競売不動産の引渡命令

 買受人は、代金を納付した後は買受人に占有権限を対抗できない債務者、所有者及び占有者に対し、買受けた不動産の引渡しを請求できる。もし債務者等が任意に引渡しをしないときは、買受人は、執行裁判所に対し、不動産を買受人に引渡すべきことを命ずる決定を求め、同決定を得て執行官に引渡執行の申立てをして引渡しを受けることができる。引渡しの目的物は、買受けた不動産の一部でもよいし、工場抵当の目的となっている機械器具のみの引渡しも求めることができる。
 買受人は、買受けた不動産の占有者が任意に引渡しをしない以上、本来は引渡請求の訴えを提起し勝訴判決を得て執行しなければならないのですが、裁判所が関与して成立した執行手続による取得であることから、新法でも、旧法と同様簡易の引渡執行制度が設けられたのです。

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 引渡命令の性質については、旧法下においては執行手続に附随する職務命令(執行処分)とみるか、債務名義とみるかについて見解の対立がありましたが、民事執行法では旧法と同じく執行手続に附随する裁判ではあるが、法二二条三号の抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判として、確定することにより独立の債務名義となるものとされました。したがって、これに基づく執行は法一六八条に基づき引渡執行ができるのです。
 不動産引渡命令の申立ては、書面又は口頭ですることができる。この申立ては引渡執行の債務名義を得るための手続で、執行手続の附随的な申立てであるから、規則一条の書面申立主義の適用はない。しかし重要な申立てであるから書面でするのが相当です。
 申立書には、民事訴訟費用等に関する法律三条・別表第一の一七のロにより手数料の印紙を貼付する。申立書には、債務者又は物件所有者、あるいは事件の記録上明らかな占有者を相手方として申立てる場合は、格別な書面の添付は必要ないが、債務者、所有者の承継人又は不法占拠者を相手方とするときは、その事実を証明する書類を添付しなければならない。
 買受人の一般承継人が申立てをする場合は、その承継を証する書面を添付する。買受人が占有者から任意の引渡しを受けた後、不法占有者により占拠された場合や、買受人が他人に賃貸した後、肯貸借契約を解除したような場合には、引渡命令の申立てはできないことはもちろんです。
 引渡命令の申立てができる者は、代金全額を納付して所有権を取得した買受人及びその一般承継人に限られる。この権利は、買受人に対し執行法上与えられた権利であって、買受人が買受けた不動産を他に譲渡し、その旨の登記を経たとしても申立権を有していると解するのが相当である。したがって、競売不動産の譲受人は自己の名をもって引渡命令の申立てをする権利を有しない。譲受人が債権者代位によって引渡命令の申立てができるかについては問題はあるが、引渡命令が執行法上買受人のために認められた制度であることからすると消極に解するのが相当である。
 引渡命令は、債務者、所有者及びその一般承継人に対して発することができることは問題はないが、債務者、所有者以外の者が占有している場合に、その者に対して引渡命令を発することができるかについては、旧法下では多くの判例、学説が種々の見解を打出していた。
 民事執行法はこの点について引渡命令を発することができる相手方を統一する趣旨から、法八三条に規定をおいている。この規定は政府原案が国会で修正されたためか、まことにわかりにくい規定となっているが、要するに引渡命令を発することができる相手方は、債務者又は物件所有者及びその一般承継人、実務では担保権の実行としての競売においては、物上保証人である所有者でない債務者が目的物件を占有し、両者間に夫婦(内縁関係も含む)、兄弟、親子又は同族会社とその代表者の関係にあるときは、その者は引渡命令の相手方となるとの取扱例がある。差押え後の占有者(差押え後の債務者等からの特定承継人が考えられる。ただし留置権をもって対抗し得る者を除く)、差押え前及び後を問わずいわゆる不法占有者(条文では事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者としているが、短期賃借権が差押え後期間が満了したもの(ただし差押支援に更新されても買受人に対抗できないものとなるが、これに基づく占有が差押え前から継続しているときは権原により占有している者として取扱われるであろう)、賃借権解除請求訴訟で敗訴した者など、占有開始時は権原があったが、その後権原を失った者も含む)ということになる。
