差押不動産の売却手続き

 執行裁判所は、執行官による差押不動産の現況調査や、裁判所による審尋によって明らかとなった不動産の現況と、売却の結果買受人が引き受けることになる権利(質権、用益権、留置権等)の存在等を明らかにして売却する。これが一般の買受人を競売場に誘うことができる大きな原因ではないかということから、裁判所において事項を明らかにした不動産の明細書を作成し、その写しを一般市民の閲覧に供するために、執行裁判所に備え置かなければならないものとされています。
 旧法下では、売却に付されている不動産の現況や、権利関係がどのようなものかは執行記録を見なければ明らかにならないのに買受けの申出をしようとする者の執行記録の閲覧は制限されていたので、一般の素人が買受けの申出をすることは困難な状況であったのであるが、民事執行法は、このような点を改め、買受希望者の利便のために不動産の現況や権利関係が一覧できる物件明細書の作成という制度が設けられたのです。

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 差押不動産の現況や、権利関係は、執行官による現況調査等によって確定され、建前としてはその現況調査報告書を前提として評価がなされ、評価に基づいて定められた最低売却価額は適正、妥当な額であるはずです。したがって、執行記録全部を閲覧すれば、誰でも不動産の現況や、権利関係を確認することができ、最低売却価額決定の経緯も判断できるはずですが、不動産の買受希望者は、買受の希望を有する者というだけでは、強制執行の利害関係人とは解されないので執行記録を閲覧することはできない。たとえ閲覧できるとしても一般の買受希望者が記録を精読して買受人の負担となるべき権利関係等を正確に把握することは困難です。それに買受人となろうとする者全員が執行記録を閲覧してから売却の実施をするというのでは実務上混乱を生ずることは明らかです。そこで民事執行法は、執行裁判所は、不動産の現況と売却の結果買受人が引受けることとなる権利の存在並びに仮処分の執行の存在を明確にした不動産の明細書を作成し、一般の閲覧に供し、必要な情報を与えることにより、一般市民の競売参加を容易ならしめ、もって適正な売却の実現を図ることを目的とし、さらに登記の抹消嘱託の際の判断資料ともなし得るとしたものです。
 なお、物件明細書はここに述べたように現況調査報告書、評価書の内容、登記簿謄本、審尋の結果等を斟酌した上で手続上の執行債務者との関係のみに限られず、広く実体関係について調査してその結果が記載されるものであるから、もし物件明細書の記載が、現況調査報告書や評価書の記載と整合しないものがあったとしても、物件明細書に示された認識が執行裁判所の最終結論であると考えられます。
 物件明細書には、次に掲げる事項を記載しなければなりません。
 不動産の表示、差押不動産の特定のために記載されるのであって、通常は、登記簿の表題部に記載された事項が記載されます。不動産の現況が、登記簿の記載と異なっているときは、その現況が一見してわかるように記載します。
 不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの、売却により消滅すべき権利関係については、民事執行法五九条によって明らかにされているので、物件明細書には記載せず、明細書には、売却により効力を失わず買受人が引き受けなければならない権利関係及び仮処分の執行関係を記載することとしている。買受人の引受けるべきこれらの権利というのは、次のとおりです。
 最先順位担保権(抵当権、先取特権、担保仮登記)又は最先順位仮差押登記前に登記された、使用収益を伴う不動産質権設定登記(仮登記を含む)所有権移転仮登記(担保仮登記でないもの)地上権設定登記(仮登記を含む、但し担保権と併用でないもので残期間のあるものに限る)地役権設定登記(仮登記を含む)賃借権設定登記(仮登記を含む、但し担保権と併用のものは除く)併用短期賃貸借を物件明細書に記載しなくても違法ではないとした裁判例。短期賃借権仮登記につき同様の裁判例。期間の定めのあるものについては残期間のあるものに限る。買戻登記(ただし買戻期間の残っているもの)仮処分の登記(処分禁止の仮処分登記のある不動産に対し競売の申立てがなされた場合は、民事執行法における実務においても、旧法時の見解である競売開始決定をして差押えの効力を生ぜしめた段階で仮処分が取消されるまで手続を停止するとの取扱いがされるであろうから、仮処分の登記が物件明細書に記載されることは極めて稀れです。)
