不動産競売手続の停止と取消し

 不動産競売手続においては、次のような文書が提出されたときは、競売手続は停止又は取り消される。これは、法一八ー条の公文書による証明力を覆えすような公文書が提出されれば、それだけで執行裁判所は競売手続を停止し又は取り消すことにしたものです。
 担保権のないことを証する確定判決の謄本、これに該当するものは、担保権不存在の確認判決、同訴訟における請求の認諾調書、担保権の存在しないことを合意した裁判上の和解調書、民事調停調書、家事調停調書などです。なお、第三者異議の訴えが提起され、同訴えにおいてなされた執行不許の判決も、本号に該当すると解されます。
 担保権の存在を証する確定判決、若しくは、確定判決と同一の効力を有するものを取消し、若しくはその効力がないことを宣言する確定判決の謄本、担保権存在の確認判決が再審によって取り消されたとか、担保権が存在する旨の和解、調停等の無効確認判決等がこれに該当する。
 抵当権設定登記の抹消を命ずる確定判決の謄本
 担保権の実行をしない旨、担保権の実行の申立てを取下げる旨、被担保債権の弁済を受けた旨、被担保債権の弁済を猶予した旨を記載した裁判上の和解調書、調停調書や、公正証書の謄本
 強制執行の場合には、債権者が弁済を受け、又は弁済の諭予をした旨を記載した私文書によって執行停止を求められるのですが、それはその後に請求異議の訴えを提起してそのことを立証できる関係にあるためで、担保権実行手続では、請求異議の訴えを予定されていないため、一時的にしろ私文書によって手続を停止するのは相当でないと解され弁済受領書等の私文書の提出による停止は認められていない。したがって、そのような私文書しかないときは、法一一条とか、法一八二条によって異議の申立てをして停止決定を得てその裁判の正本を提出するか、担保権不存在確認の訴えにおいて判断を求めるべきです。もっとも、裁判所の和解調書にしておけば、前述の取消文書になる。
 買受けの申出があった後に、競売の申立てを取下げる旨を記載した和解、調停調書を提出するについては、買受人の同意を要する。
 担保権の登記の抹消登記がされている登記簿の謄本、担保権の登記のある登記簿謄本は、担保権実行としての競売を開始するための基礎になる文書であり、それが抹消された場合は、あたかも債務名義がなくなった場合と同様に考えられる。
 担保権の実行を一時禁止する裁判の謄本、執行異議、執行抗告に伴う仮の処分、第三者異議の訴えに伴う仮の処分、民事調停規則六条の仮の処分、担保権不存在確認訴訟を本案とする担保権実行禁止の仮処分命令などがこれに該当する。この文書が提出されたときは競売手続を停止することになる。

