船舶に対する強制執行

 船舶とは、水を航行する用途及び能力を有する一定の構造物であると定義づけられています。船舶は民法上は動産ですが、一般の動産に比して価額が高いのが通常であり、所有権の保存、移転、抵当権設定、処分制限等の登記をすることができ、そのために権利関係が複雑なものが多く、利害関係人が多数存することから不動産に準ずるものとして、船舶に対する強制執行は、不動産に対する強制執行に準じてなされるものとされています。
 不動産に対する強制執行に準じて行われるとしても、海上航行の危険あるいはその管理の困難性から、強制管理にはなじまないから、強制競売の方法に限られています。

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 船舶に対する金銭執行の対象となる船舶は、総トン数二〇トン以上の船舶に限られる。二〇トン以上の船舶であれば、未登記のものでも執行の対象となりますが、日本船舶については、所有権の登記を備えていることが望ましい。
 船舶執行については、所在地主義が採られているので、外国の船舶でも日本の裁判所の管轄地域に所在する総トン数二〇トン以上の船舶であれば、我が国の裁判籍に服し船舶執行の対象となる。したがって民事執行法に基づき差押え、換価、配当手続が行われる。ただし、当該船舶の上に存する担保権の実体的内容は、当該船舶の国籍地の実体法規に従うことになる。
 船舶の属具でその常用に供されているものは、船舶と一体として差押えられることになる。船舶差押えの効力は、船舶の属具にも及ぶからです。
 商法上発航の準備を終えた船舶に対しては差押えや仮差押えの執行は原則として禁止される。差押え、仮差押えの執行によってその航行を止めることになると、船舶所有者が運送契約を履行しえないために著しい損害を彼ることとなるのみならず、旅客や荷主等多数の利害関係人が発航の遅延や他船への移乗、積換え等により不測の損害を被る結果が生ずるので、これら利害関係人の利益を保護するためと、それに加えて発航の準備を終えるまでの間に船舶の差押えをしなかったことは債権者の怠慢によることが少なくないので、利害関係人の利益を犠牲にしてまでこれを保護する必要がないという趣旨からこのような規定が設けられているのです。
 発航の準備を終えたというのは、船舶が積荷、揚荷を終了し、目的地までの航海に必要な燃料、食料、水等を積込み、脆口を閉鎖し、揚貨機を収納し、税関官吏が下船する等出航のための必要な手続を完了し、客観的にみて即特発航することができるための事実上及び法律上の条件が整った時をいうとするのが通説です。
 ただし、発航の準備を終えた船舶であっても、発航をするために生じた債務、例えば航海継続に必要な物品供給立替金債務のごときについては、債権者の申立により差押えや仮差押えができる。
 端舟その他ろ・かいのみをもって運転し、又は主としてろ・かいをもって運転する船舶は、船舶執行の対象とならない。これらの船舶は船舶登記の対象とならないため、船舶執行の方法によらしめるのは適当でないので、それらに対する執行は動産執行の方法によることとなる。これらの船舶が総トン数二〇トン以上のものでも同様です。
 総トン数二〇トン未満の船舶も同様船舶執行の対象とはならない。
 船舶は航行の用に供される機具であるから、一定の場所に固定し、航行の用に供されることのない沈潜函、浮標、浮ドック、水上ホテル、推進器を有しない浚渫船、灯船、起重機船等は船舶ではない。したがってこれらの物は動産執行の対象となる。
 無国籍の船舶で、船舶国籍証書等を備えていないものは、たとえ総トン数二〇トン以上の船舶であっても、船舶執行の対象とはならない。たとえ開始決定がなされても船舶国籍証書等を取上げることができないので、民事執行法一二〇条により競売手続は取消される。このような船舶は一般の動産執行の方法によるほかない。
