差押不動産の売却手続き

 不動産の売却方法は、旧法下では、競り売りを原則とし、例外的に入札払いの方法を採ることができるものとしていました。この競り売りに参加して競売不動産を買い受けるには、相当高度な駈け引きを要することと、競売ブローカーの中に入って競り合うことはかなりの度胸を必要とするなどのために、一般買受希望者の参加は困難であって、いわゆる競売ブローカーに独占されるという弊害があったために、大多数の裁判所では原則として入札払いの方法を採り入れていたのです。民事執行法は、換価の適正化を図るために、執行裁判所の裁量により入札又は競り売りのいずれをも選択できることとし、これらの売却方法を行ってみても最低売却価額を超える申出がないような場合には、入札又は競り売り以外の売却方法によることが考えられ、これについては時代の要請により変化する可能性も強いので、それに即応して直ちに改めることの可能な最高裁判所規則で定めるのが適当であるとして、民事執行法六四条二項によりその旨の規定が設けられ、具体的にどの方法によって売却をするかは、執行裁判所がその不動産に最も適した売却方法を選択できることとしています。しかし一旦定めた売却の方法を他の方法に変更することは自由です。

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 競売による売却の法的性質については古くから私法上の売買説と、公法上の処分説との対立があります。私法上の売買説とは、競売は差押えに基づき国家機関が債務者から徴収した処分権の行使として目的物を売却する一種の私法上の売買であるとします。
 私法上の売買説でも、更に債務者を売主とし、買受人を買主とする売買であるとする債務者売主説、債権者を売主とし、買受人を買主とする売買であるとする債権者売主説とに分かれます。公法説は競売における売却は国家機関がその職務上の権限に基づいて売買の形式に従ってする一種の換価行為です。そしてそれは債務者の意思に反して買受人に所有権を取得させる公法的な処分であるとします。この公法説にも、執行機関がその職務上の権限に基づき売買の形式に従ってなす公用徴収に類似する国家処分であるとする見解、強制競売は理論上必ずしも私法上の売買ではなく、一種の公法上の売買であるとする公法契約説、競売は裁判上の和解、調停、強制和議と同列に立つ一種の裁判上の形成手続であるとする見解に分かれます。このような私法説と公法説に対し、競売は国家機関と各関係人との関係においては公法上の処分であるが、関係人相互の関係においては私法上の売買としての性質をも有するとする折衷説が有力に主張されています。民事執行法においても、その法的性質に特に変更は加えられていないので、旧法下の議論が通用することになるでしょう。
 そもそも競売は、国家機関が債務者の財産に対して実施し、売却の結果買受人がその所有権を取得することになるのですが、これを競売を実施する国家機関の側から見ると、国家機関が債務者の財産を売却できるのは、差押えの結果国家が取得した処分権に基づくものであって、その処分により債務者の意思にかかわらず強制的に所有権移転の結果を生じさせるのであるから、公法上の処分であることは疑いがない。一方買受人が所有権を取得するときは、あたかも債務者を売主、買受人を買主とする私法上の売買と同様の関係が生ずると解せられる。だからこそ債務者に対して民法五六八条による売主としての担保責任を負わせたのです。したがって折衷説を相当と考えられます。
 民事執行規則では、不動産の売却の方法として期日入札、期間入札、競り売り及び特別売却の四種の方法を規定しており、これらいずれの売却方法を採用するかは、執行裁判所の裁量に委ねられています。このうち入札又は競り売りの方法によるときには、執行裁判所は、その入札又は競り売りの別、売却の日時、売却の場所を定めて、執行官に売却の実施を命ずる。
 売却の方法のうち、入札の方法にっいては、入札期日に入札をさせた後開札を行う期日入札と、入札期間内に入札書を持参又は郵送する方法により入札させて、開札期日に開札を行う期間入札という方法を規定している。入札は一般の買受希望者が参加しやすいという点で競り売りよりも適当であり、規則においては、入札を原則的売却方法として規定している。