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 競売申立の段階において添付される法定文書を否定する公文書であって、これらの文書が提出された場合には、執行裁判所は、競売手続を停止し、それから法一八三条二項で執行処分をも取消す旨の決定をするのです。
 担保権の実行手続は、担保権の換価権能に基づいて行われるものであるから、担保権の存在しない旨の確定判決等が提出されれば、手続を停止した上取消すべきことは当然であるし、競売申立の際提出された担保権の存在を証する法定文書の証明力を剥奪する旨の判断が示された確定判決等が提出されたときも同様である。また、担保権実行の要件を欠くことを証明する公文書が提出されたときも、手続は取消すことになる。
 担保権の存在の有無、担保権実行の要件の有無は、開始決定に対する執行異議の事由になる、それに関する文書は執行停止事由としてそれを主張して手続の取消しを求めることもできるわけです。
 競売手続の停止の処分に対しては、担保権者は執行異議の申立てができる。取消しの決定に対しては、執行抗告は許されないが、その処分には執行異議を申立てることができるので、取消決定は当事者双方に告知すべきです。
 この執行処分の取消の処分に対してされた、執行異議が認められたときは、競売開始決定の取消決定は取消され、その開始決定による手続が続行されることになる。この場合取消決定によって抹消された差押えの登記につき、裁判所書記官は錯誤による回復の登記の嘱託をしなければならない。ただし差押えの登記が抹消されてから、回復登記の嘱託までの間に目的不動産が第三者に処分されて第三者の所有名義になったときは、もはや回復登記はできないことになるので、裁判所書記官は、さきの開始決定に基づき再度差押えの登記の嘱託をすべきです。
 以上述べた法八三条一項一号から四号までの執行取消文書は、代金納付の時までに提出されないと競売手続は取り消されない。代金納付により不動産の所有権が買受人に移転された後に提出された時は、競売申立債権者は配当等を受けられないが、他の債権者には配当等の手続を実施することになる。
 法一八三条一項五号の停止文書が、売却許可決定があるまでに提出された場合には、執行裁判所は、他の事由によって売却不許可にする場合を除き、売却決定期日を開かないで、売却実施終了の状態で手続を停止する。売却決定期日が終了した後に停止文書が提出された時は、売却許可決定が取り消されるとか、買受人の代金不納付により売却許可決定が効力を失ったとき又は売却不許可決定が確定したときは、以後の競売手続は停止される。もし、この事由がなければ、売却決定期日の終了後に提出された一時停止の裁判は無視される。代金納付後に、停止文書が提出されても、手続は停止されることかく執行裁判所は配当等の手続を実施する。
 民事執行法は、手続が適正に遂行されると同時に、その迅速化を図るための規定が設けられており、実務もそれに則って進められているので、手続の停止を求めようとするには、早くその裁判を求める必要がある。
 競売手続はこの取消決定によって終了することになるので、裁判所書記官は差押えの登記の抹の嘱託をしなければならない。
 同一所有者に属する土地及び同地上に存する建物の一方、あるいはその土地、建物双方が抵当権の目的となっている場合に、競売又は強制競売による売却の結果、土地、建物が所有者を異にするに至ったときは、民法三八八条により建物について地上権が設定されたものとみなすこととされている。この規定は、先取特権、質権の場合についても準用されているので、担保権の実行としての競売により換価が行われたときには、すべて民法三八八条が適用されることになるのです。
 民事執行法は、債務者の所有に属する土地及びその地上の建物について、そのいずれかに差押えがあり、売却により所有者を異にするに至ったときは、抵当権の目的となっていない場合でも、その建物について地上権が設定されたものとみなされることとされているが、この規定は担保権の実行としての競売では適用の必要はない。そのために法一八八条でその旨を明らかにしている。
 担保権の実行としての競売は、担保権に内在する換価機能に基づくものと解されているところから、旧法下では担保権が不存在であったり、消滅した場合は、換価の権原が無くなってしまい、その結果競売手続は終了し、買受人が代金を納付しても競売手続は無効であるから、目的不動産についての権利を取得できないと解されていた。
 民事執行法は、国家機関が関与した競売手続の効果が、このような事由で買受人が代金を納付した後も覆えることは競売の信用を失墜するものであるとして、これを改めることにした。すなわち、担保権の実行の場合は、担保権の存在を公文書によって立証しなければならないとして開始の要件を厳格にする一方、いったん開始された手続につき債務者、所有者らは、開始決定について手続上及び実体上の異議を主張することができるとされ、更に手続の停止、取消しの方法を明確化したのですが、この結果手続の取消しが得られるのに、それを怠ってしなかった所有者は、仮に担保権が存在しなかったり、消滅していたとしても、買受人が代金を納付したことによる所有権移転の効果を覆えすことはできないという手続上の失権助を買受人に与え、その地位の安定を図ったのです。
 強制競売の手続では、法一八四条のような規定はおいていないが、代金の納付後においては、それより前に請求債権が弁済によって消滅していても、買受人の地位は覆えらないのが原則である。そのためにこそ債務名義が要求されているのであるが、担保権の実行の場合は債務名義は要求しないが債務名義に代わるべき文書の提出によって競売手続が開始されることになったので、強制競売と同じ程度に買受人を保護するための規定を設けたものです。
 旧法事件であるが、最高裁は、競売手続停止の仮処分に違反して競売手続が続行された場合であっても、競落代金が支払われて競売手続が完了したときは、仮処分債権者はもはや競落不動産についての競落人の所有権の取得を否定することはできないとする見解を採っている。
 このような効果が生ずるのは、所有者が手続上利害関係人として扱われた場合に限られるのであって、当該競売手続において真実の物件所有者が相手方とされていない場合には、競売を開始すべき実体上の要件が備わっていないわけであるから法一八四条は適用にならない。例えば真実の所有者が知らないうちに、偽造文書で所有権移転登記がなされ、新所有者によって設定された抵当権によって競売手続が行われたような場合には、真実の所有者は、買受人に対し自己の所有権を主張して所有権移転登記の抹消を求めることができることは当然です。
 強制競売の場合においても無権代理による無効の公正証書に基づいて手続が実施された場合、買受人が代金を納付しても所有権を取得しないとされている。
 被担保債権の弁済期が到来していない場合とか、抵当権実行の通知をしていないのに競売の申立てがされ、その申立てによる競売手続が執行異議の申立てがないため取り消されることたく続行し、買受人が代金を納付した場合には、このような手続的な瑕疵は、買受人の所有権取得の効果には影響を及ぼさないものと解されている。

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