競売の弁済金の交付

 執行裁判所は、買受人から代金が納付された場合に、債権者が一人であるとき又は債権者が二人以上であっても売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができるときは、配当期日を開いて分配手続を行う必要はなく、この場合には計算関係を明らかにする売却代金の交付計算書を作成して債権者に弁済金を交付し、残余があれば原則として債務者に交付する。ただし、甲所有不動産に順次Aの抵当権設定、Bの仮差押え、乙への所有権移転、Aの抵当権実行による差押えがあった場合に、売却による残余金はB仮差押債権者が本執行要件を証明すれば甲に交付し、Bが敗訴又は仮差押えが失効した場合には、乙に交付することになる。これに対しては仮差押えの結果いかんを問わず乙に交付すべきであるとする見解がある。旧法下でも、全債権者の債権を弁済することができるときは、配当手続を経ることかく弁済金を交付して手続を完結し得ると解するのが多教説のようであったが、民事執行法はこの多数説を明文化したものです。したがって、弁済金の交付については、配当異議の規定の適用はありません。

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 売却代金が納付されたときは、執行裁判所は、弁済金の交付の日を定めなければならない。この期日は、原則として現実に代金が納付された日から一か月以内の日としなければならない。差引納付が認められる場合には、代金納付期限が定められないまま、代金を弁済金の交付の日に納付することができるとされているので、この場合は売却許可決定が確定した日から一か月以内の日に定めなければならない。
 弁済金の交付の日が定められたときは、裁判所書記官は、各債権者及び債務者、所有者に対し、その日時及び場所を通知しなければならない。各債権者とは、法八七条一項各号に定める債権者のことです。
 通知は、適宜の方法によってすることができる。通常の通知は、これを受けるべき者の所在が明らかでないとき、又はその者が外国にあるときはすることを要しないとされているが、弁済金交付の日の通知は、強制執行の最終目的である満足手続の通知であるから、その重要性に鑑み、規則三条五項の適用が除外されている。したがって、この場合には弁済金交付の日までに到達しなくても、書留郵便に付する送達、公示送達の方法によって通知をすべきです。なお、法一六条の送達の特例の適用があります。
 弁済金の交付の日が定められたときは、裁判所書記官は、各債権者に対し債権の元本、弁済金交付の日までの利息その他の附帯の債権及び執行費用の額を記載した計算書を一週間以内に執行裁判所に提出するように催告しなければならない。
 催告は、適宜の方法によってすることができる。この催告に基づいて各債権者は所定の期間内に計算書を提出することになるが、計算書は一定の書式により提出されることが望ましいので、裁判所作成の計算書用紙を催告書と共に送付することになっている。実務では通常弁済金交付の日の通知書に催告書と計算書用紙を同封して普通郵便によって送付している。もっとも、執行裁判所に出頭した債権者には窓口において催告書を交付することでもよい。
 催告をしたときは、裁判所書記官は、その旨及びその方法を記録上明らかにしなければならない。実務では催告書の写しを記録に絹織しておくことになろう。
 催告すべき債権者の住所、居所が明らかでなく、催告書の送達ができない場合、又はその者が外国にあるときは、催告すべき事項を公告してすれば足りる。公告は裁判所の掲示場その他裁判所内の公衆の見やすい場所に掲示して行う。
 この場合裁判所書記官は、公告した旨及び公告の年月日を記録上明らかにする。
 公告の方法による催告は、公告をした日から一週間を経過した時にその効力を生ずる。
 裁判所書記官は、裁判所の掲示場等による公告のほかに、なお一般に周知させることが相当と認めるときは、公告事項の要旨を日刊新聞紙に掲載する方法により公示することができるが、計算書提出の催告については、執行費用等の関係でそこまでする必要はないでしょう。
 計算書の提出を催告するのは、執行裁判所が交付計算書を作成するための資料を得るためです。すなわち、各債権者の債梗概は、差押債権者については競売の申立書、配当要求債権者については配当要求書、その他の債権者の場合は債権の届出書によって一応明らかになっているが、その後の弁済等の有無、利息、損害金の計算を明らかならしめることが必要であるために再度申告を求めるものです。また、執行費用については、執行記録上判明しないもの、例えば売却のための保全処分の費用、代払された地代又は借賃などを明らかにさせる必要があるからです。なお、債権者は、記録により判明しかいこれらの執行費用の額については疎明資料を添付すべきです。
