各種の債権の差押え

 無記名預金は、氏名を特定しない一種の指名債権であって、無記名債権ではなく、その預金証書も有価証券ではない。したがって、無記名預金は、債権差押えの手続に従い差し押えることになるが、預金の種類、名称、預金年月日、預金金額、預金証書番号、無記名である旨、使用印影の表示等によって被差押債権を特定させる必要がある。預金証書は、債権証書として取り上げることができる。
 他人名義または架空名義の預金についても、その真実の権判者が滞納者である限り差し押えることができる。
 この場合においては、預金名義人の住所、氏名、預金の種類、名称、預金年月日、預金金額、預金証書番号等によって被差押債権を特定するとともに、真の権判者が滞納者である旨を、たとえば「何某(預金名義人氏名)こと何某(滞納者氏名)」のように表示する。

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 郵便貯金を差し押える場合の第三債務者は、即時払いを請求できるときは、払戻しを請求すべき郵便局の局長、局特払いを請求できるときは、局特払いを請求できる特定の郵便局の局長、これら以外の場合には、その郵便貯金の貯金原簿を所管する貯金局長、である。この場合においては、その貯金局長は、差押金額について払戻証書を作成し、徴収職員に送付することになっているから、徴収職員は、その払戻証書により特定の郵便局において支払を受ける。
 なお、郵便貯金の取立てをするときは、貯金通帳または貯金証書を呈示しなければならない。
 手形または小切手が支払のために振り出されている場合には、本来の債務と手形等の債務とが併存しているから、その手形等とは別に本来の債権を差し押えることができる。
 手形または小切手が「支払に代えて」振り出されている場合には、代物弁済として本来の債権は消滅しているから、債権差押えはすることができず、その手形または小切手を有価証券として差し押えるほかはない。
 なお、手形等は支払に代えて授受する特別の合意がない限り「支払のために」授受されたものと推定される。
 連帯債務者のある債権は、すべての債務者を第三債務者として差し押える。
 保証人のある債権を差し押える場合には、主たる債権の差押えと同時に、保証人を第三債務者として、その保証人に対する債権を別個に差し押える。
 国または地方公共団体に対する債権は、直接その支払の権限を有する支出官、資金前渡官吏等を第三債務者として差し押える。
 債権の差押えを受けた第三債務者が、滞納者に対して反対債権(たとえば貸付金)を有する場合において、差押え後に、被差押債権(たとえば預金)と反対債権とを相殺して被差押債権を消滅させることができるかどうかについては、学説・判例に変遷がある。
 ところで、昭和45年6月24日の最高裁判決は、法定相殺につき無制限説(反対債権の取得が差押え前であれば、両債権の弁済期を問わず、差押え後の相殺をもって差押債権者に対抗できるとするもの)、契約相殺につき積極説(主として契約自由の原則から、契約相殺を全面的に是認するもの)を採用し、差押え後の相殺はほぼ全面的に是認されることになった。
 なお、最高裁判決の要旨は、次のとおりである。
 民法第511条の解釈関係  同条は、「差押後に発生した債権または差押後に他から取得した債権を自動債権とする相殺のみを例外的に禁止することによって、その限度において、差押債権者と第三債務者の間の利益の調節を図ったものと解するのが相当」としたうえで、「第三債務者は、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押後においても、これを自働債権として相殺をなしうるものと解すべきである」としている。
 期限の利益喪失約款の効力  本件の相殺に関する契約とそれに基づく相殺について、本件の特約は「信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合においては、被上告銀行の訴件会社に対する貸付金債権について、訴外会社のために存する期限の利益を喪失せしめ、一方同人らの被上告銀行に対する預金等の債権については、被上告銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意と解することができる」とし、「かかる合意が契約自由の原則上有効であることは論をまたない」としている。
 この判決に伴う実務取扱いは、差押え前に取得した反対債権の弁済期が被差押債権の弁済期より後に到来する場合において、第三債務者が弁済期に履行しないことについて正当な理由があるとき、または滞納者と第三債務者との間において、差押え前にこの判決の特約と同様の特約がされている場合には、民法第511条の規定に該当しないときに限りそれぞれ第三債務者がその反対債権をもってする相殺を認めることとし、疑義のある事案については、個別的判断を行うこととしている。
 民事執行法における債権執行の特色は、次のとおりである。
 債務者に不服を述べる機会を保障するため、差押命令が債務者に送達されて1週間を経過しなければ、差押債権者はその取立てをすることができない。これに対し、滞納処分の場合には、債権差押通知書が第三債務者に送達されれば、直ちに、その取立てをすることができる。
 差押命令を第三債務者に送達するに際し、債権の存否、滞納処分による差押えの有無などを2週間以内に陳述すべき旨の催告をすることができる。
 滞納処分の場合には、債権差押通知書に同封する「お知らせ」に、「供託しない場合には、この差押以外の差押えの有無を当税務署へご連絡下さい」として、協力方の依頼をすることにしている。
 単独の差押えがされた場合にも第三債務者は債権の全額の供託をすることが認められている。
 滞納処分による差押えの場合には、単独の場合はもちろん、滞納処分同志の二重差押えの場合にも供託は認められない。
 金銭債権については、転付命令のほか、特別な換価方法が認められている。
 滞納処分の場合には、債権証書は、「債権の差押のため必要があるとき」にその取上げができることになっている。これに対し、民事執行の場合には、差押債権者に対し引き渡すことを義務づけている。

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