 抵当権、先取特権の登記に後れるが、差押登記前に登記された期間の定めのない賃借権設定及び短期賃借権設定登記(仮登記を含む)
 期間の定めのない建物に対する賃借権は、短期賃貸借と解されている。土地に対するものは、建物所有を目的としないもののみ記載する。この場合は「期間の定めがない賃貸借」と表示する。建物所有を目的とする土地の賃貸借は、借地法二条一項、三条により長期賃貸借に当たると解する。短期賃借権については、残期間のあるものに限るが、これらの賃借権で担保仮登記、仮差押登記に後れるものは、物件明細書には記載しない。
 担保権の実行としての競売事件について当該目的物件を物件所有者でない債務者が占有し、両者の関係は親子、兄弟、夫婦(内縁関係も含む)又は同族会社とその代表者であるときは、賃借権、使用借権が主張されていても賃借権はなしとし、備考欄に「占有者(債務者)は賃借権を主張している」と記載する。
 設定行為によらずに生ずる留置権、不動産の上に留置権が存在すれば、買受人は、その被担保債権を弁済しなければならないので、留置権者の氏名、原因、被担保債権を記載する。
 売却により消滅する権利の記載を要求していないのは、もし、消滅する権利を誤って記載しなかった場合に、それは消滅しないことになるのかどうか疑義が生ずるおそれがあるからで、記載された引受ける権利以外のものは売却によって消滅することになる趣旨です。
 ここで問題になるのは、現況調査の結果占有者の主張する抵当権と併用でない賃貸借、特に短期賃貸借が真実のものか、それとも仮装のものであるか、契約内容についての敷金の差し入れ、賃料の前払いが真実のものかどうかということです。旧法下の賃貸借取調べの場合には、執行官の権限は任意的調査に過ぎないため、十分にその調査ができなかったことに原因して、競売期日の公告には賃貸借関係不明と記載せざるを得ない場合が少なくなかった。民事執行法は、この点について執行官の現況調査権限を強化し、執行裁判所が執行官の現況調査に不十分な点があれば、債務者、利害関係人等を審尋する権限が与えられたので、この結果従来のような安易に賃貸借関係不明として手続を進めることは許されなくなったといえる。しかし、それだからといって賃貸借関係の調査が万全なものになったといえるかは疑問です。債務者(所有者)又は占有者あるいは近隣の者が資料の提供を肯んじない場合もあろうし、また虚偽の陳述をする場合もあり、そのために執行裁判所としてもその存否について十分な心証を得難い場合も当然出てくるからです。
 このような場合には、民事局作成の後に示す物件明細書の賃借権欄に「不明」と記載しておけばよい。不明という意味は、賃借権の存否が不明の場合と、対抗できるかどうか不明の場合とがあるが、買受希望者にとっては、いずれであっても同じことであるから、それを書き分ける必要はない。しかし、短期賃貸借が架空あるいは詐害的、濫用的と認められる場合は、物件明細書に記載する必要はない。
 賃借権をもって抵当権者及び買受人に対抗できるためには、差押え又は抵当権設定前に、賃借権の登記、建物保護法一条による建物の登記、借家法一条による家屋の引渡し、農地法一八条による小作地の引渡し等による対抗要件が具備されていることが必要です。
 登記による仮処分の執行は、登記簿の記載により、執行官保管の仮処分は、現況調査により判明する。売却により効力を失わない仮処分の執行については、仮処分の主文とその内容の要旨、例えば「譲渡その他一切の処分禁止の仮処分」「占有移転禁止、執行官保管の仮処分」等と、執行の年月日を記載する。
 処分禁止の仮処分の場合には、披保全権利が何であれ買受人は処分禁止の仮処分債権者に対抗できないことになるので、競売手続は事実上停止される。占有移転禁止の仮処分の場合は、競売手続は停止されないが、披保全権利によって法律関係が違うことになろうから、買受人のために披保全権利をも明らかにしておいた方がよい。この場合、執行官の現況調査によって占有移転禁止の仮処分の存在が判ったときは、執行裁判所は、保全部から当該仮処分記録を取寄せて、その被保全権利を調査の上記載すべきです。