 催告を受けた債権者は、執行裁判所から計算書提出の催告書と共に送付を受けた債権計算書に所要事項を記載して一週間以内に執行裁判所に提出しなければならない。この一週間というのは訓示的規定であって、一週間を過ぎて提出された計算書も、交付計算書作成の資料となるので、無効という問題は起きない。また、催告に全く応じない債権者に対する効果については何らの規定はないが、計算書の提出は、弁済金の交付計算書作成の準備行為にすぎず、計算書を提出しないからといって民法、商法その他の法律によって定まっている債権者の権利を左右することはできないと解されている。したがって、債権者が計算書を提出しないときは、執行記録上の申立書、執行正本、登記簿謄本等の資料に基づいて計算するほかない。仮差押債権者の債権は、執行記録でも明らかにできないので、執行裁判所は仮差押事件を取寄せの上その記録に基づき頓を確定すべきです。執行裁判所に最終的に明らかにならない執行費用等は配当から除外することになる。
 弁済金の交付の目を指定して各債権者に債権計算書の提出を催告し、各債権者から提出された計算書を検討した結果、売却代金で全債権及び執行費用の全部の弁済ができないことが判明したときは、執行裁判所は、弁済金の交付期日を取消し、改めて配当期日を指定して各債権者、債務者を呼出して配当を実施すべきです。
 執行裁判所は、差押債権者等の提出した計算書に基づいて売却代金の交付計算書を作成する。交付計算書の記載については規定はないが、配当表の記載に準ずる事項を記載することとなろう。すなわち、売却代金から執行費用を控除し、各債権者の債権の利息、費用、元本を計算してこれを計算書で明らかにする。
 この場合の利息について、旧法下では、配当期日までの利息を請求できるとするのが通説であり、実務の取扱いであったが、民事執行法ではこの点について規則六〇条において債権者に対し配当期日等までの利息その他の附帯の債権を記載した計算書を提出すべきことを催告することとしており、債権者としては弁済期までの利息は当然請求し得るものであること、損害金の発生も元本の弁済の時点、すなわち配当期日まで続くと解すべきであるから、旧法下の通説と同様に債権者が弁済金の交付を受けるべき日までの利息を計上すべきです。このように解した場合、執行停止文書の提出によって差押債権者が現実の弁済金の交付を受けられないときには、弁済金の交付の日以後現実に弁済金を交付されるまでの間の利息は交付を受けられないという不利益を受けることになるが、これによる損害は、別途債務者に請求するほかない。
 各債権者に対する弁済金の交付や、債務者、所有者に対する剰余金の交付は、執行裁判所がすることとされているが、これらの金銭を現実に受けるべき者に交付する手続は、裁判所書記官が行うことになっている。この場合裁判所書記官は、交付計算書に基づいて債権者に代金を交付し、残余があれば債務者、担保権実行としての競売の場合には、差押え当時の物件所有者に交付する。担保権者である債権者の附帯債権は、特別の登記がない限り、最後の二年分についてのみ優先弁済権を有するが、これは担保権設定者の関係ではこの範囲を制限したものではない。したがって担保権の登記はあるのだから二年分を超える分についても一般債権者と同順位で弁済金の交付を受けることができる。よってこの部分を剰余金として債務者等に交付すべきではない。交付手続は、出頭した債権者等の提出した保管金請求書に裁判所書記官が支給印を押捺し、各一通を保管票と共に歳入歳出外現金出納官吏に送付する。執行裁判所の支給印は不要である。債権者等は出納官吏から現金又は小切手で売却代金の交付を受ける。保管金請求書及び領収書の一通は記録に編綴する。供託金の支払委託の手続も、裁判所書記官が行うものとされている。
 弁済金の交付を受けるべき債権が、停止条件付又は不確定期限付であるとき、仮差押えに係るものであるとき、執行停止の裁判の正本又は謄本が提出されているとき、担保権の実行禁止の裁判の正本又は謄本が提出されているとき、仮差押え又は執行停止に係る差押えの登記後に登記された担保権によるものであるときには、裁判所書記官は、その債権に対する弁済金は供託しなければならない。
 ところで、抵当権等の設定が仮登記によってされている場合には、その債権に係る配当等の額に相当する金銭は供託しなければならないとされているが、各債権者が全額の弁済を受けることができるときには、その抵当権等が仮登記であるか、本登記であるかによって他の債権者等に影響を及ぼすことにはならないので、仮登記権利者に対する弁済金は供託することなく、交付してよい。弁済金の交付手続においては、仮登記抵当権者の、優先弁済権の有無を判断する必要はないし、また、本登記手続をするに必要な要件の具備を求めるまでもないと解されるからです。
 供託金については、供託の事由が消滅したとぎに弁済金の交付が行われる。供託の事由が消滅したときとは、停止条件付である場合は、停止条件が成就したとき、執行停止等の執行の正本が提出されているものについては、執行停止等の理由がなくなった場合をいうのである。