 差押え前からの占有者で、占有権原を有している者、長期の賃借権者とか、使用借権者、差押前に競売目的不動産を譲り受けて占有している者や、差押えの効力発生後の占有者であっても、買受人に対抗することができる占有権原を有している者に対しては、引渡命令を発することはできない。
 したがって、売却により消滅する抵当権設定後に設定した長期賃借権又は使用借権で、売却条件では差押債権者、したがって買受人には対抗できない者であっても、それが差押え前からの占有者で、債務者との関係では無権原ではない占有者には引渡命令という簡易な手続によって排除することはできないので、買受人は、その者に対しては賃借権等の効力が消滅したことを理由に、別に明渡訴訟を提起して権利の実現を図らなければならない。もし緊急の必要性があれば、明渡しを求める断行の仮処分の申請をすることが考えられる。
 差押え前からの占有者で、占有権原を有する者であっても、その占有が仮差押えの試行後であり、かつ、仮差押債権者が本案で勝訴して本執行をしたときには、差押え後の占有者とみるべきである。また、抵当権者が抵当権の実行としての競売の申立てをしたときには、その抵当権設定登記後の用益権者は、差押え後の占有者となるので、いずれもその者を相手方として引渡命令を求めることができるとする見解がある。
 この点については共有持分の性質から考える必要がある。共有持分は単独所有における所有権に比べて、共有者相互間の人的関係に基づく制約を受ける。すなわち所有権の内容は原則として自由に所有物の使用、収益、処分ができるのに対し、各共有者は共有物の全部につきその持分に応じた使用をすることができる。この持分の使用収益権能というのは観念的なものであって、現実に共有物を使用収益するためにこれを具体化するには、他の共有者との協議によって定めるべきです。民事試行法はこのような観念的なものにっいての執行は、裁判所の決定、命令によりなされ、特段の規定のない場合はその決定、命令を告知することによって効力が生ずるとしています。不動産引渡命令に基づく執行は、法一六八条により執行官の事実執行によってなされるので、共有持分のような観念的なものはこの事実執行に親しまない。したがって引渡命令は発することはできない。
 しかし共有物は共有者全員によって支配され、各共有者の持分の総和が単独所有における所有権と同様の内容を持つもので、したがって、共有物全体の管理行為については、各共有者がそれぞれ利害関係を持っているのです。この管理行為は、保存、利用、改良の各行為に大別できるが、そのうち利用行為と改良行為は共有物の変更にならない限り、持分の価額によって過半数で決することになります。これに対し保存行為は各共有者が単独ですることができるのです。この保存行為とは共有物の滅失、毀損、価格の減少、権利の消滅を防ぐ行為であって、多くの場合に共有者全体の利益となるものです。共有物の引渡しを請求するのも、ここにいう保存行為であって、各共有者が単独でなし得ることは判例において早くから認められているところであり、そうだとすれば共有不動産に対する持分を競売により買受けた買受人が、債務者である共有者のみが占有している共有不動産、又は共有者以外の第三者のみが占有している共有不動産に対して、引渡命令によって引渡しを受けることは共有者全員に対する保存行為に属するので、この場合は裁判所は引渡命令を発することができると解する。
 引渡命令は、買受人が代金を納付した日から六ヵ月以内に申立なければならない。この引渡命令は、執行手続の後始末として認められた簡易な手続であるから、長期間放置することは認められないとする趣旨である。この六ヵ月の法定期間は伸縮することはできない。六ヵ月を経過したときは引渡命令の申立てをする権限を失うので、その場合は、買受人は占有者を相手に所有権に基づく引渡し又は明渡訴訟を提起するほかない。
