差押えの制限

 強制執行は、債権者の権利を満足させるためになされるものですが、執行のために債務者の社会的、経済的な存在を否認させるようなことは公共の利益に照らし許容すべきことではないので、民事執行法は、債務者の最低生活の保障、信教、教育上の配慮、災害防止設備の維持等の観占から、特定の財産について差押えることのできないものを規定している。
 差押禁止動産について民事執行法において規定するところは次のとおりです。
 債務者及びその者と生計を一にする同居の親族の生活に欠くことのできない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具。
 生計を一にするとは、日常生活費を共通にしていることをいう。同一家屋に起居する親族であっても、互いに独立し日常生活費を共通にしていない場合には、生計を一にするものではない。
 生活に欠くことのできないとは、債務者等が最低限度の生活を維持するに必要な衣服等をいうのであると解されるが、これにはその地域における生活環境や、差押当時の債務者等の経済生活によって異なるものと思われる。
 このことからテレビや扇風機、電気冷蔵庫、電気洗濯機などは、生活に欠くことのできない物とはいえないので、差押禁止物とは解されない。しかしこれらについては債務者の生活の状況その他の事情により法一三二条による申立てによって考慮されることになる。
 この衣服、寝具、家具といってもそのすべてを含む趣旨ではなく、ベット、応接セット、タンス、整理タンス、洋服タンス等は一般的には差押可能物と解されるし、衣類にっいてもセーター、ジャンパー等の普段着及び職業上必要とする作業衣、背広等を残せば、オーバー、合オーバー、他の背広等は差押え可能と解してよいでしょう。また、寝具も客用のものは差押えてよいことになる。台所用具といっても電気炊飯器とか、電子レンジなどは差押えは許される。
 以上述べたように、これが絶対的に差押禁止物であるというものはないので、事案によって相対的に考えるよりほかない。

