動産に対する強制執行

 差押えの目的となる動産は、民法上の動産と同一義です。差押えは債務者所有の動産に対してなされることが本来の目的に適合するのですが、執行法上執行機関は実体上の帰属関係については調査権限を有しないので、差押えを実施するについては、法律上種々の制約があります。
 動産執行は、差押え及び換価ともに執行官の権限とされており、執行官は、自らの判断と責任によりその権限を行使するのです。蓋し動産は、貴金属のごとく価額において巨額にのぼるものもありますが、一般的には価値が低く、それ自体事実的な支配を受けるのに適しており、また、権利関係も複雑ではないので、民事執行法は旧法と同様動産執行については、執行官が執行機関として実施することとしたのです。

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 民事執行法において動産執行の対象となる財産は次のとおりです。
 民法上の動産で、土地及びその定着物以外の物並びに無記名債権、登記することができない土地の定着物。
 土地上に存する庭石、石燈龍、石垣、門扉、屏、立木法の適用のない樹木、鉄塔、建築中の建物は、登記することができない土地の定着物として動産執行の対象となります。ガソリンスタンドの地下油槽設備は登記することができない土地の定着物ですが、このような油槽設備は土地への定着度が高く、土地と分離しては取引価値がないと認められるものは、土地と一体となるものとして動産執行の対象とはならない。しかし、土地への定着性が低く、容易に土地から分離できる給油設備のごときは動産執行の対象となる。
 家屋からの分離が困難なものは建物の付加物というべきであろう。ただ建物の損傷の程度が受忍限度の範囲を超えないときは、その物を差押え、これを解体して搬出することができる。
 庭木、庭石等の定着物が存する土地に抵当権が設定されているときは、抵当権の効力は別段の定めのない限りこれらの物にも及ぶので、この場合は定着物のみを動産執行の目的として差し押さえることは許されない。ただ執行官は、動産の差押えにあたっては、差し押さえるべき目的物が債務者の占有に属するかどうかを判断すれば足りるから、その定着物が債務者の占有に属すると認められる限り差押えを実施してよいので、抵当権の存在の有無は調査する必要はない。定着物に抵当権の効力が及んでいるとすれば、抵当権者は第三者異議の訴えにより救済を求めることができる。ただし、土地に抵当権が設定されている公算が多い場合には、執行官としては他の動産を差し押さえるのが適当であろう。
 土地に対する差押えの効力は、その土地上に存する定着物に及ぶと解されているから、登記することのできない土地の定着物に対しては動産執行と不動産執行とが競合することがあり得る。この場合の手続の調整規定はないので、先着手優先主義により解決するよりほかない。すなわち、先に定着物に対する動産執行がなされると、後行の不動産執行においては土地の差押えはできるが、定着物に対する差押えの効力は、先行の動産執行に対抗できず、定着物が売却されると、土地の差押えの効力は確定的に定着物に及ばなくなる。土地に対する不動産執行が先になされた場合、定着物に対し執行機関の占有は伴わないから、後行の動産執行は可能であるが、先行の不動産執行が存続する限り売却ができず、土地が売却されたときは、動産執行は執行不能となる。
 立木法の適用のない立木が、動産執行の対象となり得ることは、この規定により明らかにされたが、旧法時にはこれを動産執行としてなすべきか、又は債務者の有する樹木を収取すべき権利か二つの財産権であるとして財産権執行の対象としてなすべきか見解が分かれており民事執行法上もこの問題は必ずしも解決されてはいない。
 そのために事案に応じては伐採権に対する執行と動産執行とがあり得るとする考え方がある。これに対しては伐採権という概念自体がかなりあいまいであったし、民事執行法によって動産執行の可能性が明文上認められたことを考えれば原則として動産執行の対象として実務を運用するのが法改正の趣旨に適合するとの見解がある。
 土地から分離する前の天然果実で一カ月以内に収穫することが確実なもの、裏書の禁止されていない有価証券、株券、国債、社債、倉荷証券、船荷証券、貨物引換証、倉庫証券、抵当証券、手形、小切手等の有価証券で裏書禁止がされていないものは動産執行の対象となる。手形等を差し押さえることによってそれに表象されている権利は換価の対象となるのである。手形に「担保の為」の文言を付して裏書譲渡した場合、あるいは、裏書譲渡の場合に別に担保差入を証する書面が交付されているような場合には、担保権者は手形所持人として一切の権利を行使できるから、このような手形を所持する担保権者に対する動産執行では、当該手形の差押えは可能です。
 担保権の設定された株券も動産執行の対象となる。登録質、登録譲渡担保の場合は、株券と譲渡担保権者の氏名が株主名簿に登録され、かつ、担保権者が株券を所持しているので、担保権者に対する担保株券の差押えは許される。
 担保付社債信託法による社債で無記名の債券は動産執行の対象となるが、記名社債のように記名証券で指図の許されないものは差し押さえることはできない。