 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物に抵当権が設定されているときは、抵当権設定者は競売の場合につき地上権を設定したものとみなされる。民事執行法は同一所有者に属する土地とその上に存する建物について、いずれも抵当権が設定されていない場合において、その一方のみが売却されたとき、あるいは両方が売却されたがその所有者を異にするに至ったときにも、民法と同様地上権が発生する旨の規定を設けている。
 この規定により一筆の土地の一部について法定地上権が成立する場合があるでしょう。また法定地上権が成立する範囲は、必ずしもその建物の敷地のみに限定されるものではなく、建物として利用するのに必要な限度においては敷地以外にも及ぶことになる。法定地上権の成立要件を判断するのに必要な登記簿謄本、課税台帳等は債権者に提出させる。
 物件明細書に記載される権利関係、仮処分の執行関係は、売却によっては効力を失わず、買受けた不動産の負担となるものに限られるが、差押え後に発生する権利関係のうち留置権を除き、他の権利関係、執行関係は原則としてすべて消滅する。
 ところで、これらの権利関係、執行関係は、執行裁判所が最低売却価格を決定するにあたって、不動産の現況調査報告書、執行裁判所による審尋等により、その内容について判断はしているはずですが、しかし、この判断が資料不足とか、あるいは虚偽の資料等のため誤ることがある。物件明細書の記載、すなわち、執行裁判所の判断は、一応の考え方を示したものにすぎないので、仮りに物件明細書に売却により効力を失わない権利、例えば、買受人の負担すべき賃借権の記載がない場合でも、実作法上その賃借権が消滅するものではない。言い換えれば、物件明細書の記載は、当事者間の権利関係を実体的に確定させる効力はなく、それは民法その他の法律の規定によって決まることになる。したがって、対抗力のある賃借権が存在し、買受人がそれによって不利益をこうむったときは、買受人は民法五六八条の規定により瑕疵担保責任を追及するほかない。このように考えてくると、実体上の売却条件と物件明細書の記載が飴節することのないように執行官も、執行裁判所も共に現況調査等には最大の努力をする必要があります。
 物件明細書が作成され、その写しが備え置かれた後に物件明細書の記載に誤りがあることが判明した場合には、一般の閲覧に供した後でも訂正することは許される。備え置き後は、様式の備考欄にどの部分を訂正したかを明記する。そして訂正の年月日を記載するのが妥当な処置であろう。写しの訂正印は書記官の職印で足りる。
 備え置き後、売却の実施の日の一週間前までに物件明細書の記載を訂正したときは問題はないが、売却の実施の日の一週間前を経過した後に訂正したときは、売却期日を変更し、改めて訂正後の物件明細書を一般の閲覧に供さなければならない。そうでないと民事執行規則三一条一項の要件を充たしたことにならないからである。ただし一週間前を経過した後でも買受申出の額に影響を及ぼさない些細な誤りを訂正しただけでは、売却期日の変更をする必要はないのではないか。
 物件明細書の作成に閲し不服のある債権者、債務者、所有者は、執行異議の申立てができる。物件明細書の作成という事実行為も執行処分の中に入ると解されるからです。
 執行裁判所は、作成された物件明細書の写しか一般の閲覧に供するため備え置かなければならない。備置きの場所は、通常は執行裁判所の書記官室内に専用の閲覧揚が常備されており、そこで自由に閲覧ができることになっている。また閲覧し易いように一件毎に物件明細書その他の写しをファイルに綴じておく取扱いとなっている。
 物件明細書の写しの備置きは、売却の日の一週間前までにしなければならない。そして売却の実施の日まで、その備置きを継続しなければならない。物件明細書の写しの備置きは、買受け申出の希望を有する一般市民に広く閲覧の機会を与え、それによって買受けの準備をさせようとするものであるから、売却実施の日まで一週間以上の余裕があれば、その準備期間としては十分であろうとの考えからです。なお、売却の公告は、売却の実施の日の二週間前までにすることとされているが、実務の運用上、物件明細書が早期に作成された場合には、公告と同時に備え置くこととすれば、広く買手を募ることができる。売却実施の日の一週間前までに備え置かなかったり、売却実施の日まで備置きを継続しなかったことは、売却不許可事由に当たる。