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 債務者等の生活に必要な二か月間の食料及び燃料、燃料とは、薪炭、プロパンガス、れん炭等をいう。食料又は燃料に数種のものがあるときは、執行官は債務者の利益を考慮して差押えの範囲を定める。
 標準的な世帯の一か月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭、この金額は二一万円です。これは債務者の生活をある程度維持できる金額ということで制定されたものであるから、常に二一万円までは残して差押えをすることになる。
 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物、主として自己の労力により農業を営む者とは、生計を一にする同居の親族以外の他人の労力又は物的設備にほとんど依存することなく農業により生計を維持している者をいうのであって、この者が農業を行うため必要最低限の農器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料、種子、その他これに類する農産物の差押えを制限し、債務者の生業を継続することができるようにとの配慮からこの規定が設けられたものです。昨今は農業の機械化が進んでいるので、農機具のほとんどは農業に欠くことのできない器具といえようが、これについては債務者の農業経営の規模及び農耕面積などにより具体的に判断すべきです。大型トラクター、コンバイン等は差押禁止物とすることには疑問があるが、耕地の広さ等により農業経営に必要な最少限度の耕うん機、小型トラクター、稲刈機、乾燥機、脱穀機等は、差押禁止物に入るものと思われる。
 なお果樹栽培、酪農等の経営が主たる生活費の獲得手段で、田畑耕作の方が副業的なものであるならば、その作付面積なども考慮したうえで農器具等を差押えてよい場合が考えられる。しかし、この判断は慎重にすべきです。
 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物。主として自己の労力により漁業を営む者とは、舟、漁網その他の漁具を有する者も含まれる。債務者等が漁業を行うため必要最少限度の漁網、漁衣、っりざおその他の漁具、えさ、稚焦等の差押えは禁止される。これに類する水産物とは、真珠貝、養殖用の卵、種がきなどが考えられる。
 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者のその業務に欠くことができない器具その他の物。その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者とは、弁護士、公証人、医師、薬剤師、神職、僧侶、画家、著述家、公務員その他の給与所得者等をいう。ただし法人には本号の適用はない。業務に欠くことができない器具その他の物とは、債務者等がその職業又は営業を遂行するにあたり最低限度必要な物をいうのであって、弁護士、公証人、医師については、業務上不可欠な事務用機器や応援用備品の類、薬剤師の薬剤調合器具、建築工事又は左官工事、塗装工事等の請道具一式、理髪用具、鮮魚小売業者の冷蔵陳列ケース、飲食店又は喫茶店経営者の冷蔵庫、消毒器類などがこれにあたる。芸妓の座敷用の衣服は業務に欠くことができないものに当たるが、衣服が多数ある場合には、業務に不可欠と認められるものを除き差押えができる。なお、土木建築業者のミキサー、発動機、労力を主とする印刷業者の印刷機械、開業医のレントゲン撮影機、は本号にあたると解されている。業務に欠くことができないかどうかは、債務者の営業の規模、態様、差押えによって受ける影響の度合等を考慮し、債務者の生活にとって不可欠なものかどうかを時代の変遷に応じて個々的に判断するほかない。商品を除くとあるのは、商品は換価を目的とするものであるから、たとえ業務上欠くことのできないものであっても、差押禁止財産から除外されることになる。
 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの。これらのものは、債務者が専用してはじめて効用が達せられるものであるからで、材料が特に高価なものでも差押えることはできない。
 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物。その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物とは、神体、神具、仏具等で、現に信仰又は礼拝の対象となっているもの及びこれに必要なものをいう。仏壇については実務上問題となっているが、仏具に含まれるものと解される。債務者が神典商、仏具商又は骨とう品商である場合、その販売の用に供する神体、仏像、祭具などは差押え可能です。
 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類。これらは債務者にとってのみ価値があるもので、一般に換価価値はない。債務者が書画、骨とう等として有しているものは差押えることができる。
 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を喪章する物。内国のものであると、外国のものであるとを問わない。債務者等の名誉を尊重するために規定されている。その他の名誉を喪章する物とは、勲章以外のもので、その所持が本人の名誉を表示するものであって、競技、学芸、技芸等に優秀なために授与された賞杯等をいう。しかし勲章等でも美術品、骨とう品として第三者が所有している場合には、本号の適用がない。
 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具。学習に必要な書類及び器具とは、学校教育法一条に規定する学校において教育を受け、又はこれと同程度の修学をするために必要と認められる書籍、器具をいうのであって、債前者等が教育を受け、又は学習する権利若しくは自由を最少限度保障しようとする文化政策に基づくものである。ただピアノ、ビデオ機器、百科事典などは差押えることができると解する。
 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの。これらの物は債務者の精神的労作であって、債権者が一方的に差押えをして換価することは適当でない。
 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物。その他の身体の補足に供する物とは、盲人安全杖、補聴器、車椅子、義歯、義眼、眼鏡、松葉杖等をいうのです。
 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品。その他の工作物とは屏、門、井戸、煙突等をいう。災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械等とは、消防法一七条の規定により、学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店等に備え付けなければならない政令で定める消防用設備、鉱山保安法一〇条の規定により設備すべき各種鉱山の保安施設をいうのであって、これを差押えることは設置を義務づけた法の趣旨にもとることになるからです。
 債務者が生活保護法による扶助を受けている者であるときは、給与を受けた保護金品。
 債務者が身体障害者福祉法に基づいて支給される金品は、すでに支給を受けたものであるとないとにかかわらず差押えることができない。
 信託財産にっいては信託前の原因によって生じた権利又は信託事務の処理につき生じた権利に基づいて執行する場合を除いてこれを差押えることはできない。
 収入印紙、切手、煙草、塩などの専売品でも、譲渡は禁止されていないから差押えて売却することができる。この場合買受人の資格について別に制限がないが、指定小売人でない買受人は転売は許されないから、差押えた物件が多量であるときは、公の機関に売却するのが相当です。
 差押禁止動産は、たとえ債務者の同意があっても差押えることができない。
 差押禁止動産に該当するかどうかは、執行官が差押えの時を基準として判断する。
 この判断の基準は必ずしも一律ではない。執行官は差押えを禁じている法令の趣旨、一般の社会生活の状況、生活水準、債務者の生活状況、家族構成、営業の状況、当事者双方の経済状態その他諸般の事情を考慮してなさるべきです。
 差押えの制限に反してなされた差押えに対しては、当事者は執行異議の申立てによりその是正を求めることができる。差押禁止規定を看過してなされた差押えも当然無効なものではなく、その財産が売却されたときは、買受人はこれを有効に取得できると解される。
 差押禁止の範囲については、執行官としては厳格に守らなければならないが、しかしその差押禁止も場合によっては修正する必要が生ずることがある。この場合その修正を執行官に委ねることは相当でないということから、民事執行法は差押禁止の範囲の変更は執行裁判所の権限として規定している。
 すなわち、差押制限内の差押えであってもそれにより債務者がその生活上回復することのできない窮状に陥るおそれがある場合には、債務者は執行裁判所に対し差押禁止の範囲を拡張する裁判を求めることができる。また、債権者の場合は、債務者には他に差押えるべき財産がなく、差押禁止財産を差押えてその権利の実現を得なければ債権者の経済状態に甚だしい影響をこうむるというような場合には差押禁止の範囲を縮少する裁判を求めることができるのです。

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