担保権実行手順の種類

 従来、担保権実行は、競売法によってなされてきた。競売法はきわめて出来の悪い法律であるといわれていたが、その解釈運用によって、まがりなりにも一つの法律体系を築きあげてきたことは評価されてよい。そこでは、強制執行法と両然区別されて運用されてきた。
 強制執行にあっては債務名義を必要とするが、任意競売にあっては債務名義を必要とせず、担保権に内在する換価権によって競売手続が進められるものとした。したがって、任意競売にあっては、担保権が存在しないかぎり、競売手続によって競落不動産の所有権を取得しえないものとし、競売手続上、担保権の不存在をいつでも争うことができるものとしていた。すなわち、競売手続によって目的不動産を競落し所有権取得登記を経ても、競売手続上の当該所有者は、なお、担保権の不存在であるときは、その所有権取得を争うことができたのです。このことがどれだけ任意競売手続に対する不信感を醸成したか、はかり知れないものがあったといえます。
 担保権実行手続を強制執行手続と峻別し、債務名義によらないで競売手続を認めることは、わが国競売法の創作にかかるものであり、きわめて特徴的なものであったのです。
 民事執行法においては、強制執行手続と担保権実行手続をほぼ同一の手続によるとしながらも、なお、これらの点を改めず、依然として債務名義によらない担保権実行を認めることとしている。ただ債務名義によらないとしても、できるだけ債務名義による場合に近づけようとする努力はなされている。担保権の存在を立証を一定の文書によるべきものとし、また競売手続による不動産の所有権の取得は、担保権の不存在または消滅によって失われないとしているのは、その例です。
 そのほか、従来からも問題であったが、留置権に換価権を認めるべきかどうか、一般先取特権についてもこれを認めるべきかどうかについては、いずれも換価権を認めることとし、また不動産に対する担保権実行につき強制管理的制度を認めるかどうかについては、これを認めないこととしている。

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 担保権実行手続は、担保権の性質、担保権の目的物の性質により換価方法を異にし、したがってその実行手続を異にしている。担保権には、留置権、先取特権、質権、抵当権、仮登記担保権、譲渡担保権があり、それぞれの性質を異にし、その目的物を異にしている。
 先取特権、質権、抵当権は、他人の所有物を強制的に換価する権能を官し、その換価方法としては競売(差押)的形式をとる。
 留置権は、他人の所有物を留置する権能を有するにとどまり、優先弁済権はないが、換価の必要もあるので、質権と同様に競売権を与えられている。
 仮登記担保権、譲渡担保権は、いずれも所有権取得形式によるものであるが、仮登記担保権は、所有権移転仮登記にとどめ、権利実行にあたり所有者に対し所有権移転請求のできる所有権移転請求権形式により、譲渡担保権は、所有権移転登記ないしは占有取得を経て所有権を移転してしまう所有権移転形式によっている。
 したがって、これらの担保権実行は、留置権、先取特権、質権、抵当権にあっては、競売(差押)申立ての方法により、仮登記担保権にあっては所有者に対する所有権移転登記請求、目的物引渡請求の方法により、譲渡担保権にあっては任意処分または目的物引渡請求の方法による。
 留置権は、動産・不動産の有体物を目的物とし、先取特権は、動産先取特権・不動産先取特権・一般先取特権の別により、それぞれ動産・不動産・総財産をその目的物とする。
 質権は、動産・不動産・債権その他の財産権を目的物とする。
 抵当権は、不動産を本来の目的物とし、不動産物権をこれに準じて扱い、船舶・立木・自動車・建設機械・航空機・農業動産・工場・各種財団も抵当権の目的となるとされ、民法の抵当権に関する規定が準用されている。
 仮登記担保権は、不動産その他仮登記・仮登録のできるものを目的物とし、不動産・不動産物権・立木・船舶・航空機・建設機械・各種財団・漁業権・入漁権・商標権・特許権・実用新案権・意匠権などがその目的物となる。
 譲渡担保権の目的物は広く、権利の移転につき、目的物の特定ができ、対抗要件の充足できるものならば、その目的物となる。集合物については、すでに最高裁判例によって確認されている。
 留置権・先取特権・質権・抵当権にあっては、その換価方法は競売(差押)的形式によるが、その目的物によって競売(差押)手続を異にする。この競売(差押)手続は民事執行法の規定による。
 民事執行法にあっては、これらの競売(差押)機関を執行官と執行裁判所との二つに分ける。有体動産およびこれに準ずるもの(民事執行法上の動産)を執行官に属させ、不動産およびこれに準ずるもの、ならびに債権その他の財産権を執行裁判所に属させている。
 民事執行法上、動産とは、次のものをいう。
 民法上の動産、民法では、土地および土地の定着物以外の物ならびに無記名債権を動産としている。動産とは、この民法上の動産をさしている。
 登記することができない土地の定着物、民法で不動産とされる土地の定着物のうち、登記できない土地の定着物は、民事執行上、動産競売の手続に服する。庭石、石灯龍、建築中の建物、立本法の立木以外の樹木、鉄塔、ガソリンスタンドの給油設備などがこれに属する。