 売却の実施は、一回で終了せず二回以上繰り返すことがあるが、その場合には、物件明細書の写しの備置きは、売却の実施ごとにその一週間前までにしなければならない。
 物件明細書の写しの備置きは、売却の方法の如何によらず、すなわち入札、競り売り、特別売却のすべての場合に必要です。ただ特別売却の場合は、主として個別交渉による売却であって、広く買手を募り、最高価の買受申出をした者に対して売却をする入札、競り売りの場合とは異なるので、物件明細書の写しを備え置いて一般の閲覧に供する必要性は少ない。また、売却実施の日も、入札、競り売りの場合のように確定した期日はないのが通常であるから、売却の実施の日の一週間前といっても、あらかじめその日を知り得ないことが多い。したがって、特別売却の場合には、閲覧の申出があれば、いっでもこれに応ずることができる態勢で写しを書記官室に保管して置くことにより、備え置いたものと解して差し支えないとされている。
 執行裁判所は、物件明細書の写しを備え置く場合には、それと共に現況調査報告書及び評価書の写しを備え置かなければならないと規定されている。これは前述の物件明細書の記載事項だけでは、買受希望者の求めるべき資料としては十分ではないので、現況調査報告書及び評価書の写しを共に備え置くことにして、買受希望者の要望に応えようとしたものです。現況調査の結果が十分でないとして、執行裁判所が売却条件を明らかにするために、利害関係人、参考人を容尋した場合の審尋調書の写しを備え置くべきかどうかは民事執行規則には規定されていない。不完全な現況調査報告書の写しが備え置かれることは、誤解を生じ易いし、さらばといって容尋調書の内容によっては、一般の閲覧に供するには不適当な部分があり得ることも考えられるので、実務の運用上は、事案及び審易調書の内容によりそのまま備え置いても差し支えないと認めれば、容易調書の写しを備え置くこともよし、あるいは審易調書のうち必要な部分の要旨を記載した書面を作成して備え置く取扱いが考えられる。
 現況調査報告書及び評価書等の写しの備え置きは、物件明細書の写しと同様売却の日の一週間前までにしなければならないことはもちろんです。
 現況調査報告書及び評価書の写しは、実務上は執行官及び評価人においてこれらの書類を提出する際に、原本と共に執行裁判所に提出する。なお、物件明細書等の写しの備置きは、買受希望者その他の利害関係人の便宜のためになされるものであるから、実務上はこれらの写しのほかに売却の公告の写しをも備え置く取り扱いが考えられる。この取扱いが是認されるとすれば、裁判所書記官は、物件明細書写し等の閲覧用としての売却の公告の写しを作成して、公告、物件明細書、現況調査報告書、評価書の各写しを一体として閲覧場に備え置くことになる。
 物件明細書等の写しが備え置かれたときには、裁判所書記官は、備置きの旨及び備え置かれた年月日を記録上明らかにしなければならない。民事執行法三一条一項の期間が遵守されたことを明らかにしておく趣旨です。
 物件明細書等の写しが売却期日の一週間前までに、執行裁判所に備え置かれることを一般に衆知させる意味で、この旨を売却期日の公告に記載しなければならないとされている。
 物件明細書等の閲覧に対しては手数料を要しない。
 競売手続に関して利害関係を有する者は、記録の閲覧謄写権があるが、一般買受希望者が物件明細書等の写しの交付を求め得るか否かについては問題です。建前としては、買受希望者はさきにも述べたように強制執行上の利害関係人とは解されないので、事件記録の正本、謄本、抄本等の交付を請求することはできないのであるから、事件記録中の物件明細書等についてはその写しといえども請求することはできないと解されるが、裁判所も費用を支払えば、そのコピーが取れるよう準備しているようです。

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