 製造中の船舶に関しては、抵当権の設定が可能であることについては明文がありますが、これに対する強制執行の手続については規定がない。旧法下においては竜骨又は舵の犯行を終ったもの、すなわち一個の船舶と認められる状態に至ったものは、船舶登記の有無を問わず、完成後の船舶に対するのと同様に、民事訴訟法旧七一七条以下の規定に従い強制執行をすべきものとする見解と、製造中の船舶はたとえ登記がなされているものでも、法律上動産であるからこれに対する強制執行は有体動産執行の手続によるべきであるとの見解が対立していた。不動産の強制競売は、登記簿の記入を基礎として行われるが、製造中の船舶については抵当権の目的とする場合にも、船舶としては未完成であるから、船舶所有権の登記はしたいで船舶抵当権の登記のみをし、工事完成後に、船舶所有者の申請により同一登記用紙に所有権保存登記がなされるのです。そうだとすれば、製造中の船舶につき不動産執行に草じて競売申立登記の嘱託をしようとしても、その前提として所有権保存登記はできず、したがって競売申立登記をすることは不可能です。登記実務も製造中の船舶にかかるものである場合には、これを受理すべきでないとしていた。
 民事執行法はこの点に関しその立案の段階で、製造中の船舶に対しては、所有権保存の登記ができないので、したがって、差押えの登記ができないことと、製造中の船舶に対する強制競売ないしは担保権の実行としての競売が実施される事例は極めて稀有であるということが検討され、結局条文化しないこととしたのです。したがって、製造中の船舶に対する民事執行は、すべて執行官が差押えにより占有を取得する一般の「動産執行」の方法によるべきものとされたのです。動産執行によってなされた場合には、製造中の船舶上に設定された抵当権は、買受人において引受けることとなる。
 船舶の共有持分に対する強制執行についても、民事執行法は何らの規定を設けなかったが、これについては旧法と同様その他の財産権に対する強制執行としてなされる。その執行は、船舶の所在地を管轄する地方裁判所の専属に属するものと解する。船舶の共有持分に対する強制執行は裁判所が執行機関となって差押命令を発して行うことになり、性質上適用の余地のない規定を除き、債権執行の規定が適用される。執行裁判所は、法一六七条五項により法四八条を準用して差押えの登記の嘱託をすべきです。売却代金の配当手続については、法一六六条の規定を準用して行うことになる。
 共有持分を売却又は譲渡命令等により第三者又は債権者が取得したときは、執行裁判所は、法一六七条五項により法五四条、八二条の規定を準用して持分の移転登記、差押えの抹消登記の嘱託をする。
 船舶執行については、強制競売開始決定の時の船舶の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
 このように執行裁判所は船籍港の裁判所ではなく、船舶の現実の所在地を管轄する裁判所ですが、船舶執行についてこのような所在地主義が採用されたのは、船舶はその性質上所在が転々とし易いので、迅速に目的船舶を差押えにより一定の場所に停泊させておいて、換価させることが必要であるからです。このことから、管轄区域の海上を航行中のものは、その地方裁判所の管轄区域に所在しているものとはいえない。
 執行裁判所は、強制競売の開始決定の時にその地方裁判所の管轄区域内に当該船舶が所在していると認めた場合でないと開始決定をすることはできないとされているが、申立時に船舶がその裁判所の管轄区域内に所在する旨の証明書が提出されているときは、申立時と開始決定時との間にそれ程の時間の経過がない限り開始決定時にも所在しているものとして処理することができる。この時間の経過については社会通念により決せられる。
 開始決定時に管轄区域内に当該船舶が所在していないのになされた強制競売開始決定は、無効ではないが、執行異議があれば取消される。しかし、開始決定時には所在していなかつたが、その決定が取消される前に開始決定をした執行裁判所所属の執行官による船舶国籍証書等の叙上執行が行われたときは、民事執行法一二〇染の反対解釈として、手続の取消しができなくなると解する余地があるとされています。
 申立てを受けた船舶が、執行裁判所の管轄区域内に所在していないが、他の地方裁判所の管轄区域内に所在することが明らかなときは、執行裁判所は、手続経済の観点から船舶の所在地を管轄する地方裁判所に申立事件を移送することができる。この移送の決定に対しては、不服を申立てることができない。

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