 この場合には執行裁判所は、供託金について交付手続をし、その支払委託手続は裁判所書記官が行う。
 弁済金の交付の日までに期限が到来しない債権は、旧法では弁済金を供託すべきものとされていたが、その場合の利息は期限までの分を供託しなければならないとすると、利率が高いときには、他の債権者との均街上問題を残すことになる。そこで民事執行法は、期限付債権に関しては債権者、債務者間の利害の調整と配当手続の迅速な処理という両面から、弁済金の交付の日に弁済期が到来するものとして取扱うこととしている。ちなみに、この規定は、破産法一七条、会社更生法一一四条と同じ規定であり、不動産競売には、不動産ごとの小破産的側面がないわけではないので、民事執行法においても破産法等と同じように処理するのが合理的と考えられたのです。
 期限来到来の債権を被保全債権として仮差押えをした場合の弁済金は、元本と弁済金交付の日までの利息、費用が供託されることになります。期限来到来の債権を被担保債権とする担保権者も、右同様弁済金の交付の日に期限が到来したものとみなされて弁済を受けることになる。もっとも担保権の場合は、債務者が差押えを受けることにより期限の利益を失う旨の特約が付されている例が少なくないので、実務上は問題になることは少ないと思われる。
 弁済金交付の日に期限が到来したものとみなされた債権が無利息であるときは、直ちに弁済金の交付を受けられる代わりに、満額受領できるとするのは合理的でないので、弁済金交付の日から期限までの法定利率による中間利息を割引いた額を弁済金として交付することになっている。債権者は期限到来時に元本となるべき金額を受領すれば足りると考えられてのことです。
 売却代金が納付された後に、執行停止を命ずる裁判の正本又は謄本が提出されても、弁済金の交付手続を停止させる必要はなく、交付期日を指定して弁済金の交付を実施すべきです。ただ、裁判所書記官は、停止の裁判が提出された債権者に交付すべき弁済金は供託しなければならない。供託金は執行停止に係る本訴等において、債務者、所有者が勝訴すれば供託金は債務者に交付されるし、債務者、所有者が敗訴すれば債権者に交付される。代金納付後に弁済受領文書、弁済猶予文書が提出された場合には、弁済金は債権者に交付することになる。売却の実施の終了後にこのような文書が提出されても無視され、手続は停止されないとされているからです。
 債務者は猶予、弁済を理由として請求異議の訴えを提起するほかない。
 代金の納付後に法三九条一項一号から六号、一八三条一項一号から旧号までに掲げる執行取消文書が提出された場合でも、競売手続を取消すことはできない。代金の納付によって目的不動産の所有権は既に買受人に移転しているからである。しかし、執行取消文書が提出されると、差押債権者は弁済金の交付を受けることはできなくなることは当然であるから、もし差押債権者だけで他に債権者がいない場合は、売却代金全部を債務者、所有者に交付される。この場合他に弁済金の交付を受けるべき債権者がいるときは、その者のために弁済金の交付手続を実施しなければならない。
 債務者が債権者の債権を争う方法としては、債務名義に基づいて強制競売の申立又は配当要求をした債権者に対しては請求異議の訴えを提起し、それに伴う執行停止を命ずる裁判を得て弁済金交付の日までに執行裁判所に提出するか、債務名義が執行証書の場合には民事調停規則六条一項の停止決定を得るかして債権者への弁済金の交付を妨げることができるし、担保権者に対しては、債務者、所有者は被担保債権不存在確認の訴えを提起して、担保権実行禁止の仮処分を得てその正本を執行裁判所に提出すれば弁済金の交付は妨げられる。停止書面の提出があれば、執行裁判所は、その債権者への弁済金は供託するが、他の債権者には交付手続を行う。停止書面の提出が弁済金交付の日以降であっても、まだ弁済金の交付がなされていないときは、供託手続をする。
 債権者に償還すべき執行費用の額について不服のある債権者又は債務者は、執行異議の申立てができる。異議に理由があるときは、執行裁判所は、計算書を修正して弁済金の交付を行う。
 差押債権者又は執行力のある債務名義の正本により配当要求をした債権者が、債権全額の弁済を受けたときには、債務者は、裁判所書記官に対し、債権者の提出した執行正本の交付を求めることができる。この請求があったときは、裁判所書記官は、差押債権者の場合は競売申立時に、配当要求債権者の場合は、配当要求申立時に提出した執行正本を債務者に交付しなければならない。
 執行正本を債務者に交付するのは、二重執行を防止する趣旨ですが、債務者が交付の請求をしない限り、裁判所書記官は、執行正本を交付すべき義務はないので、そのまま執行記録中に編綴して保存しておけば足りる。記録保存期間が経過すれば、記録と共に廃棄して差し支えない。

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