 期日入札と期間入札とは、いずれを原則とするとも規定されていないので、執行裁判所の裁量により、どちらを売却方法として定めてもよい。
 入札は、入札期日に入札をさせた上、引続いて開札を行い、直ちに最高価買受申出人と、次順位買受申出人を決める方法です。したがって入札をしようとする者は、期日に出頭して入札をしなければならない。期日入札は一般的にいえば、競売手続を簡易しかも迅速に処理することができるから、通常の場合にはこの方法によるのが適当です。
 執行裁判所は、期日入札の方法により不動産を売却するときは、入札期日を指定するとともに売却決定期日(入札期日等)を指定しなければならない。
 入札期日は、公告期間を考慮し物件明細書が作成された日より一五日か二〇日以内の日に指定されるのが通常です。この両期日の指定は、同時に行われるのが通常ですが、しかし民事執行規則三五条には、特にこの点について限定していないので、別個に指定してよい。
 ただし、いずれも公告事項であるから、公告前には公告期間を考慮して指定されていることが必要です。
 両期日のうち入札期日は、執行官か主宰する期日であり、売却決定期日は執行裁判所が主宰する期日である。期日は年月日時をもって定めるが、もし時間を指定しなかったときは、その期日は裁判所の日常執務を始める時間以後に開かれる趣旨と解すべきです。
 入札期日の延期、変更については旧法及び民事執行法とも何らの規定はない。旧法下では当事者間で示談中であることを理由として債権者から競売期日の変更申請があった場合には、東京、大阪両地裁とも、債権者と債務者の合意がある場合であっても三回しか許さないという制限的な運用がされていました。民事執行法下においては、入札期日の変更は不動産の買受希望者の購買意欲を阻害することもあり、旧法と比較すると職権進行主義を強化しているので更にその運用は制限されるであろうが、ただ、全然これを許さないとするものではなかろう。
 延期、変更の申請は、物件明細書を備え置いて閲覧に供した以後は、買受希望者が閲覧後買受けをするに当っての具体的な行動に移るわけであるから、このような一般の買受希望者の利益を保護する建前から延期、変更は許さない取扱いが相当である。延期、変更の申請は、法三九条三項の趣旨を参酌して変更は二回に限り、変更後新期日までの期間を通じて六ヵ月を超えることはできないという運用も考えられる。
 延期、変吏の申請をするについては、差押債権者の同意が必要です。配当要求債権者、債務者の同意は要しない。
 滞納処分による差押えがされている場合でも、徴収職員等の同意を要しない。
 もし売却の公告後も売却期日の延期、変更を認めるとすれば、掲示した公告の取りはずしをする。入札期日を通知した者には延期、変更の旨を通知するのが妥当である。この変更は当事者の申請によって行われるのが通例ですが、この申請は執行裁判所の職権発動を促すに過ぎないと解されるので、執行裁判所は、総ての利害関係人が入札期日の変更を合意してもこれに拘束されることはない。したがって変更申請を許さないで売却が実施されても、これに対し当事者は不服を申立てることはできない。実務では、期日入札にっいての延期、変更は認めていない取扱いが多い。
 入札期日を開く場所は、民事執行法六四条三項には特に制限はないので、裁判所内に限らず裁判所外でも開くことができるが、売却の場所の秩序維持の必要から、裁判所内の競売場で開かれるのが通常です。売却決定期日は、裁判所法六九条が適用されるので、原則として裁判所内で開かなければならない。
 売却決定期日は、原則として入札期日から一週間以内の日としなければならない。民訴旧六六〇条一項と同趣旨で、競売手続の迅速処理を目的とするとともに、売却実施の終了後、売却許否の決定までの間の競売不動産の現状、その他事情の変更を最小限にとどめて、手続の安定を図る趣旨であるとされている。
 期日は、「やむを得ない事由がある場合」には、一週間を超えてもよいとされている。やむを得ない事由の例としては、農地の売却においてその所有権の移転について都道府県知事又は農業委員会等の許可に時間を要する場合があげられる。すなわち農地の売却においては、買受けの申出をすることができる者のうち、最高値買受申出人については、売却許否決定の前に都道府県知事等の許可を受けた上、その許可書が提出されれば許可決定をし、提出がなければ不許可決定がなされるのであるが、この許可を受けるためには、相当の期間を要するのが通例であるからです。この場合に売却決定期日の指定は裁判所の裁量に委ねられるが、民事執行規則三五条の趣旨からして、入札期日から可及的短期間内の日に指定すべきであるとされている。