 旧法下においては、手形、小切手等裏書をもって移転できる指図証券の差押えは、判例はそれに化体された債権に着目して債権執行の対象であると解していたため、執行裁判所における差押命令を第三債務者へ送達し、執行官が債務者から証券を取上げ占有してはじめて差押えの効力が生ずるとされていたのですが、これに対し学説の多くは、執行裁判所の差押命令を要せず、動産の差押えに準じて債権者が、執行官に対し直接証券差押えの申立てをすればよいとの見解が有力に主張されていた。このような見解の相違は、債権者の権利の満足の面に大きな影響がある。すなわち、執行官が債権者の動産執行の申立てにより動産の差押え中約束手形が発見された場合、学説の立場によれば執行官は直ちに当該手形を差押え、取上執行ができることになるのに、判例の見解に従うならば執行裁判所の差押命令がなければ手形の占有はできないので、約束手形の差押えは拒絶される。差押債権者がこれによって執行裁判所から差押命令を得ても、同命令を得る迄の間に債務者が当該手形を処分することが考えられ、約束手形の取上執行は不能に帰することも予想されるわけで、判例の見解は極めて実情にともわない解釈であるということから、民事執行法は学説の立場に従い、手形、小切手等裏書をもって移転できる指図証券は、動産執行の手続によって差し押さえることができることを明確にしたものです。
 債務者振出しの手形、小切手が発見された場合は、その引当てになっている当座預金を差し押さえることによって満足を得られるから、債務者の手形行為に種々問題のある自己宛の手形、小切手等を差し押さえるには慎重にすべきです。
 登記、登録のされていない航空機、自動車、建設機械及び農薬用動産は動産執行の方法により行われる。
 外国航空機は、航空法八条の四に規定する飛行機又は回転翼航空機に該当しないので、動産執行の方法によるべきです。しかし外国航空機は内国航空機と同様に財産価値の大きなものであるから、内国航空機に対する強制執行の方法を参考としてこれに近づけた形で行うのが適当であるとされている。
 自動車抵当該二条但書に規定する大型特殊自動車で登記されたものは、建設機械に対する強制執行の方法により行う。
 軽自動車、小型特殊自動車、二輪の小型自動車、登録することができる自動車で未登録のもの、大型特殊自動車で登記されていないものは、動産執行の対象となる。
 農業用動産とは、農業の経営の用に供する動産をいうのです。この農薬用動産については、先取特権や抵当権を設定することができるとされているため、これらの権利のある農業用動産に対して強制執行が行われた場合に、これらの権利者をどのように処遇するのかが問題になる。
 農薬用動産に対し差押えがされた場合には農業動産信用法四条に掲げる先取特権を有する者は、民事執行法一三三条により配当要求をすることによって売得金の分配を受けることができる。
 抵当権設定登記のされていることは執行官は知り得ないので、抵当権者は、執行官に対し抵当権を主張して同様売得金の分配にあずかることができる。抵当権の目的となっている農薬用動産を第三者が差押えたときは、所有者は遅滞なく抵当権者に告知しなければならないとされているので、抵当権者は、執行官に対しここに述べたような手続ができる。もし抵当権者がその申出をしないため、抵当権の存在を知り得ないまま売却されたときは、買受人は農業動産併用法一三条二項により即時取得が認められ、抵当権の負担のない農薬用動産を取得することになると解されている。
 端舟、その他ろや、かい又は主としてろや、かいをもって運転する舟、総トン数二十トン以下の船舶、一定の場所に固定し、航行の用に供されることのない沈潜函、浮標、浮ドック、水上ホテル、浚渫船、灯船、起重機船、製造中の船舶は、いずれも動産執行の方法による。
 製造中の船舶は、航行の用途及び能力を有するものではないから船舶とはいえないし、また、製造中の船舶に対しては、差押登記は受理することはできないとする法務省通達からしても、動産執行によるほかない。
 製造中の船舶については執行官が差押えとして占有を取得する一般の動産執行の方法によるべきです。そのために製造中の巨大な船舶までが一般の家財道具と同様に換価される。換価の際に製造中の船舶に抵当権設定登記がなされていた場合は、その抵当権は買受人が引受けることになる。執行官が債務者保管に委ねたときは、じ後の建造の続行はできないものと解されるが、もし、債務者が執行官による使用許可を得た場合には、その船舶の建造の続行は許されるものと解される。この場合に製造中の船舶が「船舶」として完成したときは、動産執行は終了することになるので、債権者は、あらためて執行裁判所に対し、船舶執行の申立てをすることになる。
 暫定的な事務所、営業所又は倉庫などに代用する目的で設けられ、解体して容易に移動のできるようなプレハブ式建物は動産執行の対象となるものと思われる。しかしプレハブ式といっても、その形状、構造、大小、堅ろう性、耐久性、使用目的、土地との接着の程度を考慮し、社会通念に従って決すべきで、コンクリートで土台を固め容易に移動することができないものであれば不動産として扱うことになる。プレハブ式飯場の建物を不動産と認めた裁判例がある。
 差押物が工場抵当法三条目録に記載されている抵当物件に該当するかどうかについては、執行官は、当事者提出の工場抵当法三条の機械器具目録謄本記載の抵当物件目録と現物である機械器具とを照合して調査した上、同目録に記載されていない物件を差し押さえるようにする。
 天然記念物については差押えは許されるが、その現状を変更し又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとする場合は、文化庁長官の許可を受けなければならないし、新所有者は文化庁長官に届け出なければならないので、執行官は、換価の際買受人にこのことを注意すべきです。
 銃砲刀剣類、火薬類、毒物、劇薬類については、執行官は、これを差押えて、保管することは許される。これを売却する場合は、執行裁判所の許可を受けて特別売却の方法により、法令により一定の資格を備え又は許可を受けた者に売却するのが相当です。
 債務者(煙草小売人)が所有する公社の製造煙草は執行の対象となるが、換価については、公の機関に売却するのが相当です。

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