質権の被担保債権が国税に優先するためには、その質権が国税の法定納期限等以前に設定されている事実を強制換価手続の執行機関に対して証明されなければならないが、その方法は、質権が対抗要件または効力要件として登記(または登録)をすることができるかどうかによって、次のように異なる。
 質権のうち登記(または登録)が質権設定の第三者対抗要件または効力要件とされているものについては、質権設定の事実の証明は要しない。
 質権のうち、有価証券を目的とするものについては、質権設定の事実を証する書面またはその事実を証するに足りる事項を記載した書面を税務署長に提出してその証明をしなければならない。
 上記以外の質権については、公正証書、登記所または公証人役場において日付のある印章が押されている私署証書、郵便法弟63条の規定により内容証明を受けた証書、のいずれかの書類を税務署長に提出すること、またはこれを呈示するとともにその写しを提出することによって証明しなければならない。
 質権設定事実の証明は、財産の売却の方法による換価のときは売却決定の日の前日までに、また、金銭の取立ての方法による換価のときは配当計算書の作成の日の前日までに、しなければならない。
 質権設定の事実の証明を要する場合で、これをしなかったとき、または証明はしたが法令の規定による要件をそなえていないものであるときは、国税に劣後することはもちろんであるが、その国税の法定納期限等以前に質権を設定した者が2人以上ある場合において、先順位の質権者が証明しなかったために国税におくれるときは、その先順位の質権者は、私法上の優先順位にかかわらず、後順位の質権者にも劣後することとなる。
 納税者が質権の設定されている財産を譲り受けたときは、質権者は設定者がその財産を第三者に譲渡するかどうかはあらかじめ予測することができないし、もし、これが譲渡され、譲受人が古い法定納期限等の国税を滞納している場合において上記の規定をそのまま適用することは、予測可能性の理論に反する結果になることを防止するものである。
 納税者が質権の設定されている財産を譲り受けた場合で、その財産が強制換価手続により換価されたときは、その質権の披担保債権は、納税者の国税に優先する。
 上記と同様に、登記(または登録)することができる質権以外の質権については、強制換価手続の執行機関に対してその設定の事実を一定の方法により証明しなければならない。
  根質権は、通常の質権と異なり、登記された極度額と現実の被担保債権順とは一致せずに浮動的であり、この場合における質権者は、差押えまたは交付要求の通知を受けることにより、納税者の国税の滞納順を予測しうることとなり、その通知後において登記された極度の範囲で新規に貸付をしたものについては、その保護を与えなくてもよいとすることに基づくものである。
 根質権の披担保債権が国税に優先するのは、滞納処分のため根質権の目的となっている財産を差し押えた旨の通知書がその質権者に送達された時、または根質権の目的となっている財産について行われている強制換価手続に対して国税の交付要求をした旨の通知書がその質権者に送達された時、における根質権の被担保債権の元本債権順に相当する金額を限度とする。
 ただし、この規定を適用することによってその国税に優先する他の債権を有する者の権利を害するようなことになるとき、つまり、差押えまたは交付要求をした国税に優先する先順位根質権の披担保債権順の限度が、その通知の時の債権額となることにより後順位の債権者の権利を害することとなるときは、この規定は適用されずに、上記の規定によることとなる。
 なお、2以上の差押えまたは交付要求がされている場合における根質権の被担保債権順の優先の限度は、その質権者がそれぞれの通知を受けた時における債権額を限度とするもので、最初の差押えまたは交付要求の通知を受けた時の債権額をもってその後のすべての差押えまたは交付要求をした国税に優先するものではない。
 納税者の国税の滞納している額を予測できる状態の後に、質権の後担保債権額または極度額について増額の附記登記をして払予測可能性の理論を基礎として、その増額の附記登記をした部分については、私法上の順位によって保護しなくてもよいとすることに基づくものである。
 質権の後担保債権額または極産額を増加する登記が附記登記によってされている場合において、国税との優先劣後を判定するときは、附記登記によって増加した債権順については、附記登記の時に新たな質権が設定されたものとみなされ、そのうえで上記によってその優先関係を定めることになる。

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