 一旦売却決定期日を指定した後にこれを延期する場合にも、やむを得ない事由がない限り、延期後の期日も入札期日から一週間以内にしなければならない。
 執行裁判所が売却実施のために、最低売却価額を定め、売却方法、日時、場所が定められたときには、裁判所書記官は売却すべき不動産の表示、最低売却価額、売却の日時、場所を公告しなければならない。期日入札の方法により売却をするときには、民事執行規則において、その公告につき、後に述べるように補充的公示方法を規定している。
 公告は、公告事項を記載した書面を、裁判所の掲示場その他裁判所内の公衆の見やすい場所に掲示して行う。その他補充的な公示方法として不動産所在地の市町村の掲示場に掲示する方法と、日刊新聞紙に掲載する方法がある。
 期日入札の公告は、入札期日の二週間前までにしなければならない。入札期日までに相当の期間をおいて、できる限り多数の人に競売が施行されることについて知る機会を与え、適正な入札が実施されることを目的としたものである。この期間の定めは、訓示規定とは解されないので、もし入札期日の二週間前までに公告がされなかったときは、違法となり、売却不許可事由となり得る。この場合執行裁判所としては入札期日の変更をしてやり直さなければならない。公告は、ここに述べたように多数の人に見る機会を与えることを目的としているのであるから、公告の掲示は入札期日まで継続して行われることを要する。途中で何らかの事情により紛失していることが判明したときは、速やかに補充すればよい。入札期日まで引続き掲示されなかったとしても、直ちに違法とはならない。
 売却の公告は、入札期日のたびにしなければならないが、その場合についても、二週間前までにしなければならない。二週間前にしなければならないのは、公告事項を記載した書面を裁判所の掲示場その他裁判所内の公衆の見やすい場所に掲示して行う方法による場合であって、公告事項の要旨を日刊新聞紙に掲載する方法による公示や、市町村の掲示場に掲示するについては、入札期日の二週間前でなくても違法にはならない。
 売却すべき不動産の所在、地目(構造)、地積(床面積)を、登記簿謄本に基づいて記載するが、実務では、申立債権者が提出した物件目録を使用する。登記簿騰本の表示と現況が異なるときは現況も記載する。例えば、宅地の一部が道踏歌になっているとき、地積が増減しているとき、地目が異なっているとき、土地区画整理法による仮換地指定のあるとき、建物にっいては増改築がなされている場合にはその旨を現況として記載する。もっとも、公告のほか現況調査報告書及び評価書の写しが一般の閲覧に供されることになっているので、不動産の現況は、現況調査報告書の写しにより把握することができるから、公告中の不動産の表示に現況が記載してなかったとしても、違法な公告とはいえない。この点は今後の判例の見解によることになるでしょうが、実務としては問題にならぬよう注意して取扱うべきです。
 数個の不動産を一括して売却するときには、各別に最低売却価額を記載した上後述のように一括売却する旨の記載をしてもよく、又は数個の不動産の評価額を合算した金額を最低売却価額として一括売却する旨の記載をしてもよい。建物と、その建物内に存する機械器具を売却する場合には、建物と機械器具は一括して売却すべきであるが、建物のみの抵当権者が存するときは、その抵当権者は機械器具の売得金からは配当を受けられない関係にあるので、建物と機械器具の各評価額を各別に最低売却価額として記載すべきです。共有持分の売却の場合は、共有物全部を評価させ、債務者の持分に応じてその価額を定め、これを最低売却価額として記載する。
 地上権、永小作権の競売については、不動産の価額ではなく、その権利の評価額が最低売却価額となる。
 買受けの申出をしようとする者は、民事執行規則三九条の定める保証の額を提供しなければならない。この保証額は、執行裁判所が相当と認めるときは、これを増額することができるので、買受希望者にこの旨を周知させる必要があります。保証の額は「金○○円」と表示すべきで、最低売却価額の一〇分の二などとすべきではない。公告を見る者が、最低売却価額によって一〇分の二を算出する不便さを避け、一見して保証額が判るようにするのがよいからです。