 民事執行法は不動産の現況調査や物件明細書の作成のため、執行裁判所による審尋の手続を設けて、不動産の権利関係の調査を拡充強化しているので、差押えの効力発生前からの占有者かどうか占有開始の時期、その占有権原の有無などは事件の記録により明らかになっていることなので、執行裁判所としては、引渡命令を発することができるかどうかは事件の記録で判断できることとなるが、債務者、所有者その一般承継人以外の占有者に対し引渡しを命ずるときは、その者を審将しなければならない。このような第三者に対する引渡命令については、占有開始の時期、占有権原の有無等慎重な判断を要するので、一般の裁判の場合は任意的である審尋を、特に必要的なものとしたのである。もっとも、この場合の審尋は、審尋を受くべき者に審尋の機会を与えればよいのであって、その者が審尋に応じないときは、その陳述を聴かないで引渡命令を発することができる。現況調査又は物件明細書の作成について既にその者を審将している場合には、改めて審尋する必要はない。引渡命令の申立てを却下する場合には、審将を要しない。
 執行裁判所は、申立てを適法と認めれば引渡命令を発し、理由がなければ申立てを却下する。
 ちなみに抵当権設定登記後の第三収得者は、同人に対し引渡命令が発せられた場合、第三取得者が目的不動産に対し必要費又は有益費を支出しているときは、買受人がその費用の償還をするまで留置権を行使できる。
 引渡命令又は不適法な申立てに対する却下の裁判に対しては、利害関係者は執行抗告をすることができる。これらの裁判は関係者の利害に大きな影響があるからです。
 引渡命令に対する執行抗告の理由としては、引渡命令の要件である申立人の資格、申立期限、相手方の占有権原等について判断の誤りなど手続的な瑕疵を追及することが考えられる。
 引渡命令は確定しなければ執行力が生じない。それ故に執行抗告の提起期間中又は引渡命令に対して執行抗告がなされ、抗告審の判断がされるまでは引渡命令の執行ができないので、その間に占有者が転々とするおそれがある場合には目的不動産を保全しておく必要がある。このような場合買受人は、法七七条一項に基づく保全処分、又は占有移転禁止の仮処分により、目的不動産の占有を保全しておくことができる。
 確定した引渡命令に対しては、引渡命令の相手方は、買受人に対抗することのできる占有権原を有するという引渡請求権の不存在、又は消滅を理由に、請求異議の訴えを提起することができる。また、引渡命令の相手方でない第三者が引渡執行を受けたときは第三者異議の訴えができるものと解する。
 引渡命令の執行には、執行文の付与を要するので、これに関し、執行文付与の訴え、執行文付与に対する異議、又は同訴えを提起することができる。引渡執行に対し不服があれば、執行異議の申立てができる。
 引渡命令に対する請求異議の訴え等を提起し、執行停止の裁判を得れば、引渡命令の執行を停止することができる。
 確定した引渡命令は、法二二条三号の債務名義であるから、引渡命令の相手方が、任意の履行をしない場合は、買受人は引渡命令に執行文の付与を受け、もし命令の発今後に申立人について一般承継事由が生じた場合や、相手方の占有を承継した者があれば、引渡命令に承継執行文の付与を受けた上、執行官に対し不動産引渡執行の申立てをすることができる。
 引渡命令に基づく執行官に対する執行申立てについては、期間の制限はない。
 引渡執行の申立てを受けた執行官は、法一六八条の不動産の引渡し又は明渡しの強制執行の方法により、占有者の占有を解いて債権者にその占有を取得させる。差押えの登記前に占有移転禁止、執行官保管の仮処分執行がされていて当該不動産は執行官保管中であれば、引渡執行は不能になるものと思われる。もし、引渡執行ができるとの見解に立つとしても、仮処分債権者から、買受人に対し所有権に基づいて引渡訴訟が提起されれば、事実関係によっては買受人は敗訴の判決を受けることになる。

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