 土地から分離する前の天然果実で1ヵ月以内に収穫することが確実なもの、農作物はこれに属する。
 裏書の禁止されていない有価証券、手形・小切手、株券、社債、貨物引換証、倉荷証券等で、裏書禁止のないものはすべて含まれる。
 これらの動産に対する担保権実行で競売形式によるものは、すべて執行官に対する競売申立てによってなされる。ただし、そのためには、担保権者は、執行官に対し、動産を提出しまたは動産の占盲者が差押えを承諾することを証する文書を提出しなければならない。すなわち、留置権者、質権者、一部の動産先取持権者などは、目的動産を占有することから、この競売申立てをすることができるが、目的物を占有しない担保権者にあっては、差押えを承諾する旨の文書を提出しないかぎり、競売は開始されない。
 手形・小切手等の有価証券も執行官によって競売される。ただ、売却終了前にその権利行使のために呈示を要するものについては、執行官は、担保設定者に代わってその呈示をなすを要し、この呈示によって支払がなされると、その支払金は、差押物の売得金と同様に取り扱われる。また、執行官は、これらの有価証券を売却したときは、自ら買受人のために、担保設定者に代わって、裏書または名義書換に必要な行為をすることができる。
 民事執行法により、担保権実行の対象となる不動産とは、民法で不動産とされている土地および土地の定着物のうち登記のできない土地の定着物を除いたものならびに不動産の共有持分、登記された地上権、永小作権およびこれらの権利の共有持分をいう。
 不動産に対する担保権としては、抵当権、不動産先取特権、不動産質権、留置権がある。
 不動産に対する担保権実行は、執行裁判所に対する競売申立てによって行なわれる。強制執行において認められる強制管理的制度は認められていない。
 抵当権、先取特権にあっては、不動産自体の換価によって自己の債権の弁済を受けることを目的とし、不動産の利用は所有者に留保させ、したがって、その収益権能も所有者に帰属する担保形態と考えられているので、収益に対する執行を認めるのは相当でないと考えられたからであり、不動産質権、留置権にあっては、自ら不動産を占有し収益しているので、あえて強制管理的収益を必要としないとみられたからです。もっとも、これらの担保権者は、物上代位による賃料債権等の差押えの方法により、ほぼ同様の効果をあげることはできる。
 船舶に対する担保権の実行は、総トン数20トン以上の船舶については、不動産の競売に準じて行なわれ、20トン未満の船舶および端舟その他ろかいまたは主としてろかいをもって運転する舟については動産競売の方法によって行なわれる。
 不動産競売に準ずる担保権実行の目的となる船舶に対する担保権としては、船舶先取特権、一般先取特権、船舶抵当権がある。
 金銭の支払または船舶・動産の引渡しを目的とする債権に対する担保権実行は、執行裁判所に対する差押命令またはこれに続く転付命令、譲渡命令、売却命令、管理命令その他の換価命令の申立ての方法による。債権を目的とする担保権としては、債権質権・一般先取特権がある。
 担保権者が目的物の売却、賃貸、滅失、損傷または目的物に対する物権の設定、収用その他の行政処分により担保設定者が受けるべき金銭その他の物に対して物上代位の方法によって行なう権利の行使の場合も、この債権に対する担保権実行の方法による。
 不動産・船舶・動産・債権以外の財産権に対する担保権実行は、債権に対する担保権実行の方法による。その他の財産権を目的とする担保権としては、権利質権、一般先取特権がある。
 自動車、建設機械、航空機、立木、農業動産、各種財団については抵当権の設定が認められており、これらのものに対する抵当権実行は、不動産の競売に準じ、執行裁判所に対する競売申立ての方法による。
 仮登記担保権とは、債権担保のために、目的物につき、停止条件付代物弁済契約、代物弁済予約、売買予約等をなし、所有権ないしは権利の移転または移転請求権保全の仮登記または仮登録をなすことによって保全される担保権をいう。この仮登記担保権は、不動産の所有権移転の形式による担保権として、判例法上逐次形成されてきたのですが、昭和53年6月20目「仮登記担保契約に関する法律」が制定公布され、同法において、不動産の所有権以外の権利の取得を目的とするものについても認められるに至り、昭和54年4月1日以後に所有権ないしは権利を取得することとなる仮登記担保権については、すべてこの仮登記担保法の適用を受けることになった。
 仮登記担保権の目的となる権利は、仮登記・仮登録のできるものに限られる。不動産の所有権、地上権、永小作権、地役権、賃借権、採石権、立木、登記できる船舶、航空機、ダム使用権、工場財団、鉱業財団、漁業財団、港湾運送事業財団、道路交通事業財団、観光施設財団、建設機械、特許権、意匠権、実用新案権、商標権、漁業権、入漁権などがこれです。
 仮登記担保権は、目的たる所有権ないしは権利の将来の移転の形式による担保権であるから、その実行方法は、所有権ないし権利の移転を前提としての手続によることになる。すなわち、抵当権等の他の担保権と異なって、競売権はなく、仮登記・仮登録に基づく所有権ないしは権利移転のための本登記、本登録手続請求および後順位担保権者に対する承諾請求または目的物引渡請求の訴訟手続による。