 保証の提供方法にっいては、金銭、自己あて小切手、送金小切手、銀行又は損害保険会社との支払保証委託契約締結証明書の提出方法が採用され、旧法当時よりも複雑化し、しかも現金による提供を禁ずることができることから、これらの定め及び執行裁判所の預金口座の銀行名、口座番号を、公告により一般に広く知らしめるのが適当であるとされたのである。
 執行裁判所は、数個の不動産が競売の目的である場合に、相互の利用上これを一括して同一の買受人に買い受けさせることが相当であると認めるときは、これらを一括して売却することを定めることができるが、この定めがされたときは、個別に買受けの申出ができなくなるので、このことを公告してあらかじめ買受希望者に周知させる必要があることから、公告の記載事項としたのです。
 別に係属した競売事件の不動産についても、一括して売却することができるが、その場合には公告に別事件の表示、不動産の表示、その最低売却価額を併せて明らかにする。
 この場合売却の公告は一つの公告として、不動産の表示、最低売却価額、事件の表示を併記するのが判り易くてよい。
 執行裁判所は、法令の規定によりその取得が制限されている不動産にっいては、買受けの申出をすることができる者の資格を制限することができるが、このように制限されたときは、資格のない者は買受けの申出をすることはできないし、資格のある者も、その資格を証明する書類等を事前に用意する必要があるので、その制限の内容を、あらかじめ買受希望者に知らしめる必要から、公告の記載事項としたものです。
 租税その他の公課を公告に明らかにするのは、買受希望者に対し不動産の適正な買受価額決定のための参考資料に供するためであるから、公告をする当時の年度の公課を表示するのが望ましい。しかし公告当時の年度のものを記載すべき旨の厳格な規定はないから公告当時の年度以前の公課を記載しても差し支えないものと解すべきです。何故なら公告当時の年度以前の年度の公課を記載しても、その公課額が不動産の価額を算出する資料となるならば公告の目的に副うことになるからです。公課の額は、差押債権者が競売申立書に添付して提出する公課証明書に基づいて記載する。差押債権者が公課証明書を提出しない場合又は不完全な証明書を提出した場合で、適正な公課証明書を提出しないときは、開始決定前なら申立てを却下し、開始決定後なら入札期日の指定を行わないことになろう。この場合執行裁判所が職権で公課所管官庁に証明書の交付を請求して、公課を明らかにして公告をする必要はない。
 競売目的不動産が数個ある場合には、その公課は原則として各不動産ごとに各別に記載すべきであるが、一括売却の場合には、各不動産の公課金の合算額を記載しても違法ではない。公告に記載すべき公課の額は、通常は一年分とすべきである。この公課にあたるものは、固定資産税、都市計画税です。その他に特別土地保有税、水利他益税などです。
 物件明細書、現況調査報告書及び評価書の写しは、入札期日の一週間前までに、執行裁判所に一般の閲覧に供するため備え置かれるが、これらの文書の写しが備え置かれる旨を一般に周知させ、買受希望者などに目的不動産について予備知識を得させる必要から、このことを公告に記載すべきこととされたのです。実務は入札期日の公告と同時に物件明細書等の備置きがされている。
 売却の公告を実効あらしめるため、裁判所書記官は、不動産所在地の市町村に対し、公告事項を記載した書面を当該市町村の掲示場に掲示するよう入札期日の二週間前までに嘱託しなければならない。不動産所在地の市町村に公告掲示の嘱託をするのは、不動産の買受けを希望する者は、通常地元の者が多いと考えられるからである。嘱託は公告の方法ではないから、市町村に対し二週間前までに掲示の嘱託がされれば、市町村が掲示をするのが二週間前までにされなくても、違法にはならない。旧法は市町村の掲示板に掲示するのは、公告そのものであったので、掲示が一四日前までにされなかったときは違法としていたのを改めたものです。

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