 この権利の実行方法は、抵当権等の実行による換価手続と両立しない。もっとも仮登記担保権の実行による所有権ないしは権利の取得は、先順位担保権にはなんらの影響を及ぼさず、その担保権を負担すれば足りるし、先順位担保権者による換価手続のなされた場合には、その換価手続において配当を受ければ足りる。したがって、仮登記担保権の実行と後順位担保権の換価手続との調整だけが問題となる。しかも、仮登記担保権の実行を認める場合でも、それは担保権の実行にはかならないから、被担保債権額をこえる余剰分を生ずるときは、これを後順位担保権者にどのようにして取得させるかの考慮も必要となる。
 そこで、仮登記担保法は、仮登記担保権の実行と後順位担保権者の担保権実行とを次のように調整している。
 まず、仮登記担保権を実行するには、仮登記担保権者は、目的物についての所有権ないしは権利を取得することを要するが、仮登記担保契約で所有権ないしは権利が移転するとされている日が到来しただけでは所有権ないしは権利を取得することはできず、仮登記担保権者がその日以後に、担保設定者に対し、清算金の見積額を通知するを要し、その通知が到達した日から2ヵ月を経過した時に所有権ないしは権利が移転するものとしている。
 また、仮登記担保権者は、後順位担保権者があるときは、これらの者に対しても、担保設定者に対してした通知の到達目、通知事項を遅滞なく通知しなければならず、この清算期間を経過するまでは清算金を支払ってはならないも’のとされている。そして、この清算金支払前に後順位担保権者による担保権実行としての競売申立て等がなされたときは、仮登記担保権者はその権利の実行をなすことができず、もっぱら、その換価手続のなかで配当を受けるべきものとし、清算金の支払後においては、たとえ後順位担保権者による競売申立てがあっても、仮登記担保権者はその権利の実行をなすことができる。
 仮登記担保権者が権利実行をするのは、原則として清算期間後に限られ、担保設定者に対する清算金に関する通知がなされないかぎり、清算期間は進行しない。また担保設定者に対し清算金に関する通知をした旨は、後順位担保権者に対して通知されなければならないから、後順位担保権者は、その清算金額または清算金のない旨および清算期間の終期を知ることができる。
 後順位担保権者は、その清算金を物上代位の方法により差し押え、その清算金から弁済を受けることができるが、清算金の額等に不満のときは、もとより担保権実行としての競売申立てをすることもできる。担保権の実行にあたっては、本来は被担保債権の弁済期が到来していることを要するが、この清算期間内にあっては、債権の弁済期前であっても、この競売申立てをすることができる。
 仮登記担保権者が、清算期間経道後において、その権利実行に入り、担保設定者に対する仮登記・仮登録に基づく本登記・本登録手続請求および後順位担保権者に対する承諾請求訴訟を提起した後においても、まだ清算金の支払のなされないうちは、後順位担保権者は、その清算金を差し押えまたは競売申立てをすることができる。この場合、後順位担保権者の競売申立ては仮登記担保権者の担保権実行に優先し、仮登記担保権者は、抵当権者として、競落代金から配当を受けられるにとどまる。ただし、その仮登記がいわゆる根担保仮登記であるときは、その効力を失い、売却代金から配当を受けることはできない。
 譲渡担保権は、債権担保のために目的物の所有権ないしは権利の移転を受ける、現在の権利移転の形式による担保権であり、仮登記担保権と同系列のものに属する。ただ、仮登記担保権が、将来の所有権ないしは権利取得の形式をとり、将来の権利取得を保全するために、仮登記・仮登録に依存するのと異なり、譲渡担保権は、現在の所有権ないしは権利移転により債権保全をはかるものであって、現に所有権ないしは権利の取得が可能であり、かつ、現に権利取得についての対抗要件を満たしうるものであれば、目的物のいかんを問わない。すなわち、譲渡担保契約により目的物の所有権ないしは権利の移転を受け、動産であれば引渡しを、不動産であれば所有権ないしは権利移転の登記を、債権であれば債務者に対する確定日付ある譲渡通知を、特許権その他登録を対抗要件とするものであれば登録を各受けることを要する。
 したがって、その担保権実行も、目的物についての所有権者ないしは権利者としての処分方法によれば足り、ただ債権担保という目的に制約されるから、清算を要する点で、通常の所有権者ないしは権判者と異なる。もっとも、動産譲渡担保にあっては、動産質におけると異なり、占有改定による引渡方法も許されるからにのために動変質以上に動産譲渡担保がよく使われる。なお担保設定者に目的物が占有されることが多いし、不動産にあっては、ほとんど譲渡担保権者に対する目的物の引渡しは行なわれていない。このため、譲渡担保権にあっては、換価処分の前提として、目的物の引渡請求を要することがある。この場合、清算を要することは、担保権である以上いうまでもなく、剰余を生ずるときは清算金の支払を要し、両者は同時履行の関係に立つことになろう。

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